オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト

文字の大きさ
上 下
18 / 22

18 その先に

しおりを挟む
 
よく晴れて、のどかな日だった。

俺が芝生でぼんやりしていると動物やらモンスターがすり寄ってきた。
モフモフとした毛並みに癒されていたら、少し離れた所でスミが見ている事に気が付いた。俺がスミを見返すとパッと慌てたように目をそらす。
こちらに来て一緒にモフモフすればいいのに。

俺は、スミの傍に行き、スミが持っている箒を取り上げた。
「掃除はもういいだろ。スミも一緒に遊ぼう。」
遊ぼうって言ったって動物モフモフするだけなんだけどな。
でも、スミが動物に近づくと動物が去ってしまう。
「あー…行っちゃったな。」
スミが少し目を伏せた。そんな顔させたい訳じゃなかった。
「じゃ、スミをモフるか。よし、髪の毛切ってやるからそこに座れ。」
スミを木の切り株にスミを座らせた。
少し長くなりかけの髪の毛をハサミでチョキチョキと切っていく。なかなか上手いんだ。前世は美容師だったかもしれない。
梳かすとサラサラになる髪の毛を楽しんでいると、スミがくすぐったそうに肩をすくめた。
ゆっくりとした時間だった。
「僕、ポー様の傍にいたいです。」
後にいた俺はスミがどんな顔をしてそれを言っているのか分からなかった。スミは一度だけだが、はっきりと俺の傍にいたいと言った。
俺は、成人になるまでの期間限定の“傍にいたい”だと勝手に思った。
「あぁ。いいよ。」
確かに俺は、そうスミに約束をしたのに。




スミとの約束をぼんやりと思い出しながら意識がある事に気が付いた。

俺は闇の中でふわふわと宙浮いていた。

これは、先ほどスミが作った闇の中だろうか?
あの真っ暗な世界ととても似ている。だけど…違うな。

この闇は、動いていないようで巡っている。
巡ってどこかへ繋がっている。いつたどり着くのか、たどり着けないのか分からないけど、恐怖など何も感じられなかった。
これは共通する世界の一つなのだろう。

あぁ、俺は死んだのだと思った。
背中の傷の痛みも何も感じない。

自分の身体は、オークでも人間でもどちらでもなかった。
どちらでもない蛍のような小さな光。
こんなちっぽけなモンが俺だよ。

気持ちがよくて気を抜けば意識が飛ばされそうになるけれど、後悔だけが強く残っている。
俺は、スミの孤独に気がつけなかった。一番大事にしていたのに。
スミを残してしまう事が悔しい。

「スミ……。」

今度生まれ変わったら、スミの傍にいられる存在がいい。
スミは魔王だから人間とは寿命の長さが違う。俺が巡って生まれ変わるまで生きていてくれるだろうか。

今度会ったら、もう二度と淋しい想いはさせない。
最後に見たスミの顔は、クシャッと涙を浮かべた顔だった。
だから、脳裏に浮かぶのは可愛い微笑み顔ではなく、悲しんでいる顔だ。

クルクルと巡る流れに身を任すのは、気持ちがよかった。
そうだ。早く。早く巡ってスミに会いにいかなくちゃ。
その為に、早くこの流れに乗ろう。

そう思って意識閉じようと思った時、強く引っ張られた。

おいっ!俺は、急いでいるの!!

全然前に流されなくて、そのままぐぐぐ……っと後ろに後ろに引っ張られる。

離せよ!!スミに会いに行かなくちゃいけないんだっ!!
そんな思いとは裏腹に、こっちへ来い。こっちへ来いとグイグイと引っ張られていく。


<逃がさない。>

へ?

俺は何かに捕まれてしまった。
ここには絶対いない声が聞こえた。いや、まさか。ここは黄泉の流れの中。あの子の声がするわけがない。
まさか…?

<絶対にいかせない。>

再び俺の魂が捕まってしまう感覚。
その声を聞いた時、思わず笑ってしまった。

そういえば、オークの俺を探す事も絶対に諦めなかったよな。お前はいつだって俺を必要としてくれていた。
お前の声がするのなら、どれだけかかっても声の元へ進むよ。
俺は流れに逆らって声の方向へ向かった。





<主人っ!!意識をしっかり持って!!>

ハッ!!

今度は鮮明に意識を取り戻した。
その瞬間、先ほどとは違う別の世界に入った。

犬神の力……。ここは神隠しのパラレルワールドか。
先ほどの黄泉の空間とは違って、ここは完全に時間が止まっていた。

オークの身体がそこにあった。
俺は急いで、オークの身体に向かった。

……相変わらず不細工な顔だぜ。
だけど、物凄く懐かしい。
光の俺は、スゥっとその身体の中へ入った。






目を開けると、青空が広がっていた。
太陽の光と風を感じ戻ってきた事を実感した。

ぬっと汗まみれの犬が視界を覆う。
<主人っ!>

上体を起こすとすぐ横にスミがいた。
「ポー様っ!!!」
「スミ…。」
スミの様子に驚く。
なんか、スミが泣きまくって溶けかかっている。魔王の時のクールなスミはどこへ?というくらいの大泣き度だ。
俺が見つめると、さらにスミの目から大粒の涙が溢れだす。

「よかったっ!もう、目を開けないと……思ってっ!!」

俺の身体をぎゅうぎゅうと抱き着くスミ。
温かいスミの身体。俺は、そっとその身体に手を回した。

「スミの声が聞こえたよ。」

犬神の力だけでは限界があっただろう。黄泉の国まで俺を探し出す事が出来たのは魔王の力とスミの執念がなせる業だ。
スミに会いたかったから、嬉しいよ。
俺を探し出してくれてありがとう。


「また、お前の傍にいてもいいか?」

俺を抱き着いていたスミの身体がブルっと震えた。震えているのに、俺の身体を抱き着く力が強まる。

「離さないです。」

黄泉の空間で聞こえた声とは違って自信なさげ声なのに、でも絶対に離さないと力強く抱きしめるスミが愛おしい。
俺の愛おしいスミだ。




「そうだな。俺も離れないよ。」

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...