イケメン社長に超口説かれるモブの受難

モト

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恋の特効薬

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SNSをチェックしないうちにとんでもないことになっていた!!

休憩時間に休憩室に着くや、スマホを持ち、久しぶりに自身のSNSを開いた。
そして、田中清一郎のSNSを覗く。

『エンジェルの隣は天国かい? 傍にいるだけで浮遊してしまう』

相変わらず、キザな言葉甘い言葉が並んでいるが、ポエム的な事ばかりだ。当たり前だが、俺と言う個人情報が流されているわけではないし、情景が浮かぶような描写もされていない。
ただ……

『僕は、恋のアタック三か月をこのまま過ごしていいのだろうか。彼と言う名の山で遭難しているSOS』

と不安な気持ちを呟くときもある。その回答にフォロワーが答えていた。
【恋とは全力】【アタック期間にアタックしなくてどうするの?】【普通? 普通で好かれるの? じゃ、苦労しなくねw】【ウケるww】【本気が伝わらなくない?】


田中清一郎は、そのフォロワーへの返信はしていない。SOSも自分の中での叫び声だと彼の呟きを通して分かる。が、それにフォロワーがかなり乗っかってきている。


中華街の一日は社長の本心だと思う。
でも、随分迷っているのが呟きで分かる。最近の社長はSNSを見てアプローチ方法を変えたのか。

「そんなこと言ったってさ、甘い言葉責めで何が何だか分からねぇもん」

毎日甘い言葉を聞かされて、俺は脳みそまでむず痒い気持ちでいっぱいなんだ。最近は動機までするし、どうにか止めて……

『恋のビートは止まらない』

止まらないんだって。





「ふぅ~~~~」
俺は、珈琲を飲みながら、大きな溜息をつきテーブルの上に置かれているお菓子に手を伸ばした。

悩みがあると甘いものと珈琲が実に進む。
ストレス食いしていると、休憩室から眼鏡をかけた長身の男が休憩室に入ってきた。30代、いや、40才前半くらいか? 顔は整っているが、少しやつれて見える。その男は俺の斜め横のソファに失礼と声をかけて座った。

——見かけない顔だな? このフロアの人じゃない。

他部署があまり入ってこない休憩室だが、社員なら誰でも使える休憩室だ。こちらのフロアに何か用事があって、その後休憩に入ったのかもしれない。

「山川拓郎さん、ですよね?」

急に、男が俺のフルネームで声をかけてきた。
え? 誰だっけ? 全然思い出せない。俺、あんまり人の顔忘れないタイプなのに。

「急に声をかけて申し訳ない。私、秘書の中島と申します」

そう言って、中島さんは胸ポケットから名刺を出してきた。慌てて立とうとすると、「堅苦しいのはなしで」と声をかけられるので、ソファに座ったまま名刺交換をする。

秘書……、社長の秘書がなんで俺に声を?
俺は、中島さんの名刺と中島さんの顔を見た。中島さんは苦笑いした。苦笑いするとちょっと雰囲気が和らぐ。

「ちょっと、私の話をしていいかい?」
「あ、はい。どうぞ」
「社長の秘書として、引継ぎをした時、一流の人間の傍で仕事出来ることが嬉しいと思った。実際会ってみて、直接の仕事っぷりを見て凄さを実感したよ。秘書としてやり甲斐を感じた……社長が君と出会うまでは」

その言葉にギクリとする。強張った俺を見て中島さんは、「悪いね。君が悪いわけではないよ」と付け加えた。


「恋と言う名の病に罹った社長は、“拓郎君”と日中に何度も呟いて、何か書いているなとメモ帳を覗いたら、山川拓郎を田中拓郎と書き直していたり。バラの花をちぎっては“好き、嫌い、好き、き……きらい?”と落ち込んだり。恋の息切れに効くクスリを買ってきて欲しいと頼まれたり、鳥肌が立つような独り言を一日何度もブツブツブツブツ……」

はぁ~~っと俺より重い溜息をついた。

「……」

社長、一体何をしているんだ。田中拓郎? 
ていうか、この会社は大丈夫なのか?

「…………そ、それは……俺のせいっす」
「言い方が悪いが、本当に君を責めているわけではないんだ。社長は仕事面では素晴らしいのだが、君のことになると全面的に変というか、鳥肌というか」
「……」

俺は、中島さんの言葉に同意した。その頷きで中島さんも俺の気持ちが分かったのか頷いた。そして、二人でガク―ッと首を落としたのだ。
この人も、被害者だと確信した瞬間だった。

すると、中島さんは一枚のメモを俺に渡してくれる。メモと言ってもちゃんとした用紙だ。
そこには住所が書かれている。ん? 高級住宅地で有名な所じゃないか。

そこで、中島さんを見ると、心を殺した目だった。

あ——……。この人は社畜だ。社畜の目をしている。


「恋の病だと社長は言っているが、発熱で休んでいる。明らかに悩みすぎの知恵熱だ。あまり休まれると仕事に影響が出る。それで、恋の特効薬である君に見舞って欲しい。何なら……」

何ならの後、ためらいながら小声で「社長にいい返事を……い、いや、なんでもない」と。誤魔化したが、確実に言った。

「……」

社畜の目をした中島さんを見た。この人も相当疲れているな。










ピンポーン。
超高層マンションのチャイムを押した。

お見舞いって、何買えばいいのか分からないので、スポーツドリンクと果物を買ってきた。

「あれ? 返事がないな。寝てるのかな?」

もう一度、ピンポーンと押すと、インターフォンからガタッ!ガチャガチャ!と音がする。
変な音。

『——幻覚かな…………それとも、天使が迎えに来たってことは……死んだ?』

インターフォンから社長の声が聞こえた。

「違います。山川です。こんばんは。秘書の中島さんに住所伺って見舞いにきました」
『た、拓郎君!?————っ、本物かい、嬉しい。今開けるよ』

ガチャリとロックが外れたので、マンションの中に入り、最上階へとエレベーターで向かう。
社長の部屋に着くと、社長はドア前で立っていた。

社長は、パジャマにカーディガンを羽織って、顔も火照っている。……実は、結構な熱ではないだろうか。

「いらっしゃい。どうぞ」
「——……気を使わせてすみません。失礼します」

促されるままに社長の住まいに入る。
部屋は凄い豪華だけど、今は社長の状態の方が気になる。

何やら、俺に気を使って履物を出したりしてくれているし。いや、病人が何してるんだ……。

「すまない。まさか君が来てくれるとは思わなかったので、何も用意していない。あぁ、初めて君が来てくれたらどんなサプライズをしようか作戦を練っていたのに……」
「俺のことは、気にしないでください。見舞いなんですから」
「……だが」

だが、とか言って飲み物を出そうとする社長の腕を引っ張った。

「ベッドはどこですか? 寝てください」
「右のドアを開けたら寝室だけど」

あぁ、デカい室内だな。
社長が嫌がった様子はないので、ずかずかと寝室に入って、社長をベッドに寝るように促した。

「どうぞ」
「しかし、君が来てくれた……」「寝てください!」
ちょっと強めに言うと、渋々ベッドの中に寝ころんだ。

この状態だと俺が来た方が迷惑だったんじゃないか。


「これでは…………、あまりに恰好悪くて」
「熱が出ているのに、格好いいも悪いもありませんよ」
「君に格好いいところを見せたいのに。上手くいかないな」

俺は、子供をあやすみたいに社長の身体をポンポンなだめた。社長に何やってるんだろう。俺。

「そうでもないですよ」
「————……え」

俺は、買ってきた果物とスポーツドリンクを冷蔵庫に入れていいかと伝え、立ち上がる。
すると、社長が俺の腕をグッと引っ張った。

「————具体的にっ!! 具体的に教えてくれ!」

社長が起き上がって両手を掴まれる。そんな必死に具体的にって言われてもな。具体的にってなんだろう。具体的に社長のいいところを言えばいいのか?

……この人、熱が出て弱っていても美形だな。美形なところがだろうか。
社長の具体的を考えると、プッと笑いが出てきた。



「はは。面白いところが好きだと思います」
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