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【☆印以降、スミ視点になります。】
魔王城の瓦礫からスミの行き先のヒントはないかと探すが見つからない。
まず、大きな魔王城をどうやって爆破して、バラバラにしたのだろうか。爆弾?爆弾にしては火薬の匂いがしない。
証拠という証拠が見つからなくて焦る。
スミは一体どこへ…?少なくとも近くにはいない。
すると、上空に気配を感じた。上を見るとキャタが飛んできたのが目に入った。
「おいっ!人間!大丈夫か!?」
キャタは地面へ降りて羽をしまった。俺はキャタの元に駆け寄った。
「キャタ!お前だけか!?」
魔王城が大破しているのを見て、キャタの身体はフルフルと怒りに震えている。
「人間如きが。魔王城を爆発させよって。」
「人間が……!?」
犬が人間が魔王城に向かっていると教えてはくれたが、これが人間の仕業だというのか。人間にこれほどの力があったことに驚いた。
「一体、どうなっているんだ?」
キャタは俺の方を見た。お前は魔王様のお気に入りだからと教えてくれた。
随分前から、人間側が魔王城に向かってくる事が多々あったが、応戦せず魔力で目隠しをしていたそうだ。
だが、それも人間に突破された。
強い禍々しい力を察知したスミにより、魔王城にいるすべての個体が南半球…反対側までテレポートさせた。一度に大量の個体を移動出来る力を持つのは魔王以外いないそうだ。
「魔王も南半球へ?」
「いや、魔王様だけここに残ったから、急いで戻ってきたんだ。」
…という事は、キャタは反対側から戻ってきたのか?
南半球に飛ばされて、こんなに早く戻れるキャタも凄い。
「ここにも魔王はいないぞ。」
「そうか。魔王様はお前が城内にいない事を分かるとすぐに捜索に向かったから、一緒におられると思ったのに。」
「……。」
俺が、変に誤解を与えさせたからスミは一人で帰ってしまった。あの時、反応して一緒に帰っていればよかった。
「……お前の傍におられないなら、人間界かもしれない。」
呟いたキャタは、上を向いて大きな尖った羽を開かせた。
「俺も連れて行ってくれっ!」
飛んでいこうとするキャタの腰にガシッと捕まった。
「何をするっ!?お前を連れて行ってどうするというのだっ!?」
キャタが抵抗するが、こちらも馬鹿力でぎゅうっと抱き着く。
「魔王の事を絶対に守ると誓うっ!俺も連れて行ってくれ!!」
キャタの目を見つめる。その俺の様子を見て、はぁっとため息をついて、俺の手を弱めるように指示した。
「馬鹿力め。どうなっても知らないからな。」
そう言って、バサバサと大きな羽を動かし、空高く飛んだ。
キャタは、これまで人間の動きについて調査していた内容を教えてくれた。
ここ10年の人間は、不穏な動きがずっと絶えなかったそうだ。
特にオークの俺を捕まえていた国の王は、最も厄介な思考の持ち主で、人間が一番上。その他の種族との共存は望まない人間至上主義だった。
その思考が行き過ぎるが故、他の生き物に人間の強さを知らしめたいとばかりにモンスターの殺戮、魔族への攻撃が続いた。冒険者達だけが特例で過ちを犯しているのではなかった。国の王から間違っていたのだ。
しかし、そんな王は、魔王を恐れていた。
どれだけ人間が強くなっても、何百年も昔、一夜にして魔王が国を滅ぼしたという過去があるからだ。
スミもその歴代の魔王同様以上の魔力を持っていた。
魔族達、皆が一瞬にしてひれ伏すほどの凶悪なまでの魔力保持者。圧倒的な魔王…。
だから、あんなにスミを狙っていたのか。
スミは、何も悪くないのに。
確か、あの城の人間達は予言が云云かんぬん言っていたよな。
なんの予言だろうか。
考えていると、上空から城が見えた。
俺とキャタは念の為、気配を最小限にまで抑えた。
城前に着いた時、あまりに街中が静かな事に驚いた。
この国の地下牢で捕まってはいたけど、ずっと地下であったし街の様子などは何も知らない。だか、こんな空気だったか…?
なぜ?昼間なのにとても静かだ。不気味な程、物音が全くしない。また人の気配もしない。
以前捕らえられていた時には感じなかった不穏な空気が街中を漂っている。こんな街だったか…??
街の隅で、座り込んでいる男がいた。
様子が変だ。寝ている…?
俺はその男に近寄り様子を見た。
生きているが、目が合わず虚ろな表情をしている。
「人間達は、怨念を溜め込んでいた。モンスターや他種族を殺戮することで溜め込む怨念では足りず、多分、街中の人間の生気をとっていたのだろう。」
キャタが無機質な表情でそう言った。この街に気配がないのは、生気を奪われているからか!?
なんで、そこまですることなのだろうか……。
「ここの人間達は、毎日少しずつ生気を搾り取られていたのだろう。一気に吸い取れば死んでしまうからな。そこまでしないと魔王様には敵わないという事だ。」
「なんてことを!」
そこまで、スミを倒したい理由は何だ。
スミは本当は争いが嫌いだ。そこまで人間から疎まれる理由が分からない。
「ただそこにあるだけで恐怖する。それが魔王という存在だ。」
人間の恐怖の気は、魔族の好む気でもある。
だが、今回は純粋な感情ではない。捻じ曲げられた怨念は魔族にも手が負えない。
早くスミの元に駆け付けたい。
「急ごう。」
「あぁ。」
俺たちは城内へ侵入した。
城内も静かだった。ざわつく心を抑えて前に進む。
すると、キャタが立ち止った。
「どうした?」
「お前は、そこを通れるのか?」
どういうことだ?と思った瞬間、キャタがスッと手を出した。
ビリビリっと電気がキャタの手に走った。
「結界か……。」
「結界!?」
だが、俺は平気だった。
「ここから先は、人間にしか通れないようにしたのだろう。……先に行け。私は別の方法で向かう。」
そうか。今、俺は人間の身体だから通れたんだ。
「あぁ!!必ず魔王をみつける!!」
そう誓って、俺は走った。
結界がここから張られているという事は、行き先はここで間違いないだろう。
行き先は探さずとも、その場所に近づくにつれて、禍々しい空気がきつくなる。
こんな禍々しい空気は感じた事がなかった。
角を曲がった時、目の前をドサリっと物体が倒れた。
「…っ!!」
先ほどの生気を奪われた人間か!?これは、警備兵か?
どうやら、街の人間だけじゃなくて城内の人間の生気まで奪っているのか。王は異常者だ。
生気の奪われた人間は、やはり虚ろな顔をしているだけで呼吸はある。呼吸のしやすいように横向きに寝かしてやりながら、先を急ぐ。
一際その空気がきつくなる場所があった。
「神殿か……。」
気配を消して、ゆっくりと神殿に近づいて、隙間から中の様子を覗いた。
教会内には大勢の人間がいた。
だが、自分の意志などないような虚ろな顔をした者ばかりだ。ふらりふらりと何かに操られているような動きをしている。
自分の意志で動いているのは、中央にいる一部の人間と王族だけか。
その中でも特に真ん中にいる豪華な重そうなマントを付けたあの中年の男。
あれが愚かな王なのだろう。中心でえらそうに踏ん反りやがって。
その王の向かい側にはスミが立っていた。
「……っ!!」
いた。無事だ。
沢山の人間に囲まれた中、スミは無表情だった。スミの片手はボロボロになっていた。スミ自身には回復魔法が使えないのだろうか?それとも魔力切れ…?
すぐに駆け寄りたいが、様子を見て助け出さないと。
すると、偉そうな愚王がやっぱり偉そうな声を出した。
「これほど大勢の人間を一気にこの場所に移すとは、全く恐ろしい奴だ。」
怒っているのか恐怖に感じているのか分からない顔をしている。
「首謀者である王の元に向かうのが道理だろう。お前がやっている愚かなことは全部知っている。」
スミは面倒くさそうに王に話した。スミが自分の意志で城へ来たという事なのだろう。
先ほど、魔族を遠くへ移動させたテレポーションを使ったのか。
無理やり連れてこられてではない事に少し安堵した。
「何が魔王だ。ただ魔力が強いだけではないか。まぁよい。今からお前を倒して私が世界の王となろう。」
ニへラと不気味な笑いをして王は手を挙げた。
「やれっ!!」
王がそう叫んだ時、後ろにいた人間からモヤモヤと生気が出てきた。フラフラと立ち眩みする人間もいる。
そのモヤモヤが大きな邪気となり、禍々しい光を空中に作った。
その禍々しい光がスミに向かった。
俺は急いで神殿の中に入った。
だが、一瞬にして光がその場を包み視力を奪い前に進まなかった。
光は一瞬で消えた。
何も爆発が起きなかった。
静寂の中、スミの静かな声が響いた。
「無駄だ。」
王が、ひっと震えた声を出した。
スミの腕を見た。先ほどまで片方の手だけがボロボロだったのに、今は両方の手がボロボロになっている。
あの巨大の光の玉を手で受け止めて握り消したのか。
これが…スミの力。
王が再び「やれ!」と叫んだが、スミが魔法弾で王の隣にいる男の持っている壺を割った。
その壺が割れた瞬間、邪気が空中分解する。
バタバタ……バタ。
後ろにいる人間が気の抜けたように倒れ込んだ。
「ひぃいい。」
王族達は恐怖で尻ごみした。
膨大な呪怨をもってしても、スミには敵わない。スミはそれほど強い魔王なのだ。
いくつもの生き物の生気を吸い取ったその王の罪は重い。
俺は、ホッとして、スミに駆け寄ろうとした瞬間、何か王の横を風が走った。
異変を感じた。何かおかしい。
そうだ!知っている!!!あれは……。
俺は無我夢中で走りだした。
「スミ――――――――――――――――ッ!!!」
俺は叫んだ。逃げろっ!!
スミは叫び走ってくる俺に気が付いた。
凄く集中したため、世界がスローモーションに感じる。
俺は、スミの元にダイブしその身体を包み込んだ。
その瞬間、背中が熱くなった。
「な…なぜ……?」
スミの驚いた顔。
ぽた、ぽたぽたぽた……
俺の背中から血が流れてすぐに地面に水溜まりを作った。
「よかった。」
俺はスミに抱き着いたまま、間に合ったなと呟いた。
スミはボロボロの手で俺が崩れ落ちそうになる俺の身体を支えた。
「スミ。」
そう呼んだ瞬間、スミの瞳が開き顔がクシャと崩れた。
「ちっ。」
声が聞こえた。やっぱり、あの透明になれる冒険者だったか。
だが、冒険者の次の一歩の前にスミが覇気により冒険者の身体は吹き飛んだ。
スミの身体からジワリと真っ黒な闇が出てくる。その真っ黒な闇は人間の歩く速度ほどだが確実のその場の空間を飲み込んだ。
逃げられる人間は神殿から出ようとするが、地響きと共に地面が割れ、建物がボロボロと崩れ落ち逃げ道を防いだ。
世界が暗黒の黒に包まれる。
これは、スミがやっていることなのか?
意識が飛びそうな中、スミが俺を抱きしめる力だけが俺の意識を保たせた。
真っ暗闇の中、壊れ行く空間に人間達の悲鳴が聞こえる。
だが、しばらくして静かになった。
俺の身体を強く抱きしめるスミを見た。
真っ暗闇でこんなに近くにいても見えなかった。そしてスミにも俺の事は見えていない。
感じるのは、お互いの体温だけだった。
「大丈夫か……?一人で、怖かったな?」
そう言って、スミの顔を触った。スミの顔が大袈裟に震え出すのが分かった。そして、その顔を触った手をスミが握る。
「ごめんなぁ……。」
益々震えるスミを抱き返す力が残っていなかった。
真っ暗闇。これがスミの世界なんだ。
こんなに孤独の中にいたんだな。それに気が付かなった。
もっと早く気が付きたかった。
「なぜ…なぜ…謝るのですか?」
スミが敬語に戻っている。互いに姿が見えないからお互いの本当が分かるのだろう。オークだと気が付いてくれたんだな。
俺は口から吐血した。あぁ、内臓までやられた。
人間の身体は脆くていやだなぁ。
「こんな考え方しかできない…愚かな生き物で、ごめん……。」
ひゅっとスミの呼吸が聞こえる。
「あ…あ……。」
スミが、ごめんなさいと俺に謝った。
お前の方こそ何を謝っているんだよ。
身体が急に重くなってスミに強く抱きしめられたまま目をつぶった。
☆
急いで、ポー様の身体を抱きかかえて、人間界を離れて山へ向かった。
俺は、ポー様の身体をそっと芝生の上に置いた。
すぐに、修繕魔法で身体の損傷を直した。なのに目を開けない。もうどこにも出血はないのに。
「ポー様っ!目を開けてくださいっ!!傷は防ぎましたからっ!!」
傷を防げは、意識が戻るはずだ。
考えられるのは、人間が使用した剣が呪い道具だったという事。
俺は、全ての力を込めてポー様の身体にエネルギーを送る。ポー様の身体が魔力により光るがそのままだ。動かない。
震えがまらない手で、ポー様の頬を撫ぜた。
まるで、人形のようだ…。
急激な吐き気が、喉奥に留まる。
「ポー様っ!!お願い!お願いしますっ!!戻ってっ!!」
ポー様の腕がズルンと地面についた。
「っ!…っ!!」
心臓に手を当てる。止まっている…‥‥っ!
急いで、心臓を動かす為に心臓マッサージと人工呼吸、電気ショックを繰り返す。
大丈夫なはずだ。傷はすぐに修繕した。死ぬはずがない。死ぬはずがないんだ。
全て完璧だ。この身体には傷一つない。
すぅっと息を溜めて、ポー様の口に空気を送りこむ。無気力に肺が膨れるのに、それだけだ。
「嫌だっ嫌だっ嫌だっ!!」
手を動かすのを止められない。
どうして、動きだしてくれない。目を開けてくれないんだ。
ひっひっと口から悲鳴がこぼれだす。それともこれは呼吸なのだろうか。
「あ…ああぁあああぁ………。」
泣いてもこの身体が動かないのに、涙がこみあげてくる。
人工呼吸を繰り返しながら、ポー様の顔が自分の涙でぐしゃぐしゃになった。
魔王城の瓦礫からスミの行き先のヒントはないかと探すが見つからない。
まず、大きな魔王城をどうやって爆破して、バラバラにしたのだろうか。爆弾?爆弾にしては火薬の匂いがしない。
証拠という証拠が見つからなくて焦る。
スミは一体どこへ…?少なくとも近くにはいない。
すると、上空に気配を感じた。上を見るとキャタが飛んできたのが目に入った。
「おいっ!人間!大丈夫か!?」
キャタは地面へ降りて羽をしまった。俺はキャタの元に駆け寄った。
「キャタ!お前だけか!?」
魔王城が大破しているのを見て、キャタの身体はフルフルと怒りに震えている。
「人間如きが。魔王城を爆発させよって。」
「人間が……!?」
犬が人間が魔王城に向かっていると教えてはくれたが、これが人間の仕業だというのか。人間にこれほどの力があったことに驚いた。
「一体、どうなっているんだ?」
キャタは俺の方を見た。お前は魔王様のお気に入りだからと教えてくれた。
随分前から、人間側が魔王城に向かってくる事が多々あったが、応戦せず魔力で目隠しをしていたそうだ。
だが、それも人間に突破された。
強い禍々しい力を察知したスミにより、魔王城にいるすべての個体が南半球…反対側までテレポートさせた。一度に大量の個体を移動出来る力を持つのは魔王以外いないそうだ。
「魔王も南半球へ?」
「いや、魔王様だけここに残ったから、急いで戻ってきたんだ。」
…という事は、キャタは反対側から戻ってきたのか?
南半球に飛ばされて、こんなに早く戻れるキャタも凄い。
「ここにも魔王はいないぞ。」
「そうか。魔王様はお前が城内にいない事を分かるとすぐに捜索に向かったから、一緒におられると思ったのに。」
「……。」
俺が、変に誤解を与えさせたからスミは一人で帰ってしまった。あの時、反応して一緒に帰っていればよかった。
「……お前の傍におられないなら、人間界かもしれない。」
呟いたキャタは、上を向いて大きな尖った羽を開かせた。
「俺も連れて行ってくれっ!」
飛んでいこうとするキャタの腰にガシッと捕まった。
「何をするっ!?お前を連れて行ってどうするというのだっ!?」
キャタが抵抗するが、こちらも馬鹿力でぎゅうっと抱き着く。
「魔王の事を絶対に守ると誓うっ!俺も連れて行ってくれ!!」
キャタの目を見つめる。その俺の様子を見て、はぁっとため息をついて、俺の手を弱めるように指示した。
「馬鹿力め。どうなっても知らないからな。」
そう言って、バサバサと大きな羽を動かし、空高く飛んだ。
キャタは、これまで人間の動きについて調査していた内容を教えてくれた。
ここ10年の人間は、不穏な動きがずっと絶えなかったそうだ。
特にオークの俺を捕まえていた国の王は、最も厄介な思考の持ち主で、人間が一番上。その他の種族との共存は望まない人間至上主義だった。
その思考が行き過ぎるが故、他の生き物に人間の強さを知らしめたいとばかりにモンスターの殺戮、魔族への攻撃が続いた。冒険者達だけが特例で過ちを犯しているのではなかった。国の王から間違っていたのだ。
しかし、そんな王は、魔王を恐れていた。
どれだけ人間が強くなっても、何百年も昔、一夜にして魔王が国を滅ぼしたという過去があるからだ。
スミもその歴代の魔王同様以上の魔力を持っていた。
魔族達、皆が一瞬にしてひれ伏すほどの凶悪なまでの魔力保持者。圧倒的な魔王…。
だから、あんなにスミを狙っていたのか。
スミは、何も悪くないのに。
確か、あの城の人間達は予言が云云かんぬん言っていたよな。
なんの予言だろうか。
考えていると、上空から城が見えた。
俺とキャタは念の為、気配を最小限にまで抑えた。
城前に着いた時、あまりに街中が静かな事に驚いた。
この国の地下牢で捕まってはいたけど、ずっと地下であったし街の様子などは何も知らない。だか、こんな空気だったか…?
なぜ?昼間なのにとても静かだ。不気味な程、物音が全くしない。また人の気配もしない。
以前捕らえられていた時には感じなかった不穏な空気が街中を漂っている。こんな街だったか…??
街の隅で、座り込んでいる男がいた。
様子が変だ。寝ている…?
俺はその男に近寄り様子を見た。
生きているが、目が合わず虚ろな表情をしている。
「人間達は、怨念を溜め込んでいた。モンスターや他種族を殺戮することで溜め込む怨念では足りず、多分、街中の人間の生気をとっていたのだろう。」
キャタが無機質な表情でそう言った。この街に気配がないのは、生気を奪われているからか!?
なんで、そこまですることなのだろうか……。
「ここの人間達は、毎日少しずつ生気を搾り取られていたのだろう。一気に吸い取れば死んでしまうからな。そこまでしないと魔王様には敵わないという事だ。」
「なんてことを!」
そこまで、スミを倒したい理由は何だ。
スミは本当は争いが嫌いだ。そこまで人間から疎まれる理由が分からない。
「ただそこにあるだけで恐怖する。それが魔王という存在だ。」
人間の恐怖の気は、魔族の好む気でもある。
だが、今回は純粋な感情ではない。捻じ曲げられた怨念は魔族にも手が負えない。
早くスミの元に駆け付けたい。
「急ごう。」
「あぁ。」
俺たちは城内へ侵入した。
城内も静かだった。ざわつく心を抑えて前に進む。
すると、キャタが立ち止った。
「どうした?」
「お前は、そこを通れるのか?」
どういうことだ?と思った瞬間、キャタがスッと手を出した。
ビリビリっと電気がキャタの手に走った。
「結界か……。」
「結界!?」
だが、俺は平気だった。
「ここから先は、人間にしか通れないようにしたのだろう。……先に行け。私は別の方法で向かう。」
そうか。今、俺は人間の身体だから通れたんだ。
「あぁ!!必ず魔王をみつける!!」
そう誓って、俺は走った。
結界がここから張られているという事は、行き先はここで間違いないだろう。
行き先は探さずとも、その場所に近づくにつれて、禍々しい空気がきつくなる。
こんな禍々しい空気は感じた事がなかった。
角を曲がった時、目の前をドサリっと物体が倒れた。
「…っ!!」
先ほどの生気を奪われた人間か!?これは、警備兵か?
どうやら、街の人間だけじゃなくて城内の人間の生気まで奪っているのか。王は異常者だ。
生気の奪われた人間は、やはり虚ろな顔をしているだけで呼吸はある。呼吸のしやすいように横向きに寝かしてやりながら、先を急ぐ。
一際その空気がきつくなる場所があった。
「神殿か……。」
気配を消して、ゆっくりと神殿に近づいて、隙間から中の様子を覗いた。
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だが、自分の意志などないような虚ろな顔をした者ばかりだ。ふらりふらりと何かに操られているような動きをしている。
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「……っ!!」
いた。無事だ。
沢山の人間に囲まれた中、スミは無表情だった。スミの片手はボロボロになっていた。スミ自身には回復魔法が使えないのだろうか?それとも魔力切れ…?
すぐに駆け寄りたいが、様子を見て助け出さないと。
すると、偉そうな愚王がやっぱり偉そうな声を出した。
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怒っているのか恐怖に感じているのか分からない顔をしている。
「首謀者である王の元に向かうのが道理だろう。お前がやっている愚かなことは全部知っている。」
スミは面倒くさそうに王に話した。スミが自分の意志で城へ来たという事なのだろう。
先ほど、魔族を遠くへ移動させたテレポーションを使ったのか。
無理やり連れてこられてではない事に少し安堵した。
「何が魔王だ。ただ魔力が強いだけではないか。まぁよい。今からお前を倒して私が世界の王となろう。」
ニへラと不気味な笑いをして王は手を挙げた。
「やれっ!!」
王がそう叫んだ時、後ろにいた人間からモヤモヤと生気が出てきた。フラフラと立ち眩みする人間もいる。
そのモヤモヤが大きな邪気となり、禍々しい光を空中に作った。
その禍々しい光がスミに向かった。
俺は急いで神殿の中に入った。
だが、一瞬にして光がその場を包み視力を奪い前に進まなかった。
光は一瞬で消えた。
何も爆発が起きなかった。
静寂の中、スミの静かな声が響いた。
「無駄だ。」
王が、ひっと震えた声を出した。
スミの腕を見た。先ほどまで片方の手だけがボロボロだったのに、今は両方の手がボロボロになっている。
あの巨大の光の玉を手で受け止めて握り消したのか。
これが…スミの力。
王が再び「やれ!」と叫んだが、スミが魔法弾で王の隣にいる男の持っている壺を割った。
その壺が割れた瞬間、邪気が空中分解する。
バタバタ……バタ。
後ろにいる人間が気の抜けたように倒れ込んだ。
「ひぃいい。」
王族達は恐怖で尻ごみした。
膨大な呪怨をもってしても、スミには敵わない。スミはそれほど強い魔王なのだ。
いくつもの生き物の生気を吸い取ったその王の罪は重い。
俺は、ホッとして、スミに駆け寄ろうとした瞬間、何か王の横を風が走った。
異変を感じた。何かおかしい。
そうだ!知っている!!!あれは……。
俺は無我夢中で走りだした。
「スミ――――――――――――――――ッ!!!」
俺は叫んだ。逃げろっ!!
スミは叫び走ってくる俺に気が付いた。
凄く集中したため、世界がスローモーションに感じる。
俺は、スミの元にダイブしその身体を包み込んだ。
その瞬間、背中が熱くなった。
「な…なぜ……?」
スミの驚いた顔。
ぽた、ぽたぽたぽた……
俺の背中から血が流れてすぐに地面に水溜まりを作った。
「よかった。」
俺はスミに抱き着いたまま、間に合ったなと呟いた。
スミはボロボロの手で俺が崩れ落ちそうになる俺の身体を支えた。
「スミ。」
そう呼んだ瞬間、スミの瞳が開き顔がクシャと崩れた。
「ちっ。」
声が聞こえた。やっぱり、あの透明になれる冒険者だったか。
だが、冒険者の次の一歩の前にスミが覇気により冒険者の身体は吹き飛んだ。
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逃げられる人間は神殿から出ようとするが、地響きと共に地面が割れ、建物がボロボロと崩れ落ち逃げ道を防いだ。
世界が暗黒の黒に包まれる。
これは、スミがやっていることなのか?
意識が飛びそうな中、スミが俺を抱きしめる力だけが俺の意識を保たせた。
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だが、しばらくして静かになった。
俺の身体を強く抱きしめるスミを見た。
真っ暗闇でこんなに近くにいても見えなかった。そしてスミにも俺の事は見えていない。
感じるのは、お互いの体温だけだった。
「大丈夫か……?一人で、怖かったな?」
そう言って、スミの顔を触った。スミの顔が大袈裟に震え出すのが分かった。そして、その顔を触った手をスミが握る。
「ごめんなぁ……。」
益々震えるスミを抱き返す力が残っていなかった。
真っ暗闇。これがスミの世界なんだ。
こんなに孤独の中にいたんだな。それに気が付かなった。
もっと早く気が付きたかった。
「なぜ…なぜ…謝るのですか?」
スミが敬語に戻っている。互いに姿が見えないからお互いの本当が分かるのだろう。オークだと気が付いてくれたんだな。
俺は口から吐血した。あぁ、内臓までやられた。
人間の身体は脆くていやだなぁ。
「こんな考え方しかできない…愚かな生き物で、ごめん……。」
ひゅっとスミの呼吸が聞こえる。
「あ…あ……。」
スミが、ごめんなさいと俺に謝った。
お前の方こそ何を謝っているんだよ。
身体が急に重くなってスミに強く抱きしめられたまま目をつぶった。
☆
急いで、ポー様の身体を抱きかかえて、人間界を離れて山へ向かった。
俺は、ポー様の身体をそっと芝生の上に置いた。
すぐに、修繕魔法で身体の損傷を直した。なのに目を開けない。もうどこにも出血はないのに。
「ポー様っ!目を開けてくださいっ!!傷は防ぎましたからっ!!」
傷を防げは、意識が戻るはずだ。
考えられるのは、人間が使用した剣が呪い道具だったという事。
俺は、全ての力を込めてポー様の身体にエネルギーを送る。ポー様の身体が魔力により光るがそのままだ。動かない。
震えがまらない手で、ポー様の頬を撫ぜた。
まるで、人形のようだ…。
急激な吐き気が、喉奥に留まる。
「ポー様っ!!お願い!お願いしますっ!!戻ってっ!!」
ポー様の腕がズルンと地面についた。
「っ!…っ!!」
心臓に手を当てる。止まっている…‥‥っ!
急いで、心臓を動かす為に心臓マッサージと人工呼吸、電気ショックを繰り返す。
大丈夫なはずだ。傷はすぐに修繕した。死ぬはずがない。死ぬはずがないんだ。
全て完璧だ。この身体には傷一つない。
すぅっと息を溜めて、ポー様の口に空気を送りこむ。無気力に肺が膨れるのに、それだけだ。
「嫌だっ嫌だっ嫌だっ!!」
手を動かすのを止められない。
どうして、動きだしてくれない。目を開けてくれないんだ。
ひっひっと口から悲鳴がこぼれだす。それともこれは呼吸なのだろうか。
「あ…ああぁあああぁ………。」
泣いてもこの身体が動かないのに、涙がこみあげてくる。
人工呼吸を繰り返しながら、ポー様の顔が自分の涙でぐしゃぐしゃになった。
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