40 / 86
生霊 ①
しおりを挟む
鴨川に掛かる京都三条大橋の近くにある土下座像、高山彦九郎像、の前で、隼人は桜と待ち合わせをする。彼女からの急な呼び出しの電話があり、隼人の都合を聞くこともせず、一方的に話をして電話を切った。
まったく、要件ぐらい伝えてくれても良いのに。
桜の周りを気にしない、我が道を行く性格には参ったもんだな。
隼人は、銅像の前で桜を待ちながらスマホを触り始めた。チリーンと鈴の音がすると、彼の目の前にボーダーのチュニックワンピースの女性が彼の前に立つ。
週末の昼間だったので誰かと待ち合わせをしているのかなと思い、隼人は顔を上げ何気なく女性を見た。肩まで伸びる髪に青白い顔、無表情でじっと隼人を見つめる。おもむろに彼女の半開きの口が動いた。
「あなた・・・」
「どうかしましたか? 待ち合わせですか?」
隼人が話しかけると、後ろから誰かが背中を抓った。
痛っ・・・隼人は背中に感じる不意な傷みに驚く。
「誰よ、私と待ち合わせの約束でしょ!!!」
桜が隼人の背中を抓っていた。痛みで思わず足元、地面に視線を落とした隼人は前に立つ女性の異変に気が付いた。
無表情の女性、足が透けて見える・・・こんな昼間に幽霊か?
桜は怒りで体を震わせながら、顔を真っ赤にしている。なぜ彼女が怒っているのか、鈍感な隼人には理解出来ない。
「誤解だよ、桜。俺の知らない人だよ。それに・・・」
「何が、誤解よ。彼女が居るのなら、ちゃんと言ってよ」
隼人はため息をつき、「話を最後まで聞けよ、彼女なんて居ないし、この女性は知らない人だよ。それに足が透けている、幽霊じゃないのか?」
変な言い訳しないでと、桜も無表情の女性の足元を見ると、透けていると言うより足が無かった。
ウッと、自分の間違いに気が付いた桜は、「幽霊みたいね、本当に知らない人のようね」と、話をはぐらかした。
無表情の女性は、「違った、あなた・・・じゃ無い」と、話しスッと消えた。
ほら見て見ろと言わんばかりに隼人は、無言で桜を見つめる。
「私の勘違いだった見たい、えへ」と、桜は照れ笑いをした。
「・・・、」、無言の隼人は眉をひそめて桜を凝視した。
「ごめんなさい」、桜は小声で申し訳なさそうに縮こまった。
「もう、良いよ。それより、今日は何の用だ?」
「そうそう、今日は、あなたの服を買いに行くの」
「俺の服を買う、どうして?」
「それは、その・・・この間、Tシャツが破けたから、お詫びに・・・」と、桜は普段見せないはにかむ表情と態度を隼人に見せる。
この間、悪魔から彼女を助けたお礼がしたいのかな。
桜なりの誠意なら、快く受けよう。
「分かった、後、お願いがあるんだけど」
「お願い? 私に出来る事なら何でも言って!」
「左目の色が元に戻らないから、どうすれば良いかと悩んでいて」
「それなら、カラコンにしたら。違和感なく目の色を誤魔化せるわ」
「良い、考えだな。カラコンを買うから、ついでに付き合ってくれないか」
「もちろん♪」
桜は屈託の無い笑顔で答えると、隼人に腕組をしてくる。彼女はハーフだから、純粋な日本人と違い西洋的なコミュニケーションを取るのかなと、そのまま二人は歩き出した。
三条大橋を渡り寺町京極商店街に入ると、四条方面へ隼人と桜は二人で歩いて行く。すれ違う人、特に男性の視線が気になり、隼人はショーウィンドーに映る自分の姿を見た。服装に無頓着な彼、今日のシャツとジーンズの組み合わせは、お洒落とは程遠い。
隣を歩く桜は、白のブラウスが肩から下げる赤いポシェットを引き立たせ、黒の短パンから伸びる細く長い足に、若者達が思わず視線を送っていた。桜の容姿が目立つ、それに比べ今の隼人は彼女の引き立て役にもなれていない。
隼人にとって馴染みの無いお店が並ぶ商店街で、彼はまるで僕のごとく桜が足を止めると隼人も足を止め、桜がお店に入ると彼も店の中へと入って行く。
「ちょっと、隼人、この鏡の前に立って」
「ああ、これで良いか」
鏡の前に立つ隼人、桜は自分で選んだ服を順番に合わせる。顎に手を当てうーんと、悩んだ末にこれをお願いしますと店員を呼んだ。
「はい、これ」と、店を出ると桜は袋を隼人に手渡した。
「有り難う、本当に貰って良かったのか?」
「良いの、私がそうしたかったから」
商店街を歩く桜は、満足そうだった。前を歩く桜の後姿を眺めながら、隼人は少し前の事を思い出していた。初めて会った印象は最悪、一緒に仕事をする際はぎこちなく心配だった。今は、彼女も自分を仲間として認ている。隼人は振り向く桜に笑顔を見せた。
まったく、要件ぐらい伝えてくれても良いのに。
桜の周りを気にしない、我が道を行く性格には参ったもんだな。
隼人は、銅像の前で桜を待ちながらスマホを触り始めた。チリーンと鈴の音がすると、彼の目の前にボーダーのチュニックワンピースの女性が彼の前に立つ。
週末の昼間だったので誰かと待ち合わせをしているのかなと思い、隼人は顔を上げ何気なく女性を見た。肩まで伸びる髪に青白い顔、無表情でじっと隼人を見つめる。おもむろに彼女の半開きの口が動いた。
「あなた・・・」
「どうかしましたか? 待ち合わせですか?」
隼人が話しかけると、後ろから誰かが背中を抓った。
痛っ・・・隼人は背中に感じる不意な傷みに驚く。
「誰よ、私と待ち合わせの約束でしょ!!!」
桜が隼人の背中を抓っていた。痛みで思わず足元、地面に視線を落とした隼人は前に立つ女性の異変に気が付いた。
無表情の女性、足が透けて見える・・・こんな昼間に幽霊か?
桜は怒りで体を震わせながら、顔を真っ赤にしている。なぜ彼女が怒っているのか、鈍感な隼人には理解出来ない。
「誤解だよ、桜。俺の知らない人だよ。それに・・・」
「何が、誤解よ。彼女が居るのなら、ちゃんと言ってよ」
隼人はため息をつき、「話を最後まで聞けよ、彼女なんて居ないし、この女性は知らない人だよ。それに足が透けている、幽霊じゃないのか?」
変な言い訳しないでと、桜も無表情の女性の足元を見ると、透けていると言うより足が無かった。
ウッと、自分の間違いに気が付いた桜は、「幽霊みたいね、本当に知らない人のようね」と、話をはぐらかした。
無表情の女性は、「違った、あなた・・・じゃ無い」と、話しスッと消えた。
ほら見て見ろと言わんばかりに隼人は、無言で桜を見つめる。
「私の勘違いだった見たい、えへ」と、桜は照れ笑いをした。
「・・・、」、無言の隼人は眉をひそめて桜を凝視した。
「ごめんなさい」、桜は小声で申し訳なさそうに縮こまった。
「もう、良いよ。それより、今日は何の用だ?」
「そうそう、今日は、あなたの服を買いに行くの」
「俺の服を買う、どうして?」
「それは、その・・・この間、Tシャツが破けたから、お詫びに・・・」と、桜は普段見せないはにかむ表情と態度を隼人に見せる。
この間、悪魔から彼女を助けたお礼がしたいのかな。
桜なりの誠意なら、快く受けよう。
「分かった、後、お願いがあるんだけど」
「お願い? 私に出来る事なら何でも言って!」
「左目の色が元に戻らないから、どうすれば良いかと悩んでいて」
「それなら、カラコンにしたら。違和感なく目の色を誤魔化せるわ」
「良い、考えだな。カラコンを買うから、ついでに付き合ってくれないか」
「もちろん♪」
桜は屈託の無い笑顔で答えると、隼人に腕組をしてくる。彼女はハーフだから、純粋な日本人と違い西洋的なコミュニケーションを取るのかなと、そのまま二人は歩き出した。
三条大橋を渡り寺町京極商店街に入ると、四条方面へ隼人と桜は二人で歩いて行く。すれ違う人、特に男性の視線が気になり、隼人はショーウィンドーに映る自分の姿を見た。服装に無頓着な彼、今日のシャツとジーンズの組み合わせは、お洒落とは程遠い。
隣を歩く桜は、白のブラウスが肩から下げる赤いポシェットを引き立たせ、黒の短パンから伸びる細く長い足に、若者達が思わず視線を送っていた。桜の容姿が目立つ、それに比べ今の隼人は彼女の引き立て役にもなれていない。
隼人にとって馴染みの無いお店が並ぶ商店街で、彼はまるで僕のごとく桜が足を止めると隼人も足を止め、桜がお店に入ると彼も店の中へと入って行く。
「ちょっと、隼人、この鏡の前に立って」
「ああ、これで良いか」
鏡の前に立つ隼人、桜は自分で選んだ服を順番に合わせる。顎に手を当てうーんと、悩んだ末にこれをお願いしますと店員を呼んだ。
「はい、これ」と、店を出ると桜は袋を隼人に手渡した。
「有り難う、本当に貰って良かったのか?」
「良いの、私がそうしたかったから」
商店街を歩く桜は、満足そうだった。前を歩く桜の後姿を眺めながら、隼人は少し前の事を思い出していた。初めて会った印象は最悪、一緒に仕事をする際はぎこちなく心配だった。今は、彼女も自分を仲間として認ている。隼人は振り向く桜に笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる