26 / 86
狐憑き ②
しおりを挟む
オーナーシェフが閉じこもる部屋に案内されると、そこは真っ暗だった。
オーナーの奥さんは、壁のスイッチを入れ、電気をつける。
4階の書斎、オーナーシェフが自分の部屋として使っている。その部屋の片隅で体育座りをし、彼は壁に向かって意味不明な会話をする。ぼさぼさの髪の毛、だらしない服装、目はつり上がっている。
隼人は、誰と話をしているのか知りたくなり、目を凝らして壁際を見た。ぼんやりと白い塊が見える、目が慣れてくると白い狐が彼の横に座っていた。
「おい、桜、あれが見えるか?」
「何言っているの?何も見えないわよ・・・」
「見えない?そんなはずはないだろう、彼の横に白い狐が居る」
「どうして、私には見えないのに、隼人には見えるのよ?」
「分からない、でも俺には見える。桜は、狐憑きのお祓いをやったことあるのか?」
隼人の問いかけに桜は、首を傾げた。
やはりエクソシストの桜は、狐憑きのお祓いの経験が無いな。
「狐なら悪霊と同じ様なものね、私が祓うわ」と、ロザリオを手に祈ろうとする。
狐は、悲し気に隼人を見つめる。どうしてだ、そもそもお前は悪霊か、白い狐は何を意味しているのだろう?
桜が祈り始めると狐は上に向かって飛び上がり、天井をスルリとすり抜け消えてしまった。
隼人は頭の中で、しりとりをするように連想ゲームを思い浮かべる。
ここは、京都、狐は、お稲荷さんだよな、稲荷さんを信仰する理由は?
農耕だけでなく、今は商売の神としてもあがめられている。
「そうか! 桜、祈るのを止めて。ここには、もう白い狐は居ないから」
「えっ、居ないの? 早く行ってよ、馬鹿!」と、桜は頬を膨らました。
「悪い、今、気が付いた。あの白い狐は、お稲荷さんだ。オーナーシェフに憑りついて何かを訴えている」
「お稲荷さん? 悪霊か低級悪魔じゃないの?」
「悪霊でも、低級悪魔でもないよ。神様として神社で祀られているだろ」と、隼人は桜の手を取り部屋を出て、屋上へと続く階段を探す。
「ちょっと、どこに行くのよ?」
「屋上だよ、そこで問題解決の糸口がつかめるはずだ」
隼人の思った通りだった。
屋上で、お稲荷さんを祀ってある。
小さな鳥居と本殿、よくビルの屋上にあるやつだ。
風雨に長い間さらされていたのだろう、所々傷みが激しい。
ここの存在をオーナー夫妻に思い出してもらいたかったのだろう。
オーナーの奥さんに事情を話すため屋上に来てもらうと、お稲荷さんの事を彼女もやはり知っていた。
「私達がこのビルでレストランを始めた頃は、掃除や手を合わせに毎朝来ていたのですが、商売が軌道にのり忙しくなるにつれて屋上に行く機会が減り、今ではすっかり忘れていました」
「そのことを伝えたくて、オーナーに憑りついていたようです」
「そうだったのですか、忙しさにかまけて大切なものを見失っていたのかしら。ここのお稲荷さんは、私達を応援してくれていのでしょうね。夫婦揃って初心を忘れていたからお稲荷さんは、私達を注意しに出て来てくれたのかしら」と、奥さんは昔を思い出すかの様な口ぶりで語った。
「ここを綺麗にし、昔と同じように大切にすれば、旦那さんは元に戻りますよ」
「ええ、有り難うございました」と、隼人と桜に奥さんは、深々とお辞儀をした。
隼人にしか見えていなかった、白い狐はお辞儀をする奥さんの横に座っていた。
―――正解だったのか分からないが、お稲荷さんを滅さずにすんだ。
隼人と桜は、階段を降り林と雨宮が待つ1階の店舗へ移動する。
「そのまま私が、お稲荷さんを祓っていたらどうなったのかしら?」
「どうなったのかは知る由もないが、結果オーライじゃないか」
「今回は、隼人が一人で解決しちゃったもんね」
桜は階段を降りる足を止めて振り向き、「やるじゃない」と、隼人の胸を軽く拳で叩いた。彼は照れ笑いをしながら、何か重要な事を忘れている気がした。
1階に降りると、お菓子が用意されていた。
「問題は解決した?」と、林は桜に尋ねる。
「もう、安心だと思うわ。まあ、私じゃなくて隼人が解決したからね」
「え、隼人が解決したの? お前、お祓い何て出来たのか?」
林の質問に隼人は、「何となく、勘が当たっただけだよ」と、答える。
雨宮に隼人と桜は席に座るよう促され、何が飲みたいか聞かれた。
「私は、紅茶をお願い。隼人は?」
「俺は、アイスコーヒーで」
しかし、何か忘れている様な気がして落ち着かない隼人、壁の時計を見ると15時を少し回った所だった。
15時か、ゴールデンウィーク、今日が最初の日だよな。
この間、妹から電話があったけど、何だったか?
雨宮が用意してくれたアイスコーヒーを隼人はストローで飲みながら、方杖をついて考えていると、キッチンの掃除をしていた林が隼人に聞く。
「隼人、この間、学食で妹が来るとか来ないとか話していたけど、あれはどうなったんだ?」
「へぇ? 妹が来る・・・、そうだよ休みを利用して妹の蒼が京都に来るんだったよ!たしか、16時に着くと言っていたはず。勇樹、雨宮さん、ごちそうさん。俺、妹を迎えに行くから」
店を出で近くの北山駅を目指す。地下鉄1本で京都駅まで行けるから余裕だな。
オーナーの奥さんは、壁のスイッチを入れ、電気をつける。
4階の書斎、オーナーシェフが自分の部屋として使っている。その部屋の片隅で体育座りをし、彼は壁に向かって意味不明な会話をする。ぼさぼさの髪の毛、だらしない服装、目はつり上がっている。
隼人は、誰と話をしているのか知りたくなり、目を凝らして壁際を見た。ぼんやりと白い塊が見える、目が慣れてくると白い狐が彼の横に座っていた。
「おい、桜、あれが見えるか?」
「何言っているの?何も見えないわよ・・・」
「見えない?そんなはずはないだろう、彼の横に白い狐が居る」
「どうして、私には見えないのに、隼人には見えるのよ?」
「分からない、でも俺には見える。桜は、狐憑きのお祓いをやったことあるのか?」
隼人の問いかけに桜は、首を傾げた。
やはりエクソシストの桜は、狐憑きのお祓いの経験が無いな。
「狐なら悪霊と同じ様なものね、私が祓うわ」と、ロザリオを手に祈ろうとする。
狐は、悲し気に隼人を見つめる。どうしてだ、そもそもお前は悪霊か、白い狐は何を意味しているのだろう?
桜が祈り始めると狐は上に向かって飛び上がり、天井をスルリとすり抜け消えてしまった。
隼人は頭の中で、しりとりをするように連想ゲームを思い浮かべる。
ここは、京都、狐は、お稲荷さんだよな、稲荷さんを信仰する理由は?
農耕だけでなく、今は商売の神としてもあがめられている。
「そうか! 桜、祈るのを止めて。ここには、もう白い狐は居ないから」
「えっ、居ないの? 早く行ってよ、馬鹿!」と、桜は頬を膨らました。
「悪い、今、気が付いた。あの白い狐は、お稲荷さんだ。オーナーシェフに憑りついて何かを訴えている」
「お稲荷さん? 悪霊か低級悪魔じゃないの?」
「悪霊でも、低級悪魔でもないよ。神様として神社で祀られているだろ」と、隼人は桜の手を取り部屋を出て、屋上へと続く階段を探す。
「ちょっと、どこに行くのよ?」
「屋上だよ、そこで問題解決の糸口がつかめるはずだ」
隼人の思った通りだった。
屋上で、お稲荷さんを祀ってある。
小さな鳥居と本殿、よくビルの屋上にあるやつだ。
風雨に長い間さらされていたのだろう、所々傷みが激しい。
ここの存在をオーナー夫妻に思い出してもらいたかったのだろう。
オーナーの奥さんに事情を話すため屋上に来てもらうと、お稲荷さんの事を彼女もやはり知っていた。
「私達がこのビルでレストランを始めた頃は、掃除や手を合わせに毎朝来ていたのですが、商売が軌道にのり忙しくなるにつれて屋上に行く機会が減り、今ではすっかり忘れていました」
「そのことを伝えたくて、オーナーに憑りついていたようです」
「そうだったのですか、忙しさにかまけて大切なものを見失っていたのかしら。ここのお稲荷さんは、私達を応援してくれていのでしょうね。夫婦揃って初心を忘れていたからお稲荷さんは、私達を注意しに出て来てくれたのかしら」と、奥さんは昔を思い出すかの様な口ぶりで語った。
「ここを綺麗にし、昔と同じように大切にすれば、旦那さんは元に戻りますよ」
「ええ、有り難うございました」と、隼人と桜に奥さんは、深々とお辞儀をした。
隼人にしか見えていなかった、白い狐はお辞儀をする奥さんの横に座っていた。
―――正解だったのか分からないが、お稲荷さんを滅さずにすんだ。
隼人と桜は、階段を降り林と雨宮が待つ1階の店舗へ移動する。
「そのまま私が、お稲荷さんを祓っていたらどうなったのかしら?」
「どうなったのかは知る由もないが、結果オーライじゃないか」
「今回は、隼人が一人で解決しちゃったもんね」
桜は階段を降りる足を止めて振り向き、「やるじゃない」と、隼人の胸を軽く拳で叩いた。彼は照れ笑いをしながら、何か重要な事を忘れている気がした。
1階に降りると、お菓子が用意されていた。
「問題は解決した?」と、林は桜に尋ねる。
「もう、安心だと思うわ。まあ、私じゃなくて隼人が解決したからね」
「え、隼人が解決したの? お前、お祓い何て出来たのか?」
林の質問に隼人は、「何となく、勘が当たっただけだよ」と、答える。
雨宮に隼人と桜は席に座るよう促され、何が飲みたいか聞かれた。
「私は、紅茶をお願い。隼人は?」
「俺は、アイスコーヒーで」
しかし、何か忘れている様な気がして落ち着かない隼人、壁の時計を見ると15時を少し回った所だった。
15時か、ゴールデンウィーク、今日が最初の日だよな。
この間、妹から電話があったけど、何だったか?
雨宮が用意してくれたアイスコーヒーを隼人はストローで飲みながら、方杖をついて考えていると、キッチンの掃除をしていた林が隼人に聞く。
「隼人、この間、学食で妹が来るとか来ないとか話していたけど、あれはどうなったんだ?」
「へぇ? 妹が来る・・・、そうだよ休みを利用して妹の蒼が京都に来るんだったよ!たしか、16時に着くと言っていたはず。勇樹、雨宮さん、ごちそうさん。俺、妹を迎えに行くから」
店を出で近くの北山駅を目指す。地下鉄1本で京都駅まで行けるから余裕だな。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる