オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト

文字の大きさ
上 下
15 / 22

15

しおりを挟む
急いで魔王城へ戻ろうとすると、犬(人間)が俺の腕を引っ張った。

「主人っ!ダメだって!」
「すまんが、それどころじゃないっ!!急いで帰らないとっ!」
俺の馬鹿力は犬(人間)にも止められない。ズルズルズルゥと犬(人間)ごと引っ張りながら進む。

「……もうっ!主人はどうしてそう真っすぐというか愚直なんだ!!」

犬(人間)は引っ張られながら、足を地面に踏ん張って俺に文句を言う。
「さてね。もしかしたら、豚じゃなくてイノシシの仲間だからじゃねぇの?」
「オークは動物とは違うけど、その中でも主人はトップで真っすぐすぎだってぇ!!!」

いくら犬(人間)が踏ん張ったって、俺を止めることは出来ない。
犬も、頑固な俺に諦めたように手を離した。
振り向くと、シュンと悲しそうな顔をしている。ずっと、俺の事気にかけてくれたのに、すまん。

「また、会いにいくから。」
俺は、犬(人間)にハグをした。
「うん。待ってる。」
犬も俺の背中に手を伸ばしてハグを返した。



「何している?」

スッといきなり気配が強まった。
俺は慌てて振り返ると、いつの間にかスミがそこにいた。見たことないキツイ目で睨んでいる。

「魔王っ!?」

物凄い怒気をその気配で感じる。
その気配に普段、ビビる事がない俺もブルっと身震いをした。

「魔王だって?ア…アイツが!?」
犬(人間)が身構えた。
おい。なんで、犬(人間)までケンカモードなんだ。そもそも犬(人間)は戦闘系じゃないんだから無理すんな。
スミ、こんな所まで俺を探してきたのか!?でも、丁度俺も戻る所だったから丁度良かった。

「おいっ!その怒気抑えろよ。今から戻る所だってばっ!!」
「なぜ、裸でいる。」
スミが俺の上半身を見る。確かに俺は今上半身裸だけど。

「え、あ?これは、コイツがケガして止血するのに服を破いたんだ。」
「どこがケガしているんだ?」
え?それは回復薬で直したからって、何をそんなに怒っているんだよ。
スミが俺を見てギリと奥歯を噛みしめた音がこちらまで聞こえた。。

「魔族たちにやられていたんだよ。捕まらないように、ここまで送ってやったんだ。」
「嘘をつけ。抱き合っていただろう。」

その瞬間、スミが犬(人間)に向けて魔法弾を打ってきたので、俺は犬(人間)の前に立ち、腕で思いっきりはじいた。
はじいた魔法弾は空中でバンッと破裂した。
「く……っう。」

「主人っ!腕がっ!!」
人間の身体が脆い事を忘れていた。俺の腕は真っ赤に腫れた。片方の手が粉砕骨折している。
こんなに…っ。


スミが慌てて駆け寄ってきた。
「何をしているんだっ!!」
手を差し出して、急いで俺の手に魔法をかける。粉砕骨折したボロボロの腕があっという間に治った。
「お前こそ、無力な奴に何してんだよ!!」
俺は、キッとスミを睨んだ。
スミの事を怒る事は初めてだった。スミの目をまっすぐ見ていると、スミの目が一瞬たじろいだが、すぐに意識を静めて暗い色の目になった。

「それほど、大事か。」
「あぁ、大事さ。」

とにかく、犬(人間)を逃がさないと。今のスミは頭に血がのぼっている。
犬(人間)を庇うように前に立つと、スミが一瞬何とも言えない顔をした。
スミの気配から怒気が消えた。


「あ、ちょっと待って!!」

言い終わらないうちに、スミがシュンっと空へ飛んでしまった。
おい……俺を迎えに来たんじゃなかったのか?拗ねられた?
なんだか、物凄く寂しそうな背中を見せられたような気がする。

スミがいなくなって、犬(人間)が呟いた。

「アイツ、スミとかいう主人が飼っていた人間だよね。やっぱり変な気配のする人間だと思っていたんだ。」
「どういうことだ?」
俺が聞くと犬(人間)は、スミは昔から人間というよりは魔族に近い存在だったと言った。だけど、スミが人間のように振舞っている姿を見て、誰かに記憶と魔力を封じ込まれているのではと思っていたそうだ。

「今までそんな事言わなかった。」

「変に刺激したくなかったんだよ。主人がポロっと言ってそれが引き金で危なくなると嫌だったし。」
犬(人間)以外のモンスター達もスミがいる時に近づいてこなかったのは、子供のスミに異常な魔力の感じ取っていたからだそうだ。
「初めから、魔王だったって事か?幼かったスミに誰かが呪いをかけた?自分でも魔王だと思わせないように?」
考えがまとまらなくて混乱する。
そんな俺に犬(人間)は言う。
「あのスミとか言う奴危ないよ!成人した姿を見て確信した。あの魔力計り知れない。」

俺は、魔力探知に優れていないからよく分からないけど、確かに他の力を持った魔族ですらスミの事は遠巻きに恐れている。
人間達が、スミの事を狙っていた理由はそういう事だったのか。
魔王覚醒を妨げる為に……?
だか、普段のスミは穏やかな奴だ。そりゃ、さっきみたいにカッとなって魔法弾を打っちゃう所はあるけど、大抵相手の実力以上の魔法弾は打ってこない。

幼い頃のスミを思い出す。ボロボロの服、梳かれないぼさぼさの髪、それからやせ細った身体。奴隷のような扱いをされていたのは目に見えていた。自分の意見も上手く言えない子供。
人間から酷い扱いを受けて、自分の仲間である魔族からも恐れられて……。
「……アイツはずっと孤独なんだ。」

「主人?」

「俺!急いで行ってくるよ!!お前は危ないから来るなよっ!!」

待ってっと言う犬(人間)を置いて、俺は城へ向かった。


城まで、人間の足で二時間……急いだらもっと早くつくだろうか。
最後に見たスミの顔が忘れられない。何故だか、ひどく寂しそうだった。


ドドンッ!!!

地震かと思った。
地面が強く揺れる。
なんだと城の方を向くと城の方でキノコ型の煙が湧きあがった。

この形、大きな爆弾でも落とされたような…‥‥。
その一瞬に大きな風がバッとこちらに吹き荒れた。
「…‥‥っ!!」

あれは、間違いなく城の方だ。

「ス、スミッ!!!!」

冷や汗がどばぁっと出た。
大きな爆発だ。


俺は、さらに早く山を駆けた。これ以上早く走れない自分が悔しい。
くそっ!!もっと早く走ってくれっ!!
こんな事なら、犬(人間)に解除を頼んでオークに戻っていればよかった。
恰好付けても結局スミを傷つける事しかできない馬鹿な自分……!!!!

「クソッ!!!人間の足、頑張れ!!」

横っ腹がよじれる程痛んでも無我夢中になって走った。

城が見えてくると、やはり城が大破している。
スミは……!?他の魔族は!?

「スミ――――!!!聞こえているなら返事をしてくれぇ!!!」

俺は大きな声でスミを呼んだ。
返事がない。
城へ着いて、辺りをぐるりと見渡した。変な異臭や影もしないし壊れているのは建物だけのようだ。
誰かがすぐに気が付いて移動したのだろうか。
どこにも遺体が転がっていなくてホッとした。


とにかく、スミを探そう。

何か手掛かりがないかと瓦礫の中を探す。ここは、魔王の部屋…スミの寝室だ。
オークの俺が作ったベッド。それから机。
机の中を見たことはなかったが、俺が買ってあげた石鹸が大切に保管されていた。
「スミ……。」
そうだ。一番初めにこの部屋見た時、俺は満たされた。


だから、スミに犯されても抵抗しなかったし、何度も身体を交わう事も許した。

「傍にいたかったのは、俺の方だったんだよな。」

人間らしい感情が俺の胸の中にこみあげてくる。



俺、スミが好きなんだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...