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スミは、魔法学校へ通いだした。
魔法学校にも、奨学金制度があるらしくて、最低限必要な入学金とかの支払いだけですんだ。
それすらも、スミには大層謝られてしまったけど、いいってことよ。
学校内にも寮があるのに、スミは片道2時間の道を歩いて通っている。
寮へ住めば楽なのに、頑なにここから通うと首を横に振る。
気を遣わなくてもいいのにな。
「最近、家事もろくに手伝い出来なくてごめんなさい。」
夜中、俺に気を使って勉強しているスミは、朝寝坊するようにもなった。
スミは基本的な魔術知識は全くない状態だった。オークの俺と過ごしているから人間としての勉強も教えてあげられていない。
魔法学校へ一発合格したのは、スミの高い魔力故だ。
しかし、学校の授業についていけるのはスミの努力の賜物だ。スミの荷物を見ると分厚い重たい本が何冊もあり、それを夜遅くまで熟読している。
そんな姿見て応援したいのは親心というものよ。
「いーよ。別に料理も家事もイージーだし。ほら、朝ごはん沢山食べろ。」
スミの茶碗に、ご飯をモリモリ入れて、朝とれ野菜と魚を差し出す。
「美味しいです。」
そうか。そうか。
魔法も体力使うもんな。俺、魔法とか全然使えないけど。
魔法が使えたら、いい仕事先もあるだろう。スミがこうして、人間社会に馴染むことが出来て嬉しい。
「ポー様。僕、必ず魔術を習得しますので!待っていてくださいね!」
毎日こうして、やる気にみなぎっているしな。こんなにやる気になっているスミを見る事が出来て嬉しい。
「おー。頑張れよ。」
「あの、それでいつものをしてもらえませんか?」
スミが照れながら上目目線で俺を見る。
「………。」
それ、定着すんのやだなぁ。
先日、『魔術は習いたいけど、ポー様と離れているのが寂しくて辛いです。』なんて言うから、行ってらっしゃいのハグをしてやった。
軽めのハグだったのに、『ふぁあああ。』と真っ赤になって呼吸困難になってしまった。
そんな、力強めたか・・・??
だけど、いたく気に入ったようで、毎日行ってらっしゃいのハグを求められるようになった。
俺がハグすると、顔を真っ赤にして嬉しそうにするところ、小さい頃からずっとだよなぁ。
ようやく添い寝が終わったと思ったのになぁ。(僕の理性が崩壊するので。というわけ分からん理由なんだけどさ。)
オークに抱きしめられて嬉しがる青年の姿は少し残念な気がするが、嬉しがられると、どうも断りづらい。
力を入れ過ぎないようにスミの身体を抱きしめる。
「…ポー様の肌ってすべらかで柔らかくて反則的にいい匂いがします。」
「あ?なんか、言ったか?」
なんか、最近スミの言動がイマイチよく分からん。
おじさんあるあるの、『最近の若者は考えている事が訳分からんっ!』というやつだろうか。
微妙な気持ちになって離れたくなって、スミの身体を離す。
スミがぽ~としている。大丈夫か。コイツ。
俺は、早く行ってこいっと鞄と弁当を持たせた。
「新妻みたい。」
「おい。俺みたいなガチムキな奥さんはおかしいだろう。」
「お……奥さん!?!?」
俺が関西人なら、ツッコんいるところだぞ。おい、顔を赤らめるな。その顔に引くわ。
こんなに完璧に育ったのに、思春期というやつなのだろうか。ガチムキ奥さんで反応するってコイツの性癖が心配だ。やっぱりオークなんかに育てられたから、筋肉が好きになってしまった感はいなめない。
スミの奥さんは、もしかしたら、ゴリラみないな女の子かもしれないな。
スミがようやく行った。(意欲を持って行くのに学校行くまで時間がかかるんだよな。)
「さってと~!」
俺は、ささっと家の事を済ませて、山へ向かった。
俺が山に向かうと動物たちが、挨拶をするかのようにすり寄ってくる。皆、本当に可愛い。モフモフ。
俺もオークよりモフモフしている生物に生まれたかったな。
俺の身体にスリスリと身を寄せて来たのは、角の生えた犬っぽいモンスターだ。犬よりもっとでかくて、俺の胸元までの高さがある。
この前、大ケガをしていたので、回復薬とご飯を分けてあげたら懐いてきたのだ。
やっぱり、モンスターとあってスミ(人間)がいる前にはなかなか顔を出さないが、俺が一人でいる時は、こうしてひっつきにくるのだ。
「あはは。ぺろぺろするなよ。くすぐったいだろ?」
「きゃふきゃふ。」
あー、犬可愛いなぁ。前世、犬飼っていたに違いない。モフモフしちゃうぞ☆
最近、この山も人間の冒険者が多くなった。
中には凶暴だったり悪さをするモンスターもいるけど、悪い奴らばかりじゃない。
まぁ、人間からしてみたら、ゲーム感覚というか自分のレベル上げみたいなもんなのだろうな。
それにモンスターがいい奴か悪い奴か見極めていたら、戦えない事も分かる。
人間がどうして無差別に剣をふるうのかを知っている俺としたら複雑な気分だ。
この山は、自然豊かで落ち着いた場所だから、出来るだけ荒らされたくないのだけどなぁ。
「また、人間たちが襲ってきたって?」
犬の魔力高く、魔力を通じて意思疎通をすることが出来た。
<山頂付近に数人の冒険者がいる。>
「そうか。」
山奥にはレベル上げには最適な成獣がゴロゴロしているが、宝石や金というアイテムはないに等しい。労働に対して見合った利益がない。
他の山を選んだ方がずっと利益になるのに。
「何か別の目的があるのかもな。」
<手当たり次第と言っていた。気を付けて。>
「物騒な奴らだな。お前も危なくなったら、対戦せず、すぐに逃げろ。」
犬は了解と言うように、ぺろりと俺を舐めた。
「どういうことだ。」
次の日、山へ行くと、モンスターが山中で倒されている。
乱獲だ。むごい。これはレベル上げとかそういうモノではない。レベル上げにもならない無力なモンスターまでやられている。
急に山の中が不穏な気配が漂った。
俺は、一匹ずつ、そいつらを埋葬した。
なんでだ。急に何があった?犬が言っていた昨日の冒険者達の仕業か?
弱っているが、息のある奴もいる。傷口に布を巻いて止血した。探せば他にも息のある奴がいるかもしれない。
回復薬をとりに家に戻ろう。
そう思い、回復薬をとりに家に戻った。
「あれー?オークが山の中で人間様みたいな家を建ててるよ。」
家に戻ると、後ろから人間の声が聞こえた。
警戒していたのに、気が付かなかった。姿を消す魔法か!?
魔力探知が下手くそな自分が情けない。
その声の主が現れた。
剣を持ち軽い鎧をつけた人間。
その恰好、冒険者か。
「本当ですわ。」
杖を持った女。
「もしかして、コイツがターゲットの奴かな?」
盾と弓を持った男。
次々と人間が姿を現した。5人か。男3人、女二人。
姿を消した魔法は一人の魔法使いの力だろう。同じ魔力を感じた。
冒険者のレベルは普通より上か・・・。だけど、この中に一人、強い奴がいる。
人間と戦わずに逃げられるだろうか。
「ターゲットとはなんのことだ?」
俺が話すと、あれ?っと首をひねった。
「このオーク話せるぜ。コイツじゃねぇか。」
「貴方、以前、里中の人間を大殺戮しませんでしたか?私たち、ずっとそのオークを追っているのです。」
ふふふ。と薄気味悪く女が笑った。
殺戮??
スミと出会った里のことを言っているのか!?
「違うっ!俺は、たまたまそこに居合わせただけだっ!」
俺は、全力で否定した。
でも、人間たちはにやりと笑ったままだ。コイツだと言っているような顔。こいつら、何か不気味だ。今まで会った人間達とは違う不気味さを感じる。
これ以上、話しても理解を得られないだろう。
俺は、人間たちに背を向けた。
「逃げるが勝ちだっ!」
「だーめ。」
俺の後ろに、もう一人姿を隠していたのか!?
「ぐぅっ!」
腹部を剣で刺された。よけきれなかった。
「あれ。不意打ちだったのに、瞬時に後ろへ身体を下げたね。」
ふわりと姿を見せた。黒いローブを着た不気味悪い人間だ。
ポタポタと腹から血が流れる。普通の剣なら俺の筋肉が内臓を守ってくれるが、剣自体に力があるものは別だ。
モンスター用に作られた剣といったところか。
「オークさぁ。お前、少年を誘拐しなかったか?」
「………。」
「オークが少年を誘拐したっていうのを聞いたんだ。……死んでいたらいいんだよ。でも、生きていたら殺さないといけないんだ。正直に教えて欲しい。」
「そんな者は知らない。」
俺の身体を刺した奴……。コイツは強い。他の人間の姿を消した魔法もコイツの力だろう。
「俺は、今まで一度だって、人間にけがを負わせたことはないが・・・。」
すまんっ!
目の前にいるコイツの身体に、どんっと張り手をくらわせた。コイツは強いから死にはしないだろう。
軽く人間の身体が外まで吹き飛んだ。
驚いている一瞬のうちに、俺は家へ出た。
「逃げられますわっ!」
後ろから、女が魔法を打ち込んできた。
ビリビリと電気が身体を走った。ははは。この女の魔法は大したことない。
俺には電気風呂くらいにしか感じない。
もっと、遠くに行かなくては。
冒険者達の追跡を感じる。
俺の全力に人間たちが付いて来れるとは思わないが、でも、確実に俺の後を追ってきている。
「はぁはぁはぁ。」
腹がいてぇ。
コレ・・・あれだ。内臓傷ついている系だ。走って、血流が良くなったのか血がどぼどぼ出てきている。血が道しるべのようになって見つかるのも時間の問題だ。
流石に、走るのが辛い。
俺は、茂みに隠れた。
もさっもさっ
「なんだ・・・?」
俺の身体を蔦が覆う。
モンスターたちの魔力を感じる。皆で蔦を動かしてくれているのか!?
これなら、俺のでかい身体も十分に隠すことが出来る。
「はは。有難い・・・。」
俺はそのまま意識を失った。
☆☆☆☆
家へ帰ると、そこにはポー様の姿は見えなかった。
家の中は散乱していた。高価な物が盗まれている所を見れば、人間の仕業だとすぐに分かった。
「ポー様!?」
多分、ポー様は、人間と戦わず逃げたのだろう。
きっと、戻ってくる。そう思って、散乱している荷物を片付けていた。
「これは・・・。」
倒れた棚を上にあげると、床が血まみれになっていた。人間の血じゃない。
人間より、鮮血で真っ赤な血。
この美しい色は見たことがあった。
ポー様の背中から大量に流れていたあの血・・・。
「ポー様!」
ポー様の血だ。ポー様がケガをしている。かなりの出血量だ。
「回復薬・・・、全部盗まれているっ!!くそっ」
僕は、すぐに山に探しに行った。不思議なことに気配すら感じられなかった。
山には他にもモンスター達が乱獲されている。丁寧に埋葬した後があるのはきっとポー様が埋葬したに違いない。
「ポー様!?どこですか!?スミです!!出てきてくださいっ!!」
大きな声を出してポー様を呼ぶも反応がない。
習いたての追跡魔法を使うが追跡が出来ない。
どうして?
目が真っ暗になった。光が……。
いや、ポー様が死ぬわけがない。あの方は絶対に生きている。生きて人間に捕らえられているに違いない。
それから、何日も何日も探した。
ポー様は家にも山にも帰ってこなかった。
僕は、学校へ行くのをやめてポー様を探した。
家を建て直した。もしかしたら帰ってくるかもしれないと、夜になったら必ず家に帰り、日中は探し回った。魔術でポー様の気を探知しようとするけれど、どこにも見当たらない。
ポー様が見つからない。その事実にイライラした。
あの愛おしくて優しいオークを傷つけた人間が許せない。
人間は僕から全てを奪っていく。
「くくく。」
憎くて、なんだか笑いが止まらなかった。
魔法学校にも、奨学金制度があるらしくて、最低限必要な入学金とかの支払いだけですんだ。
それすらも、スミには大層謝られてしまったけど、いいってことよ。
学校内にも寮があるのに、スミは片道2時間の道を歩いて通っている。
寮へ住めば楽なのに、頑なにここから通うと首を横に振る。
気を遣わなくてもいいのにな。
「最近、家事もろくに手伝い出来なくてごめんなさい。」
夜中、俺に気を使って勉強しているスミは、朝寝坊するようにもなった。
スミは基本的な魔術知識は全くない状態だった。オークの俺と過ごしているから人間としての勉強も教えてあげられていない。
魔法学校へ一発合格したのは、スミの高い魔力故だ。
しかし、学校の授業についていけるのはスミの努力の賜物だ。スミの荷物を見ると分厚い重たい本が何冊もあり、それを夜遅くまで熟読している。
そんな姿見て応援したいのは親心というものよ。
「いーよ。別に料理も家事もイージーだし。ほら、朝ごはん沢山食べろ。」
スミの茶碗に、ご飯をモリモリ入れて、朝とれ野菜と魚を差し出す。
「美味しいです。」
そうか。そうか。
魔法も体力使うもんな。俺、魔法とか全然使えないけど。
魔法が使えたら、いい仕事先もあるだろう。スミがこうして、人間社会に馴染むことが出来て嬉しい。
「ポー様。僕、必ず魔術を習得しますので!待っていてくださいね!」
毎日こうして、やる気にみなぎっているしな。こんなにやる気になっているスミを見る事が出来て嬉しい。
「おー。頑張れよ。」
「あの、それでいつものをしてもらえませんか?」
スミが照れながら上目目線で俺を見る。
「………。」
それ、定着すんのやだなぁ。
先日、『魔術は習いたいけど、ポー様と離れているのが寂しくて辛いです。』なんて言うから、行ってらっしゃいのハグをしてやった。
軽めのハグだったのに、『ふぁあああ。』と真っ赤になって呼吸困難になってしまった。
そんな、力強めたか・・・??
だけど、いたく気に入ったようで、毎日行ってらっしゃいのハグを求められるようになった。
俺がハグすると、顔を真っ赤にして嬉しそうにするところ、小さい頃からずっとだよなぁ。
ようやく添い寝が終わったと思ったのになぁ。(僕の理性が崩壊するので。というわけ分からん理由なんだけどさ。)
オークに抱きしめられて嬉しがる青年の姿は少し残念な気がするが、嬉しがられると、どうも断りづらい。
力を入れ過ぎないようにスミの身体を抱きしめる。
「…ポー様の肌ってすべらかで柔らかくて反則的にいい匂いがします。」
「あ?なんか、言ったか?」
なんか、最近スミの言動がイマイチよく分からん。
おじさんあるあるの、『最近の若者は考えている事が訳分からんっ!』というやつだろうか。
微妙な気持ちになって離れたくなって、スミの身体を離す。
スミがぽ~としている。大丈夫か。コイツ。
俺は、早く行ってこいっと鞄と弁当を持たせた。
「新妻みたい。」
「おい。俺みたいなガチムキな奥さんはおかしいだろう。」
「お……奥さん!?!?」
俺が関西人なら、ツッコんいるところだぞ。おい、顔を赤らめるな。その顔に引くわ。
こんなに完璧に育ったのに、思春期というやつなのだろうか。ガチムキ奥さんで反応するってコイツの性癖が心配だ。やっぱりオークなんかに育てられたから、筋肉が好きになってしまった感はいなめない。
スミの奥さんは、もしかしたら、ゴリラみないな女の子かもしれないな。
スミがようやく行った。(意欲を持って行くのに学校行くまで時間がかかるんだよな。)
「さってと~!」
俺は、ささっと家の事を済ませて、山へ向かった。
俺が山に向かうと動物たちが、挨拶をするかのようにすり寄ってくる。皆、本当に可愛い。モフモフ。
俺もオークよりモフモフしている生物に生まれたかったな。
俺の身体にスリスリと身を寄せて来たのは、角の生えた犬っぽいモンスターだ。犬よりもっとでかくて、俺の胸元までの高さがある。
この前、大ケガをしていたので、回復薬とご飯を分けてあげたら懐いてきたのだ。
やっぱり、モンスターとあってスミ(人間)がいる前にはなかなか顔を出さないが、俺が一人でいる時は、こうしてひっつきにくるのだ。
「あはは。ぺろぺろするなよ。くすぐったいだろ?」
「きゃふきゃふ。」
あー、犬可愛いなぁ。前世、犬飼っていたに違いない。モフモフしちゃうぞ☆
最近、この山も人間の冒険者が多くなった。
中には凶暴だったり悪さをするモンスターもいるけど、悪い奴らばかりじゃない。
まぁ、人間からしてみたら、ゲーム感覚というか自分のレベル上げみたいなもんなのだろうな。
それにモンスターがいい奴か悪い奴か見極めていたら、戦えない事も分かる。
人間がどうして無差別に剣をふるうのかを知っている俺としたら複雑な気分だ。
この山は、自然豊かで落ち着いた場所だから、出来るだけ荒らされたくないのだけどなぁ。
「また、人間たちが襲ってきたって?」
犬の魔力高く、魔力を通じて意思疎通をすることが出来た。
<山頂付近に数人の冒険者がいる。>
「そうか。」
山奥にはレベル上げには最適な成獣がゴロゴロしているが、宝石や金というアイテムはないに等しい。労働に対して見合った利益がない。
他の山を選んだ方がずっと利益になるのに。
「何か別の目的があるのかもな。」
<手当たり次第と言っていた。気を付けて。>
「物騒な奴らだな。お前も危なくなったら、対戦せず、すぐに逃げろ。」
犬は了解と言うように、ぺろりと俺を舐めた。
「どういうことだ。」
次の日、山へ行くと、モンスターが山中で倒されている。
乱獲だ。むごい。これはレベル上げとかそういうモノではない。レベル上げにもならない無力なモンスターまでやられている。
急に山の中が不穏な気配が漂った。
俺は、一匹ずつ、そいつらを埋葬した。
なんでだ。急に何があった?犬が言っていた昨日の冒険者達の仕業か?
弱っているが、息のある奴もいる。傷口に布を巻いて止血した。探せば他にも息のある奴がいるかもしれない。
回復薬をとりに家に戻ろう。
そう思い、回復薬をとりに家に戻った。
「あれー?オークが山の中で人間様みたいな家を建ててるよ。」
家に戻ると、後ろから人間の声が聞こえた。
警戒していたのに、気が付かなかった。姿を消す魔法か!?
魔力探知が下手くそな自分が情けない。
その声の主が現れた。
剣を持ち軽い鎧をつけた人間。
その恰好、冒険者か。
「本当ですわ。」
杖を持った女。
「もしかして、コイツがターゲットの奴かな?」
盾と弓を持った男。
次々と人間が姿を現した。5人か。男3人、女二人。
姿を消した魔法は一人の魔法使いの力だろう。同じ魔力を感じた。
冒険者のレベルは普通より上か・・・。だけど、この中に一人、強い奴がいる。
人間と戦わずに逃げられるだろうか。
「ターゲットとはなんのことだ?」
俺が話すと、あれ?っと首をひねった。
「このオーク話せるぜ。コイツじゃねぇか。」
「貴方、以前、里中の人間を大殺戮しませんでしたか?私たち、ずっとそのオークを追っているのです。」
ふふふ。と薄気味悪く女が笑った。
殺戮??
スミと出会った里のことを言っているのか!?
「違うっ!俺は、たまたまそこに居合わせただけだっ!」
俺は、全力で否定した。
でも、人間たちはにやりと笑ったままだ。コイツだと言っているような顔。こいつら、何か不気味だ。今まで会った人間達とは違う不気味さを感じる。
これ以上、話しても理解を得られないだろう。
俺は、人間たちに背を向けた。
「逃げるが勝ちだっ!」
「だーめ。」
俺の後ろに、もう一人姿を隠していたのか!?
「ぐぅっ!」
腹部を剣で刺された。よけきれなかった。
「あれ。不意打ちだったのに、瞬時に後ろへ身体を下げたね。」
ふわりと姿を見せた。黒いローブを着た不気味悪い人間だ。
ポタポタと腹から血が流れる。普通の剣なら俺の筋肉が内臓を守ってくれるが、剣自体に力があるものは別だ。
モンスター用に作られた剣といったところか。
「オークさぁ。お前、少年を誘拐しなかったか?」
「………。」
「オークが少年を誘拐したっていうのを聞いたんだ。……死んでいたらいいんだよ。でも、生きていたら殺さないといけないんだ。正直に教えて欲しい。」
「そんな者は知らない。」
俺の身体を刺した奴……。コイツは強い。他の人間の姿を消した魔法もコイツの力だろう。
「俺は、今まで一度だって、人間にけがを負わせたことはないが・・・。」
すまんっ!
目の前にいるコイツの身体に、どんっと張り手をくらわせた。コイツは強いから死にはしないだろう。
軽く人間の身体が外まで吹き飛んだ。
驚いている一瞬のうちに、俺は家へ出た。
「逃げられますわっ!」
後ろから、女が魔法を打ち込んできた。
ビリビリと電気が身体を走った。ははは。この女の魔法は大したことない。
俺には電気風呂くらいにしか感じない。
もっと、遠くに行かなくては。
冒険者達の追跡を感じる。
俺の全力に人間たちが付いて来れるとは思わないが、でも、確実に俺の後を追ってきている。
「はぁはぁはぁ。」
腹がいてぇ。
コレ・・・あれだ。内臓傷ついている系だ。走って、血流が良くなったのか血がどぼどぼ出てきている。血が道しるべのようになって見つかるのも時間の問題だ。
流石に、走るのが辛い。
俺は、茂みに隠れた。
もさっもさっ
「なんだ・・・?」
俺の身体を蔦が覆う。
モンスターたちの魔力を感じる。皆で蔦を動かしてくれているのか!?
これなら、俺のでかい身体も十分に隠すことが出来る。
「はは。有難い・・・。」
俺はそのまま意識を失った。
☆☆☆☆
家へ帰ると、そこにはポー様の姿は見えなかった。
家の中は散乱していた。高価な物が盗まれている所を見れば、人間の仕業だとすぐに分かった。
「ポー様!?」
多分、ポー様は、人間と戦わず逃げたのだろう。
きっと、戻ってくる。そう思って、散乱している荷物を片付けていた。
「これは・・・。」
倒れた棚を上にあげると、床が血まみれになっていた。人間の血じゃない。
人間より、鮮血で真っ赤な血。
この美しい色は見たことがあった。
ポー様の背中から大量に流れていたあの血・・・。
「ポー様!」
ポー様の血だ。ポー様がケガをしている。かなりの出血量だ。
「回復薬・・・、全部盗まれているっ!!くそっ」
僕は、すぐに山に探しに行った。不思議なことに気配すら感じられなかった。
山には他にもモンスター達が乱獲されている。丁寧に埋葬した後があるのはきっとポー様が埋葬したに違いない。
「ポー様!?どこですか!?スミです!!出てきてくださいっ!!」
大きな声を出してポー様を呼ぶも反応がない。
習いたての追跡魔法を使うが追跡が出来ない。
どうして?
目が真っ暗になった。光が……。
いや、ポー様が死ぬわけがない。あの方は絶対に生きている。生きて人間に捕らえられているに違いない。
それから、何日も何日も探した。
ポー様は家にも山にも帰ってこなかった。
僕は、学校へ行くのをやめてポー様を探した。
家を建て直した。もしかしたら帰ってくるかもしれないと、夜になったら必ず家に帰り、日中は探し回った。魔術でポー様の気を探知しようとするけれど、どこにも見当たらない。
ポー様が見つからない。その事実にイライラした。
あの愛おしくて優しいオークを傷つけた人間が許せない。
人間は僕から全てを奪っていく。
「くくく。」
憎くて、なんだか笑いが止まらなかった。
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心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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