オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト

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転生したらオークになってたよ。

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お日様ポカポカしている芝生で寝ころんでいる時に、日本人だった前世の記憶が戻ってきた。


なんとなくだし、ハッキリした記憶があるわけではないけど、転生したことだけは分かった。



……オークにだけどね。


そう。俺、もう何年もオークとして暮らしている。生まれてからどうも暴力的な事は嫌いだし、人間に対しても敵意はなかった。

現在、群れから外れて一人着の身着のまま生きている。


だけど、元人間だと意識が芽生えてしまった現在オークは嫌だな。

「オークって、おい。」

ゲームの中では雑魚キャラなのに、やたらと人間倒しちゃうしさ…。なんか知能が低そうなのが嫌だよな。

知能が低いのは、転生した事が分かった今の俺も同じか。どうもオークとして長く過ごし過ぎてあんまり深く考えられないんだよな。


え?目開けると人間に戻ったりしないよね?そう思って目をぎゅっとつぶって見開いて鏡に映る自分を見た。


「豚っぽい顔に尖った歯……醜い面構え。」

人間として意識が戻る前は、オークの中ではイケメンだと思っていたのよ。

筋肉モリモリだし。腹の出ているデブいオークとは違うんだよ。


でも、人間の意識が入っちゃうとさー……。

これ、以前まで本当にイケメンだと思っていたの?めっちゃ不細工じゃん。鼻は上向きだし。下の牙は唇から出ているし。



「まぁ、いいか。結構オークってイージーモードだし?」

オークは力がとても強く、斧を持って木を二、三回、トントンと叩いたら切れる。力持ちだからどんどん荷物が運べちゃうし、DIYだって凄く簡単にお手の物だ。


俺の日々の暮らしは、風呂や料理に使う薪をサッサっと割って、食べるだけの野菜と果物を栽培して、そして池や川で魚を釣り、必要な分の肉を調達する。


この山は、めちゃくちゃ緑豊かだし生活する事で困る事はない。


転生した事が分かった三時間後には「オークって最高じゃん。イージーイージー。」と言っていた。



「あ、眠いな。昼寝しよう。」


俺は、ハンモックに寝そべり一日をのんびり過ごす。

俺がハンモックに寝そべっていると、鹿や鳥、ウサギ、あらゆる動物が近寄ってくる。なんでか分からないけど、もうわんさか寄ってくる。


野生動物なのに、みんなスリスリしてくるんだよー。ホント、可愛いよなぁ。


凶暴なクマも俺にとっては愛玩動物。モフモフだし、ぬいぐるみみたいなだし、最高だわ。あ、はちみつ欲しいの?あげるよー。


そんなわけで、群れに外れて一人っきりでも全然孤独を感じないのだ。



昼寝もしたけど、夜になったら、やっぱり眠くてグーグー寝ていた。

寝ていたら、めらめらと赤い光が目の奥に揺らいでいた。



ぼ―――――っ。


「…………。」


あ、火事だ。燃えている。

家の前の山が燃えている。



動物たちが逃げている。

今日は空気が乾燥していたから山に火が移るのが早かった。


寝起きの頭がぼーっとする中、俺は家の外にでた。



肺に思いっきり空気を吸い込んだ。


すうぅうううううううううううううううううう。


はっ!!っと吐き、空気の圧で燃えた木を倒していく。


動物達を無事誘導させないとな。

「お前たちは、逃げろ。あっちの湖の方向へ行くんだ。」

俺は、動物たちに声をかけていき、方向を導いた。



俺は湖とは逆の方向へ向かった。火を消しながら、逃げ遅れた動物たちを助けていく。

気付かないうちに、人里まで来ていたようだ。


出火原因はこれか…。

人物同士の争い…。里が燃えている。

争った形跡がある。その後、火をつけられたのだろうか。

家が燃え、人が燃え。まるで何かの証拠を隠滅するかのようにすべての建物に火がつけられていた。


盗賊か何かの仕業だろうか。むごい事をする。


誰も生き残っていないのか?

俺は、恐る恐るその里を歩いた。



「ゴホッ!」


燃えている家の中で咳が聞こえた。耳のいい俺は、聞こえたその音を逃さなかった。

俺は、燃えている家に入った。家の中でタンスの下敷きになっている子供がいた。


「おいっ!お前大丈夫か!?」


全身やけどを負っているけど死傷ではない。

子供は、ぼんやり薄めを開けた。


「生きている。よかった。」


俺は、その子供を持ってその家を出た。



家を出ると人間達がいた。逃げる事が出来た里の人間だろうか。

人間達は俺を見ると、恐怖と憎しみに歪んだ顔をした。


「この村をこんな風にしたのは、お前かっ!?」


「へっ!?」


オークだ!!オークの仕業だ。と人々が叫びあった。 


「ち、違うっ!!そうだ、この子供、まだ息があるんっ……!!!」


言い終わらないうちに、人間達が矢を構えた。


ひー……マジかよ。俺、無実もいいとこなんだけど。

手を上げて自分は無抵抗だと示したいが、この子を先にどうにかしないと。




「矢を放てっ!」


人間達は、この子供ごと俺に矢を放った。



「ひ――っ!逃げま―す!!」


俺は子供を抱いたまま猛スピードで走った。


ピュンピュンと矢が放たれる。


トスットスッと俺の身体に当たる。


「いってぇ!」


まぁ、大したことないけどな。だって、このガチムキの身体は人間の矢ごときじゃ筋肉内でストップして致命傷には至らない。筋肉最高だぜ!筋肉万歳!!

それこそ、勇者の剣とか魔法とかで退治しないと効かないんだぜ。

ははは。


でも、ちょっと痛い。


俺は、人間達から逃げ切り、火事山とは反対側の山へむかった。

山に丁度よい大きさの洞窟内があったので身を隠した。



「はぁ。ごめんなぁ。治療が遅くなったな。」

やけどを負った子供は目を開けていた。驚いた顔をしている。そうか。怖いよな。オークだもんな。

子供は全身やけどを負っていたけど、それほど重症ではない。これくらいなら回復薬でも十分治せるだろう。

俺は、火事で逃げ遅れた動物たちにやるつもりだった回復薬を子供に飲ませた。

子供の身体がパァアと光ってやけど傷が治っていく。


「よかったな。今日はショックだったなぁ。」

俺は、子供の頭をポンポン叩いた。


「その背中………。」

子供が初めて喋った。

子供は俺の背中を見つめていた。

俺の背中には、何十本の矢が刺さっていた。

「あぁ、気にすんな。俺、頑丈に出来ているから。」



早く抜かないと、痛々しいよな。

子供に寝るように言って、俺は陰に隠れて背中の矢を抜いた。毒とか塗られてなくてよかった。流石に毒はどうしようもない。


声を上げないように、身体に刺さった矢を抜いていると、子供がすぐ後ろに来ていた。

「あの…貴方の回復薬は?」


お前、俺を怖がらないのか?


「あぁ、丁度お前飲んだもので最後だったんだ。ラッキーだな、お前…。あれ?こんな事の後でラッキー?違うよな…。俺頭弱くて、あんまり深く考えられないような生物なんだよ。」


人間だったら、もっと気が利いた事が言えたんだろうけどなぁ。


「ごめんなぁ。」


俺は、子供に謝った。

子供は、ポロポロと泣き出してしまった。



「わぁ、ごめん!ホント謝るから!!!」

そういうと、子供がわ―――――んと泣き出してしまった。



ど、どうしよう。

オロオロとした俺は、子供を思わず抱き寄せてしまった。

子供の背中をトントン叩いていると、子供は俺の腕の中で泣きながら眠ってしまった。



俺の指をぎゅうと握ったまま離さなかったから、俺は背中が痛むのを我慢して子供を膝に乗せたまま一夜を過ごした。





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