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しおりを挟む『ほら、そんな囲いの中に入っていないで、おいで』
そう言って、レーベンは囲いを瞬時に消してしまった。消した……。
先ほどまでレーベンの背後にあった店がない。ズラリと白い洋風の建物が並んでいたのに。
その光景を見て、トスンッと尻持ちをついた。
10軒ほどの店の面積がボコリと消えている。何もかも無くなっている。あるのは大きな丸い凹み……。
「…………」
その大きな凹みにどんどん人が集まり騒ぎ始めた。周りの人間も俺同様に何が起きているのか理解出来ていない。
イケない! このまま騒ぎになったら……!!
「……っ!!」
『ホツ!?』
俺は、レーベンの身体を抱きしめてその人だかりから反対側へ走って逃げた。
やばい……どうしよう。
この地面の凹みはレーベンの仕業? だとしたら、先ほどここにいた悪者以外にも住んでいた人、丸ごと……消して?
サーっと冷や汗が出る。
レーベンはやはり魔獣なのだと改めて実感する。
でも、レーベンの正体を見せるわけにはいかない。騒ぎを起こしたのがレーベンの仕業だとバレてしまえば、破滅フラグを折るどころか立ってしまう。
『心配することはない。振り返りなさい』
「え……?」
レーベンが言った時、ギュルっと俺の身体が方向転換した。
「っ!?!? ひぇえっ!!!」
そうして、先ほどの馬車のところまで勝手に足が歩こうとする。力を込めて止まろうとするのに足が勝手に動く!!
「えぇっ!? これ、足がっ! 勝手に!? レーベン様!?!?」
『ほら、大丈夫だから』
「————え?」
路地から元の場所に戻ると、先ほどの穴がない。
———え? 建物も人も……あ、さっきの悪者までいる。
だが、皆、驚いたようでキョロキョロと周りを見たり、腰を抜かしている。
「えぇ……?」
『少しね。おいたが過ぎたようだから仕置きをしただけ。幻覚を見せていたんだ』
げ、幻覚!?
その一言を聞いて、腰が抜けた。
くにゃくにゃと地面に座り込んでしまう。
「ふぇ……、レーベン様……魔獣なのに、や、や、やざじぃ~~!! よかったぁ!! 俺、おれぇ、てっきり、てっきりぃ」
レーベンが人をやっちゃったかと思った! 魔獣だから俺の常識とは違うから!!
それに、人間側だって、魔族も魔獣も倒しまくっている。
この世界では、VSは当たり前だから、レーベンもてっきりそうだと思ってぇ~!!
俺は腕の中のレーベンを持ち上げてその胸にグリグリと頭を擦り付けた。
「なんかぁ~、勝手っすけどぉ~~、ホッとしたっす~~!!」
『あぁ、別にそうしてもよかったのだけどね。私は計算高いから』
「計算?」
俺は彼の胸から顔を離し、レーベンの顔を見る。
『そう。ホツに好かれる計算をね』
「ぶっ!?」
———……流石に照れた。
う、うそ。レーベンがそんなクサイ事を言う!?
ゲームのレーベンは、黙れ、死ね、無駄、消えろ。とかそういうキャラなんだよ!?
こ……これ、覚醒した姿で言われたら、溶けたかもしれない———……。
「鼻血でそうれふ」
『ふ』
微かに笑った声が聞こえ、するりと俺の腕から肩へレーベンが移動した。そして、ペロリと俺の唇を舐めた。
『私の破滅フラグとやらを折るホツを見るのは楽しそうだから、私も同行させなさい』
「……え?」
彼の破滅フラグを折るのに彼を同行させる……? いや、この猫の姿のままなら問題はない。むしろ、強い守護霊がいるようで千人力だけど…………。いいのか?
『では、そのダサい服から買い直そう。さ、買い物へ行こうか』
え? ダサい? この服アドルフ王子に揃えてもらって格好いいけど。
思わず自分の服を見ると、先ほど悪者に渡したウエストポーチが腰に戻ってきていた。見ると、お金がアドルフ王子にもらった倍以上はある。これってあの悪者たちから……?
『さぁ、いこうか』
レーベンが風を起こしたのか、俺はフワリと背中を押されるように歩きだした。
この国の服装は、主に西洋文化を取り入れているようだが、西洋、東洋、現在ファッション、城下町だけでも様々な服装が目につく。ド派手な衣装もあれば、魔法使いのローブのように真っ黒な衣装もある。
とりあえず、俺の着ている服を脱いでレーベンが選んだ服を着るよう指示される。アドルフ王子が買った服と似たりよったりな気がするが……この国の者達から見たら若干違うのだろうか。
それから、あっという間に両手に紙袋いっぱい買わされ持たされている。
「レーベン様ぁ! 俺、そんなことよりも硬化石を手に入れたいんです~!」
まだ、買い足らないのか靴屋に入り始めるレーベンを止める。買い物好きな猫も魔獣も見たことない。
ていうか、なんでそんなに人間社会に馴染んでいるんだ!?
『ホツ、もう少しの辛抱だから』
「えぇ!? お、俺の靴ですよね!? もう充分ですって!」
『そうかい?』
「えぇ! もう最高に嬉しいです~~!」
『……』
何やら全然納得していない。まず、魔獣が人間の服買うっていうのが斬新だから!
もう、これ以上買わされたら、目的である硬化石を持って帰る事が出来ない。俺は、レーベンの身体を抱きしめて、鉱石ショップに向かう。
なぜ、硬化石が欲しいかと言うと、レーベンを逃がすためには鎖を断ち切らなくてはならない。その道具を作る為に硬化石が必要だ。
鎖にはいくつもの魔法がかけられている。そして、レーベン自身が壊せないように呪いが込められた鎖だとナレーションで読んだ。
それって、レーベン自身じゃなければいんじゃないか……?
そこで、硬化石でクリッパーを作り、レーベンに強い魔法をかけてもらい、俺があの鎖を断ち切る。
鉱石ショップへ行くと様々な鉱石が売られていた。どれが硬化石なのか分からないので見ていると、レーベンが横でそっと教えてくれる。
それをレジに持っていくと、店員が表示した値段の高さに驚いた。
これ、S級倒した報酬レベルの金額だ……。
ドン引きだ。……だが、アドルフ王子とレーベンのおかげで硬化石が購入できる分だけのお金はある。
俺は、支払った。異世界でケンカを吹っ掛ける勇気はまだない。
……絶対、ぼったくりだ。これ。
そう思って店を出た途端、店の地面が突然陥没し———……店がぺしゃんこになった。
「えぇぇぇぇええええ!?」
どりゃーと尻餅をついていると、店の中から店主が大慌てで出てきた。
『ホツ、人間は怖い生き物だから気をつけなさい』
「……ははは」
もしかして、レーベンの仕業? ……俺も人間なんだけど、レーベンに推されている側でよかったぁ~!
買い物が終わって城に戻る頃には、城下町はデコボコの地面になっており、つまりはそれだけぼったくりのお店があったという事なんだけどさ。
城に戻ると、城下町に地盤沈下が相次いだという処理をされていた。俺を心配していたアドルフ王子にかなり謝罪された。
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