有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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ワーウルフ ③

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 基地の入り口で待っていたMP、ミリタリーポリス、のジープに付いて行くと、基地内の居住区に案内された。
 平屋の一軒家の駐車場に車を停め、二人は家の中に入る。玄関のドアを開けると広いリビング、奥にはキッチンがあり、右側の廊下に沿って手前からバスルームと個室が3つあった。
 隼人は初めて見る欧米スタイルの家の中が珍しかったので、一人で見て回っていると、キッチンから男性の声がする。
 キッチンには、初老の軍服を着た短く真っ白な髪を綺麗に整えた男性と正人が立っていた。
『今のところ、ワーウルフは現れていない』
『そうですか、我々はどうすれば良いのですか?』
『とりあえず、待機していて欲しい。何かあったら担当の者を寄こすから』
『分かりました。有り難うございます』
 初老の男性が玄関のドアを閉めると、正人はリビングにあった4人掛けの大きなソファに座り込んだ。
「直ぐに仕事ですか?」
 正人は一度見返り後ろに立つ隼人を確認すると、まあ座れと隼人を呼ぶ。
「待たされるみたいだな、いつ呼び出されるか分からない」
「どうしますか?」
「適当に仮眠を取りながら待つ。ワーウルフは夜の方が活発に行動するから、日が昇るまでに呼び出されなければ、仕事は明日の晩になると思う」

 結局、正人と隼人が到着した日の晩から明け方にかけて、ワーウルフは姿を現さなかった。仮眠を順番に取っていたが、二人とも睡眠不足になった。
 昼間から夕方にかけて、正人はソファを自分の寝床として独占したので、隼人は一番奥の部屋のウォーターベッドに横たわりながら気持ち良く寝入る。目を覚ますと二人で、冷蔵庫の中の食料や飲み物を漁り空腹を満たした。
「暇ですよね。基地内は娯楽施設など、何も無いのですよね」
「あるよ、映画館、ボウリング場、ゴルフ場、スーパーにレストラン。居住区で生活するのは、兵士だけでなく彼らの家族も居るからね。だから基地内には、学校も病院も全て整っている」
「知りませんでした。軍人と兵器だけかと思っていましたよ」
「本州は基地がほとんど無いからね。知らない人の方が多いよ」
 携帯メールを知らせる音が鳴り、サイドテーブルに置いてあった自分のスマートフォンを正人は手にする。メールを読み終えると、正人は破顔し笑声を漏らした。正人が隼人に話しかけようとすると、玄関のドアが開いた。
『ワーウルフが現れました。お願いします』
 小銃を手にした兵士が慌てた様子で、二人を迎えに来た。

 正人と隼人を乗せる車は、嘉手納基地内のゴルフ場入り口にある駐車場で停まる。先に到着していた兵士達は、編隊を組み無言で闇の中へ行軍する。彼らは、標準装備の小銃M4カービンを手に暗視装置を装着していた。
 車から降りた正人は、隼人にシャツを脱いで籠手を着けたら龍神化しろと言う。彼は上着とシャツを脱ぎ、鍛えられた大胸筋と割れた腹筋を見せると鬼神化した。
「獣人は、危険なのですか?」
「狂人化していたら、見境なしに攻撃してくるから厄介だな。でも今回は、ワーウルフだけでなくアメリカ軍も一緒だから、より危険かな。兵士達はワーウルフを見つけると、容赦なく銃撃してくる。それに下手したら暗闇の中で俺達目がけて撃ってくるだろうから、弾が当たると痛いだろ」
「うっ、銃弾が飛び交う中で戦わないといけないのか。当たったら痛いで済まないと思いますけど」
「だから、龍人化しておいた方が安全だろ」
 隼人は、意識を集中する。死にかけて以来、自分の意思で龍の力を使う機会は無かった。今回が始めての試みだったので、上手く行くか心配だった。
 彼はゆっくり深呼吸し、力を貸して欲しいと頭の中で龍に話しかける。赴くままに、隼人の頭の中で声が聞こえると、全身が暖かくなる感じがした。
 彼は、全身を金色の鱗に包まれ、薄っすらと発光する。目を開けると、手に付けた籠手が腕に吸い付く感覚を覚える。
“良い籠手を手に入れたな、隼人”
「龍神か、力を借りるぞ」
“好きに使えば良い、お前の目を通して全て分かるから、アドバイスしてやるよ”
「よろしく頼む」
 龍神化すると、視力と聴力がかなり高まるのを自らの体の変化で隼人は感じ取った。まるで昼間の様に見えるし、遠く離れた兵士たちの会話を聞く事も出来る。身体能力と合わせて、全てが規格外だなと隼人は今更ながら感心した。

 鬼神化した正人は金砕棒を手に前を指さして隼人について来いと、動作で知らせゴルフコースに入って行く。正人と並んでフェアウェイを歩く隼人は、コースを仕切る木々や背の低い藪に身を潜ませながら辺りを警戒して進む兵士達の為に、ワーウルフをおびき出す囮になった気分だ。
 二人は周囲を警戒しながら真っすぐ歩いて行く。グリーンの奥は、木々が生い茂った林だ。怪しいなと隼人が思うと、テレパシーで自分の考えが伝わったかのように正人が足を止めた。
「見えたか?」
 正人の言葉に隼人は、林の中を凝視する。ゆっくりと歩く足音が聞こえ、木々の奥に二つの赤く光る玉が見えた。あれですかと、隼人が正人に確認する。
 左側で隠れていた兵士達は、ためらう事無くワーウルフを見つけると銃弾を撃ち込んだ。動体視力の向上している隼人には、銃弾の一つ一つが見える。
 遅れて小銃の銃撃音がすると、二つの赤い光は兵士達が隠れる場所へ音も無く移動した。
『オーマイガー!、ぐわぁ・・・ひっ、ひぃー』、ガッガガガガガガガ・・・。
 兵士たちの叫び声と小銃の音が響き渡った。
「ワーウルフだ、行くぞ」と、正人は林の中に入っていた。
 遅れまいと隼人も林の中に飛び込むが、発光している人間を敵と兵士達は認識したのか、数名の兵士が隼人目がけて小銃を撃ち込んできた。
『ば、化け物だ!、怯むな、撃て、撃て―』
 隼人は、慌てて両腕をクロスに構え、顔を隠す。バチバチバチ・・・と、強風に運ばれてきた小石が胸や腹に当たった感覚がする。銃声が止み自分のTシャツを見ると、見事に穴だらけになっていた。地面には、銃弾が転がっている。
 龍の鱗に護られた体は、銃弾をも弾き飛ばす優れものだが、服は護れない。正人がシャツを脱げと言った意味を台無しにされた服を見て理解した。Tシャツを台無しにされ、かんさわった隼人に龍神がアドバイスをする。
“目障りな兵士達を威圧しろ”
「どうやって?」と、隼人は銃弾から逃れるため、近くの木を盾にして身を屈めた。
“怒りだ、全身に力を溜めて一気に放出させる”
 やってみる。隼人はそう言うと兵士たちの前に姿を晒し、服に穴を空けられた怒りを溜めに溜め、一気に放出した。
 まるでソニックブームだ。周りの草木を大きく揺らすと、隼人を攻撃していた3人の兵士は後ろに吹き飛ばされ意識を失った。
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