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変な夢 ※微
しおりを挟む「ん……んぁ、はぁはぁ……んん、んあ」
自分の口から鼻にかかった声が絶えず漏れる。逞しい腹部に下半身を擦りつけると、相手の性器が陰嚢から後孔の縁、臀部に当たる。互いの性器からヌルヌルとした先走りが大量に溢れた。
————その体液を塗り込んで塗り付けられたい。
また、夢だ……これは夢。
ライを出産してからこの夢を見ることはなかった。この夢を見てもどうしようもないのだと気づいたから。
だけど、また彼の匂いを嗅いでしまったから、この夢を見てしまっている。
「……あっ、うぅっ、はぁはぁっ」
性器の裏筋に固い腹筋が擦れて声が止まらない。イッチャウイッチャウ。と馬鹿みたいに声を漏らした。
すると、彼が自分の身体を包むように抱き込んでくる。彼の首筋に顔を埋め匂いを嗅ぎながら漏らすように射精する。歯を食いしばってもこの匂いを嗅ぐと我慢がならず勝手に出てしまうのだ。
「はぁはぁはぁ……」
甘えるように彼の胸に頭を擦り付けた。優しい彼は絶対に拒まず自分の額に何度もキスを落とす。
——この手を信用してはいけない。
瞼が重くなる中、毎回のように自分の心が言う。
(守らないと。自分のことを守らなくちゃ)
◇
この王宮に暮らし始めて二か月が経つ。
俺はライと共に中庭で散歩をしていた。手入れされた草木、噴水。大きな中庭はまるで植物園のようだ。
基本的に行動を制限されておらず、王宮内を自由に散策出来た。
基本的に、と言うのは例えば。そう。
「コバ様、そちらには行けませんよ」
塀に手をかけていたりすると兵士が寄ってくるのだ。それ以外にも門や馬小屋に近づいたりすれば声をかけられる。
警備が強い……。王宮内は自由なのに外に出ようとすると必ず声をかけられる。
王宮という場所は王が住む場所であるし、警備が厳重なことは理解していた。身分の怪しい俺に監視を付けるのは当たり前のことだ。
“怪しい動きをしない”ようには気を付けていた。王宮内をむやみやたらに探索しない。金目の物に触れない。外に興味があることを悟られないように楽しんでいるように見せている。
しかし、少しも警備が手薄になることはなかった。それに、王宮内よりも庭を歩く方が兵士の監視が多くなる。
逃亡するには街の下見は絶対しておきたい。どうすれば警備が手薄にできるのか。
この監視が一時でも弱まればライと共にここを出る計画を練っている。その計画の為に、王宮の外に出て王都のフルゴルを探索する必要があった。
「コバ様、ここから先はいけませんよ」
再び声をかけられる。
「そっかぁ。もう少し散歩したいと思ったんだけど、止めておくね」
聞き分けの良いふりをしてライと共に王宮内へ戻った。すると、召使い達が菓子はどうか、食事はどうか、音楽は? 物語はどうか? と聞きにくる。
「うん。いらないよ。ありがとう」
「そうですか。ご要望がございましたら何なりとお申し付けください」
「うん!」
王宮内は待遇が良すぎて居心地が悪かった。
以前まではコバの態度に口酸っぱくマナーを言ってきた女人も最近は何も言わない。ただ、コバに尽くしてくれている。
教えられたマナーを学ばない。態度が悪い。それはコバが王宮には馴染むつもりがないという拒否だ。
ガサツで学もない王の番には相応しくない。そう思わせるのも計画の一つだった。
それなのになんで? 益々手厚くするんだ? 無能だぞ? 俺の考えていることなんてお見通し? いや、まさかな……。
ライの身体がこの二か月で少しだけ大きくなった。それにつれて、四足歩行からヨタヨタと二足歩行の練習を始めている。
二足歩行が完全に身に付けば幼児教育を始めると召使いから聞いている。そこには王になる為の教育も含まれていくだろう。
「お客様がお見えになりました。コバ様?」
「——え、あぁ。ボンヤリしていた。お客さん? 誰だろ? すぐに行くよ!」
ライを昼寝させた後、召使いに声をかけられ客間に案内された。
客間に入ると早速大きな声で呼びかけられた。
「コバッ!!」
自分のことをこんな風に呼んでくれるのは一人しかいない。その人物は俺を見て目を輝かせた。
「スーリャ!」
俺達は再会を抱きしめ合って喜んだ。後方でサハンが頭を下げたのが目に入った。
「俺だけじゃ、全然会わせてもらえないからサハンに頼んだんだ」
「え? そうだったの?」
「コバ様、お久しぶりです。私からも話がございます」
——……この二人、仲がいいのかな?
馬車の中でも、二人が何度かやり取りしていたのを見ていた。コバの中ではサハンは武骨で油断出来ないイメージだ。
だが、スーリャが頼るくらいだ。悪い獣人ではないだろうと思った。彼らに座るように声をかけ、コバは向かい側に座った。
「コバ、王宮に住んでるのに全然変わらないんだな! なんで庶民が着るような服なんだ?」
王宮に住む男は襟のキッチリ詰めたジャケットにシャツ、伸びなくて固いズボンを着用している。サハンの今着ている軍服とはまた違った華やかさがある洋服だ。
今、俺が着ているのは、ラフなシャツと子供が履くような膝丈のパンツだ。
「動きやすい服の方がいいよな!」
背伸びをしながら笑うとスーリャもシシッと笑った。
スーリャは今フルゴルの街で服屋の店員をしているようだ。顔のいいスーリャが店の服を着て接客すると同じ服がよく売れるのだそう。
楽しそうな彼の様子に嬉しくなった。
「——それで? サハンさんは用件は?」
コバとスーリャが和気あいあいと話す様子を静かに見ていたサハンに問いかけた。サハンは軽く頭を下げてから話し始めた。
「私は、外回りが多く王宮内でのことは詳しくありません。そのため、失礼な質問かもしれません。——……コバ様は今何かを学ばれておられるのですよね?」
「ううん。何も」
「では、マナーやしきたりを学ばれておられるので?」
「ううん!」
サハンの問いにコバはにこやかに首を振った。サハンの虎顔が険しくなった。
「おい。サハン、本当に失礼だな!! コバはそのままで充分じゃねぇか!」
スーリャが怒鳴るのを聞いて、サハンの言いたいことが分かった。
そのままでは不充分。王族になるつもりなら、それではいけないってことだよね。
むしろ、サハンの意見を他の誰かが最近言わなくなったことが不思議でならない。かと言って“諦められた”とも違うのだから悩んでいる。
「コバ様、一度王宮外の外に出られてみてはいかがでしょうか?」
「え!? それは願ったりだよ!」
「では、王に直接許可をお取りください」
「……………」
サハンは、許可が下りれば明日にでもフルゴルの街を探索してみてはと声をかけてくるが、首を横に振った。
「……サハンさんが王に頼んでくれないか?」
「え? 私から伝えるよりも溺愛されているコバ様から頼まれた方が許可は下りやすいですよ。ケンカですか?」
「……そういうわけじゃないけど」
ケンカなどするはずがなかった。晩餐会以降直接会ってはいなかった。
顔も姿も目にしないように気を付けていた。
だが、最近王の匂いをすぐ近くに感じていた。
————変な夢をよく見る。ケイネス王と睦み合う夢。
その夢を見る度、早くここから出なければと焦りを感じていた。
「コバ、もしかして王に嫌なことされてんのか?」
俺が口ごもる様子を見て、スーリャが小声で言ってきた。
「いや。そうじゃない——……ごめん。いいや、自分で伝えるよ」
自分で伝えると言いながら、軽く目を背けてしまった。俺の様子を不思議そうに見ていたサハンは立ち上がった。
「そうですか、ではコバ様が王にお話ししたいと申されていると伝えて来ましょう!」
「余計なことを——……」
俺が言い切る前にアトレはその場を離れた。
サハンの言付けはすぐにケイネスに聞き届けられた。
サハン達が帰った後、ケイネスと会うこととなった。
別室で王が来るのを待機していると、紅茶やらお菓子やらが召使いによって運ばれてくる。お茶会でも開くつもりなのだろうかとそれらを見ながら、溜息をついた。
王宮外を知るチャンス。それなのに後悔していた。
会うのが……やだ。
聞こえてくる足音に動悸がして、コバは反対側を向いた。
「少し遅くなった。待たせたね」
ケイネスは嬉しそうな様子で部屋に入ってきた。待ってなどいないのに詫びを入れてくる。
「……別に」
コバは窓の方を見ながら返事をした。相変わらずの態度に彼は気にした様子はなく俺の前の椅子に腰を掛けた。
おそるおそる窓から視線を外し、ケイネスの脚元を見た。
黒い靴に視線を定める。
「コバ。君がこうして直接会ってくれてとても嬉しい。ずっと会いたかった」
彼の声が弾んでいる。
「王宮内は快適に過ごせているだろうか。食事や着るもの、その他、君の希望通りだろうか?」
「————あぁ」
「そうか。良かった!」
返事すると声のトーンが高くなり、ケイネス王は子供のように自分の嬉しさをアピールしてくる。
「私への願いとは欲しい物があるのかい? 王宮に来て二か月経つ。そろそろ欲しいものでも出てくるころだろう。何でも言って欲しい」
「…………」
「そうだ。ルムダンの郷土料理、今度それを料理長に作らせよう。あの国は固いパンをスープに浸して食べるそうだね」
ケイネスはよく話す男だと思った。それに俺のことをよく観察している。全身視線を浴びるように感じる。頭も顔も身体もその視線に穴が開くかのようだ。
「ここを出たい」
その視線に焦って本音が漏れた。
それまで興奮気味に話していたケイネスが沈黙した。急に空気が変わりその場にいるのが苦しくなるほど重苦しさを感じる。
「それは出来ない。許可しない」
彼の初めて聞く低い声。王らしく逆らうことを許さない威圧。だが、俺はその威圧を無視した。
「……さっき何でもって言ったじゃん」
「では“それ以外”だ。コバ」
強めに言われ思わずケイネスを見てしまった。彼は真剣な表情で真っすぐに自分を見ていて“しまった”と目を泳がせた。
「……街を散歩したい。中庭を散歩ばかりで飽きたんだ」
「私とならば構わない。だが、君はそれが嫌なのだろう」
「……」
ケイネスが立ち上がったのを見て、ビクリと震えた。
————よせ。近づいてくるな。
ケイネスの黒い靴が自分の前で止まった。
「兵士を同行させること。午前中に帰ってくること。そして」
「……」
「ライは王宮に置いていけ」
「…………」
ドクンッと心臓の音が強く鳴った。
強く動揺し返事が出来なかった。
こんな状態では自分が今何を企んでいるのかケイネスにバレてしまってもおかしくない。怪しまれないようお道化て楽しんでいたのが彼に見透かされてしまう。
すると、ケイネスが俺の視界に入るようにしゃがんだ。そんな振舞いを王がするべきではない。
至近距離で目が合うとケイネスはフッと微笑んだ。
「本当は脅かしたいわけじゃない。響きある言い方をしてすまなかった」
ケイネスは部屋に来た時の穏やかな口調に戻った。コバは至近距離が嫌だった。暑いわけではないのに汗がじんわり出てくる。
「コバ、ただ君にここにいて欲しいんだ」
そう言って触れてくる手が俺の髪を優しく撫でてくるのが嫌だった。
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