ラスボス推しなので! 魔王の破滅フラグ折って溺愛されます!??

モト

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人間姿……いや、魔王姿? のレーベンが俺の前にいる。


「レーベン様、どうして?」


問いかけにレーベンが振り向いた。


ふゎあ! 振り向いたらアカン!! めっちゃかっこいい! なんだ、その欠点のない顔は!


「ホツは私だと分かるのだね。おりこうさんだ」

猫姿でも目を細めた顔をよくしていた。それが、ちょっと好みのイケメンに変わっただけでこんなに破壊力があるとは……!!


「………くっ! これが、魔王のスペック!! 破壊されてしまう!」


アカン。顔がイケメンだ! そのびっちりした手袋はどこから入手したの? 手首しっかり見える長さの手袋は計算高いよね!? 今着ている黒い服は魔法かなんかでとってきたの? 長いマントもカッコいい。長い髪の毛くくりてぇ。

なんか、全体的に性癖が凄すぎて……。



「私がどんな姿でも、その反応なのは嬉しい事だね」

そうして、猫同様足音を立てず、俺に近づいてきた。

あ……、待って。近づかないで欲しい。今、芸能人にあったみたいな反応だから。


だが、レーベンは後ろにまだ中ボスがいるのに、ソイツを無視して俺を抱き起こした。


「大丈夫かい?」

レーベンの身長は186cm、大して俺は168cmとちょいチビ気味なので、すっぽりと彼の腕の中に入ってしまう。

レーベンは、サラリと俺の額の髪の毛を寄せた。

「……………ひゃい」

至近距離……辛い。目を合わせられずに泳いでしまう。

思わず下を向いてしまうと、その顔を上に向けられて、何故かレーベンの顔が近付いてきた。

————え!?


「ひょわあぁわあわわあああ!! レ、レ、レ、レ、レーベン様ぁ!? 何を!?」

レーベンの顔を両手で押さえる。彼の眉が少しひそめられた。


「キスは毎日していることだろう?」

え? キス? キスをいつした!? 俺とレーベンがいつキスした?? ってあれか!?

猫ちゃんがいつもペロペロしているのは、あれ、キスだったのか!? 


「ほら、手を離しなさい」

「ひょへえぇえええ————……」


レーベンが有無を言わさず俺の手を顔から剥がす。

え、マジか。この顔にキス……キスされちゃうんか!?


ギュウッと目を瞑った時に、中ボス魔がこちらに魔弾を撃ってきた。

分かるよ。目の前でイチャつかれたらリア充死ねってなるもんね。俺も独りぼっちのクリスマスイブに何度か行き交うリア充を心の中で魔法弾打ったから。


レーベンがいるからか、先程と違って全く慌てない。俺の予感的中でその魔弾は俺達に当たる前に消えた。



中ボス魔が、舌打ちをして、再度魔弾を撃ち込んだ。一発、二発、結果は同じ。中ボス魔の手から魔弾が放たれた時に魔弾がなくなる。

中ボスは驚きながら何度も撃ち込む。


「同じ芸しか出来んのか」

「な、何を……!?」


鬱陶しそうな顔をしたレーベンは、俺が知っている魔王様の顔だ。

睨まれた中ボス魔は、ハッと何かに気が付いたようで、頭を下げた。


「もしや、魔王の器ですね!? どこかの人間国で御身が捕まえられていると噂話としてございましたが、まさか本当にこちらにいらっしゃるとは。助け出す事が出来て大変嬉しいです」


中ボス魔は先ほどまでの低い声とは違い、媚びた声色でレーベンを見た。


魔王の器? 聞き捨てならない事を言った。

では、まだ、レーベンは魔王になっていない???


「人間どもに荒らされたこの世界を魔王様の力で元に戻しましょう! 今こそ、人間どもに報いるのです」


おーお。なんか定番の魔族的コメントだな。

中ボス魔は、レーベンの反応を見ずにベラベラと話し出した。レーベンの表情は眉一つ動かさないし表情から感情を読み解くことが出来ない。


「つまらん」


レーベンが手を振りかざした瞬間、魔は消えた。

音も何もない。


ゾクリと恐怖が身体を巡る。何をしたわけでもない。手をかざしただけだ。



強いなんてモノじゃない。神レベル。いや、魔王はそういうレベルだってゲーム内で言われていた。

これ、人間に倒せるレベルなのだろうか。———でも、ゲーム内では確かに倒せたのだ。破滅フラグは確かに存在するはずだ……?


俺は、レーベンを見た。表情は変わらない。

これが、レーベン……。


彼はきっとこのことに何も感じていない。だが、それを淋しいと思うのは俺が彼のエンドロールを見たからにすぎない。ゲームは彼の一部分しか表現されていないから、きっとまだ知らない事がある。


「ホツ、怖がらせたかい?」

レーベンが表情を和らげて俺を見ていた。俺の様子を確認するようだ。


「———……いいえ。レーベン様」


俺だって、魔族を倒す。先ほどもアドルフ王子達に指示して倒した。

不思議にも恐ろしいと思ったのはレーベンではなくて、この世界の方だ。


レーベンはマジマジと俺を見つめて、少し口角を上げた。





砂埃が少しずつ消え、辺りが見渡せるようになると、城内で隠れていた人達の声が聞こえる。どうやら、戦闘中は城内に皆避難するようだ。


「ホツ―!!」

アドルフ王子達が俺を呼ぶ声がする。その声にハッとする。

「レーベン様! 身を隠さなきゃ! どこかに隠れて……!! 塔の中は?」

「塔はあの魔によって壊されたよ。鎖もね。まぁ、ホツとどこかに行くつもりだったから丁度良かった」


丁度よかったのか?

とりあえず、レーベンを皆の目に触れないように移動しなくては。まだ砂埃と混乱で何とかなる。

そう思って彼の腕を引いた。


「ホツ! 無事でよかった」

「あ、アドルフ王子!」

どうやら、俺を急いで探してくれたようだ。息を切らして俺を見てホッとしている。

この場合、とても迷惑なんだけど——……。


レーベンをどう誤魔化そう。いや、魔王になってはいないようだし? そもそも人型だし、なんとか誤魔化せるような気がしてきた。


「ホツ、君が手を繋いでいる御仁はどなただい?」

はい。きた。すぐ質問ありがとうございます!

「えーっと、この人は……」

「彼氏だ」

「そうそう、彼氏って、ぇえ!? 彼氏!? うえぇえ!?」


レーベンはどの顔で言っているんだ!? 


横を見ると、さっきのレーベンとは打って変わって、無表情っぽいのに口角だけは上げている。典型的な愛想笑い??? 


「ホツ!? どういう事だ!?」

「え!? あ、あの」

しどろもどろになる俺。そんな俺の手を恋人繋ぎし始めるレーベン。って何をやってるか!? この人は!?!?


「私のホツを保護してくださっているアドルフ王子ですね。私、先日ホツと城下町で偶然出会い恋仲になったのですが、どうやらホツが城から出られないようで、こうしてここまで会いに来たのです。そしたら、この騒ぎでしょう。私も驚きました」


ペラペラとレーベンが嘘八百話しはじめる。

え? レーベン、どこのキャラですか? 多重人格?


「ホツ? そうなのかい?」

「え? は、はい!? えぇ。そうなんです。ひ、一目惚れってあるんですねぇ~、ははははははは」

「ですが、城がこんなに危ない場所とは思いませんでした。そんな城に恋人を置いてはおけません。ホツを連れて行きます」


そう言って、恋人繋ぎのままレーベンが移動しようとする。

敬語のレーベン。社交が出来る魔。動じず嘘をつくのも上手い! スタンディングオベーションを送ろう!


「いや、私にはこの世界に連れてきた責任と義務がある!」


アドルフ王子がレーベンの腕を掴んで止めた。その時アドルフ王子には背を向けていたから分からないが、横にいた俺にはレーベンの嫌そうな顔がハッキリ見えた。

だが、すぐに切り替え、アドルフ王子と対面する。


「恋仲を割くとは不躾な」

「非礼を詫びる。しかし、城内は安全だ。ホツの安全は守ろう。このまま、ホツはこの城で暮らしてもらう」


歯切れの悪い言い方ばかりするアドルフ王子がハッキリ言い切った。

先ほどレーベンが中ボス魔を一瞬で消したのを見ていたから、アドルフが何か言う度、ヒヤヒヤする。

アドルフ王子は消しちゃ嫌だ。


「レ、レーベン様! 俺、レーベン様と」

たまに会えるだけでいい。たまに顔を観にいかせてください。そう言おうとした。

彼が城を誰にもバレずに出て行く。これが当初の目的であった。それが知らず叶ったので万時OKだ。このまま、レーベンと別れるのを覚悟する。


「では、許可が下りるまで、ホツの部屋で暮らさせていただきましょう」


レーベンの目は笑わず口角だけ上げた。

なんだか、有無を言わさない。

アドルフ王子が、いや、その……とまた歯切れ悪くするのを、レーベンがすかさず、恋仲を割くのは極悪非道だと言い切る。


「…………では、隣の部屋を用意しよう」


アドルフ王子、押しに弱すぎるな。











魔族達の襲来があったのにも関わらず、城内の皆は落ち着いたものだった。

たまたま通りかかったメイドさんに聞いてみると、魔族の襲来はよくあるそうだ。だが、一度もこの城を破壊された過去はなく皆、城外へ出なければ大丈夫だという認識を持っていた。


そして、何故、北の塔が少し破壊され魔獣がいなくなった事に騒ぎが起きないのだろう。災害級だぞ!? 災害級がいなくなれば騒ぎになるだろう!?



違和感に首を傾げ、部屋に戻ってベッドにゴロリと寝そべった。

この異世界へ来て、驚きの連続だ。


そして、今、思い浮かぶ三つの疑問がある。


まず、一つ目、レーベンの鎖は切れたのだろうか。 本当に? あんな中ボス魔が壊すことが出来る代物でレーベンを拘束出来ていた?


二つ目は、レーベンは魔王の器ではあるが、現状は魔王にはなってはいない?


三つ目。一番不思議なのは、番って何をするもんなの? 精神的な繋がりだと思っていたけど? ん?

アニメキャラの推しを「俺嫁」と言って痛車にしたり、推しキャラの誕生日に豪華なご馳走を食べて祝ったり、フィギュアや抱き枕と一緒に眠ったり。そういう精神的な推し心なのかと思っていた。

だって、猫のレーベンは可愛さ溢れるし、ぺろぺろも可愛し、毎日キュンの連続だと思った。


「ホツ」

レーベンの声がする方へ向くと、猫サイズのレーベンが窓から入ってきた。いつもの黒猫。だが、室内へ入ると猫から人間の姿に変わる。

「え? レーベン様!?」


この姿は変幻自在なのか!! 


「レーベン様の本当の姿はどちらですか?」

「ふ。どちらも私。だが、ホツが魔獣姿だと分かっていないから。人間の姿に変化する必要があった」


レーベンが人間の姿になるのに、鎖が邪魔をしていたそうだ。それから、北の塔にもなんらかの封印が施されていて魔力がセーブされていたそうだ。

俺が何か言った言葉でレーベンが焦って人間になったと言っている。


ゲームでは魔王に覚醒したから魔獣の姿から人間の姿に進化したと思っていた。だけど、現実は、鎖がレーベンの力を封じていて人間の姿になれなかったというわけか?



「俺が、魔獣姿だと何が分かってないんです?」

その質問をした時、レーベンが俺の横にきた。ね、猫同様に密着するな。肩と肩が触れ合っているではないか。

レーベンは、急に緊張して固まる俺の頬に手を添え、ペロリと頬を舐めた。


「ひぅっ!?!?」

肩を少し押されただけでベッドに沈む。



「この姿なら、よく分かるだろう?」


レーベンは悪役さながらな、ニヤリとした笑みを浮かばせた。



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