有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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生霊 ①

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 鴨川に掛かる京都三条大橋の近くにある土下座像、高山彦九郎像、の前で、隼人は桜と待ち合わせをする。彼女からの急な呼び出しの電話があり、隼人の都合を聞くこともせず、一方的に話をして電話を切った。
 まったく、要件ぐらい伝えてくれても良いのに。
 桜の周りを気にしない、我が道を行く性格には参ったもんだな。
 隼人は、銅像の前で桜を待ちながらスマホを触り始めた。チリーンと鈴の音がすると、彼の目の前にボーダーのチュニックワンピースの女性が彼の前に立つ。
 週末の昼間だったので誰かと待ち合わせをしているのかなと思い、隼人は顔を上げ何気なく女性を見た。肩まで伸びる髪に青白い顔、無表情でじっと隼人を見つめる。おもむろに彼女の半開きの口が動いた。
「あなた・・・」
「どうかしましたか? 待ち合わせですか?」
 隼人が話しかけると、後ろから誰かが背中をつねった。
 痛っ・・・隼人は背中に感じる不意な傷みに驚く。
「誰よ、私と待ち合わせの約束でしょ!!!」
 桜が隼人の背中を抓っていた。痛みで思わず足元、地面に視線を落とした隼人は前に立つ女性の異変に気が付いた。
 無表情の女性、足が透けて見える・・・こんな昼間に幽霊か?
 
 桜は怒りで体を震わせながら、顔を真っ赤にしている。なぜ彼女が怒っているのか、鈍感な隼人には理解出来ない。
「誤解だよ、桜。俺の知らない人だよ。それに・・・」
「何が、誤解よ。彼女が居るのなら、ちゃんと言ってよ」
 隼人はため息をつき、「話を最後まで聞けよ、彼女なんて居ないし、この女性は知らない人だよ。それに足が透けている、幽霊じゃないのか?」
 変な言い訳しないでと、桜も無表情の女性の足元を見ると、透けていると言うより足が無かった。
 ウッと、自分の間違いに気が付いた桜は、「幽霊みたいね、本当に知らない人のようね」と、話をはぐらかした。
 無表情の女性は、「違った、あなた・・・じゃ無い」と、話しスッと消えた。
 ほら見て見ろと言わんばかりに隼人は、無言で桜を見つめる。
「私の勘違いだった見たい、えへ」と、桜は照れ笑いをした。
「・・・、」、無言の隼人は眉をひそめて桜を凝視した。
「ごめんなさい」、桜は小声で申し訳なさそうに縮こまった。
「もう、良いよ。それより、今日は何の用だ?」
「そうそう、今日は、あなたの服を買いに行くの」
「俺の服を買う、どうして?」
「それは、その・・・この間、Tシャツが破けたから、お詫びに・・・」と、桜は普段見せないはにかむ表情と態度を隼人に見せる。
 この間、悪魔から彼女を助けたお礼がしたいのかな。
 桜なりの誠意なら、快く受けよう。
「分かった、後、お願いがあるんだけど」
「お願い? 私に出来る事なら何でも言って!」
「左目の色が元に戻らないから、どうすれば良いかと悩んでいて」
「それなら、カラコンにしたら。違和感なく目の色を誤魔化せるわ」
「良い、考えだな。カラコンを買うから、ついでに付き合ってくれないか」
「もちろん♪」
 桜は屈託の無い笑顔で答えると、隼人に腕組をしてくる。彼女はハーフだから、純粋な日本人と違い西洋的なコミュニケーションを取るのかなと、そのまま二人は歩き出した。

 三条大橋を渡り寺町京極商店街に入ると、四条方面へ隼人と桜は二人で歩いて行く。すれ違う人、特に男性の視線が気になり、隼人はショーウィンドーに映る自分の姿を見た。服装に無頓着な彼、今日のシャツとジーンズの組み合わせは、お洒落とは程遠い。
 隣を歩く桜は、白のブラウスが肩から下げる赤いポシェットを引き立たせ、黒の短パンから伸びる細く長い足に、若者達が思わず視線を送っていた。桜の容姿が目立つ、それに比べ今の隼人は彼女の引き立て役にもなれていない。
 隼人にとって馴染みの無いお店が並ぶ商店街で、彼はまるでしもべのごとく桜が足を止めると隼人も足を止め、桜がお店に入ると彼も店の中へと入って行く。
「ちょっと、隼人、この鏡の前に立って」
「ああ、これで良いか」
 鏡の前に立つ隼人、桜は自分で選んだ服を順番に合わせる。顎に手を当てうーんと、悩んだ末にこれをお願いしますと店員を呼んだ。
「はい、これ」と、店を出ると桜は袋を隼人に手渡した。
「有り難う、本当に貰って良かったのか?」
「良いの、私がそうしたかったから」
 商店街を歩く桜は、満足そうだった。前を歩く桜の後姿を眺めながら、隼人は少し前の事を思い出していた。初めて会った印象は最悪、一緒に仕事をする際はぎこちなく心配だった。今は、彼女も自分を仲間として認ている。隼人は振り向く桜に笑顔を見せた。
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