ラスボス推しなので! 魔王の破滅フラグ折って溺愛されます!??

モト

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『何が「困ったぁ!」なのかい?』


庭を散歩している最中、つい独り言を言ってしまった。いつの間にか傍に来ていたらしい猫サイズのレーベンが首を傾げる。


「レーベン様、いつの間に。……いえ、聞いてもらおうかな」

俺は花壇前のベンチに座ると、膝にレーベンが座ってきた。


アドルフ王子とシドルにこっぴどく塔の魔獣に呪いはかけられていないか検査された上、色々質問攻めにあった。


レーベンが俺を脅したり操って世話役をさせているのではないか、人間に何かしようと企んでいないか、という内容だ。

レーベン自身は“人間なんかの小物相手にしていない”感が出ているのに。人間側はやはり魔は悪という考え方なのだろう。頭から悪いモノとして捉えている世界なのかもしれない。



『大丈夫さ』


報告を一通り終えると、レーベンは興味なさそうに言った。


「いえ、レーベン様。人間を侮りすぎが破滅フラグなのです。人間はクエストの度にランクが上がり魔力が上がります。さらに超回復の薬を手に入れ、秘宝の剣を授かれば、時にはチート能力を身に着ける事だってあるのです」


この数日間で、レーベンは穏やかな性格だと知った俺は、調子に乗って、レーベンに言い聞かせた。


『人間とは怖い生き物だからね』

怖い、と言いながらレーベンは背伸びをする。それから撫でてと言わんばかりに身体を密着させる。望む通りに背中を撫でると、目を細める。

彼の時間は、猫みたいにいつも穏やかで気まぐれだ。


「本当に危ないのですよ?」


そうしてレーベンが俺の首筋をペロペロと舐め始めた。あまりのくすぐったさに我慢できず「んっ」と声を漏らしてしまう。それでもお構いなしに耳に首筋に舐め続けられる。


『ホツが破滅フラグとやらを折ってくれるのだろう』

「……はひ! 勿論っす……! と、とりあえず、も、もう……舐めるのはいいです」

レーベンの顔に手を当てて、ストップさせる。

なんか、舐められるの続けられると妙な気分になる。


『あぁ? 人間は段階がいる生き物だったかい?』

「段階……? 段階? なんの事ですか? あぁ、そうか。フラグの話か。えぇ、段階的にはそろそろ塔から抜け出したいです。誰にも……んふっ、もうレーベン様、手舐めないでくださいっ! ははっ! くすぐったい」

『抜け出す? 塔から出て行きたいのかい?』


レーベンが意外そうな声を出した。

俺は次の予定を話した。レーベンの鎖を壊し、誰にもバレないように城から出る。住みやすい土地に移って、そこでのんびりと自由に過ごせばいいのではないだろうか。


レーベンのフワフワの尻尾がふわりと上に上がった。


『プロポーズとかいうモノかい?』


「へっ!? プロポーズ!? なんで、そういう事になるんすか!? 恐れ多い! 違いますよ!! 破滅フラグの話です!」


『——……私は君が好ましい』


「え! はいっ! ありがとうございます! 俺も推しです! 大好きです」

『……………』


レーベンは俺の首から顔を離し黙った。


ふぅ……俺、猫ちゃんに舐められて変な気分になるのはどうかしている……。


「ん?……あれ? 春のような気候だったのに、寒い?」

空気がどんどん冷え切ってくる。急に真冬のような寒さだ。ブルブル震えてきた。


『私に抱き着けば、寒くはないだろう』

「……え? 胸キュン」

レーベンは何気に密着するのが好きな魔獣だなぁ。しかし、そのフワフワを抱きしめていいのならば、全力でもふらせていただきます!!


ニヤニヤとその身体を抱きしめようとした時、城の中心部分でドンッっという何かが建物に落ちた音がした。


「ひゃいっ!?」


驚いてレーベンをギュウッと抱きしめた。

なんだろうか。中央の方から砂ぼこりが舞っている。


何度も話しているが、この世界は戦いメインのオンラインゲーム。いつ、何時そういう戦いシーンに入るか分からないのだ。

まさか、急な破滅フラグではないだろうか。

「レーベン様、危ないですから俺から離れないで!」

『……』


そうは言っても俺も怖いのでレーベンを腕に抱きながら壁伝いにこっそりと近くまで向かう。

様子だけ見て危険だと判断したら猛ダッシュで逃げよう。うん。


こそっと物陰から現場を見る。

アドルフ王子、シドル、ラザエル、リュックの四人が円陣を組んでいる。その前には三体の魔族の姿。

羽が生えて頭には角が生えている。雑魚キャラじゃない。

「なんで……中ボス? 序盤なら出ないレベルの魔族が出てくるんだ?」


ラザエルが魔族の一体に剣を向けた。

続いて、援護射撃と言うようにシドルが魔法弾を撃ち込む。


ラザエルは初期装備、シドルの今の魔法は初期レベルの呪文だ……。他のキャラも初期の攻撃をしている……!!とてもじゃないが、初級が中ボスレベルに敵うはずがない! 弱い!!


その証拠に、どの攻撃もシールドにて防がれる。


「このままじゃアドルフ王子達がやられてしまう」


このレベルで来るはずのない魔族が来るって事は、何か、ストーリーが変わる事でもあったのだろうか!? 例えば異分子でも入ったのか?

明らかに魔族側に弄ばれている。


『ふむ。ホツ、ここにいては魔法弾が飛んでくるよ』

「……」


俺は、抱きしめていた彼を地面に降ろして塔に戻るように声をかけた。

その間にも攻撃がピカピカと光っている。俺は、そのピカピカ無駄撃ちしている彼らの方に走った。


この場合、俺が行ってどうこうなるレベルではないかもしれない。

だけど、明らかに何もかも………………


「ドヘタ——!! こいつら防護シールド強いからラザエル・リュックは引っ込め! アドルフ王子は前に出てシールドを張りながらシドルをサポートしろ! シドルは毒で攻撃しろ!」

「ホツ!?」

「毒だ! それ以外の攻撃では敵わないから!」


俺は、大声出して指示したため、魔族にギロリと睨まれる。

ひぃ! ビビりながら壊れた瓦礫の後に素早く隠れる。隠れながら、指示を出す。


「いいから、俺の言う通り技を出せ!! リュックは守備につけ」

俺はいくつもの指示を出した。

彼らは、根本的に素直なのか、俺の指示通りに攻撃し始める。そうなると、こちらの有利だ。この魔族とは何度も戦っている。弱点も熟知している……!!


ラザエル達も毒が有効的だと分かると、三人の守備に徹する。

「ホツ! 君の言う通りだ!」

ラザエルが機転を利かし、シドルの毒を放つと同時に剣を振りかざした。


それを食らった魔族の一体は撃破。続いてもう一体だ。


その魔は、一体が撃破されたのに余裕だ。ニヤニヤと笑っている。先ほどの倒した魔よりレベルが上なのかもしれない。すると、二体のうちの一体がどこかに行こうとする。


「待て!」

「待って! ラザエル! 深追いは止めた方がいい」

ラザエルが叫んで追いかけようとする為、止めようと瓦礫から顔を出すと、一体の魔族が俺を見て笑った。そして、去り際に大きな魔弾を俺めがけて放ってきた。


「ひぃい! 俺、狙われた!?」


飛んでくる魔弾にリュックが魔法弾を撃ち込んだ。その魔法弾より明らかに魔族の飛んでくる魔弾の方がデカいのに、跳ね返り消えた。


「———え」


俺も驚いたが、リュックも自分の手を見て驚いている。


今の攻撃を消したのはリュックじゃない。もしかして……??

俺は周りを見た。

レーベンが優雅にレンガブロックの花壇を歩いている。


————レーベン様以外、いないよな……。


「ホツ!!」

アドルフ王子と他三人も俺の元にかけてきた。俺を守るように前に立つ。

アドルフ王子がシールドを張る。


「君の指示は的確だ! 本当は何者なんだい!?」

「次の指示を出してくれ!」


皆が褒めながら、指示を求めてくる。俺は、魔族の弱点を彼らに伝える。次はシドルの毒にアドルフの剣技を合わせて攻撃するように命じた。他の二人は守備。

彼らは俺の指示通りに魔族へと攻撃を始める。俺の読み通り、毒と剣を合わせた攻撃は魔族に効いていた。


しかし、初級レベルで登場してくる魔族ではない。何か異分子や別ルートが開かれない限り……。彼らのレベルが異分子により中級レベルに上がったとしたら……。

異分子?


つまり、俺という異分子により、彼らのレベルが上がり、中ボスレベルが現れた——? いや、俺をゲームの中に組み込むのは止めて欲しい。



その時、一体の魔族が去っていった場所で再び爆発音と砂煙が上がった。

「……あそこは、北の塔!?」


俺は、周りを見た。さっきまでレンガを歩いていた猫サイズのレーベンがいない。

もしかして、本体が襲撃に? 


アドルフ王子達四人は、一体の魔族を倒すので精一杯で手が回らない。俺、一人でどうこう出来るわけもないが、レーベンがピンチならば行かないわけがない。


俺は、北の塔まで走った。

ここ中央広場から北の塔まで全力で走って3分程だ。

すると、北の塔に向かって先ほどの魔族が魔弾を撃ち込んでいる。だが、砂埃を立てるだけで

北の塔は壊れていない。この城全体が強い魔法により守られているのだ。

今の中ボス程度が壊せるような代物ではないはずだ……。

「ごほっ!!」


砂埃で前が見えない。どれだけの魔弾を撃ち込んでいるのだ。

北の塔の入り口へと向かうと目の前に瓦礫が降ってきた。少しずつ壊されている!?



「そこの人間、この塔のドアは魔族が開けられないようになっているらしい」

「!!」


砂埃で周りが見えなくてすぐ横に魔族がいることに気がつかなかった。さっきの中ボスだ。言葉を持っているという事は、中ボスよりも強いかもしれない。

急いで、魔族と距離を取る。が、すぐに詰められる。


「塔のドアを開けろ」

「……なんで?」


魔族は俺の問いには答えず、ニヤリと笑った。

これが、魔か……。人間が魔族を嫌いなのがよく分かるな。人間を嘲笑っている。


「答えないなら、こっちも方法があるっすよ!」

俺だって、ムキになる。

レーベンの事を知っているのか、確かめたいだけなのかは分からないが、レーベンの部屋の鍵をキラリと見せて、思いっきり空へ投げつけた。

そのタイミングで俺は塔の中に入ろうと————…………できなかった。


気が付いたら、俺は首根っこを掴まれ地面に押さえつけられた。

「ぐぅ……う。」


いたい。この世界に入って二回目の痛い……。マジクソだ。痛いのは嫌いなのになんでまた痛い目に遭ってんだよぉ!!

しかも、今度のは本気のヤバい。

レーベンとは明らかに違う。本当にヤバい時は、冷や汗が出てきて動悸が治まらない。


何も出来ない奴がこんなに無茶するんじゃなかった。ゲームじゃないのに……!!

でも、俺、俺……やっぱり、この世界に来て、レーベンを助けたいと思ったんだもん~~~!!



「私は私のモノを傷つけられるのは嫌いでね」

俺は地面に押さえつけられていたから見えなかったが、レーベンの声がすると、地面がピシリとヒビ割れた。

押さえていた手が離れたので、慌てて四つん這いで離れると、魔族と一人の男が……。


一人の男って???


「何者だ? その姿、人間か? いや、魔族ではないか」

魔族側も突如として現れた男に困惑気味である。俺も困惑気味である。



「つまらん」

紛れもなくその声はレーベン!! だが、猫姿ではない! 長い髪の毛、切れ長の目、赤い瞳、————これは、魔王姿レーベン!?!?!?


「レ、レーベン様ぁあぁ!?」


覚醒させるはずではなかったのに、覚醒しちゃったのかぁ!?


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