有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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集団憑依 ➄

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 目を開けると両手で顔を隠し慟哭する桜が見えた。隼人は手を伸ばし、桜の手に触れる。温かい、彼女は細くて綺麗な指をしている。
「泣くなよ、俺は死なないよ」
 桜は自分に触れる感触と隼人の声を聞き、顔を覆い隠していた手をのけた。死んだはずの彼と彼女の目が合った。
「どうして、生きている・・・、生きているよ、良かった」
 桜の膝枕、そこから見える空は雲に覆われていた。さっきまで目にしていたはずの天使の軍勢は居ない。桜の守護天使の姿も無くなっていた。
「動揺させてしまって、ごめん。後は、俺が何とかするよ」
「隼人君、無理だ。桜、もう一度、守護天使の力は使えないのか?」
 正人の声がする、かなり焦っているみたいだ。
「ごめんなさい、守護天使の力を使うには、時間が掛かりすぎる」
「正人、桜、ここは、小僧に任せるのじゃ。もう、目覚めてしまったから」
「目覚めた・・・長老、どう言う事ですか?」
「最初から話していた通りじゃ、こやつは普通じゃないと」
 隼人が立ち上がると、刺さっていたはずのガラス片がバラバラと地面に落ちた。
 着ていた血まみれのTシャツ、そしてジーンズは穴だらけになっている。
「隼人」、桜の呼びかけに反応して振り向いた。
 龍神の力を借りている隼人の姿を見て、みんな驚いている。
「金色の瞳、体全身が薄っすらと光っているようにも見えるし、腕や破れたTシャツから見える肌に・・・鱗?」と、正人は驚いた表情で長老の方へ目をやる。
「龍の力じゃよ、これならベルゼブブを地獄に戻せるじゃろ」

 隼人は、サッシの前に立つベルゼブブに近づいて行く。
「人間風情が、上位悪魔に歯向かうか」
 山野に憑依してから心と体の浸食がかなり進んだのか、頭は蝿となり背中からは羽が生えていた。ベルゼブブは、悪魔の力を確実に強めている。
「逆だよ、悪魔風情がこの国で神にも崇められる俺に勝てると思っているのか?」
「人間、戯言は十分だ」
「この姿を見ても力の差が理解できないとは、悪魔は可愛そうな存在だな」
 隼人がベルゼブブの腹を力を込めて殴ると、奴は吹っ飛んで壁にめり込んだ。
「どうして、人間がこんな力を」
「まだ、理解していないのか? 地獄に戻るより、此処で滅亡するか」
 ベルゼブブは、頭を掴む隼人を払いのけ中庭へと出て行った。
「グッ、グッギャギャギャギャ・・・」
 こいつは嫌な鳴き声をするなと、隼人はしかめっ面をする。悪魔は、人間の体を突き破って本来の姿になった。そう、蝿の王の姿に。
「お前の仲間を先に殺してやる」
 ベルゼブブは、羽をはばたかせ飛び立った。
「ふざけるな! 俺の仲間には、指一本ふれさせない」
 怒りが頂点に達した隼人は、ベルゼブブを追いかけ中庭に出ると、奴に向けてありったけの力をぶつけるように叫んだ。
 後ろに龍の気配がする、そう隼人が感じるともの凄い怒号が響きわたった。
 中庭に居た正人、桜だけでなく、結界を守っていた賀茂も我慢できず両手で耳を塞いだ。長老は、前足で両耳を塞ぎ地面に伏していた。
「龍の咆哮か・・・」と、賀茂が空を飛ぶベルゼブブを見ていた。
 隼人の後ろから龍の幻影が姿を現し、口を開くとベルゼブブに向かって吠えた。衝撃波でベルゼブブの姿は、みるみると薄れて行く。
「ギッ、ギ、ギ・・・覚えておけ、何度でもお前たちを殺しに地獄から這い上がって来てやる」
「何回来ても、結果は変わらないけど」
 隼人はベルゼブブが消えたのを確認すると、みんなの元へと歩みだした。

 真っ先に桜が隼人の方へ走ってくると、抱き付いて来た。
「次、死んだら、怒るからね」
「ごめん、もう、死なないよ」と、彼女の髪に触れた。
「隼人君、大丈夫か? 怪我は、何ともないのか」
「小僧は、お前と同類だよ。無傷に決まっているじゃろ、見ろ奴の目を」
「片目が金色のままだぞ」
「じゃろ、お前の赤い目と同じじゃよ」
 隼人の中の龍は、目覚めてしまった。
DDでの仕事は、今まで以上にこなせるかも知れないが、もう普通の生活に戻れない事に彼は気が付いていた。

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