オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト

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「朝ごはん、食うか?」



洞窟内は暗いから、子供もよく寝れたのだろう。あれから一度も起きる事なく朝まで眠っていた。


子供は、ビクっと驚いた。

あ、ごめん。そういや、俺、オークだわ。

目覚めたら、オークが目の前とか恐怖だよな。


近づきすぎず、2、3歩下がった。


子供は周りをキョロキョロ見渡して、おずおずと俺に頭を下げた。


「あの……寝床ありがとうございます。」


そうそう。朝になっても子供が全然起きないから、干し草を敷いて寝かしたんだ。ただ、寝床っていう程じゃないぞ。敷いただけだし。

昨日は、ちょっと背中痛くて無理だったけど、俺のスペックで寝床って言うなら、簡易ベットくらい簡単に作れちゃうんだからな。



俺は、子供に洞窟の外に来るように伝えた。

「子供は、ご飯、何食べたい感じ?一応、魚と果物を採ってきたんだけどさ。食べれる?」

子供は、俺の顔と俺の用意したご飯を両方、え?え?とみた。


「ぼ、僕の分ですか?」


「そーだよ。ケガ治ったって言ってもちゃんと食べないと、本当の意味で回復しないからな。ご飯が基本だぞ。」


そういうと、子供がズリズリと後ろに下がった。


お…どうした?


すると、子供が土下座した。

「すみません!僕なんかの為に!」


地面に頭を擦りつけて、ペコペコして謝る。



へ………?


「い、いや?あのさ、別にいいよ。座んな?」

子供は頭を地面につけて頭を上げない。


そういえば、この子供。


火事にあったとは言え、かなり薄汚れている。髪の毛はいつ梳かれたか分からない鳥巣状態で顔の半分が隠れている。服は灰色。(多分、元は白)大き目の服から覗かせる身体はガリガリだった。


この子は、下働きの子か?もっと、酷いなら奴隷……。


いつまでたっても、頭を地面につけて動こうとしない。


うーん。どうしたもんかな。

出来たら、アツアツ料理を食べて欲しいんだけど。


俺は、焼けた魚を子供の前に置いた。

子供は、ピクっと動いた。


もっとか?


次に、燻製にした魚を置いた。香ばしい木でじっくりスモークしたんだ。

この燻製は匂いがたまらんぞぉ~~~!


子供がピクピクと動く。よし、確かな反応を見せた。


にやり。


ぐぅぎゅるるるるるるるうるるるううるるうるるうぅっるぅう!


「ひっ!」

子供がお腹を押さえた。


「はっは!腹は正直だな。いいぞ。オークにそんな人間の気遣いしてどうすんだよ?食え!カリカリして上手いぞ!」


子供は、おずおずと手を魚に伸ばした。

魚を見て、俺を見た。

俺はうん。と首を縦にふった。


子供が一口食べた。

もう一口、もう一口食べるともう止まらないように、パクついた。


「ふっふぐっふっふっふっんんん。ん!!うう!」

「ほれ、水。」

俺が差し出した水をぐい――と飲み干して、パクパク夢中になった。


子供はこうじゃないとなぁ。モリモリ食べている姿を見て安心した。

ほとんど食べ終えて、俺が見ているのに気付いた子供は、ハッと焦ったように礼を言った。


「いいよ。」

にこっと鋭い牙を出して笑った。

子供がカチンと固まった。



お?あれ、牙怖い?ごめんなぁ。この牙、口の中に納まらねぇの。笑うともっと怖いのかな?

でも、ぼーっと俺の事、凝視しているし怖くはないのか?


それから、片付けは子供がやると言い切るので任せた。

子供は、俺の背中を見て驚いた。

「傷が、ほとんど塞がっている?!!」

昨日、弓矢が背中に沢山刺さったが、ほとんど俺の筋肉が固くて深くは刺さらなかったのだ。深い傷もないし、これくらいなら俺の皮膚組織が修復頑張ってくれるさ。


「おうよ!俺の筋肉はすげぇのよ。こんな矢傷3日もあったら、治るぜ!」


「す……凄い。」


子供の前髪がボサボサで顔がよく分からないけど、少し嬉しそうな顔をしたのでよかった。


さて、食事終わったし、子供をこれからどうするかなぁ。

人里に返して、身寄りのなさそうな子供が上手くやっていけるのだろうか。

この世界の人間の状況は分からないけど、子供に優しくない世界だったら嫌だな。

人里に返して、いい事したぁっと思ったら奴隷落ちしてました☆とか後味わりぃ。


「なぁ、お前、これからどうする?」


とりあえず、子供に聞くか。


子供からの返事がなかった。

うーん。自分で考えたり出来ないのかな?

命令されて選択することを与えられない子供は、自分で考える事が出来なくなる。大人の圧力を受け続けると、何事も受け身になる。


子供を見ると、まるで、そんな感じだ。


「ま、いっか。」


考えるのだりぃ。俺、オークだもん。長時間考えられないわ。

昨日から、ずっと動きっぱなしだし。も、いいや。


「子供、ちょっと寝るわ。」


俺は、ぐ――――っと寝た。




そして、起きた!

よし、やっぱり横になると回復が違うぜ!

子供は、どこへも行く事もせず俺の横で座っていた。逃げ出したいのなら今の隙きに逃げれただろうに。


「よし!子供来い。ちょっと見晴らしいいところ探そう。」


俺は子供をひょいっと肩車をした。

「ひゃっ!」

子供は急に視線が高くなったので、俺の髪の毛を掴んだ。(あ、俺オークだけど髪の毛ふさふさなのね!たまにつるっぱげのオークみるけど、それは違うから!ふっさふさだから!)


俺は、さっさっと山道を登り、見晴らしのいい場所までたどり着いた。


ここなら、辺り一面見渡す事が出来る。

「子供、見てみろ。」

俺は、肩車したまま、子供に聞いた。

「え?」


「この世界は、こんなに広い事知ってたか?お前は何もかも0だけど、きっといい0地点だよ。これからどこにでも進んでいける。」

俺は、肩車をしてぐるりと360度向けた。


「子供の好きなようにしていいんだ。何かしたい事があるなら、手伝ってやるよ。」


「…………。」

子供はやっぱり返事をしない。


「なぁ、一つの提案だ。」


俺は、ゴホンと咳払いをした。


「自分で選べるような大人になるまで、俺と一緒に暮らすか?」


俺は、顔を上にあげて真上の子供をみた。

子供のボサボサの髪の毛の隙間から見える目はキレイな青い目だった。そんな自由な空色をしていたんだな。

子供は、顔を緩めた。

「………はい。はいっ!」


子供が掠れた声だけど初めて大きな声を出した。

嬉しいというように俺の顔をぎゅうぎゅうと抱きしめた。

はは。オークとなっても人間に抱きしめられるのはいいもんだな。


俺の家、あの時山火事で燃えただろうから、この機に新しい家建てるか。

「好きになれそうな所、あるか?そこに家を建てよう。」

子供は、分からないという風に顔を傾けた。まぁ、子供には難しいか。


平らな丘は家庭菜園しやすそう、湖の横がいいなー、とか俺は色々呟く。

こういう風に考えていくだぞ。

“いいな”を固めていくんだ。

絞り込んで、一番気に入る場所を探していくんだ。


「湖と川だとどっちがいい?」

最後の二択だけは、子供に決めさせた。


「え、あ、え、と、湖?」

「やっと言ったな。」


いい子だ、と子供に笑顔を向けた。



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