有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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学生生活 ①

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 地下鉄今出川駅の周辺は新入生なのか、人通りがいつもより多い。自転車に乗る隼人は、2年目のキャンパスライフを迎えていた。
 彼の見る風景の中に潜む違和感が、やたらと目に付く。餓鬼や妖怪の存在を認めてしまったからか、人混みに紛れる彼らの姿を見つける事が日に日に増える。
 まただ、楽しそうに歩きながら談笑する女子学生達の後ろに居る着物姿の女性。
 あれは?・・・大通りに面した建物の屋根に座り込む天狗。
 交差点へ飛び込んでは消えるを繰り返す男の幽霊。
 誰も気が付かないのか? 見ようとしないから見えないのか、それとも本当に見えないのか、隼人は自転車を押しながら考えていた。
「おーい、隼人、久しぶりだな!」
 前からやって来る二人組の男、隼人は自転車を止め、目を細め前方を見る。
 あれは、妖怪や幽霊じゃないよな、本物の人間だよな?

 隼人の友人の林勇樹はやしゆうき小川傑おがわすぐるだった。二人とも同じ社会学部に通う学生だ。
 林は、色白で背が高く女性受けする容姿の男性。彼は異性の友人も多く、噂では誰が彼を射止めるか学部を問わず女子学生たちが競争しているらしい。
 小川は、1浪したので隼人より1歳年上だった。彼は、北海道の農家で鍛えられた体躯の持ち主だ。大自然の中で育ったのが原因なのか、全く周りの目を気にしないのが彼の取柄でもあり短所でもある。
「勇樹と小川君じゃないか、帰っていたなら連絡しろよ」
 無駄に体の大きな小川が、バシバシと隼人の背中を叩いて来た。彼なりの喜びの表現なのか、背中を叩きながらも終始笑顔で話しかけて来る。
「お土産持ってアパートに行ったけど、お前、留守だったから」
「何のためのスマホだよ。ラインか電話すれば良いじゃないか」
「そりゃそうだな」、小川は人目も気にせず、豪快に笑いだした。
 この人は、世の中の便利な道具を使いこなそうと思わないのか?
 隼人から見た小川の考え方と行動は、相変わらずの野生児ぶりだ。
「隼人、明日の晩、空けといてくれるか?」
「明日の晩なら大丈夫だけど、何かあるのか」
 周囲の目を気にしてか、勇樹は自分の顔を隼人の耳元に近づけた。
「同い年だけど、女子大生と夕食会をセッティングした」
「マジか、そりゃすげえよ。どこの大学の子だよ?」
「京都のお嬢様大学だよ、楽しみにしとけよ」と、また小川は隼人の背中を力いっぱい叩く。彼は、本当に力加減を知らない。
「楽しみだな!じゃあ、また、後でな」
 小川に叩かれた背中が痛い、今時全身で喜びを表現する人は珍しいなと隼人は呆れる。勇樹は、去り際に手を振りながら隼人に念押しをする。
「これは、ゴールデンウィークと夏季休暇を楽しむための前哨戦だからな!」
 これは、楽しみだ♪
 さすが勇樹、休みの間でも行動力は半端ないな。
 こんな機会は絶対に邪魔されたくない、約束の日に仕事が入らないよう祈っておかないと。

 昼も過ぎた頃、今日の授業は全て終わったので、隼人はアパートに戻る前に学食へ寄った。宮田の姿は無いか、多くの学生が行きかう食堂内、目で彼の定位置になっているテーブルの周辺を見たが彼は居なかった。
 宮田千尋みやたちひろは、隼人と同じ大学の経済学部に通っている。彼は、隼人の学部の違う唯一の友人だ。まだ、親しい人も居ない右も左も分からない1年生の頃に、たまたま構内で漫画を読んでいたら彼に声を掛けられた。話している内にお互いに打ち解け合い、何でも話せる友人となった。
おもむろに窓側へ目をやると、食事を終え漫画を読む彼を見つけた。
「宮田君、となり良いかな?」
「小坂君、この間はありがとう。あと、漫画を持って来たから君のアパートに寄ろうかと思っていたんだよ」
「それは、それは、飯食ったら俺のアパートに行こう」
「そうしましょう、君に会えて良かったよ。一人で持つには、重くて」
 宮田の足元を見ると、漫画がびっしりと詰まった紙袋が2つあった。
 隼人は言葉には出さなかったが、これだけの量を俺のために、わざわざ持ってきてくれたんだ。一人で大変だっただろうに、申し訳ないなと隼人は気に掛けた。
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