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牛鬼 ④
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正人は、金砕棒を両手で握り縦にすると、牛鬼の背中を突く。何度も何度も金砕棒で背中を突かれ、悶え苦しむ牛鬼は、正人を振り落とそうと隼人の方に突進してきた。
簡単にはやられないと、隼人は牛鬼の頭を狙い、銃を撃つ。
―――パーン、パン、パン、パン、パン。
目や頬、眉間と銃弾が当たっているのに、牛鬼の動きは止まらない。隼人は、頭を抱えてしゃがみ込んだ。ドーンと、大きな音が響くと仮囲いの壁を破壊し、正人を乗せたまま牛鬼は、館内へと飛び出して行った。
「小僧、早く追いかけろ!」
転がりながら糸を食いちぎろうとしている長老の声で、隼人は店を出た。
何処だ、どこに行った? 通路の手すりから身を乗り出し、周辺を見渡す。
見つけた! 正人さんを背中に乗せたまま、1階に居る。
クッソー、銃弾が当たても倒せないのかよ。
隼人はエスカレーターを駆け下り1階の通路を進むと、苦しむ牛鬼の後ろに回り込めた。出来るだけ近づき、体に風穴を空けてやると、隼人は弾倉に残る銃弾10発全てを牛鬼の体に撃ち込む。しかし、牛鬼の体から血は出ているが、倒れない・・・駄目なのか?
隼人の存在に気が付いた牛鬼は、後ろ足を上げた。光の反射で銀色に輝く足の爪は、馬に乗る騎士が持つ武器、ランスに見える。
「危ない!、正人君、避けて」
咄嗟の事で、隼人は動けなくなっていた。飛び込んで来た正人は、金砕棒を盾にして、牛鬼の爪を受け止めた。
「ここから離れて」
正人は、牛鬼が繰り出す6本の足の攻撃から隼人を守る。
我に戻った隼人は、その場から離れた。鋭い爪の突き刺さった床に、大きな穴が空く。あの攻撃を受けていたら、今頃は・・・隼人は考えるだけで怖くなった。
「しまった!」
牛鬼の連続攻撃のスピードに追いつけなくなり、正人の金砕棒が弾き飛ばされた。
「待たせたの、儂の出番じゃ!」
良いタイミングで、長老は2階から飛び降り、牛鬼の後ろから首に噛みついた。牛鬼の注意が長老に行くと、隙を見て正人は、牛鬼の頭に生える角を掴む。
「ぐぉぉぉぉぉぉ・・・」
力いっぱい角を握り締め、正人は牛鬼の首を横にねじ曲げようとする。
バッ、キィーン・・・、両方の角が折れた。
「正人、こやつの頭を金砕棒で叩き潰せ!」
金砕棒は、隼人の近くにある、床に突き刺さっていた。彼は、金砕棒を掴むと力を込めて床から引き抜き、正人目がけて投げた!
「ありがとう、隼人君」と、金砕棒を受け取ると牛鬼の頭を叩き砕いた。
上半分を失った牛の頭が床に転げ落ちると、クモの体は動かなくなった。
「手強い奴じゃあ、儂のおかげで勝てたが」と、長老は自分の手柄にしようとする。
「いいえ、隼人君のサポートのおかげですよ」
「小僧は、金砕棒を投げただけじゃろ!」
「長老は、さっきまで糸に絡まり動けなくなっていましよね」
長老は、隼人の方をみて「チッ」と、舌打ちをした。
牛鬼の居た2階の店内に戻り、壁に貼り付けられていた繭の糸を切ると、中から人が3人出てきた。お店で働く制服姿の女性、子供とスーツを着た男性だった。
「かすかに息をしているようですが、助かりますか?」
「残念じゃが、難しいの」と、猫の姿に戻った長老が答える。
「仮死状態だ、病院に搬送されて運が良ければ、助かるだろうけど」、正人は残念そうに話した。
「俺達が来て、牛鬼を倒したのですから、この人達は助かりますよ」
せっかく、食われずに助かったのだから、彼らの意識は戻ると信じたかった。そうしないと、救いの無い気持ちになりそうだったから。
「隼人君の言う通り、助かると良いな」、鬼神化を解いた正人は、複雑な表情を見せた。
隼人も頭では、分かっていた。助からない可能性の方が大きいと・・・
「帰りは今治方面に向かい、しまなみ海道を通ろう」
しまなみ海道は、今治から広島県尾道へと続く道。瀬戸内海の島々を通り、四国から本州に入れる。
「遠回りになりませんか?」
「どのルートを通って帰っても、かかる時間はさほど変わらないよ」
「茜へのお土産も買いたいからじゃろ、一六タルトとか」
「それだけではありませんよ、長老。俺は、あの道から見える景色が好きなんです。内海だからなのか、重なって見える島々のいたずらなのか、陸続きになっているのかと思わせる景色が幻想的でね。特に夕方の風景が好きですね」
ロマンチストな正人の言葉に隼人は、幻想的な瀬戸内海の景色を見たいと思う。帰りは何か楽しみがあった方が良いよなと、正人の意見に同意した。
簡単にはやられないと、隼人は牛鬼の頭を狙い、銃を撃つ。
―――パーン、パン、パン、パン、パン。
目や頬、眉間と銃弾が当たっているのに、牛鬼の動きは止まらない。隼人は、頭を抱えてしゃがみ込んだ。ドーンと、大きな音が響くと仮囲いの壁を破壊し、正人を乗せたまま牛鬼は、館内へと飛び出して行った。
「小僧、早く追いかけろ!」
転がりながら糸を食いちぎろうとしている長老の声で、隼人は店を出た。
何処だ、どこに行った? 通路の手すりから身を乗り出し、周辺を見渡す。
見つけた! 正人さんを背中に乗せたまま、1階に居る。
クッソー、銃弾が当たても倒せないのかよ。
隼人はエスカレーターを駆け下り1階の通路を進むと、苦しむ牛鬼の後ろに回り込めた。出来るだけ近づき、体に風穴を空けてやると、隼人は弾倉に残る銃弾10発全てを牛鬼の体に撃ち込む。しかし、牛鬼の体から血は出ているが、倒れない・・・駄目なのか?
隼人の存在に気が付いた牛鬼は、後ろ足を上げた。光の反射で銀色に輝く足の爪は、馬に乗る騎士が持つ武器、ランスに見える。
「危ない!、正人君、避けて」
咄嗟の事で、隼人は動けなくなっていた。飛び込んで来た正人は、金砕棒を盾にして、牛鬼の爪を受け止めた。
「ここから離れて」
正人は、牛鬼が繰り出す6本の足の攻撃から隼人を守る。
我に戻った隼人は、その場から離れた。鋭い爪の突き刺さった床に、大きな穴が空く。あの攻撃を受けていたら、今頃は・・・隼人は考えるだけで怖くなった。
「しまった!」
牛鬼の連続攻撃のスピードに追いつけなくなり、正人の金砕棒が弾き飛ばされた。
「待たせたの、儂の出番じゃ!」
良いタイミングで、長老は2階から飛び降り、牛鬼の後ろから首に噛みついた。牛鬼の注意が長老に行くと、隙を見て正人は、牛鬼の頭に生える角を掴む。
「ぐぉぉぉぉぉぉ・・・」
力いっぱい角を握り締め、正人は牛鬼の首を横にねじ曲げようとする。
バッ、キィーン・・・、両方の角が折れた。
「正人、こやつの頭を金砕棒で叩き潰せ!」
金砕棒は、隼人の近くにある、床に突き刺さっていた。彼は、金砕棒を掴むと力を込めて床から引き抜き、正人目がけて投げた!
「ありがとう、隼人君」と、金砕棒を受け取ると牛鬼の頭を叩き砕いた。
上半分を失った牛の頭が床に転げ落ちると、クモの体は動かなくなった。
「手強い奴じゃあ、儂のおかげで勝てたが」と、長老は自分の手柄にしようとする。
「いいえ、隼人君のサポートのおかげですよ」
「小僧は、金砕棒を投げただけじゃろ!」
「長老は、さっきまで糸に絡まり動けなくなっていましよね」
長老は、隼人の方をみて「チッ」と、舌打ちをした。
牛鬼の居た2階の店内に戻り、壁に貼り付けられていた繭の糸を切ると、中から人が3人出てきた。お店で働く制服姿の女性、子供とスーツを着た男性だった。
「かすかに息をしているようですが、助かりますか?」
「残念じゃが、難しいの」と、猫の姿に戻った長老が答える。
「仮死状態だ、病院に搬送されて運が良ければ、助かるだろうけど」、正人は残念そうに話した。
「俺達が来て、牛鬼を倒したのですから、この人達は助かりますよ」
せっかく、食われずに助かったのだから、彼らの意識は戻ると信じたかった。そうしないと、救いの無い気持ちになりそうだったから。
「隼人君の言う通り、助かると良いな」、鬼神化を解いた正人は、複雑な表情を見せた。
隼人も頭では、分かっていた。助からない可能性の方が大きいと・・・
「帰りは今治方面に向かい、しまなみ海道を通ろう」
しまなみ海道は、今治から広島県尾道へと続く道。瀬戸内海の島々を通り、四国から本州に入れる。
「遠回りになりませんか?」
「どのルートを通って帰っても、かかる時間はさほど変わらないよ」
「茜へのお土産も買いたいからじゃろ、一六タルトとか」
「それだけではありませんよ、長老。俺は、あの道から見える景色が好きなんです。内海だからなのか、重なって見える島々のいたずらなのか、陸続きになっているのかと思わせる景色が幻想的でね。特に夕方の風景が好きですね」
ロマンチストな正人の言葉に隼人は、幻想的な瀬戸内海の景色を見たいと思う。帰りは何か楽しみがあった方が良いよなと、正人の意見に同意した。
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