有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

文字の大きさ
上 下
24 / 86

牛鬼 ④

しおりを挟む
 正人は、金砕棒を両手で握り縦にすると、牛鬼の背中を突く。何度も何度も金砕棒で背中を突かれ、悶え苦しむ牛鬼は、正人を振り落とそうと隼人の方に突進してきた。
 簡単にはやられないと、隼人は牛鬼の頭を狙い、銃を撃つ。
―――パーン、パン、パン、パン、パン。
 目や頬、眉間と銃弾が当たっているのに、牛鬼の動きは止まらない。隼人は、頭を抱えてしゃがみ込んだ。ドーンと、大きな音が響くと仮囲いの壁を破壊し、正人を乗せたまま牛鬼は、館内へと飛び出して行った。
「小僧、早く追いかけろ!」
 転がりながら糸を食いちぎろうとしている長老の声で、隼人は店を出た。
 何処だ、どこに行った? 通路の手すりから身を乗り出し、周辺を見渡す。
 見つけた! 正人さんを背中に乗せたまま、1階に居る。
 クッソー、銃弾が当たても倒せないのかよ。
 隼人はエスカレーターを駆け下り1階の通路を進むと、苦しむ牛鬼の後ろに回り込めた。出来るだけ近づき、体に風穴を空けてやると、隼人は弾倉に残る銃弾10発全てを牛鬼の体に撃ち込む。しかし、牛鬼の体から血は出ているが、倒れない・・・駄目なのか?

 隼人の存在に気が付いた牛鬼は、後ろ足を上げた。光の反射で銀色に輝く足の爪は、馬に乗る騎士が持つ武器、ランスに見える。
「危ない!、正人君、避けて」
 咄嗟の事で、隼人は動けなくなっていた。飛び込んで来た正人は、金砕棒を盾にして、牛鬼の爪を受け止めた。
「ここから離れて」
 正人は、牛鬼が繰り出す6本の足の攻撃から隼人を守る。
 我に戻った隼人は、その場から離れた。鋭い爪の突き刺さった床に、大きな穴が空く。あの攻撃を受けていたら、今頃は・・・隼人は考えるだけで怖くなった。
「しまった!」
 牛鬼の連続攻撃のスピードに追いつけなくなり、正人の金砕棒が弾き飛ばされた。
「待たせたの、儂の出番じゃ!」
 良いタイミングで、長老は2階から飛び降り、牛鬼の後ろから首に噛みついた。牛鬼の注意が長老に行くと、隙を見て正人は、牛鬼の頭に生える角を掴む。
「ぐぉぉぉぉぉぉ・・・」
 力いっぱい角を握り締め、正人は牛鬼の首を横にねじ曲げようとする。
 バッ、キィーン・・・、両方の角が折れた。
「正人、こやつの頭を金砕棒で叩き潰せ!」
 金砕棒は、隼人の近くにある、床に突き刺さっていた。彼は、金砕棒を掴むと力を込めて床から引き抜き、正人目がけて投げた!
「ありがとう、隼人君」と、金砕棒を受け取ると牛鬼の頭を叩き砕いた。
 上半分を失った牛の頭が床に転げ落ちると、クモの体は動かなくなった。
「手強い奴じゃあ、儂のおかげで勝てたが」と、長老は自分の手柄にしようとする。
「いいえ、隼人君のサポートのおかげですよ」
「小僧は、金砕棒を投げただけじゃろ!」
「長老は、さっきまで糸に絡まり動けなくなっていましよね」
 長老は、隼人の方をみて「チッ」と、舌打ちをした。

 牛鬼の居た2階の店内に戻り、壁に貼り付けられていた繭の糸を切ると、中から人が3人出てきた。お店で働く制服姿の女性、子供とスーツを着た男性だった。
「かすかに息をしているようですが、助かりますか?」
「残念じゃが、難しいの」と、猫の姿に戻った長老が答える。
「仮死状態だ、病院に搬送されて運が良ければ、助かるだろうけど」、正人は残念そうに話した。
「俺達が来て、牛鬼を倒したのですから、この人達は助かりますよ」
 せっかく、食われずに助かったのだから、彼らの意識は戻ると信じたかった。そうしないと、救いの無い気持ちになりそうだったから。
「隼人君の言う通り、助かると良いな」、鬼神化を解いた正人は、複雑な表情を見せた。
 隼人も頭では、分かっていた。助からない可能性の方が大きいと・・・
「帰りは今治方面に向かい、しまなみ海道を通ろう」

 しまなみ海道は、今治から広島県尾道へと続く道。瀬戸内海の島々を通り、四国から本州に入れる。
「遠回りになりませんか?」
「どのルートを通って帰っても、かかる時間はさほど変わらないよ」
「茜へのお土産も買いたいからじゃろ、一六タルトとか」
「それだけではありませんよ、長老。俺は、あの道から見える景色が好きなんです。内海だからなのか、重なって見える島々のいたずらなのか、陸続きになっているのかと思わせる景色が幻想的でね。特に夕方の風景が好きですね」
 ロマンチストな正人の言葉に隼人は、幻想的な瀬戸内海の景色を見たいと思う。帰りは何か楽しみがあった方が良いよなと、正人の意見に同意した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...