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番外編   社長視点。 付き合って間もないエンジェルと僕。

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「社長、おはようございます」
「おはよう」

朝、会社に到着した僕は、社員と挨拶を交わす。

挨拶は、人とのコミュニケーションにおいてとても重要だ。僕は無愛想だからこそ、こうした挨拶やお礼の言葉は欠かさない。

「あ」

その小さな「あ」という可憐な声は背後から聞こえた。

僕は可憐な声に導かれるように後ろを振り向いた。
その声の持ち主が、僕と目を合うと、「おはようございます」と挨拶をしてくれる。


うん!!!
100億万点だよ!!!
その可憐な声と姿でスペシャルモーニングコール賞を授けたい!!
今の間だけで、脳内で五回は「おはようございます」をリピートしてしまったよ。……おっと、いけない。彼がエンジェルすぎて固まってしまった。

「おはよう」

マイエンジェルこと、山川拓郎君は、僕の幼馴染で長く片想いした相手であり、そして最近お付き合いを始めた恋人だ。

あぁ、つい顔がだらしなくなってしまう。
拓郎君にはキリっとした顔を作りたいと言うのに、気が付いたら、彼の魅力に頬も口角も何もかも緩んでしまう。

いつもは、スッと去ってしまう彼だけど、この日はササッと僕の横に来た。あぁ、まるで、恋の忍びかな。


「社長、俺とのことは内緒で」
「……分かっているよ」


僕だけに伝わるようにコッソリと話す恋の忍びは、僕との関係が公となるのが嫌なようだ。

社内恋愛は、周囲からの目もあり恥ずかしいのかもしれない。彼は、目立ちたいタイプではないことを知っている。


【いずれ分かるその日(結婚発表)まで二人だけの秘密。そういうことだよね?】

僕は、愛の目線を彼に送ると、彼は分かってくれたようで頷いた。

【離れている時も君を想うよ】と髪をかき上げながら、最高の表情を作り彼に目線を送ろうとしたら、既に彼はエレベーターに乗っていた。












朝から話せて最高に幸せだ。

愛をチャージした僕は、仕事が倍捗った。大量の文章を一度に読んでもスラスラ頭に入って来る。
拓郎君効果だ。彼の声を聞くことで最高にヒーリングされて集中力がアップしたんだ。いや、拓郎君というマイナスイオンを浴びたからかもしれない。両方か?


「中島、13時からの株主総会だが、僕も出席しよう」
「社長、予定が押してますが。……え? もう午前中の仕事を終えられて?」

秘書の中島が出来上がった書類を見て驚いた。「この人……、本当に凄い」なんて呟いている。そんなことはない。僕などは凡人にすぎない。

「拓郎君のおかげだ。彼のヒーリングボイスとマイナスイオン効果で僕の集中力はアップした。さらに彼を一目見るだけで身体的・精神的に元気になる。彼の存在そのものが滋養強壮にいいんだ。……ふぅ、マイエンジェル。フォーエバーラブ」
「……」

中島が固まっている。そうだろう。拓郎君の効果を聞いて驚くのは当然だ。

「……ゴホン。山川様に同棲をお断りされたショックから立ち直ってよかったです」

「——ふ。中島、恋とはいつも更新されていくものだよ」
「……そうですか」



そう。あれは、2週間前の水曜のこと。

水曜日、僕はデリバリーサービスに扮して、彼の玄関先でプロポーズをしようとした。

「君のこと一つだけ変えたいんだ。それは君の名字だよ」

彼は驚いていた。可愛い目をぱっちり開かせて。しかし、僕がリュックから例のアレを出す前に止められた。手でSTOPと言うように僕の前に出され遮られてしまったのだ。

彼の返事は、深い溜息の後、「考えさせてください」だった。

さらに、彼に渡した鍵も“僕が不在の時には家には入らないから不要”だと頑なに言い、返却されてしまった。僕としては、いつも家にいてくれて構わない。そのつもりだったけれど、シャイな彼には気を使わせてしまっただけのようだ。


正直、動揺を隠せなかった。情けないことにちょっとオロオロしてしまった。暫く家でも会社でも唸った。

しかし、考え方を変えてみろ。すぐに僕の悩みは杞憂だと分かる。


拓郎君がこの建物のどこかで仕事をしている。一緒に生活しているようなものではないか。一日は24時間あるが、8時間は同棲しているようなもの。そう思えば余裕が生まれる。

まだ一度断られただけ。しかも考えさせてくださいと前向きな返事。僕は何もベストを尽くしていない。


「ふ」
「社長?」
「彼と共に暮らしたい想いを手紙にしたためたんだ。100枚を超える情熱だが、それでは読んでもらえないと5枚で抑えた」


SNSに僕の不安な気持ちを呟くとフォロワー達が応援してくれた。
『頑張れとしか言えない』『ストーカーにならないように』『最善を尽くせ』

初めは拓郎君のアイコンを見つけたことで始めたSNSだったが、こうして僕と彼の恋を応援してくれる人達が集まってくれている。厳しい言葉も批判する言葉も時折はある。それでも彼らの応援が僕を勇気づけてくれていた。



そうだ。拓郎くんと一緒に暮らす……。それは朝起きた瞬間からときめきメモリアルの始まりだ。

起きたてほやほやの拓郎君。目を擦り本日一番乗りに君の瞳に僕が映る。もうこの時点で人生のクライマックスだ。
「おはよ」
そのエンジェルボイスとスマイルで……、あ————!! 駄目だ!! 悶絶するほど可愛いっ!! 想像するだけで身体のあちこちが痛い。


「しゃ……社長、顔がとんでもないことになっておられます」

中島に指摘されて急いで、表情を正す。

「ふ。すまない」
「いえ……、その、受け入れられるといいですね(仕事は捗りそうですので)」
「ありがとう。君と共に働けて嬉しいよ」
「…………」


中島よ。君の応援も感じるよ。
僕は、どうやらいい仕事仲間と環境に恵まれているようだ。






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