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18 その先に
しおりを挟むよく晴れて、のどかな日だった。
俺が芝生でぼんやりしていると動物やらモンスターがすり寄ってきた。
モフモフとした毛並みに癒されていたら、少し離れた所でスミが見ている事に気が付いた。俺がスミを見返すとパッと慌てたように目をそらす。
こちらに来て一緒にモフモフすればいいのに。
俺は、スミの傍に行き、スミが持っている箒を取り上げた。
「掃除はもういいだろ。スミも一緒に遊ぼう。」
遊ぼうって言ったって動物モフモフするだけなんだけどな。
でも、スミが動物に近づくと動物が去ってしまう。
「あー…行っちゃったな。」
スミが少し目を伏せた。そんな顔させたい訳じゃなかった。
「じゃ、スミをモフるか。よし、髪の毛切ってやるからそこに座れ。」
スミを木の切り株にスミを座らせた。
少し長くなりかけの髪の毛をハサミでチョキチョキと切っていく。なかなか上手いんだ。前世は美容師だったかもしれない。
梳かすとサラサラになる髪の毛を楽しんでいると、スミがくすぐったそうに肩をすくめた。
ゆっくりとした時間だった。
「僕、ポー様の傍にいたいです。」
後にいた俺はスミがどんな顔をしてそれを言っているのか分からなかった。スミは一度だけだが、はっきりと俺の傍にいたいと言った。
俺は、成人になるまでの期間限定の“傍にいたい”だと勝手に思った。
「あぁ。いいよ。」
確かに俺は、そうスミに約束をしたのに。
スミとの約束をぼんやりと思い出しながら意識がある事に気が付いた。
俺は闇の中でふわふわと宙浮いていた。
これは、先ほどスミが作った闇の中だろうか?
あの真っ暗な世界ととても似ている。だけど…違うな。
この闇は、動いていないようで巡っている。
巡ってどこかへ繋がっている。いつたどり着くのか、たどり着けないのか分からないけど、恐怖など何も感じられなかった。
これは共通する世界の一つなのだろう。
あぁ、俺は死んだのだと思った。
背中の傷の痛みも何も感じない。
自分の身体は、オークでも人間でもどちらでもなかった。
どちらでもない蛍のような小さな光。
こんなちっぽけなモンが俺だよ。
気持ちがよくて気を抜けば意識が飛ばされそうになるけれど、後悔だけが強く残っている。
俺は、スミの孤独に気がつけなかった。一番大事にしていたのに。
スミを残してしまう事が悔しい。
「スミ……。」
今度生まれ変わったら、スミの傍にいられる存在がいい。
スミは魔王だから人間とは寿命の長さが違う。俺が巡って生まれ変わるまで生きていてくれるだろうか。
今度会ったら、もう二度と淋しい想いはさせない。
最後に見たスミの顔は、クシャッと涙を浮かべた顔だった。
だから、脳裏に浮かぶのは可愛い微笑み顔ではなく、悲しんでいる顔だ。
クルクルと巡る流れに身を任すのは、気持ちがよかった。
そうだ。早く。早く巡ってスミに会いにいかなくちゃ。
その為に、早くこの流れに乗ろう。
そう思って意識閉じようと思った時、強く引っ張られた。
おいっ!俺は、急いでいるの!!
全然前に流されなくて、そのままぐぐぐ……っと後ろに後ろに引っ張られる。
離せよ!!スミに会いに行かなくちゃいけないんだっ!!
そんな思いとは裏腹に、こっちへ来い。こっちへ来いとグイグイと引っ張られていく。
<逃がさない。>
へ?
俺は何かに捕まれてしまった。
ここには絶対いない声が聞こえた。いや、まさか。ここは黄泉の流れの中。あの子の声がするわけがない。
まさか…?
<絶対にいかせない。>
再び俺の魂が捕まってしまう感覚。
その声を聞いた時、思わず笑ってしまった。
そういえば、オークの俺を探す事も絶対に諦めなかったよな。お前はいつだって俺を必要としてくれていた。
お前の声がするのなら、どれだけかかっても声の元へ進むよ。
俺は流れに逆らって声の方向へ向かった。
<主人っ!!意識をしっかり持って!!>
ハッ!!
今度は鮮明に意識を取り戻した。
その瞬間、先ほどとは違う別の世界に入った。
犬神の力……。ここは神隠しのパラレルワールドか。
先ほどの黄泉の空間とは違って、ここは完全に時間が止まっていた。
オークの身体がそこにあった。
俺は急いで、オークの身体に向かった。
……相変わらず不細工な顔だぜ。
だけど、物凄く懐かしい。
光の俺は、スゥっとその身体の中へ入った。
目を開けると、青空が広がっていた。
太陽の光と風を感じ戻ってきた事を実感した。
ぬっと汗まみれの犬が視界を覆う。
<主人っ!>
上体を起こすとすぐ横にスミがいた。
「ポー様っ!!!」
「スミ…。」
スミの様子に驚く。
なんか、スミが泣きまくって溶けかかっている。魔王の時のクールなスミはどこへ?というくらいの大泣き度だ。
俺が見つめると、さらにスミの目から大粒の涙が溢れだす。
「よかったっ!もう、目を開けないと……思ってっ!!」
俺の身体をぎゅうぎゅうと抱き着くスミ。
温かいスミの身体。俺は、そっとその身体に手を回した。
「スミの声が聞こえたよ。」
犬神の力だけでは限界があっただろう。黄泉の国まで俺を探し出す事が出来たのは魔王の力とスミの執念がなせる業だ。
スミに会いたかったから、嬉しいよ。
俺を探し出してくれてありがとう。
「また、お前の傍にいてもいいか?」
俺を抱き着いていたスミの身体がブルっと震えた。震えているのに、俺の身体を抱き着く力が強まる。
「離さないです。」
黄泉の空間で聞こえた声とは違って自信なさげ声なのに、でも絶対に離さないと力強く抱きしめるスミが愛おしい。
俺の愛おしいスミだ。
「そうだな。俺も離れないよ。」
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皆様ありがとうございます😘
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