獣人王の想い焦がれるツガイ

モト

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コバの様子 前半ケイネス視点

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※ 前半ケイネス視点


「コバが?」

 王宮の治療室で休むサハンの元に訪れていた。
 難民拉致問題についてコバ達の身に起きたことをサハンから報告を受けているのだ。

「はい。コバ様は拉致された難民達を始終勇気づけておりました。あの場は、コバ様がいなければ酷い混乱に陥っていたでしょう」

 サハンは侵入するためにわざと捕まり怪我を負った。
 犯罪集団はサハンが動けなくなるまで痛めつけた。奴隷として商品価値が下がることはしないだろうと、サハンは高を括っていたがかなり酷く扱われた。

 コバとスーリャが応急処置している中、意識を戻したサハンは状況を把握するために沈黙していた。コバの冷静な応急処置、人々の話を聞く術に驚かされた。

 少しの時間、捕まっていた者達は一つに団結していた。それをまとめたのはコバだ。互いに見ず知らずの者達がコバに魅了されていたと、サハンはケイネスに報告した。

 横でケイネスと共に報告を聞いていたアトレが口を開いた。

「話を聞くだけでは信じがたいですね。コバ様はあどけなく、人を引っ張るタイプには見えません」

 混乱を制し一つにまとめることなど、戦術家でも難しいだろう。
 アトレから見たコバは一般常識も持たず学ばず子供のような存在だと言うが、サハンは首を横に振った。

「いいえ。コバ様には天性なのか生き抜く上で身に付けたのか、人の心を動かす才がございます」

 サハンは疑うアトレに確信をもって意見を言った。


 サハンの話を聞いて難民達の状況がよく分かった。
 事件の後始末の際には、国や王への苦情が必ず出てくる。しかし、今回は何故か難民からの苦情は少なく感謝の声の方が大きい。もしかしたら、コバの働きのおかげかもしれないと思った。

 だが、壁に登って助けを呼ぼうとして手に酷い怪我を負った。手当をした兵士から報告を受けたが、「うん? こんなの慣れているよ」と何ともない風に話すそうだ。

 コバには指に爪がない。きっと指の爪が生え変わらないほど過酷な生活をしていたのだろう。早く、そんな慣れは忘れてもっと自分を労わって欲しい。

「分かった。ご苦労であった。身体をしっかりと休ませなさい」
「はい」

 サハンは全治三か月だと診断を受けたが、強固な身体を持つサハンは元気な様子でそれほど日数がかからず完治出来そうであった。
 治療室を後にしては会議室へ向かった。

 



◇◇コバ視点◇◇



 俺はまた一人、屋根上で考え事をしていた。
 王宮内は視線があって気が削ぎれるし、解放感があって考え事をするときはよくここに来ていた。
 そこから見えるフルゴルの街は小さく建物も何もかも玩具のようだ。だけど、そこに多くの者が住んでいる。ケイネスはそれが見えている王だとコバは感じている。でも、自分が王の傍にいることがイメージ出来なかった。何をしていいのかその知識がない。

「うん!」

 うんっと自分の決めたことに頷くと、モヤモヤした気持ちが減っていく。ケイネスの傍にいるための行動を考えるのは逃げることを考えるよりずっと楽だった。

「俺、自分に嘘をついてしんどい方を選んでたんだな」

 決めると俺の行動は早い。
 まずは召使い達に謝罪し、彼等の話を聞き王宮で過ごすために必要なことを教えてもらい始めた。召使い達は難しいことから覚えさせようとせずコバのレベルに合わせてゆっくりと教えてくれる。

 俺が急に変わったことに召使い達は我がことのように喜んでくれた。

「あと、勉強を教わりたいんだ」
「まぁっ! まぁまぁ! なんて喜ばしいのでしょう!!」
「そうかな? 読み書きからなんだけど……」

 簡単な文字はルイーダに教わったが難しい文字は分からない。急いで召使いがどこかへ報告すると(別にそんな急がなくても……)すぐに教師が手配された。


 何もやることのない王宮だと感じていたけれど、考え方一つで毎日やることだらけになった。

「コバ様、詰め込みすぎではありませんか? 慌てなくてもゆっくり覚えていけばいいのです」
「あ……うん。そうだね」


 でも、俺は早く最低限のマナーを覚えたかった。
 口先だけではなくちゃんと行動して、ケイネスに自分は変わりたいと思っていることを伝えたいと思っていた。子供を産んで順番が変わり、ケイネスからの求愛も耳に届かない状況だったが、ようやく受け止めることが出来始めた。



「コバ様、王から伝言がございます」

 それらに奮闘していると、ケイネスから晩餐会の誘いが来た。
 以前と違って断る理由がない。急というわけではないのだが、俺にとっては急に感じて召使いの前で固まった。

「あの、コバ様? お嫌でしたら無理はしないでいいと王も言われております」
「——……あの、さ。まだ、作法とか分かってないんだけど……いいのかな?」
「えぇ! 王も格式ばった晩餐会ではなく普段のコバ様と食事をなさりたいだけだと思いますので」

 それでも、俺が“ちゃんとしたい”と言う意気込みは召使いには伝わっていて、料理人が食べやすい柔らかいモノを明日の晩餐会では出すと言ってくれた。









「う~~~~~~~~」

 夜明け前まだ真っ暗の闇の中、一人流しに立っていた。
 ジャーッと勢いよく水が流れる中、ゴシゴシと洗い物をする。

「う、やっちゃった。エッチな夢を見てしまった……」

 俺は夢精をして下着を汚してしまった。
 夢の内容ははっきり覚えていないけれど、確実にケイネスと睦み合っていた。

 だって、俺の事あんなに優しく触るのは王しかいない。

 ケイネスに晩餐会へ誘われただけで、自分のこの反応。

「俺ってば……、俺ってば……」

 ケイネスに出会うまで性行為は苦痛を我慢する物だと思っていた為、自分の反応がとても淫らなものに感じていた。

 今日の晩餐会が無事に過ごせるか心配になってくる。慌ててまた失礼な態度をとってしまわないだろうか。

「はぁ……」

 下着を洗い終えたコバは部屋に戻っているとギクリとした。
 コバは柱に掴まり上を見た。行き止まりの天井だ。窓から外に出て壁を伝った方が早いと、窓の縁に手足をかけたところ、声をかけられた。

「……君はいつもそうやって外に出ているのかい?」

 ギクリとした正体は、ケイネスだ。彼の香りはすぐに分かってしまう。

「————ぅ、あ」
「上に登るのが好きなんだね。でも、暗くて危ないからおいで」

 おいでと言いながらケイネスの方から寄って来て、窓の縁に手足をかけて固まっている俺をひょいと抱き上げて地面に降ろした。

「こんばんは。コバ」

 近い。なんで、腰を掴んだままなんだよ!?

「お、俺はもう起きるから。…………おはよう!」
「そうか。君は早起きなんだね。おはよう」

 腰は掴まれたままの至近距離だから、やたらいい香りがする。

 俺はケイネスの胸元までしか身長がなく、上を向く度胸がない俺はケイネスのはだけた胸元に視線を向けているのだが胸板まで美しい。
 ジワリと口の中に涎が溜まっていく。いけない反応に俺はケイネスの腕を退けようと掴むと、逆に指を絡ませ返してくる。

「ぎゃっ!?」
 とうとう口に出てしまった悲鳴を手で塞ぐとケイネスは微かに笑った。

「君はすぐに私から離れてしまうから。今から少し中庭で散歩しないかい?」
「今日、晩餐会で会うだろ……………………………っ、……………けど」

 “けど、いいよ”と言う言葉が詰まる。そうこうしている間に手汗が酷くなってきてケイネスに気持ち悪く思われないか心配になってくる。

 すると、俺の手を引いてケイネスが中庭に向かった。ケイネスの方をチラリと見ると彼と目が合った。そのことが意外だというように彼は驚いた後、微笑んだ。

「けど、少しの時間ならいいって勝手に解釈することにした」
「……いいけど」
「————ふ」

 ケイネスの尻尾が揺れている。獣人は気持ちが顕著に表に出る。

 嬉しがっているのか? 俺がこんな態度なのに。



 中庭は月夜の光が柔らかく照らしていた。まだ日が昇って来るには少し早い。薄暗い中、ケイネスに手を引かれゆっくり歩いていく。
 ケイネスは自身が羽織っていた薄い上着をコバの肩にかけた。
 今、コバはシャツ一枚だけだった。寒くないようにかけてくれた一枚に彼の匂いと体温が残っている。

 ど……ど……。

 緊張しすぎて気分が悪くなってくる。近すぎる彼に距離をとろうと後退ると躓いてしまう。

「おっと」
「!!」

 腰を支えられ身体が密着する。ケイネスの顔が自分の間近にある。
 思わず目、鼻……そして口を見てしまう。
 自分は確実に変な表情をしているのが分かるが、それが伝わる事が嫌で睨んだ。なのに、彼は目尻を下げて俺の様子を見ている。

「あぁ、すまないね。この前までは君の視界に入る事すら困難だったから。宝石みたいなキレイな目に見られていると思うと嬉しくてね」

「……な、何言ってんだ?」

 ケイネスは俺が無視以外の反応を見せてくれることが嬉しくて堪らないと言う。コバが“悪い”と思っている態度もケイネスにとっては嬉しいのだそうだ。

 ————なんてこと言うんだ、この王は! 聞いているだけで鳥肌が立つ。

 少し座ろうと花壇前の長椅子にコバを座らせると隣にケイネスも座った。手は相変わらず繋がれたままだ。

「…………もう、逃げねぇから離せよ」
「本当に?」
「————あぁ」

 だから、離せよと言おうとすると、もっと手を絡められる。

「ずっと離れず、本当に私の傍にいてくれるのだろうか。一生」
「……」

 う、ぁ、……今、一生って言った。

 彼はにこやかに笑っている。にこやかに笑っているが目は真剣だ。
 次の瞬間には、その笑顔もなくなっていた。

「コバ、先日からずっとお礼を言いたかった。王宮に馴染もうと努力してくれたり勉学を始めたり。それがどんなに私を喜ばせていたか、君は分かるかい? 私は君が傍にいてくれるなら何でもする男だけど君の方から歩み寄られては我慢が出来ない」

「っ!」

「期待していいかい」

 俺は「う」「あ」しか言えなくなってくるのは、ケイネスと自分の距離がどんどん近くなっているからだ。
 ついには、ケイネスの髪の毛が頬に付くほど近づいていた。
 ケイネスの目に動揺している自分が映りこんでいるのが見える距離。

「キスしていいかい?」
「っ!」

 そう聞いてきた次には柔らかい唇が、ふにゅっとくっついた。
 だが、柔らかい唇はすぐに離された。

「キスしたね」
「————うぅ……」

 確認されながら、行為を進められると恥ずかしさが倍増する。
 ただただドキドキして、心臓が口から出そうで、逃げ出したい。

 何も返事をしないでいると、ケイネスが右頬に唇を押し当ててくる。その後、顎、そして左頬。柔らかい唇が押し付けられる感触にゾクゾクしてしまう。

「……ひぃぃ」

 その唇がまた唇に近づいてきて、心の悲鳴を上げながらギュウッと目を瞑った。
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