有限会社DIUD 物の怪退治をする会社でアルバイトをする事になりました!

川村直樹

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餓鬼退治 ①

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 暗闇の中、遠くから自分自身が近づいて来るのを隼人は見る。
“本当にあそこでアルバイトをするのか?”
「ああ、不安だけど、お金が必要だし」
“相変わらず、お前は呑気だな”
 いつもそうだった。夢の中に出てくる彼は、偉そうに説教じみた話をする。もしかしたら自分自身では気が付いていない、心の奥底にある本音を代わりに語っているのかも知れない。
「呑気で結構だよ、仕事のサポートで直接戦う訳じゃないし・・・」
“馬鹿かお前!そんなやわな連中ばかりじゃないぞ”
「何を知っているんだよ!俺自身、あやかしたぐいなんて見たことも無いだろ」
“本当にそう言えるか? 本当に妖には会っていないか?”
「普段から見えないし、会ったこと無いよ」
“見えないんじゃなくて、お前は見えない振りをしているんだよ”
「何を! 分かった風な口をきくなよ」
 隼人は、夢の中で偉そうに話す自分にムカつき拳を握りしめた。
“せいぜい、頑張れ。危険が生じたら、昔のように俺が助けてやるよ”
 偉そうに話す自分は、吸い込まれていくように暗闇の中へ消えて行った。彼は目を覚ます前なのに、夢だと気が付いていた。いつも以上に嫌な気持ちにさせる夢、同じ夢を見るならもっと自分自身がハッピーになれる内容なら良いのに。もし、ヴァーチャルで夢を操作出来たら儲かるだろうなと彼は考えた。

 起き上がると直ぐに隼人は、体を思いっきり反らし伸びをした。
「今日は、何をするかな?」
 昨日は帰ってから遅くまでゲームしていたし、今は何時だだろうか。彼は、スマホの着信履歴に気が付く。 
 17時44分に着信履歴・・・頭がボーとする、いったい何時間寝たんだ。
 スマホの時間を見た、今は、18時07分。
「わあぁぁぁぁぁぁ!」と、隼人は思わず叫んでしまった。
 そう、彼は一日中起きる事無く寝ていた。既に夕刻を過ぎてしまっている。寝過ぎた事に対して、何だか損した気分になる。スマートフォンを確認すると、着信は知らない電話番号からだった。彼は誰が出るか分からない番号に、一抹の不安を覚えながらも電話する。
「もし、もし・・・」
「隼人君か、悪いが事務所にすぐ来てくれ」
「正人さんですか?」
「そうだ!仕事だよ」
「直ぐ、事務所に向かいます」と、急いで身支度をしワンショルダーバッグにスマホと財布を放り込んで、アパートを出た。

 遅くなりましたと、隼人はDIUD事務所のドアを開けた。茜は定時で帰ったのか、既に彼女の姿は無い。背の低い棚の上では長老の居場所なのか、気持ちよさそうに丸まって寝ている。そのさまは、普通の猫だなと隼人の口元が緩む。ソファで煙草をたしなむ正人が振り向いた。
「お疲れさん、今から仕事に行くが、大丈夫か」
「はい、問題無いです」
 そーと隼人が寝居ている長老を触ろうとすると、正人は止めておけと言わんばかりに首を横に振る。
「フゥーッ・・・バシッ!」・・・「痛えー!」、彼は出した手を引っ込めた。
「儂に触ろうなど、100年早いぞ小僧」
 隼人は引っかかれた手を擦りながら、「すみません、長老」
「それ見ろ、止めておいた方が良かったのに」と、正人は苦笑いした。
「仕事は?どんな内容ですか?」
「車に乗ってから説明するよ」
「車で行くのですか?」
「そうだ、大阪に行く。そこにある荷物を持って行くから」
 隼人は正人の目を追いかる。机の上に黒いバッグと立てかけられた2メートルはあろう長方形のケースが置いてあった。
「正人、儂も一緒に行った方が良いか?」
「長老にご足労はお掛けしませんよ」
「儂は、留守番か。怪我せんようにな」と、長老は丁寧に毛づくろいをする。
 隼人はバッグを肩にかけ、長方形のスーツケースを持とうとする。
「隼人君、それは重いから俺が持つよ」
「大丈夫だよ、正人。あの小僧なら」
「無理ですよ、長老。普通の人ですよ、神通力がある訳でも無いし」
 何を二人で話しているのだろうと、既にスーツケースを手にしていた隼人は、見た目と違い以外と軽いと感じていた。まるで発泡スチロールの様な軽さに感じる。
「あのー、軽いですよコレ」
「それ見ろ、正人。あの小僧は普通じゃないんだよ」
「俺には、まだ、長老の言っている意味が理解できませんよ」
「あやつは、お前と同類じゃよ」
「俺と同類? 本当ですか、何も感じませんが」
「あやつの奥底に、見つからないように隠れているからな。そのうち、正人の前に姿を現すよ」
「良く分かりませんが、出かけてきますので留守番、お願いしますね」
「はよ、行け」と、長老は、3本の尻尾を気持ちよさげに毛づくろいを続けた。
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