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君のハートにロックオン
しおりを挟む備品室で社長に壁ドンされながら、社長の次なる言葉に覚悟する。
「結婚してほしい」
きた!! 付き合おうって————……へ? んん? 付き合って? 付き合ってって言われたっけ? ……あれ? 今、その一つ上ランクの言葉が聞こえたけど。
「え?」
何を言われたのか斜め上過ぎていて、言葉がすぐに理解できない。ぼんやりとその端正な顔を見つめると、社長が顔を赤らめる。イケメンが全力で照れている。照れているけれど、真っすぐ俺を見て……
「好きなんだ」
「!!!!」
え。な、なんだろう!? 流石の俺もビビった。イケメンの衝撃波飛んできた。
すぐに断ろうとか有り得ない気持ち悪いというのは、今の衝撃で吹き飛んでしまって……およよ、およよっと動揺している。
これは、俺は今プロポーズされているのか?
社長に好きだと言われたことは何度かあったけど、平気だった。だけど、結婚してほしいの後の好きなんだは、心臓がどよっとした。
どっどっど……。
おい!! やめろ!! 俺!? その動揺の仕方はいけない。おい、イケメン、ジッとこっち見つめてくるなっ! ピンクの空気が苦しいぞ!
「俺は……」
ガチャリとその時、備品室のドアを開けられる音がした。ハッとして、周りを見た。
やばい! 備品室にいるはずのない社長と二人。
しかも壁ドンをされていては、どんな噂が立ってしまうか。
室内に入ってきた人は、ん~ないなぁっと独り言をぼやき、探しながら近付いてくる……!
俺は、社長の腕を引っ張って、一番隅の棚と棚の間のスペースに社長を押し込んで、自分もそこに隠れた。
「(社長、見られたらマズイので、ここに……っ)」
ここに潜んでいてください。と続けようとしたが、自分の状況に息を飲んだ。前向きに密着していて、驚き顔の社長と間近で目が合った。
あ……、あれ?
俺、もしかしてとんでもないことしちゃった? 俺まで隠れなくてもよかったんじゃねぇか? と思って社長から離れようとしたら、長い腕がするりと身体に回ってきて抱きしめられた。
「っ!!!!」
ぎゃーっ!?
この状態で見つかれば万事休す。見つかるわけにはいかないから、大声は出せない。首を微かに振るが、なだめるように背中を撫でられただけで、抱きしめられている状態は変わらない。
ひぃ……、どうしたらいいんだ……。
社長の胸の音が伝わってくる。やたら早くて大きい鼓動。こっちまで緊張が伝染してくるじゃん!?
……これは、もう、早く探し物を見つけて出てくれと神に祈るしか他あるまい!
「(拓郎君……)」
「……っん!」
社長が耳元でかすれた小声で俺の名前を呼ぶ。
くすぐってぇ!!? 耳元で囁くなっ!! 俺、くすぐったいの駄目なんだよ。
社長が俺の耳裏の匂いを嗅いでいる。そこは嗅ぐなぁ!
「(好きだ……好き)」
「っ!!」
およよ……!! ほらみろ。俺まで動悸してきた!! 顔が赤くなる。ドッドッドッドッ……ってもうどっちの鼓動なのか分からなくなってる。
あまりに彼の吐息がくすぐったくて我慢できず、身をよじった。
「(ん?)」
「……………」
あ。
「(…………すまない)」
沈黙の後、社長は申し訳なさそうに上を向いた。
抱き締められているから伝わる、下腹部に当たる違和感。う、わ、どんどんデカくなってないか!?
「(……会社で、何、興奮してんですか!?)」
「(不可抗力だ……、僕の意志より身体が反応してしまったんだ)」
睨むと、社長は俺の身体から腕を離し、パッと両手を上に上げた。
上を向いたまま、冷静を取り戻そうとしているようだが、早い鼓動は伝わるし、下半身は熱が籠ったままだ……。
「(オフィスラブとは刺激的だ……)」
「……」
黙ってくれ。
互いに気まずい中、ようやく探し物をしていた人が備品室を出て行った。
ホッと息を吐いて、社長から離れた。離れたが腕を掴まれる。
「——なんですか? これは?」
「……あぁ、そうだね。離すよ」
社長に言うと、すぐに腕を離した。行動の一つ一つが、策略と天然が混じっている感じで凄くやりにくい。
「気分を悪くさせただろう。すまなかった」
微妙に紳士なのもやりにくい。
「海外店舗では、職場で堂々とイチャイチャしていて、仕事をしろと注意することは多々あった。その時は理解出来なかったんだけど。愛とは場所を選べない」
急に愛を語りだす社長。確かに海外の恋愛はオープンな面が多いが、ここは日本だ。
「社長、あの」
社長の様子を見ていると冷静になってきたので、先ほどのプロポーズをちゃんと断ろうと向き合った。ここまで思われているなら無難に避わすのは無理だろう。
「先ほどの話ですが、そもそも俺たち、付き合ってもいませんよね? それで、プロポーズだなんておかしくないですか?」
俺は、社長のことを好きでも何でもないんだ。
「生半可な気持ちや遊びではないと伝えたかったんだ。ただの恋人というだけでは不満だという気持ちも半分以上あるけれど」
「……どうしてそんな風に言ってくるのか、俺はついていけません。そう思われるほども互いを知りませんし、おかしいです。冷静になってください。一度、深呼吸してみてください」
社長は、俺が言う通りに深呼吸する。大きく息を吸って吐いたあと、少しの沈黙後に静かに話し始めた。
「……そうだね。君の言う通りだ。つい君を想う気持ちが先走ってしまった」
「俺は結婚するなら好きな人とがいいと思っています。安易な気持ちでは出来ません」
よかった。社長はメルヘンでドリーマーだけど、こうして話は聞ける人だ。
「————……君に言われて気付くなんて」
あ、思った以上に反省している? 言い方がきつかった?
「ですがっ、急なプロポーズを喜ぶ方もいらっしゃいますよ。えぇ、社長なら我こそはと思われる方も多いでしょう!」
フォローを入れる俺の話をジッと聞く社長。
「君の言う事、全てがその通りだ。自分の気持ちばかり伝えてすまなかった。毎日胸が苦しくてどうしていいのか気持ちが溢れだしていた。——……だが、君の冷静な反応で我に返ったよ」
「えぇ……っと、自分こそ、偉そうに言いました」
なにやら、激しく反省している。——……プロポーズを断ったのだからそりゃ落ち込むか? 何か、励ます言葉。社長ならすぐに新しい運命の相手に出会える? あぁ、それは振った相手が言って傷つける言葉のベスト5くらいに入るだろう。
「君に好かれる努力を僕は何もしていない」
「その通りです——……えぇ?」
思わず頷いたが、今、なんと……?!
「僕は、仕事で色々な経験をした。初めての土地では、この味は好みでないと受け入れない人も多かった。そこで諦めるのは早いと思わないかい?」
「はい、その通りです。でも、俺は」
「僕を好きではない。ちゃんと分かっている。ちゃんと聞いているよ」
「……」
なんて答えたらいいのか分からず、社長の言葉に頷いた。
「でも、僕は君が好きだ。今は嫌いでも君に好きになってもらいたい」
————。おっと、また、ドキッとしちゃったじゃん。
「拓郎君、君のハートにロックオン!」
——あ、急激に落ち着いた。
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