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想い焦がれる相手
しおりを挟む 難民住居地は、人の出入りが増えた。
難民拉致事件後、ケイネスの指示でこの地には街灯が多く設置された。人の出入りが多くなると店も増えた。以前の薄暗くて陰気な住居地の様子からイメージが変わっていく。
「冬季が終わりますね」
難民達と話合っている俺にサハンが声をかけた。
「暖かくなると、もっと色んなことが出来るよ」
俺が商人を終え、この街を出るタイミングだ。
共に植物の栽培作業をしていた難民達はその手を止めて俺を見た。
「ありがとう。私は貴方様を支持します」
「貴方様?」
声をかけてきた中年女性を見た。その中年女性は難民拉致事件の際、一緒に閉じ込められていた女性だった。他にも俺が王の番だと知る者は多くいた。
でも、今の今まで俺が王の番だと誰も言わなかった。俺が一生懸命にこの地を変えようとしているのが伝わったからだそうだ。
悪評の王の番が難民住居地にいると知れば俺の身が危ないと皆分かっていたのだ。分かって一人一人俺のことを秘密にしてくれていた。
「こちらこそありがとう」
ししし、と笑うとそこにいた皆も笑った。
俺は背伸びをして、この地を離れようとした時、見知った匂いがして首を傾げた。
気のせいかと思った時、サハンの口があんぐり開いてマヌケ顔になっている。視線の先にいたのは……黒髪の男だ。長身で体躯がいい。同じく頭には布を巻いている。
「無視とはつれない」
「……へ!?」
声と容姿でその男を認識して、サハンと同じマヌケな反応になった。
「コバ。君がサハンと同じ反応するとヤキモチ焼くからやめてくれ」
「ケイネス!?」
「ここではケイと呼んで欲しい」
ケイネスは髪を黒色に染めて三つ編みに結っていた。俺同様商人の恰好をしている。
しかし、身から溢れるオーラは商人には見えず貴族だ。急に現れた美丈夫の番に驚いて赤面してしまう。
「どうだい? 結構似合っているだろう?」
「あぁ、それはもの凄く格好いいけど……」
格好いいと言われたケイネスはふふんと上機嫌になり、俺の腕を掴んだ。
「コバ、二人で出掛けよう!」
俺は彼に抱きかかえられると、ひょいと馬に乗せ、その後ろに彼も乗った。
「え!? ちょっ! へ?」
「ケイネ……いえ、ケイ様!? お待ちください!」
サハンがケイネスを止めようとして、ケイネスは威嚇した。
「コバの口からサハンさんと聞かされる度、心の底から嫉妬している。お前は来るな!」
「ケイネ……ケイ! アンタって変なところで……!」
最近、さらにケイネスは気持ちを俺の前に吐露するようになった。同時に互いに気遣って言わなかった事も話すようになってきた。
すると要求もなかなか通らなくなってくる。だけど、俺はそれが良い変化に感じていた。
「はは」
馬で駆けるので、あっという間にサハンが見えなくなってしまった。ケイネスが前を向いて子供のように笑っている。
「昔はよくこうして外に出ていた」
でも、両親……先代の王と王妃が亡くなり、王になってからはその責任から王宮から出てくることがなくなっていたとケイネスは話した。
きっと、良い王であろうと頑張っていたのだろうなと俺は彼の横顔を見て思った。
「コバ、ついに逆賊の首謀者達を捕まえた」
「——そうか」
過去、ケイネスがルムダンに来ることになった事件の共犯者もいる。ケイネスが半獣というだけで妬みを持つ者達だ。
「反逆者達、一人ずつ話を聞こうと思う。その時、私と共に聞いて意見を述べて欲しい。君の視点が欲しいんだ」
「勿論だよ」
振り向いて頷くと、ケイネスは前を向いたまま頬を緩めた。
「で、どこへ行くんだ?」
「ははっ、どこへ行こう。何も考えていない。こんなのは久しぶりだ」
「……」
俺の存在がケイネスをまたこうして自由に街に飛び出すきっかけになったならいい。
彼の心音を聞きながら空を見上げた。自分がなんの先祖返りかと聞かれたことがある。きっと羽の生えた鳥だ。鳥かごには入れない。だけど、空を飛んで道を教えてあげられるような鳥だ。
「どこへでも付いてってやるよ」
◇
暖かい季節。
草花が咲き、鳥が鳴き、虫も動物も土の中から出て青空を見る。
大国、スビラ王国の国王が本日結婚した。
悪評? いいや、美しい衣装を身に纏った王妃と王子が国民の前に現れた瞬間、国民から溢れんばかりの喜びの声が響いた。
王妃の美しい衣装は街の仕立て屋が請け負った。一つ一つ丁寧に手作業で縫い上げられている。
「おめでとう、コバ」
「キレイな衣装ありがとう。スーリャ」
喜びの声はモロ国まで届いた。小さなお菓子屋さんでは結婚を祝って焼き菓子を振舞って街の人と喜んだ。
それからのスビラ王国は多くは変わらなかった。
ケイネスが統治する国は穏やかだった。むやみに他国を占領しようとせず、しかし国民のために尽くす政治。
そして、王の横にはずっと王妃が寄り添っていた。
王は王妃と視線が合うまで焦がれるような眩しい者を見るように目を細めて見つめる。その様子に王の想い焦がれる王妃として国中でいつまでもずっと囁かれるのであった。
終わり。
難民拉致事件後、ケイネスの指示でこの地には街灯が多く設置された。人の出入りが多くなると店も増えた。以前の薄暗くて陰気な住居地の様子からイメージが変わっていく。
「冬季が終わりますね」
難民達と話合っている俺にサハンが声をかけた。
「暖かくなると、もっと色んなことが出来るよ」
俺が商人を終え、この街を出るタイミングだ。
共に植物の栽培作業をしていた難民達はその手を止めて俺を見た。
「ありがとう。私は貴方様を支持します」
「貴方様?」
声をかけてきた中年女性を見た。その中年女性は難民拉致事件の際、一緒に閉じ込められていた女性だった。他にも俺が王の番だと知る者は多くいた。
でも、今の今まで俺が王の番だと誰も言わなかった。俺が一生懸命にこの地を変えようとしているのが伝わったからだそうだ。
悪評の王の番が難民住居地にいると知れば俺の身が危ないと皆分かっていたのだ。分かって一人一人俺のことを秘密にしてくれていた。
「こちらこそありがとう」
ししし、と笑うとそこにいた皆も笑った。
俺は背伸びをして、この地を離れようとした時、見知った匂いがして首を傾げた。
気のせいかと思った時、サハンの口があんぐり開いてマヌケ顔になっている。視線の先にいたのは……黒髪の男だ。長身で体躯がいい。同じく頭には布を巻いている。
「無視とはつれない」
「……へ!?」
声と容姿でその男を認識して、サハンと同じマヌケな反応になった。
「コバ。君がサハンと同じ反応するとヤキモチ焼くからやめてくれ」
「ケイネス!?」
「ここではケイと呼んで欲しい」
ケイネスは髪を黒色に染めて三つ編みに結っていた。俺同様商人の恰好をしている。
しかし、身から溢れるオーラは商人には見えず貴族だ。急に現れた美丈夫の番に驚いて赤面してしまう。
「どうだい? 結構似合っているだろう?」
「あぁ、それはもの凄く格好いいけど……」
格好いいと言われたケイネスはふふんと上機嫌になり、俺の腕を掴んだ。
「コバ、二人で出掛けよう!」
俺は彼に抱きかかえられると、ひょいと馬に乗せ、その後ろに彼も乗った。
「え!? ちょっ! へ?」
「ケイネ……いえ、ケイ様!? お待ちください!」
サハンがケイネスを止めようとして、ケイネスは威嚇した。
「コバの口からサハンさんと聞かされる度、心の底から嫉妬している。お前は来るな!」
「ケイネ……ケイ! アンタって変なところで……!」
最近、さらにケイネスは気持ちを俺の前に吐露するようになった。同時に互いに気遣って言わなかった事も話すようになってきた。
すると要求もなかなか通らなくなってくる。だけど、俺はそれが良い変化に感じていた。
「はは」
馬で駆けるので、あっという間にサハンが見えなくなってしまった。ケイネスが前を向いて子供のように笑っている。
「昔はよくこうして外に出ていた」
でも、両親……先代の王と王妃が亡くなり、王になってからはその責任から王宮から出てくることがなくなっていたとケイネスは話した。
きっと、良い王であろうと頑張っていたのだろうなと俺は彼の横顔を見て思った。
「コバ、ついに逆賊の首謀者達を捕まえた」
「——そうか」
過去、ケイネスがルムダンに来ることになった事件の共犯者もいる。ケイネスが半獣というだけで妬みを持つ者達だ。
「反逆者達、一人ずつ話を聞こうと思う。その時、私と共に聞いて意見を述べて欲しい。君の視点が欲しいんだ」
「勿論だよ」
振り向いて頷くと、ケイネスは前を向いたまま頬を緩めた。
「で、どこへ行くんだ?」
「ははっ、どこへ行こう。何も考えていない。こんなのは久しぶりだ」
「……」
俺の存在がケイネスをまたこうして自由に街に飛び出すきっかけになったならいい。
彼の心音を聞きながら空を見上げた。自分がなんの先祖返りかと聞かれたことがある。きっと羽の生えた鳥だ。鳥かごには入れない。だけど、空を飛んで道を教えてあげられるような鳥だ。
「どこへでも付いてってやるよ」
◇
暖かい季節。
草花が咲き、鳥が鳴き、虫も動物も土の中から出て青空を見る。
大国、スビラ王国の国王が本日結婚した。
悪評? いいや、美しい衣装を身に纏った王妃と王子が国民の前に現れた瞬間、国民から溢れんばかりの喜びの声が響いた。
王妃の美しい衣装は街の仕立て屋が請け負った。一つ一つ丁寧に手作業で縫い上げられている。
「おめでとう、コバ」
「キレイな衣装ありがとう。スーリャ」
喜びの声はモロ国まで届いた。小さなお菓子屋さんでは結婚を祝って焼き菓子を振舞って街の人と喜んだ。
それからのスビラ王国は多くは変わらなかった。
ケイネスが統治する国は穏やかだった。むやみに他国を占領しようとせず、しかし国民のために尽くす政治。
そして、王の横にはずっと王妃が寄り添っていた。
王は王妃と視線が合うまで焦がれるような眩しい者を見るように目を細めて見つめる。その様子に王の想い焦がれる王妃として国中でいつまでもずっと囁かれるのであった。
終わり。
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