オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト

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スミ

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※スミ視点




「お前は役に立たないな。用済みだ。」

奴隷商に扱われる僕。

よく風邪を拗らせていた。

大した仕事が出来なくて、用済みになって売られたり捨てられたりを繰り返していた。


用済みだから、スミ。

用済みのスミ。


いつの間にか、僕の名前はスミになった。


僕の本当の名前は、思い出そうとすると、霧がかかったようにぼやけてしまう。どこに住んでいたのか、親は誰だったのかも分からない。


それは、欠点ばかりではなくて、利点でもあった。

何も分からないと悲観的にならなくてよかった。それに思い出さないなら、それほど必要な記憶ではなかったように思う。



次の働き先は前回よりマシだった。里の一番大きいお屋敷で働くことになった。用済みの商品だから価格はタダ同然だった。

毎日、毎日、怒られてばかりだ。

何をやっても上手くいかない。そういう人間だと思った。誰も僕に笑顔を向ける人なんていない。


僕が唯一長けている所は、人の嘘を見抜く事だ。

人の嘘には匂いがする。僕の周りは嘘だらけだった。より強い匂いのする嘘には怪しさが付きまとう。

初めは奴隷商に捕らえられた時だ。

「いい所だ。」

そう言った時も臭い匂いがした。

だけど、嘘を見破ったってそれを抗える力を僕は持ち合わせていない。


屋敷で働くようになって数か月したある夏の夕暮れ。

真っ赤な夕暮れだった。

何か、騒がしかった。空気が荒れている。

何だろうか。どうしたのだろうか。

屋敷の主様が、「お前はここに待機していろ!」と言われたので、そのまま屋敷内で待機していた。


「叫び声がする…。」

なんだろう。人が叫んでいる。

怖い。外は何があったんだろう。

どうしよう。逃げたい。

逃げたいけど、主様にここにいるように命じられた。勝手な事をしたら折檻されてしまう。


そんなことを考えて動けないでいると、異常な暑さを感じだ。


「や、屋敷が燃えている……!?」


火事だ!!屋敷の火を消さなくちゃ。

僕は、水を汲んで慌てて消火作業した。

消火するより、火が燃えつくのが早い。


「こほっ!こほっ!」


煙が………!!

真っ白な煙で前が見えない。


このままでは死んでしまう。僕は屋敷の外に出ようと試みた。

「玄関が……!!」

出口が燃えて出られない!


そうだ。家具を投げたら、外の人が中に人間がいることに気が付くかもしれない。

今いる部屋は家具がないから、あるなら主の部屋だ。

主の部屋に入った時、柱が倒れてきた。タンスの横にいた僕は、直撃は避けられたけど、その代わり腰より下がタンスの下敷きになってしまった。



「こほっ!……なんでっ!?抜けない!!」

身体をずり動かそうとするのに、全く動かせない。


どうしよう。どうしよう!!!


悩んでいる間にも煙が、呼吸を奪っていく。


こほっ!こほっ!

あぁ、僕は死ぬんだ………。


死を悟った瞬間、物音がした。


誰……?

聞いたことのない優しそうな声がした。

「おいっ!お前大丈夫か!?」


目の前にオークがいた。もしかして、騒ぎの原因はオーク!?

僕はオークに殺されてしまうのか?本当についていない。

でも、火事で死ぬならどっちでもいいか。


諦めてもいいか。

ふっと、目をつぶった時だ。

下半身に重くのしかかっていたタンスが持ち上げられ、僕の身体を包みこむように、オークに抱き上げられた。


「……?」


オークは自分が火にあたるのはお構いなしに出口に向かった。


まるで、僕に火があたらないように、オークの大きな体が猫背になり、降ってくる火の子から身を守ってくれているようだった。


僕を包み込んでいる?なぜ?


外に出たら、食べるつもりなのだろうか。

でも、こんな風に誰かに抱きかかえられるなんて初めてだ。こんな時なのに、安心感を覚えた。

このオークになら、食べられてしまっても構わないような気がした。


オークが家の外に出ると、村人たちがいた。

そして、僕ごと、オークに矢を向けた。


ここにいる人間、誰一人僕を人間として扱わない。

だから、平気で矢を向けるんだ。



「ひーーっ!逃げまーす!!」


オークが僕を抱いたまま、もの凄い速さで走り出した。



凄い。まるで猪の突進みたいだ。風のように突っ切っていく。

凄い!なんて凄いんだ!



僕は、オークを見た。必死な表情。

カッコいい。カッコいいっ!!!


なんで、僕を抱っこしたまま逃げてくれるんだろう。


この大きな体で向こう側が見えない。

もう、嫌な里も人間も見えない。

このオークだけしか見えない。




オークは洞窟内に僕を下ろしてくれた。

「はぁ。ごめんなぁ。治療が遅くなったな。」


治療?僕を食べるんじゃないの?


すると、オークが回復薬を僕にくれた。


この回復薬………精霊のモノだ。簡単に手に入るものじゃない。

原価でいうと、家が建てれてしまう程、いやそれ以上か。


回復薬を飲むと、僕の身体のやけどはあっという間に消えた。

こんな高価なものを見ず知らずの僕に飲ませたのか……?

このオークは僕をどうするつもりなんだろうか。食べないのなら奴隷商に売りつけるのだろうか。


よかったな。とオークが後ろを向いた時だ。


「!!!」


オークの背中には何十本の矢が刺さっていた。


全然気づかなかった………。あの時、村人にやられていたんだ。

僕はかすりもしていない。


その時、ずっと僕をかばって走り続けていたことに気が付いた。僕を置いていけばもっと矢を避けられたはずだ。

そうだ!さっきの高価な回復薬!きっとあれを持っているから、そんな余裕なんだ!


あの回復薬なら、きっと治せるはず!



オークは僕に寝るよう声をかけ、自分は隅の方へ座った。

きっと、もっと高価な回復薬を飲もうとしているから、僕に内緒にしたいんだな。

おそるおそる、オークへ近づくと、オークは矢を一本ずつ抜いていた。


背中は血で真っ赤だった。


それで…………回復薬は!?

回復薬はどうしたの?


「あぁ、丁度お前飲んだもので最後だったんだ。ラッキーだな、お前……。あれ?こんな事の後でラッキー?違うよな……。俺頭弱くて、あんまり深く考えられないような生物なんだよ。」


な………何を言っているの?

分からない。オークの言っている事が分からない!!!

あれが、最後だったの?

僕よりひどい傷を負っているのに!?


「ごめんなぁ。」


オークの優しい目を見た途端、涙が込み上げてきた。

「うわぁああああああん。」


気が付いたら、大きな声でみっともなく泣いていた。

もうずっと、泣いた事なんてなかったのに。こんなに優しくされたことなんてなかったから!!

すると、オークの大きな身体が、また僕を抱き上げてくれた。


まただ。こんなに温かい。


温かい、温かいよぉ。

僕はオークの指をぎゅうぎゅう握った。






それから、オークと暮らし始めた。

このオークの匂いには全く嘘がない。ただ安心する嘘のない匂い。


スミ、スミ、スミ。


用済みのスミではなくて、澄。澄んだ色という意味のスミ。

僕の名前に色が付き、オークに名前を呼ばれるだけで胸が弾む。

嬉しい。この世界で生きてきてこんなに幸せな気持ちを送れるなんて思わなかった。


オークのことは、ポー様と呼ばせてもらうことになった。

ポー様の言葉の一つ一つが、僕の胸を締め付ける。。


ポー様は、住み始めた時に、僕に言った。



大人になって選択できるようになるまで一緒に暮らそう。

なら、もう決まっている。


僕は、この優しくて強いオークとずっと傍にいたい。




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