だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト

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番外編

番外編 女狐フランの妖艶なあざとさ ③ サモン視点

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「……っ、フラン?」

 零れ落ちる涙に動揺している間に、フランは机から立ち上がって、白濁で濡れた手をハンカチで拭き、乱れた衣類を整え始める。

 まだ身体の興奮は治まっていないが、それを気にせず下衣を履いた。
 ふらつく足取りが心配で、手を伸ばすと──またパシッと軽く叩かれ、拒否される。

「──ぐず。っ、いい。僕に何もしないで」
「だが……」

 言いかけて止めたのは、彼は俺に背を向けたからだ。
 拒絶。……フランからハッキリとした拒否などされたことがなくて、真っ青になる。
 
 ──俺のことが嫌になった?

 そう考えただけで血の気が引き、ゾッと背筋が凍りつく。
 助けるのが遅くなったから? 守ると言って信用を無くした? それとも他になにか自分は気に障ることでもしたのだろうか。

「悪い」
「──……何に対して謝っているの。サモン君の悪いところだよ」

 そう言いながら、丸めた背中が揺れる。床に雫が落ちて、まだ涙が止まっていないことを知る。
 自分が何かしたことは明らかで、こんなに傷つけてしまったなら、謝罪以外の言葉が思い浮かばない。

 
 動揺していると、彼は振り返らず出て行こうとする。火照ったその身体で外に出れば別の問題もあり、その腕を掴んだ。

「フラン、待て。落ち着いてから外に出よう」
「っ……」
「まさか、どこか痛いのか?」

 彼は首を横に振るが、様子がおかしい。

 暫くここで休むように声をかけると、彼は俺の方に振り返った。彼の顔は下を向いているが、完全に拒否をされたわけではないと分かり安堵する。

 目線が合うように地面に膝をつき、泣いている顔を見上げた。
 目が合うと、彼はぎゅっと強く瞼を閉じるから、ポロッと涙が俺の頬に伝う。
 
「どうして泣いているのか、教えて欲しい」
「……」
「言ってくれなければ、俺が謝るしかないじゃないか」

 自分の口はどうしてもっと上手く話を聞き出せないのか、これでは完全に脅しだ。
 自分の口下手さに内心怒りを覚える。
 だが、俺に甘い彼は、俺を謝らせないために小さな声で呟いた。

「……僕じゃ……、っ」
「……」
「君が……僕じゃ、……勃つわけないだろうって」
「……え?」

 その言葉に息を飲み、苦虫を噛み潰したような顔になる。
 ──なんてことだ、乗っ取られた最中の意識があるじゃないか。

「うっ、ひっく。君に反応して欲しくて、……っ、頑張って、自慰とか恥ずかしいこととかしてたのに、全然……、っ、反応してくれなくて……、冷たくて」
「いや、あれは」
「……う、僕は……流石に……ひっく、傷ついた、よ」

 フランに対して言った言葉じゃない。

 なのに、どうして彼がそう思っている?

 あれは明らかに霊がフランの身体を操作していて、フラン本人の意識はなかった。反応も言葉もどこもフランではなかったというのに。

 だが、自分の考えにハッとする。
 ──中にいたフランは霊と意識が繋がっていた。
 霊に取り付かれている自覚がないフランは、記憶が一部抜け落ちているのではないか。

 それで、強くショックを受けたところだけ覚えている?

 目を強く閉じたまま、静かに涙を零すフラン。
 そんな悲しそうに泣く彼を目の当たりにして、怒りで血管が切れそうになる。

 ──あの性悪クソ狐、最後にとんでもない置き土産を置いていきやがった……。
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