有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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狐憑き ②

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 オーナーシェフが閉じこもる部屋に案内されると、そこは真っ暗だった。
 オーナーの奥さんは、壁のスイッチを入れ、電気をつける。
 4階の書斎、オーナーシェフが自分の部屋として使っている。その部屋の片隅で体育座りをし、彼は壁に向かって意味不明な会話をする。ぼさぼさの髪の毛、だらしない服装、目はつり上がっている。
 隼人は、誰と話をしているのか知りたくなり、目を凝らして壁際を見た。ぼんやりと白い塊が見える、目が慣れてくると白い狐が彼の横に座っていた。
「おい、桜、あれが見えるか?」
「何言っているの?何も見えないわよ・・・」
「見えない?そんなはずはないだろう、彼の横に白い狐が居る」
「どうして、私には見えないのに、隼人には見えるのよ?」
「分からない、でも俺には見える。桜は、狐憑きのお祓いをやったことあるのか?」
 隼人の問いかけに桜は、首を傾げた。
 やはりエクソシストの桜は、狐憑きのお祓いの経験が無いな。
「狐なら悪霊と同じ様なものね、私が祓うわ」と、ロザリオを手に祈ろうとする。
 狐は、悲し気に隼人を見つめる。どうしてだ、そもそもお前は悪霊か、白い狐は何を意味しているのだろう?
 桜が祈り始めると狐は上に向かって飛び上がり、天井をスルリとすり抜け消えてしまった。
 隼人は頭の中で、しりとりをするように連想ゲームを思い浮かべる。
 ここは、京都、狐は、お稲荷さんだよな、稲荷さんを信仰する理由は?
 農耕だけでなく、今は商売の神としてもあがめられている。
「そうか! 桜、祈るのを止めて。ここには、もう白い狐は居ないから」
「えっ、居ないの? 早く行ってよ、馬鹿!」と、桜は頬を膨らました。
「悪い、今、気が付いた。あの白い狐は、お稲荷さんだ。オーナーシェフに憑りついて何かを訴えている」
「お稲荷さん? 悪霊か低級悪魔じゃないの?」
「悪霊でも、低級悪魔でもないよ。神様として神社で祀られているだろ」と、隼人は桜の手を取り部屋を出て、屋上へと続く階段を探す。
「ちょっと、どこに行くのよ?」
「屋上だよ、そこで問題解決の糸口がつかめるはずだ」

 隼人の思った通りだった。
 屋上で、お稲荷さんを祀ってある。
 小さな鳥居と本殿、よくビルの屋上にあるやつだ。
 風雨に長い間さらされていたのだろう、所々傷みが激しい。
 ここの存在をオーナー夫妻に思い出してもらいたかったのだろう。
オーナーの奥さんに事情を話すため屋上に来てもらうと、お稲荷さんの事を彼女もやはり知っていた。
「私達がこのビルでレストランを始めた頃は、掃除や手を合わせに毎朝来ていたのですが、商売が軌道にのり忙しくなるにつれて屋上に行く機会が減り、今ではすっかり忘れていました」
「そのことを伝えたくて、オーナーに憑りついていたようです」
「そうだったのですか、忙しさにかまけて大切なものを見失っていたのかしら。ここのお稲荷さんは、私達を応援してくれていのでしょうね。夫婦揃って初心を忘れていたからお稲荷さんは、私達を注意しに出て来てくれたのかしら」と、奥さんは昔を思い出すかの様な口ぶりで語った。
「ここを綺麗にし、昔と同じように大切にすれば、旦那さんは元に戻りますよ」
「ええ、有り難うございました」と、隼人と桜に奥さんは、深々とお辞儀をした。
 隼人にしか見えていなかった、白い狐はお辞儀をする奥さんの横に座っていた。
―――正解だったのか分からないが、お稲荷さんを滅さずにすんだ。

 隼人と桜は、階段を降り林と雨宮が待つ1階の店舗へ移動する。
「そのまま私が、お稲荷さんを祓っていたらどうなったのかしら?」
「どうなったのかは知る由もないが、結果オーライじゃないか」
「今回は、隼人が一人で解決しちゃったもんね」
 桜は階段を降りる足を止めて振り向き、「やるじゃない」と、隼人の胸を軽く拳で叩いた。彼は照れ笑いをしながら、何か重要な事を忘れている気がした。
 1階に降りると、お菓子が用意されていた。
「問題は解決した?」と、林は桜に尋ねる。
「もう、安心だと思うわ。まあ、私じゃなくて隼人が解決したからね」
「え、隼人が解決したの? お前、お祓い何て出来たのか?」
 林の質問に隼人は、「何となく、勘が当たっただけだよ」と、答える。
 雨宮に隼人と桜は席に座るよう促され、何が飲みたいか聞かれた。
「私は、紅茶をお願い。隼人は?」
「俺は、アイスコーヒーで」
 しかし、何か忘れている様な気がして落ち着かない隼人、壁の時計を見ると15時を少し回った所だった。
 15時か、ゴールデンウィーク、今日が最初の日だよな。
 この間、妹から電話があったけど、何だったか?

 雨宮が用意してくれたアイスコーヒーを隼人はストローで飲みながら、方杖をついて考えていると、キッチンの掃除をしていた林が隼人に聞く。
「隼人、この間、学食で妹が来るとか来ないとか話していたけど、あれはどうなったんだ?」
「へぇ? 妹が来る・・・、そうだよ休みを利用して妹のあおいが京都に来るんだったよ!たしか、16時に着くと言っていたはず。勇樹、雨宮さん、ごちそうさん。俺、妹を迎えに行くから」
 店を出で近くの北山駅を目指す。地下鉄1本で京都駅まで行けるから余裕だな。
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