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牛鬼 ①
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「桜、まだか、まだ時間が掛かるのか?」
「祈りに集中できないでしょ! 黙って私のサポートをして」
桜は、ロザリオの珠を手で数えるよう手繰り寄せながら、祈っている。
隼人は、老人に憑依した悪魔が桜に近づかないよう、10畳と広い居間で格闘していた。抑え込もうとして飛び掛かったのに、彼は馬乗りになった老人にマウントを取られてしまったのだ。
老人なのに尋常じゃない力・・・こいつ、強い。必死になって上半身を起こし、老人の顔めがけて隼人は頭突きをした。
「ぐわぁ、貴しゃま・・・人間、大人しく殺しゃれろ」
「悪魔に殺されるのは、御免だ!」
両手で顔を抑え体勢を崩した老人に、今度は隼人が馬乗りになる。腕を掴み動きを止めようとするが、暴れる老人は隼人の首に噛みついた。
しまった!・・・が、痛くない、歯が無いじゃないか。入れ歯を忘れたのか?
「離れて、隼人!」、桜の掛け声で隼人は、老人から離れた。
外では一人暮らしをする老人の一戸建ての家が、上空から降り注ぐ光に包まれる。居間で悶え苦しむ老人から悪魔が出てきた。
背中に翼を持つ黒い影が変化し、頭がフクロウで体は人間の姿になる。
悪魔だけあって異様な姿だが、悪魔を見慣れた隼人はあまり驚かない。
空を取り巻く天使から放たれた光の矢が、天井を突き抜けフクロウの額に当たった。悪魔は、耳の鼓膜が破れそうな悲鳴を上げ、倒れ込んだ。うずくまると黒い影になり、吹き消されるように消え去った。
倒れる爺さんに桜が呼びかける、「お爺さん、大丈夫ですか?」
「ああ、お嬢しゃんは誰かな?」
「悪魔から解放されているわ、もう、大丈夫よ」
仕事が重なり正人と長老は餓鬼退治に行ったので、隼人と桜の二人で一人暮らしの老人に憑依した悪魔祓いを引き受け、大阪府高槻市に来ていた。
「終わったのなら、引き揚げよう」と、桜の肩に手を置いた。
「帰るけど、気安く触らないで」と、隼人は桜に手を払われた。
この子とのコミュニケーションは難しいと、隼人は感じる。円滑に仕事をするために気を使っているのに、分かっていないのか? 自意識過剰では無いと思うので、単純に彼女は自分の事が気に入らないのかも知れない。
気に入らないのは良いけど、仕事中はお前も俺に気を遣えよと、隼人は言いたくなった。
帰りの電車の中では会話どころか、桜は隼人から離れて座りスマホを手に無視する。隼人にしてみたら、どうしたら良いのかお手上げ状態だった。
事務所に戻ると、正人と長老は、先に仕事を終え帰っていた。
「上手く悪魔祓いは出来たか? 二人とも不機嫌そうだな」
「どうして、私のサポートは正人じゃないのよ」
「そんな事を言うなよ、隼人君だって一生懸命に仕事をしているのだから」
「彼は、まだ、頼りないの!」と、膨れっ面の桜。
「生意気だぞ小娘! 儂から見れば、お前も未熟だがな」、長老が口を挟む。
「何よ、長老。じゃあ、正人とじゃなくて私と一緒に来てくれたら良いのに」
「それは、遠慮する。正人の肩に乗って行く方が楽じゃから」
「もう、良い! 仕事、終わったから私は帰ります」
正人は、やれやれと言った表情を見せた。
「桜に悪気は無いから、気にしないでくれ」と、正人さんは俺の背中を軽く叩いた。
「気にはしませんが、気を使いますよ」
茜がパソコンの画面を見ながら、「女の子には、優しくね」
ごもっともです、茜さん。ここで、腹を立てて愚痴を言っていたら、心の小さい男だと証明するようなものだと、隼人は納得した。
帰り支度をしようとする隼人に、正人がソファに座るよう促す。
「話でもあるのですか?」
「ちょっと、頼みたい事があって」
「急用ですか、明日から週末ですけど」
「すまないな。急ぎの仕事が、あって。今からなのだけど」
やっぱり仕事かと、隼人の勘が当たった。仕事が多ければ、収入は良くなるから彼にとっては助かるが、週末の仕事にちょっと気が引ける。
「どんな仕事ですか?」
「愛媛県新居浜市のショッピングセンターで、牛鬼退治をする」
「祈りに集中できないでしょ! 黙って私のサポートをして」
桜は、ロザリオの珠を手で数えるよう手繰り寄せながら、祈っている。
隼人は、老人に憑依した悪魔が桜に近づかないよう、10畳と広い居間で格闘していた。抑え込もうとして飛び掛かったのに、彼は馬乗りになった老人にマウントを取られてしまったのだ。
老人なのに尋常じゃない力・・・こいつ、強い。必死になって上半身を起こし、老人の顔めがけて隼人は頭突きをした。
「ぐわぁ、貴しゃま・・・人間、大人しく殺しゃれろ」
「悪魔に殺されるのは、御免だ!」
両手で顔を抑え体勢を崩した老人に、今度は隼人が馬乗りになる。腕を掴み動きを止めようとするが、暴れる老人は隼人の首に噛みついた。
しまった!・・・が、痛くない、歯が無いじゃないか。入れ歯を忘れたのか?
「離れて、隼人!」、桜の掛け声で隼人は、老人から離れた。
外では一人暮らしをする老人の一戸建ての家が、上空から降り注ぐ光に包まれる。居間で悶え苦しむ老人から悪魔が出てきた。
背中に翼を持つ黒い影が変化し、頭がフクロウで体は人間の姿になる。
悪魔だけあって異様な姿だが、悪魔を見慣れた隼人はあまり驚かない。
空を取り巻く天使から放たれた光の矢が、天井を突き抜けフクロウの額に当たった。悪魔は、耳の鼓膜が破れそうな悲鳴を上げ、倒れ込んだ。うずくまると黒い影になり、吹き消されるように消え去った。
倒れる爺さんに桜が呼びかける、「お爺さん、大丈夫ですか?」
「ああ、お嬢しゃんは誰かな?」
「悪魔から解放されているわ、もう、大丈夫よ」
仕事が重なり正人と長老は餓鬼退治に行ったので、隼人と桜の二人で一人暮らしの老人に憑依した悪魔祓いを引き受け、大阪府高槻市に来ていた。
「終わったのなら、引き揚げよう」と、桜の肩に手を置いた。
「帰るけど、気安く触らないで」と、隼人は桜に手を払われた。
この子とのコミュニケーションは難しいと、隼人は感じる。円滑に仕事をするために気を使っているのに、分かっていないのか? 自意識過剰では無いと思うので、単純に彼女は自分の事が気に入らないのかも知れない。
気に入らないのは良いけど、仕事中はお前も俺に気を遣えよと、隼人は言いたくなった。
帰りの電車の中では会話どころか、桜は隼人から離れて座りスマホを手に無視する。隼人にしてみたら、どうしたら良いのかお手上げ状態だった。
事務所に戻ると、正人と長老は、先に仕事を終え帰っていた。
「上手く悪魔祓いは出来たか? 二人とも不機嫌そうだな」
「どうして、私のサポートは正人じゃないのよ」
「そんな事を言うなよ、隼人君だって一生懸命に仕事をしているのだから」
「彼は、まだ、頼りないの!」と、膨れっ面の桜。
「生意気だぞ小娘! 儂から見れば、お前も未熟だがな」、長老が口を挟む。
「何よ、長老。じゃあ、正人とじゃなくて私と一緒に来てくれたら良いのに」
「それは、遠慮する。正人の肩に乗って行く方が楽じゃから」
「もう、良い! 仕事、終わったから私は帰ります」
正人は、やれやれと言った表情を見せた。
「桜に悪気は無いから、気にしないでくれ」と、正人さんは俺の背中を軽く叩いた。
「気にはしませんが、気を使いますよ」
茜がパソコンの画面を見ながら、「女の子には、優しくね」
ごもっともです、茜さん。ここで、腹を立てて愚痴を言っていたら、心の小さい男だと証明するようなものだと、隼人は納得した。
帰り支度をしようとする隼人に、正人がソファに座るよう促す。
「話でもあるのですか?」
「ちょっと、頼みたい事があって」
「急用ですか、明日から週末ですけど」
「すまないな。急ぎの仕事が、あって。今からなのだけど」
やっぱり仕事かと、隼人の勘が当たった。仕事が多ければ、収入は良くなるから彼にとっては助かるが、週末の仕事にちょっと気が引ける。
「どんな仕事ですか?」
「愛媛県新居浜市のショッピングセンターで、牛鬼退治をする」
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