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赤のエクソシスト ➄
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隼人が車に乗り込もうとすると、桜が力一杯、身体で彼を押しのけた。
「助手席は、先輩が座るのよ。あなたは、後ろ」
「分かりましたよ、お嬢様」
出発すると車は、大阪方面に向かう。
「正人さん、今回の仕事は?」
「まだ、説明していなかったな」
「着いた場所で、悪魔祓いをするだけでしょう」
「そう言うな、桜。チームで仕事をするのだから、ちゃんと説明を聞け。今回の現場は、大阪の吹田市だ。分かりやすく言うと、近畿自動車道の吹田ジャンクションから摂津北インターチェンジの間になる。そこで、悪魔に憑依された人が暴れていると連絡があった」
正人の説明から隼人は、車の往来を止める迷惑な悪魔を想像した。
車は、京都南インターチェンジで名神高速道路に入り、吹田へと向かう。
「正人さん、近畿道は、通行止めになっていますね」
パトカーでバリケードを作る警官が、車の窓を軽く叩く。
「すみません、通行止めで一般車両は入れません」
正人が、スーツの内ポケットから手帳を出し警官に見せた。それを見た警官は、無線で何やら話をしている。
「関係者の方ですね、どうぞ」
パトカーが、動き近畿道への道が開かれた。
「現場に到着だ、二人とも気を抜くなよ」
暫く車を走らせると、対向車線で車が数台炎を上げて燃えている。周囲に人の気配は無いかと、隼人は目を凝らした。
「対向車線に人の姿があります」
「始めようか、隼人君と俺は桜のサポートだ」
車を止め、彼らは中央分離帯を乗り越える。彼らは、反対車線に立つ男性を前に立ち止まる。正人と隼人は、桜を守る為に悪魔に憑りつかれた男の数メートル手前で銃を構えた。
「桜、良いぞ。始めてくれ」
正人の掛け声で、桜はポケットからロザリオを取り出し祈り始めた。
「アヴェ・マリア、めぐみに満ちた方、主はあなたと共におられます。・・・」
祈りが終わるまでに時間が掛かるらしく、隼人が桜の傍で守る役割を担うと、正人は男の元へと走り出した。
悪魔に憑依された男が、両手を天高く上げ吠えた。
「グ、グッ、グッガアアアアアアア!」
燃える車が宙に浮かび上がり、正人を狙って飛んで来る。正人は、転がりながら車を避けたが、隼人と後ろの桜が気になり振り返った。
隼人と桜は無事だった。良かったと安心する正人の目に、腰の引けた隼人の姿が目に入った。
「隼人君、よそ見をするな」
はい、男の方を隼人が見直すと、男の姿は無かった。彼は男を見失ってしまった。どこだ、どこに行ったと、隼人は周囲を見渡す。
驚異的なジャンプ力で、彼の目の前に男は現れた。本当に悪魔だな、一番弱そうなの自分を狙って来るのか、銃を構えると、正人は彼を制止する。
「駄目だ、撃つな! 殺してはいけない」
正人の制止に危険が迫る状況なのに何も出来なくなった隼人は、パニックになる。
撃っちゃ駄目なの?
なら、どうしたら良い?
考える間もなく、男は隼人の首に手をかける。
ぐ、苦しい。俺を絞め殺そうってか!
必死に男の手を首から外そうとするが、力負けする。
鬼神化した正人は、男の後ろから隼人の首を絞める両腕を掴んだ。
「隼人君、今だ、こいつから離れろ」
隼人が起き上がり桜の方へ後退すると、正人は男の両手を持ち、元居た場所へと投げ飛ばした。
「桜、まだか?」、隼人は目を閉じて祈りを捧げる桜を見る。
「・・・」、何も話さない彼女は、心の中でうるさいわねと答える。
投げ飛ばされた男は起き上がると、黒い槍を手にしている。いや、ピッチフォークを手にしていた。武器か?・・・あれが悪魔の武器と、隼人は後ずさりしそうになる足に力を込めて踏ん張った。
「早く、桜、あれを投げられたら・・・」、焦る正人が桜を急かす。
これは、本当にまずい状況になっているのでは?
気を揉む隼人の耳に、鐘の音が聞こえて来た。最初は、どこか遠くで鳴っているような小さな音だったのに。耳を塞がないと耐えられないほどの大きな音へと変わる。
「我が、守護天使カマエルよ。悪魔を払いたまえ」
桜の宣誓に合わせるかのように突然、空からラッパの音が鳴り響いた。
「さあ、始まるわよ!天使の攻撃が」
そう桜が話すと、空から飛来する天使の軍勢が見える。
天使が降りてくる・・・足元の巨大な影は何だ、隼人は振り返り桜を見ると、彼女の後ろに巨大な天使が立っていた。
大天使カマエル、神を見る者。
14万もの能天使の指揮官、1万もの破壊の天使を率いる大天使。背中に大きな白い翼、右手に杖、左手に金の杯を持つ。赤い豹、大天使カマエルの通り名。偶然なのか必然なのか桜の通り名は、彼女の守護天使と同じだ。
大天使カマエルが杖を天に向けると、天使の軍勢が一斉に槍や弓を放つ。一般人が見ると、雲の切れ目から差す斜光に見えるだろう。
光が男を照らし、放たれた無数の槍と矢が男に降り注ぐ。
男がうつ伏せに倒れると、苦しむ黒い影だけが取り残された。
あれが、悪魔か?・・・と、隼人は真っ黒な、異様な形に変化する塊に驚く。
頭の両脇に角が生えた姿、両手で頭を抱えて苦しみながら丸い塊に変化する。様々な形に変わりながら、ズルズルと地面に沈んでいった。
「終わったわよ、お疲れ様!」
圧倒的な力の差、辺りの空気が一変したように感じられる。無数の天使の攻撃は、悪魔だけでなく周りに存在していた邪悪なものも一緒に浄化してしまった。
「悪魔には天使だよ、専門職だろ」
鬼神化を解いた正人が、隼人の肩に手を置いた。
「悪魔だけでなく、天使も初めて見ました」
「帰りは、正人の奢りでレストランに寄って食事したい」
「分かりましたよ、シャーロット」
「その名前で呼ばないで」
隼人は、なぜその名前で呼ばれると、彼女は嫌な素振りをするのだろう。変な奴だなと、桜を見ていた。
「もたもたしないでよ、隼人。帰るわよ」と、桜は隼人を呼び捨てにした。まあ、お持ち帰り君よりかは良いかと、隼人は何も口に出さなかった。
DDで一緒に働く女の子、桜は可愛いけど癖がありそうで、これからの先行きに不安を感じる隼人であった。
「助手席は、先輩が座るのよ。あなたは、後ろ」
「分かりましたよ、お嬢様」
出発すると車は、大阪方面に向かう。
「正人さん、今回の仕事は?」
「まだ、説明していなかったな」
「着いた場所で、悪魔祓いをするだけでしょう」
「そう言うな、桜。チームで仕事をするのだから、ちゃんと説明を聞け。今回の現場は、大阪の吹田市だ。分かりやすく言うと、近畿自動車道の吹田ジャンクションから摂津北インターチェンジの間になる。そこで、悪魔に憑依された人が暴れていると連絡があった」
正人の説明から隼人は、車の往来を止める迷惑な悪魔を想像した。
車は、京都南インターチェンジで名神高速道路に入り、吹田へと向かう。
「正人さん、近畿道は、通行止めになっていますね」
パトカーでバリケードを作る警官が、車の窓を軽く叩く。
「すみません、通行止めで一般車両は入れません」
正人が、スーツの内ポケットから手帳を出し警官に見せた。それを見た警官は、無線で何やら話をしている。
「関係者の方ですね、どうぞ」
パトカーが、動き近畿道への道が開かれた。
「現場に到着だ、二人とも気を抜くなよ」
暫く車を走らせると、対向車線で車が数台炎を上げて燃えている。周囲に人の気配は無いかと、隼人は目を凝らした。
「対向車線に人の姿があります」
「始めようか、隼人君と俺は桜のサポートだ」
車を止め、彼らは中央分離帯を乗り越える。彼らは、反対車線に立つ男性を前に立ち止まる。正人と隼人は、桜を守る為に悪魔に憑りつかれた男の数メートル手前で銃を構えた。
「桜、良いぞ。始めてくれ」
正人の掛け声で、桜はポケットからロザリオを取り出し祈り始めた。
「アヴェ・マリア、めぐみに満ちた方、主はあなたと共におられます。・・・」
祈りが終わるまでに時間が掛かるらしく、隼人が桜の傍で守る役割を担うと、正人は男の元へと走り出した。
悪魔に憑依された男が、両手を天高く上げ吠えた。
「グ、グッ、グッガアアアアアアア!」
燃える車が宙に浮かび上がり、正人を狙って飛んで来る。正人は、転がりながら車を避けたが、隼人と後ろの桜が気になり振り返った。
隼人と桜は無事だった。良かったと安心する正人の目に、腰の引けた隼人の姿が目に入った。
「隼人君、よそ見をするな」
はい、男の方を隼人が見直すと、男の姿は無かった。彼は男を見失ってしまった。どこだ、どこに行ったと、隼人は周囲を見渡す。
驚異的なジャンプ力で、彼の目の前に男は現れた。本当に悪魔だな、一番弱そうなの自分を狙って来るのか、銃を構えると、正人は彼を制止する。
「駄目だ、撃つな! 殺してはいけない」
正人の制止に危険が迫る状況なのに何も出来なくなった隼人は、パニックになる。
撃っちゃ駄目なの?
なら、どうしたら良い?
考える間もなく、男は隼人の首に手をかける。
ぐ、苦しい。俺を絞め殺そうってか!
必死に男の手を首から外そうとするが、力負けする。
鬼神化した正人は、男の後ろから隼人の首を絞める両腕を掴んだ。
「隼人君、今だ、こいつから離れろ」
隼人が起き上がり桜の方へ後退すると、正人は男の両手を持ち、元居た場所へと投げ飛ばした。
「桜、まだか?」、隼人は目を閉じて祈りを捧げる桜を見る。
「・・・」、何も話さない彼女は、心の中でうるさいわねと答える。
投げ飛ばされた男は起き上がると、黒い槍を手にしている。いや、ピッチフォークを手にしていた。武器か?・・・あれが悪魔の武器と、隼人は後ずさりしそうになる足に力を込めて踏ん張った。
「早く、桜、あれを投げられたら・・・」、焦る正人が桜を急かす。
これは、本当にまずい状況になっているのでは?
気を揉む隼人の耳に、鐘の音が聞こえて来た。最初は、どこか遠くで鳴っているような小さな音だったのに。耳を塞がないと耐えられないほどの大きな音へと変わる。
「我が、守護天使カマエルよ。悪魔を払いたまえ」
桜の宣誓に合わせるかのように突然、空からラッパの音が鳴り響いた。
「さあ、始まるわよ!天使の攻撃が」
そう桜が話すと、空から飛来する天使の軍勢が見える。
天使が降りてくる・・・足元の巨大な影は何だ、隼人は振り返り桜を見ると、彼女の後ろに巨大な天使が立っていた。
大天使カマエル、神を見る者。
14万もの能天使の指揮官、1万もの破壊の天使を率いる大天使。背中に大きな白い翼、右手に杖、左手に金の杯を持つ。赤い豹、大天使カマエルの通り名。偶然なのか必然なのか桜の通り名は、彼女の守護天使と同じだ。
大天使カマエルが杖を天に向けると、天使の軍勢が一斉に槍や弓を放つ。一般人が見ると、雲の切れ目から差す斜光に見えるだろう。
光が男を照らし、放たれた無数の槍と矢が男に降り注ぐ。
男がうつ伏せに倒れると、苦しむ黒い影だけが取り残された。
あれが、悪魔か?・・・と、隼人は真っ黒な、異様な形に変化する塊に驚く。
頭の両脇に角が生えた姿、両手で頭を抱えて苦しみながら丸い塊に変化する。様々な形に変わりながら、ズルズルと地面に沈んでいった。
「終わったわよ、お疲れ様!」
圧倒的な力の差、辺りの空気が一変したように感じられる。無数の天使の攻撃は、悪魔だけでなく周りに存在していた邪悪なものも一緒に浄化してしまった。
「悪魔には天使だよ、専門職だろ」
鬼神化を解いた正人が、隼人の肩に手を置いた。
「悪魔だけでなく、天使も初めて見ました」
「帰りは、正人の奢りでレストランに寄って食事したい」
「分かりましたよ、シャーロット」
「その名前で呼ばないで」
隼人は、なぜその名前で呼ばれると、彼女は嫌な素振りをするのだろう。変な奴だなと、桜を見ていた。
「もたもたしないでよ、隼人。帰るわよ」と、桜は隼人を呼び捨てにした。まあ、お持ち帰り君よりかは良いかと、隼人は何も口に出さなかった。
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