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生霊 ③
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3人と1匹は、六道の辻の石碑の前を通り過ぎ六道珍皇寺に入って行く。
六道とは地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天上界の事だ。六道の辻とは、正しくこの世とあの世を隔てる境界の事を示す。
六道珍皇寺には小野篁冥土通いの井戸がある。この井戸を通り彼は、夜な夜な冥府で閻魔大王の裁判の補佐をしていたと言う伝説が残っている。
「さあ、此処が入り口よ」
茜は木で出来た井戸の蓋を取る。井戸の底にたまる水が辛うじて見えた。
「どうやって、此処から行くのよ。中に飛び込むの?」と、桜はためらう。
「そうよ、私はここに残り道を開くから、井戸の中が光ったら全員飛び込むのよ」茜は手を組み、目を閉じて静かに唱える。
祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え。
聞き給え、聞き給え、聞き給え・・・、開き給え、開き給え、開き給え・・・。
黄泉の道へ。
黄昏時、現世と常世をつなぐには絶好のタイミング。光が井戸の中から上に向かって立ち昇ると、正人と長老は井戸の中に飛び込んだ。
戸惑う桜は、茜の方を見たが彼女は手を組んだまま目をつぶっていた。
ああ、どうしようと桜は迷う。
「隼人を連れ戻したいのでしょ、早く行きなさい」
茜の言葉で桜の気持ちは固まる。意を決した彼女は井戸の中に飛び込んだ。
桜がゆっくりと目を開けると、長老を肩に乗せる正人と並んでさっき飛び込んだ井戸の横に居た。周りの風景は同じだが、人の気配が全くない。怪しげな靄が周囲に立ち込め、目に入る色は全て淡く消えそうな感じがする。
「ここが、この世とあの世の境界?」
「そうだ、不思議な感覚になるだろ」
「長居は禁物じゃ、直ぐに小僧を探すとするか」
正人は、桜にどこで隼人が消えたのか案内させた。
本当に誰も居ない、建物はあるのに車もバスも走っていなかった。鴨川沿いを歩き四条大橋が見えると、無数の靄の様な白い人影が往来していた。橋の真ん中では、白い人影とは別にスーツを着た男性が動くことなく、じっと立っていた。
「桜、あの男性と目を合わすなよ」
「どうして?」
「小娘、お前はエクソシストじゃろ。地縛霊や悪霊と目を合わさず、やり過ごすのじゃよ」
ふーん、桜はそんな方法で退魔せずにやり過ごすことが出来るのだと、一つ勉強になった。スーツ姿の男性の前を通り過ぎる時、ギシギシと歯ぎしりを立てながら彼は正人達を目で追う。その姿を見た桜は、凄く気持ち悪くなった。
橋を渡り切り先斗町に入る、桜は隼人が消えた場所で足を止めた。
「ここで隼人は、幽霊に連れ去られたの」
「暫く待ってみるか」と、正人の言葉に長老は、「そうじゃな、闇雲に歩き回っても見つからんじゃろうからな」
正人の肩から飛び降りると、長老は猫又に変化した。
桜は、長老の体にもたれながら誰も居ない真っすぐ伸びる通りを眺める。
チリーン、チリーン・・・チリーン。
鈴の音が近づいて来た。
「鈴の音が聞こえる・・・」と、桜が耳を澄ましていると、通りの奥から隼人の手を引く女の幽霊が現れた。
「おい、放せよ。いったい俺をどこに連れて行く気だよ!」
荒々しい口調の隼人が、幽霊の手を振り放した。
隼人を見つけた二人と一匹は声を揃えて彼を呼ぶ。
「隼人!」
桜、正人さんと長老も居る。
みんな、俺を探しに来てくれたのか。
六道とは地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天上界の事だ。六道の辻とは、正しくこの世とあの世を隔てる境界の事を示す。
六道珍皇寺には小野篁冥土通いの井戸がある。この井戸を通り彼は、夜な夜な冥府で閻魔大王の裁判の補佐をしていたと言う伝説が残っている。
「さあ、此処が入り口よ」
茜は木で出来た井戸の蓋を取る。井戸の底にたまる水が辛うじて見えた。
「どうやって、此処から行くのよ。中に飛び込むの?」と、桜はためらう。
「そうよ、私はここに残り道を開くから、井戸の中が光ったら全員飛び込むのよ」茜は手を組み、目を閉じて静かに唱える。
祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸い給え。
聞き給え、聞き給え、聞き給え・・・、開き給え、開き給え、開き給え・・・。
黄泉の道へ。
黄昏時、現世と常世をつなぐには絶好のタイミング。光が井戸の中から上に向かって立ち昇ると、正人と長老は井戸の中に飛び込んだ。
戸惑う桜は、茜の方を見たが彼女は手を組んだまま目をつぶっていた。
ああ、どうしようと桜は迷う。
「隼人を連れ戻したいのでしょ、早く行きなさい」
茜の言葉で桜の気持ちは固まる。意を決した彼女は井戸の中に飛び込んだ。
桜がゆっくりと目を開けると、長老を肩に乗せる正人と並んでさっき飛び込んだ井戸の横に居た。周りの風景は同じだが、人の気配が全くない。怪しげな靄が周囲に立ち込め、目に入る色は全て淡く消えそうな感じがする。
「ここが、この世とあの世の境界?」
「そうだ、不思議な感覚になるだろ」
「長居は禁物じゃ、直ぐに小僧を探すとするか」
正人は、桜にどこで隼人が消えたのか案内させた。
本当に誰も居ない、建物はあるのに車もバスも走っていなかった。鴨川沿いを歩き四条大橋が見えると、無数の靄の様な白い人影が往来していた。橋の真ん中では、白い人影とは別にスーツを着た男性が動くことなく、じっと立っていた。
「桜、あの男性と目を合わすなよ」
「どうして?」
「小娘、お前はエクソシストじゃろ。地縛霊や悪霊と目を合わさず、やり過ごすのじゃよ」
ふーん、桜はそんな方法で退魔せずにやり過ごすことが出来るのだと、一つ勉強になった。スーツ姿の男性の前を通り過ぎる時、ギシギシと歯ぎしりを立てながら彼は正人達を目で追う。その姿を見た桜は、凄く気持ち悪くなった。
橋を渡り切り先斗町に入る、桜は隼人が消えた場所で足を止めた。
「ここで隼人は、幽霊に連れ去られたの」
「暫く待ってみるか」と、正人の言葉に長老は、「そうじゃな、闇雲に歩き回っても見つからんじゃろうからな」
正人の肩から飛び降りると、長老は猫又に変化した。
桜は、長老の体にもたれながら誰も居ない真っすぐ伸びる通りを眺める。
チリーン、チリーン・・・チリーン。
鈴の音が近づいて来た。
「鈴の音が聞こえる・・・」と、桜が耳を澄ましていると、通りの奥から隼人の手を引く女の幽霊が現れた。
「おい、放せよ。いったい俺をどこに連れて行く気だよ!」
荒々しい口調の隼人が、幽霊の手を振り放した。
隼人を見つけた二人と一匹は声を揃えて彼を呼ぶ。
「隼人!」
桜、正人さんと長老も居る。
みんな、俺を探しに来てくれたのか。
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