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俺が舞い降りたエンジェルなのか?

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「山川さん、おはようございます!!」

会社のエレベーターに乗り込んだ時、後ろから松本が急ぎ足で入ってきた。

「おはよう……」

元気なく挨拶を返した俺に「? ははは」っと松本がバシバシ背中を叩く。

俺……、お前の一つ上の先輩な? あと、背中がいてぇ。

「なんすか、朝からその萎れた顔と声は! さては夜中までゲームしてて寝不足でしょう!!」

ちげーわ。馬鹿。

「……………あのさ、お前から見た社長をもう一度教えてもらいたい」

「え?」

「頼む」

松本は俺の様子に不思議そうな顔をするものの、社長のことを話してくれる。大体、有給明けに聞かされた情報と変わりがない。
テレビでよく見る漫才ネタの流れが脳裏に浮かんでくる。「どういう特徴か言うてみ~」「エリートやけど仕事以外では無口で無表情で無愛想らしいねん」「ほな、違うか~」…………ほな、違うか?

社長は、仕事以外は無口で無表情で無愛想やねん。あれは、社長じゃないねん。

————……そうだ。朝見かけたのは、社長のそっくりの顔をした別人だ。もしくは、俺は歩きながら器用に寝ていて夢を見ていた。

「いや……わはは、いやいや!! そうだよな!? 舞い降りたエンジェルとかないわ!!」

「山川さん?」


急に横で笑い出した俺に松本は怪訝そうな顔をする。いや、今日の俺はおかしいんだ。おかしいのは俺と言うことにして欲しい。













これからの季節、チョコレート系のお菓子の売れ時になる。

スーパーのディスプレイやポップ、どういう商品が多く並んでいるかなどを調査しに行く。売れ行きなどはパソコンを開けば一覧として分かるが、店の状態は直接観に行かなくては分からない。

そういう情報を外回りで把握してから、会議で発表する。

「チョコレートは大人向けの商品が店頭によく並んでいますね。ピスタチオやヘーゼルナッツはアイスも売上上位です」


うちの会社は、会議室は透明のガラス張りになっている。外からは誰がどんな様子で会議しているのか分かるようになっている。

それは、勿論、中で会議している人間も外の様子がよく見えるのだ。


「インタネットアンケートと見合わせても人気の傾向は……」

ホワイトボードから目を逸らすと、会議室の前を田中社長が通りすぎた。

社長は俺と目が合うと、微笑み、片目を閉じてウィンクをした。


「ーーーーあぁあっ!? ぉ、おっお!?!? ……しゃ、社長? 社長がぁっ!!」


俺が、社長と言うと、そこにいた社員は後ろを振り返った。しかし、既に社長は通り過ぎていた。

「何? 社長が通ったの? そりゃ、会社だから通るでしょう」

「まぁ、あの社長が一般フロアを歩いていたら驚くわよね?」

「…………え? いや……。そ、その通りっす」

み、皆は、社長がウィンクしたのを見なかったのだろうか……。いや、そのウィンクだって目にゴミが入っただけかもしれない。

いや……、俺の気のせいだ……。違うはずやねん……。





会議が終わり、休憩室で珈琲を飲みながら休憩する。

手癖でSNSを開いた。

この誰にも言えないモヤモヤする気持ちを呟きたい。誰に聞かせるわけでもない。呟くことで発散できたらいいんだ。

「……なんだ?」

だけど、開いたSNSの通知をみて呟く手を止めた。なんと、俺の過去に呟いた全ての呟きにイイネ♡されている。

「えぇ、キモチワル……」

イイネを押しまくっているその人物は“君はハート泥棒”さんだ。

これは、不気味だと“君はハート泥棒”のアカウントページを見たが、昨日登録したばかりのようでフォロワーもゼロ、フォローしているのは俺だけだった。

昨日、20時と22時に呟いている。

『僕の心は、君に奪われた。君の心は僕が奪いたい』

『初めてのアイラブユーは君に送ろう』


ぶつっぶつっ。

……鳥肌たった。

コイツは、中二病に違いない。変な奴にフォローされてしまった。これは、ブロックだと、ピッと片手でボタンを押し、SNSを閉じた。

「はぁ」

デカい溜息をついて珈琲を飲む。今日朝起きて雀に会った清々しい気持ちが戻ってこない。

飲んでいた珈琲が足らない。もう一杯飲もうとソファーから立ち上がった時、開いている休憩室のドアを、軽めにノックされた。

「やぁ、少しいいかい?」

「————へ?」

今日は、何度驚かされるのだろう。そこには、社長が立っていた。なんだか社長が子供のようにソワソワしているようにすら見えるのだが。

「社長……」

彼の圧倒的な顔面偏差値により、彼の顔にばかりに意識が集中する。これのどこが無表情なのだろうか。
その彼が休憩室に入って来て、ようやく彼が手に持っている物が目に映った。

社長は一輪のバラを持っていた。

「山川君……いや、拓郎君」

何故……言い換えた?

これは、もう気のせいではない。俺は、俺は……舞い降りたエンジェルだったのか?
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