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豆狸 ③
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隼人が外を眺めていると、街灯と家の明かりが少なくなっていく。
山の麓に差しかかかると、車は地道に入った。暫く進むと工事関係者用のプレハブの建つ空き地があり、そこに正人は車を駐車した。狸達に襲撃されたのだろう、プレハブ小屋の窓ガラスは割られ、周辺には大小様々な岩が転がっている。小屋の横に止められていた工事車両は燃やされてしまい、タイヤは全て溶け落ち車体は黒ずんでいた。状況からいたずらレベルでは無い事が見て取れる。
「ここから山道を歩いて行くぞ」
正人の掛け声で、よろよろと車から長老と金長が降り、山の頂上に続く道を歩いて行く。一升瓶の入ったケースに縄をかけ隼人が背負う。隼人は、遅れないように彼らの後に続いた。
月明かりが照らす道は、意外にも明るく感じる。それだけ、街の光の届かない地域に居るのだろう。酔いどれの猫と狸に先導される光景は、摩訶不思議に感じられた。
「疲れたら交代するから、遠慮なく言ってくれ」
「一番若いから、これくらい大丈夫ですよ」
笑みを浮かべる正人は、無言で隼人の頭の髪の毛を掻きむしった。
一緒に仕事をこなしていくうちに隼人にとって正人は、兄の様な存在になっていく。正人も隼人の事を自分の弟の様に思っているようだ。
正人さんも、俺の事を気にかけてくれているのだな。
色々な事があり過ぎて気持ちがついて来ないが、それはどうしようもない。
左目の色も金色になってから、元の色に戻らない。
何とかしないと、大学で色気づいたと思われるか、変な趣味に走ったと思われるか、面倒くさい噂が流れる前に対処しておかないと。
頂上に差し掛かった所で全員足を止めると、誰かの話し声が聞こえて来た。
「今こそ、人間どもを我らの住処から追い出すのだ」
オーと、声が上がる。一体誰がこんな所で集会を開いているのだろうと、隼人は木陰に隠れる正人の肩越しから覗き見た。
狸の集会だ! 20匹以上いる。
切り株の上に二本足で立って話しているのが、豆狸なのだろうか?
人の気配に気が付いた狸たちが、一斉に木々の中に走り出した。
「やれやれ、見つかってしまたでは無いか」と、長老が隼人の方を見た。
声を出さず、隼人は自分の顔を人差し指でさすと、首を横に振り否定した。
「彼らは、用心深いからね。どのみち、気が付くよ」と、逃げ遅れた狸の首根っこをひょいっと正人が掴み持ち上げた。
「君たちに危害は、与えないよ。話をしたいから親方を呼んできて欲しい」
話が通じたのか正人の手から離れると、狸は木陰で潜んでいた狸達を呼び寄せる。正人と隼人には、キューン、ウゥーー、ウゥーーンとしか聞こえなかった。
二本足で歩く狸の親方が現れる。後ろからぞろぞろと狸達を引き連れ、元居た場所に集まってきた。
「やあ、今日は話し合いに来た」と、正人は隼人が背負っていたケースから一升瓶を一本取り出し、彼らに見せた。
「金長殿と一緒の人間、本当に我々に危害を与えないと約束するか?」
「約束します。話し合いをするために、わざわざ金長さんを連れて来たのですから」
狸たちの真ん中に、金長と長老が威勢よく座った。
「安心しろ。今日は、正人殿に頼まれて仲裁に来たのだよ」
「そうじゃ、豆狸ども、儂らの相手をしろ」
隼人は、どうして長老はいつも偉そうなのだろうか、齢200年以上になると妖怪の中ではランクが上になるのかと、思いを馳せる。彼は長老たちの傍に、背負っていたケースを下ろした。
「では、準備も整ったのでみんな遠慮なく宴を始めようか」
正人に促されて隼人は、狸達に酒をふるまっていく。
「酒の肴もあるのじゃ、お前ら遠慮なく頂くのじゃ」
「嬉しいですな。良い話し合いになりそうじゃないか」
隼人の目には話し合いの場では無く、ただの宴会が始まったようにしか見えなかった。正人の隣に座り込むと、隼人の耳元で正人は小声で、「これが狸たちの話し合いの作法だ。直ぐに本題に入らず、お互いの交流を深め先に信頼関係を築く。だからこそ、素直に酒の席を君も楽しめ」
正人は嘘を言わないと隼人は信じている。
それじゃあ、遠慮なく、飲んでやろう!
山の麓に差しかかかると、車は地道に入った。暫く進むと工事関係者用のプレハブの建つ空き地があり、そこに正人は車を駐車した。狸達に襲撃されたのだろう、プレハブ小屋の窓ガラスは割られ、周辺には大小様々な岩が転がっている。小屋の横に止められていた工事車両は燃やされてしまい、タイヤは全て溶け落ち車体は黒ずんでいた。状況からいたずらレベルでは無い事が見て取れる。
「ここから山道を歩いて行くぞ」
正人の掛け声で、よろよろと車から長老と金長が降り、山の頂上に続く道を歩いて行く。一升瓶の入ったケースに縄をかけ隼人が背負う。隼人は、遅れないように彼らの後に続いた。
月明かりが照らす道は、意外にも明るく感じる。それだけ、街の光の届かない地域に居るのだろう。酔いどれの猫と狸に先導される光景は、摩訶不思議に感じられた。
「疲れたら交代するから、遠慮なく言ってくれ」
「一番若いから、これくらい大丈夫ですよ」
笑みを浮かべる正人は、無言で隼人の頭の髪の毛を掻きむしった。
一緒に仕事をこなしていくうちに隼人にとって正人は、兄の様な存在になっていく。正人も隼人の事を自分の弟の様に思っているようだ。
正人さんも、俺の事を気にかけてくれているのだな。
色々な事があり過ぎて気持ちがついて来ないが、それはどうしようもない。
左目の色も金色になってから、元の色に戻らない。
何とかしないと、大学で色気づいたと思われるか、変な趣味に走ったと思われるか、面倒くさい噂が流れる前に対処しておかないと。
頂上に差し掛かった所で全員足を止めると、誰かの話し声が聞こえて来た。
「今こそ、人間どもを我らの住処から追い出すのだ」
オーと、声が上がる。一体誰がこんな所で集会を開いているのだろうと、隼人は木陰に隠れる正人の肩越しから覗き見た。
狸の集会だ! 20匹以上いる。
切り株の上に二本足で立って話しているのが、豆狸なのだろうか?
人の気配に気が付いた狸たちが、一斉に木々の中に走り出した。
「やれやれ、見つかってしまたでは無いか」と、長老が隼人の方を見た。
声を出さず、隼人は自分の顔を人差し指でさすと、首を横に振り否定した。
「彼らは、用心深いからね。どのみち、気が付くよ」と、逃げ遅れた狸の首根っこをひょいっと正人が掴み持ち上げた。
「君たちに危害は、与えないよ。話をしたいから親方を呼んできて欲しい」
話が通じたのか正人の手から離れると、狸は木陰で潜んでいた狸達を呼び寄せる。正人と隼人には、キューン、ウゥーー、ウゥーーンとしか聞こえなかった。
二本足で歩く狸の親方が現れる。後ろからぞろぞろと狸達を引き連れ、元居た場所に集まってきた。
「やあ、今日は話し合いに来た」と、正人は隼人が背負っていたケースから一升瓶を一本取り出し、彼らに見せた。
「金長殿と一緒の人間、本当に我々に危害を与えないと約束するか?」
「約束します。話し合いをするために、わざわざ金長さんを連れて来たのですから」
狸たちの真ん中に、金長と長老が威勢よく座った。
「安心しろ。今日は、正人殿に頼まれて仲裁に来たのだよ」
「そうじゃ、豆狸ども、儂らの相手をしろ」
隼人は、どうして長老はいつも偉そうなのだろうか、齢200年以上になると妖怪の中ではランクが上になるのかと、思いを馳せる。彼は長老たちの傍に、背負っていたケースを下ろした。
「では、準備も整ったのでみんな遠慮なく宴を始めようか」
正人に促されて隼人は、狸達に酒をふるまっていく。
「酒の肴もあるのじゃ、お前ら遠慮なく頂くのじゃ」
「嬉しいですな。良い話し合いになりそうじゃないか」
隼人の目には話し合いの場では無く、ただの宴会が始まったようにしか見えなかった。正人の隣に座り込むと、隼人の耳元で正人は小声で、「これが狸たちの話し合いの作法だ。直ぐに本題に入らず、お互いの交流を深め先に信頼関係を築く。だからこそ、素直に酒の席を君も楽しめ」
正人は嘘を言わないと隼人は信じている。
それじゃあ、遠慮なく、飲んでやろう!
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