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豆狸 ①
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老人ホームで起きた悪魔の集団憑依に関して、事件の詳細が分かりつつあった。賀茂は、実況見分調書を携えてDD事務所へ来ていた。ベルゼブブに憑依された山野慎吾のみ命を落とす結果となったが、それ以外の老人達や施設の職員達は無事だった。
彼がわざわざ事務所を訪れたのは、事件の報告だけが目的では無かった。悪魔が集団で憑依する事件は、過去に皇宮警察で取り扱った事例が無い。そのため国際機関のデータベースへの照合や類似するケースの情報共有などの協力を得る必要があった。
「現場検証をした結果、地下のボイラー室で悪魔を呼び出すための儀式の後を発見した」
ソファで足を組み座る賀茂は、出されたお茶に手を付けず、淡々と話を進める。いつもの事だが、話をする賀茂は一切感情を表に出さない。
話を聞いていた隼人は、ベルゼブブに憑依され命を落とした山野の事が気になった。せっかく悪魔を退治しても、現実には助からない命もあるのだ。
「誰かが老人ホームで悪魔を呼び出したとして、犯人に目星はついているのですか?」と、賀茂と向かい合って座る正人は報告書に目を通す。
「犯人の目星としては、直前までアルバイトをしていた大学生だな」
「大学生ですか?」、正人の隣に座る隼人は、自分と同じ学生が犯人かも知れないと聞かされ、手にしていたコーヒーカップをテーブルに置いた。
「興味本位で悪魔崇拝をする人も居るし、いたずらに悪魔の呼び出しをしてしまう若者もいるからね」と、桜はソファー越しに覗き込んだ。
「アルバイトをしていた学生が怪しいとして、既に所在確認は終わっているのでしょうか?」
正人の質問に対して賀茂は、学生の写真と詳細の書かれた書類を取り出し、全員に見えるようテーブルの上に置いた。
「ああ、彼の名前は、宮田千尋、20歳男性、隼人君と同じ大学に通う学生で、大阪府枚方市在住。現在は失踪中だ」
賀茂の報告に隼人は、血の気が引き、彼は全身に寒気を覚える。友人が事件に関わっていた。驚くべき内容だったが、それ以上に宮田の性格を良く知る隼人にとって信じたくない気持ちの方が勝る。
今まで、宮田君から悪魔崇拝などの話は一度も聞いた事が無い。
何故、彼が? 本当に彼が、宮田君が悪魔を呼び出したのか?
いや、お人好しな所が見受けられる彼の事だから誰かに騙されたのかも知れない。
あんな事件を起こすはずが無い!
神妙な面持ちで考え込む隼人を見た賀茂は、「すまない、隼人君は彼の友人だったね。彼の交友関係を調べていた時、君の名前が出ていた。彼にとって君は数少ない友人の一人だったので、事件を引き起こす兆候は無かったか君にも聞きたい」
唇を噛みしめる隼人が口を開く、「特に変わった所はありませんでした。彼から悪魔崇拝など悪魔に関する話しは聞いた事がありません。ただ、アルバイトをしていたのは知りませんでした」
「そうか、分かった。何か彼の異変を思い出したら教えてくれ」
隼人の後ろから何も言わず、そっと桜は彼の肩に手を置く。隼人の体は少し震えていた。桜は、少しでも彼の心の痛みを和らげたかった。
「あと、鬼塚君、宮田千尋の自宅や身辺調査に専門知識を持つ桜君をこちらのサポートに回して欲しいのだが、良いか?」
「もちろんです、桜、大丈夫だよな」
「私は、問題ありませんよ」
「良かった。では、桜君お願いするよ。今後の事も踏まえて、お互いの情報共有とDIUD本部への照合などをお願いすると思うのでよろしく頼む」
「分かりました、こちらも出来る限り情報を皇宮警察にお渡しできるよう努めます」
話が終わると賀茂は、桜を連れて部屋を出て行った。
「茜、賀茂さんのご要望通り、老人ホームの事件の情報を取りまとめておいて欲しい。それと本部のデータベースに、今回と類似する事件は無いかも調べておいてくれ」
「任せて、でも、報告書の作成は自分でやってね」
「ついでにやっといてくれないのか、残念だな」
「当たり前でしょ、自分の仕事は自分でやってください」
正人は頭を掻いた後、テーブルのマグカップを取りコーヒーを飲む。彼は面倒臭そうな顔を見せる、事務作業は嫌いなようだ。
「賀茂の要件は、終わったな。あっちの件はどうするんじゃ、正人」と、棚の上で寝ていた長老が目を覚まし、お尻を上げて伸びをする。
「準備しています。仲裁をお願いしている金長さんが来られたら出発しましょう」
「それは、名案だな。あやつらの問題に下手にこちらが介入すると、余計な混乱を招いてしまう」
「隼人はどうする?友人の事もあったから、仕事は俺と長老だけで行っても良いが」
どうせ一人でアパートに居ても宮田君の事が気になり落ち着かないし、それなら正人達と一緒に仕事をしている方が余計な事を考えなくて済むなと、「僕も一緒に連れて行ってください」
隼人の気持ちを汲んだのか、正人は快く受け入れた。
「では、一緒に行こうか」
彼がわざわざ事務所を訪れたのは、事件の報告だけが目的では無かった。悪魔が集団で憑依する事件は、過去に皇宮警察で取り扱った事例が無い。そのため国際機関のデータベースへの照合や類似するケースの情報共有などの協力を得る必要があった。
「現場検証をした結果、地下のボイラー室で悪魔を呼び出すための儀式の後を発見した」
ソファで足を組み座る賀茂は、出されたお茶に手を付けず、淡々と話を進める。いつもの事だが、話をする賀茂は一切感情を表に出さない。
話を聞いていた隼人は、ベルゼブブに憑依され命を落とした山野の事が気になった。せっかく悪魔を退治しても、現実には助からない命もあるのだ。
「誰かが老人ホームで悪魔を呼び出したとして、犯人に目星はついているのですか?」と、賀茂と向かい合って座る正人は報告書に目を通す。
「犯人の目星としては、直前までアルバイトをしていた大学生だな」
「大学生ですか?」、正人の隣に座る隼人は、自分と同じ学生が犯人かも知れないと聞かされ、手にしていたコーヒーカップをテーブルに置いた。
「興味本位で悪魔崇拝をする人も居るし、いたずらに悪魔の呼び出しをしてしまう若者もいるからね」と、桜はソファー越しに覗き込んだ。
「アルバイトをしていた学生が怪しいとして、既に所在確認は終わっているのでしょうか?」
正人の質問に対して賀茂は、学生の写真と詳細の書かれた書類を取り出し、全員に見えるようテーブルの上に置いた。
「ああ、彼の名前は、宮田千尋、20歳男性、隼人君と同じ大学に通う学生で、大阪府枚方市在住。現在は失踪中だ」
賀茂の報告に隼人は、血の気が引き、彼は全身に寒気を覚える。友人が事件に関わっていた。驚くべき内容だったが、それ以上に宮田の性格を良く知る隼人にとって信じたくない気持ちの方が勝る。
今まで、宮田君から悪魔崇拝などの話は一度も聞いた事が無い。
何故、彼が? 本当に彼が、宮田君が悪魔を呼び出したのか?
いや、お人好しな所が見受けられる彼の事だから誰かに騙されたのかも知れない。
あんな事件を起こすはずが無い!
神妙な面持ちで考え込む隼人を見た賀茂は、「すまない、隼人君は彼の友人だったね。彼の交友関係を調べていた時、君の名前が出ていた。彼にとって君は数少ない友人の一人だったので、事件を引き起こす兆候は無かったか君にも聞きたい」
唇を噛みしめる隼人が口を開く、「特に変わった所はありませんでした。彼から悪魔崇拝など悪魔に関する話しは聞いた事がありません。ただ、アルバイトをしていたのは知りませんでした」
「そうか、分かった。何か彼の異変を思い出したら教えてくれ」
隼人の後ろから何も言わず、そっと桜は彼の肩に手を置く。隼人の体は少し震えていた。桜は、少しでも彼の心の痛みを和らげたかった。
「あと、鬼塚君、宮田千尋の自宅や身辺調査に専門知識を持つ桜君をこちらのサポートに回して欲しいのだが、良いか?」
「もちろんです、桜、大丈夫だよな」
「私は、問題ありませんよ」
「良かった。では、桜君お願いするよ。今後の事も踏まえて、お互いの情報共有とDIUD本部への照合などをお願いすると思うのでよろしく頼む」
「分かりました、こちらも出来る限り情報を皇宮警察にお渡しできるよう努めます」
話が終わると賀茂は、桜を連れて部屋を出て行った。
「茜、賀茂さんのご要望通り、老人ホームの事件の情報を取りまとめておいて欲しい。それと本部のデータベースに、今回と類似する事件は無いかも調べておいてくれ」
「任せて、でも、報告書の作成は自分でやってね」
「ついでにやっといてくれないのか、残念だな」
「当たり前でしょ、自分の仕事は自分でやってください」
正人は頭を掻いた後、テーブルのマグカップを取りコーヒーを飲む。彼は面倒臭そうな顔を見せる、事務作業は嫌いなようだ。
「賀茂の要件は、終わったな。あっちの件はどうするんじゃ、正人」と、棚の上で寝ていた長老が目を覚まし、お尻を上げて伸びをする。
「準備しています。仲裁をお願いしている金長さんが来られたら出発しましょう」
「それは、名案だな。あやつらの問題に下手にこちらが介入すると、余計な混乱を招いてしまう」
「隼人はどうする?友人の事もあったから、仕事は俺と長老だけで行っても良いが」
どうせ一人でアパートに居ても宮田君の事が気になり落ち着かないし、それなら正人達と一緒に仕事をしている方が余計な事を考えなくて済むなと、「僕も一緒に連れて行ってください」
隼人の気持ちを汲んだのか、正人は快く受け入れた。
「では、一緒に行こうか」
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