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拒否 ※後半ケイネス視点
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「ヒィ……ック」
子供のように泣く自分の鳴き声が耳に残った
◇
気が付いたら、屋根のある部屋で寝かされていた。ルイーダの家じゃない。知らない部屋の天井が見える。
誰かの小さな話し声と物音がする……誰だ?
「クゥ……ン」
「ライ」
横を見ると、自分の頬を舐めてくるライがいた。
ホッとした。そのモフモフの身体を腕に抱きしめる。
「ライ、無事で良かった」
ライを腕に抱きしめて、起き上がり室内を見渡す。どこかの宿屋の一室? 誰かが俺たちを連れて来た? 話し声は別室の誰か声だろうか。
立ち上がろうとした時、ドアの扉がノックされた。ビクリと身体が驚いて飛び跳ねる。
まさか、アイツなんじゃ……?
そう思い身を固くしたが、入ってきたのは虎の獣人だった。
「ご気分いかがでしようか」
俺を見て頭を深く下げ、地面に膝を突いた。身分上の者が自分などに遜っている姿に驚く。
「アンタ、何しているんだよ……?」
「失礼いたしました。スビラ王国の第12代国王であるケイネス・アウグスト様の勅令により貴方様をずっと探しておりました。サハンと申します。以後お見知りおきを」
スビラ王国の王……。ケイネス?
巷で噂の人物の名前を聞いてもコバには何のことかよく分からない。
この虎男も知らない、なんの話をしているのかと思ったが、急に思い出した。
「……え、あっ! 思い出したよ。アンタ!? もう、何年も前にルムダンの山で出会った獣人か!?」
「えぇ。あの時、山で貴方様を驚かせたのが私です。あの時は番様だと存じ上げず失礼いたしました」
「……番様? さっきから何言ってるんだ?」
先程から虎獣人の様子や、言っている意味がよく分からない。首を傾げる俺に、虎獣人のサハンはここまでの経緯を話し始めた。
スビラ王国のこと、王のこと。長年に渡る番捜査のことを聞いた。
ケイネス王が如何に自分を心配していたか、探していたか。
求めていたか……。
「あの獣人が、ケイネス王だったんだ。……ふーん」
俺の反応を見て、サハンは不思議そうに首を傾げた。
王が懸命に自分のことを探していたのに何故“身分の持たない自分”は喜ばないのか。彼はそう思っているのかもしれない。
「で、俺なんかが、拒否は出来るの? 出来ないの?」
「……は?」
「だからさ、俺が拒否したら周りの人に迷惑かけないかってことだよ」
「……」
すると、サハンはニヤリと不気味な笑顔を作った。
「是非、是非スビラ王国へ。コバ様」
◇◇◇ケイネス視点◇◇◇
ルムダン国からサハンがスーリャと言う名の男娼を連れて帰国した。
その者は、コバを幼い頃から知る友人だと報告を受けていた。
黒髪で中性的な見た目の男であった。その見た目に反し強気な物言いをする。
警戒しながらもスーリャはコバがどれほど優しい者なのかを語った。彼がコバのことを大事な友人だと思っていることが伝わってくる。
そうだ。コバは優しい。私も知っている。だが、この者はもっともっと多くの事を知っている。幼い頃のコバ。勇敢なコバ。働き者のコバ……
自分の知らないコバを多く知っている。
同時に彼に嫉妬のようなものが湧き上がってくる。羨ましい。
握りしめる自分の手にじわりと汗が出る。これほどまでに番に対して狭量な男かと思いながらもスーリャの話を聞いた。
コバを必ず大事にすることを誓うと、スーリャは、彼の行方を話し始めた。
ルムダン国は獣人が住める国ではないことから、彼は国を出た。
そしてその行き先はスビラ王国だった。彼が向かった地が自分の国であることが運命のように感じた。再び会えると確信した。
スーリャも捜索に加わらせ、兵士を王国全土に向かわせて国中くまなく探した。
だがどれほど探してもコバは見つからず、手がかりが一度消えた。
諦めることはケイネスの選択肢にはなかった。何年経とうとコバの事を繊細に思い出せるのだ。
あの柔らかい赤茶色の髪の毛、宝石のような瞳、優しく他人を思いやれる心、触れると感じやすい身体。あの細い身体がうねるのを思い出してはケイネスの身体はいつも灯がともる。
早く会いたい。話したい。彼を隅々まで愛したい。
スビラ王国の王が番探しをしていると噂が入ると、各地で虚偽の報告が相次いだ。直接行ってみれば全くの別人。
自分の方が満足させられるなど訳の分からないことを言う。中には、赤茶色の髪の毛にわざわざ染める人間までいた。
それらの情報に溢れている中、再び、赤茶色の髪の毛の青年の情報が入った。
東のモロ国の港町。
情報を寄せたのは各国を旅する商売人だった。
兵を調査に向かわせると、街の住人が彼の情報を積極的に話そうとしないそうだ。そのことに興味が湧き、サハンと共に直接港町まで向かった。
サハンの調査中、背後で兵士として忍んでいた。
赤茶色の髪の毛の青年は住んでいるが詳しくは知らない。そう住人は答えた。
兵士からの質問だ。虚偽を伝えるわけにもいかない。聞けば“いる”とは言うがそこから先話す者はいなかった。
サハンが横で笑った。
「この者、好かれておりますね」
「……」
大抵、嫌いな者程、噂話に花が咲く。だが、彼の場合はどうであろう。皆あっちの方を向いて話すのだ。まるで、この話を早く終えろとばかりに。
中でも市場のクマの獣人には「お前らか、赤茶色の髪の毛の子を探しているのは、さっさと帰れ!」と怒鳴り散らされた。
くるりと周りを見ると、サッと皆目を逸らした。
確かに存在しているのに、誰も自分から言おうとしない。
皆から愛される存在……。
「その者がもしコバ様でしたら、王妃の器に相応しい方ですのに」
そうサハンが言う。
何を言っている!? コバは私だけの番だ。私だけが愛して胸の中に抱き生涯大事にする者だ。私が愛するのだ!
一瞬、これは自分の考えかと思った。
会えない焦燥感から歪みきった考え方をしていると反省する。自分の番ならば当然王妃となり国民に愛される存在になる。
その者がコバであるなら願ったり叶ったりではないか……。
深呼吸をし、自分を律する。
だが、捜査が進むにあたり、ここにいる赤茶色の髪の毛の者はコバだと確信する。
胸の中が彼一色になる。彼に会える。会ったらすぐに自分の名を名乗ろう。
あぁ、もうすぐ会える。会ったら話したいことが沢山ある。
何を話そうか、いや、彼の話も聞きたい。あの可愛らしい声を聞きたい。彼との時間なら何でも楽しい気がする。
そう心が逸り、彼が住んでいる“ルイーダの店”に着いた。
そうして、ようやく見つけた大事な番は、私のことを化け物でも見るような目で震えあがり後退った。
その震えは尋常ではなく次第に過呼吸のように大きな呼吸を始める。それでも逃げようとする彼を阻止して訳を聞いてもらおうと必死になった。
そして、涙を流し「置いて行った」と言い、コバはその場に蹲ってそのまま気を失った。
明らかに自分を見てショックを受け、全身で拒否を示していた。
「……コバ」
蹲るコバをすぐに抱き抱えられなかった。先ほど、彼が自分に向けた表情と言葉に衝撃を受けていた。
運命の番は離れがたい存在だというのはケイネスは身を以って分かっていた。だが、それは置いて行った側の気持ちだ。
ルムダン国の山で優しい表情しか見せなかった彼と今の睨んでくる彼とは様子がまるで違う。
置き手紙は読まれなかったか。いや、彼は文字が読めたのだろうか……。
あの時、自分はコバの状況をもっと慎重に考えるべきだった。スラム街出身で身売りしなければいけない者がどう言葉を学ぶと言うのだろうか。
──心を開いて助けてくれた彼を一方的に傷つけた。
もし彼が自分なら……
ケイネスは耳も尻尾も項垂れた。
蹲るコバをこのままにしておけず抱き上げようとしたその時だ。
「ぐぅるぅううう!」
コバの蹲る身体の中から獅子の子が出て来て、毛を逆立て唸り声をあげた。
まるで母親を敵から守るようだ。
私は彼らにとって敵か。だが……。
構わずコバを抱き上げた。母を守ろうとして私の腕に獅子の子が噛みついた。
血が滴り落ちるのを眺める。痛みよりも今の状況がショックであった。噛みつくその子も腕に抱き上げた。
「勇ましい子だ。……コバを休ませよう」
この瞬間をどれほど待ち望んだか、なのにケイネスの内心は締め付けられるように苦しいものとなった。
コバと子を宿屋の一室に横たわらせた。
彼の傍にいたかった。再会したらもう離さないと思っていた。
「うぅ……」
どうやら私の匂いがするとコバには辛いようで意識がないながら額に汗をかき唸っていた。子も相変わらず私を睨み牙を向けている。今は退室するべきかと部屋を出た。
「ケイネス様、コバ様には私が説得致します」
部屋前で待機している虎獣人のサハンが出てきたケイネスに声をかけた。
一部を見ていた彼はケイネスとコバでの話し合いが困難だと思ったのだろう。
「……決して脅すな。サハン、この者達は私の大事な者だ」
サハンにコバが目覚めた後の説明を任すことにした。
宿屋の壁は薄く、その隣の部屋でサハンが目覚めたコバに事情を話している内容が聞こえた。
先ほど、自分に取り乱したコバは冷静に話していた。だけど、自分が知るコバの様子じゃない。明かに警戒している声色だ。決して脅すなとサハンには命じているが、虎顔にコバは怯えていないだろうか。出来るなら自分が優しく誘いたかった。
「是非、我がスビラ王国へ」
サハンの言葉に、コバはそれに暫く答えを出さなかった。
「———わかった。アンタ達に同行するよ」
その言葉に安堵していると、次の言葉に絶望した。
「でも、アイツには絶対に会わせないで。大嫌いなんだ」
子供のように泣く自分の鳴き声が耳に残った
◇
気が付いたら、屋根のある部屋で寝かされていた。ルイーダの家じゃない。知らない部屋の天井が見える。
誰かの小さな話し声と物音がする……誰だ?
「クゥ……ン」
「ライ」
横を見ると、自分の頬を舐めてくるライがいた。
ホッとした。そのモフモフの身体を腕に抱きしめる。
「ライ、無事で良かった」
ライを腕に抱きしめて、起き上がり室内を見渡す。どこかの宿屋の一室? 誰かが俺たちを連れて来た? 話し声は別室の誰か声だろうか。
立ち上がろうとした時、ドアの扉がノックされた。ビクリと身体が驚いて飛び跳ねる。
まさか、アイツなんじゃ……?
そう思い身を固くしたが、入ってきたのは虎の獣人だった。
「ご気分いかがでしようか」
俺を見て頭を深く下げ、地面に膝を突いた。身分上の者が自分などに遜っている姿に驚く。
「アンタ、何しているんだよ……?」
「失礼いたしました。スビラ王国の第12代国王であるケイネス・アウグスト様の勅令により貴方様をずっと探しておりました。サハンと申します。以後お見知りおきを」
スビラ王国の王……。ケイネス?
巷で噂の人物の名前を聞いてもコバには何のことかよく分からない。
この虎男も知らない、なんの話をしているのかと思ったが、急に思い出した。
「……え、あっ! 思い出したよ。アンタ!? もう、何年も前にルムダンの山で出会った獣人か!?」
「えぇ。あの時、山で貴方様を驚かせたのが私です。あの時は番様だと存じ上げず失礼いたしました」
「……番様? さっきから何言ってるんだ?」
先程から虎獣人の様子や、言っている意味がよく分からない。首を傾げる俺に、虎獣人のサハンはここまでの経緯を話し始めた。
スビラ王国のこと、王のこと。長年に渡る番捜査のことを聞いた。
ケイネス王が如何に自分を心配していたか、探していたか。
求めていたか……。
「あの獣人が、ケイネス王だったんだ。……ふーん」
俺の反応を見て、サハンは不思議そうに首を傾げた。
王が懸命に自分のことを探していたのに何故“身分の持たない自分”は喜ばないのか。彼はそう思っているのかもしれない。
「で、俺なんかが、拒否は出来るの? 出来ないの?」
「……は?」
「だからさ、俺が拒否したら周りの人に迷惑かけないかってことだよ」
「……」
すると、サハンはニヤリと不気味な笑顔を作った。
「是非、是非スビラ王国へ。コバ様」
◇◇◇ケイネス視点◇◇◇
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その者は、コバを幼い頃から知る友人だと報告を受けていた。
黒髪で中性的な見た目の男であった。その見た目に反し強気な物言いをする。
警戒しながらもスーリャはコバがどれほど優しい者なのかを語った。彼がコバのことを大事な友人だと思っていることが伝わってくる。
そうだ。コバは優しい。私も知っている。だが、この者はもっともっと多くの事を知っている。幼い頃のコバ。勇敢なコバ。働き者のコバ……
自分の知らないコバを多く知っている。
同時に彼に嫉妬のようなものが湧き上がってくる。羨ましい。
握りしめる自分の手にじわりと汗が出る。これほどまでに番に対して狭量な男かと思いながらもスーリャの話を聞いた。
コバを必ず大事にすることを誓うと、スーリャは、彼の行方を話し始めた。
ルムダン国は獣人が住める国ではないことから、彼は国を出た。
そしてその行き先はスビラ王国だった。彼が向かった地が自分の国であることが運命のように感じた。再び会えると確信した。
スーリャも捜索に加わらせ、兵士を王国全土に向かわせて国中くまなく探した。
だがどれほど探してもコバは見つからず、手がかりが一度消えた。
諦めることはケイネスの選択肢にはなかった。何年経とうとコバの事を繊細に思い出せるのだ。
あの柔らかい赤茶色の髪の毛、宝石のような瞳、優しく他人を思いやれる心、触れると感じやすい身体。あの細い身体がうねるのを思い出してはケイネスの身体はいつも灯がともる。
早く会いたい。話したい。彼を隅々まで愛したい。
スビラ王国の王が番探しをしていると噂が入ると、各地で虚偽の報告が相次いだ。直接行ってみれば全くの別人。
自分の方が満足させられるなど訳の分からないことを言う。中には、赤茶色の髪の毛にわざわざ染める人間までいた。
それらの情報に溢れている中、再び、赤茶色の髪の毛の青年の情報が入った。
東のモロ国の港町。
情報を寄せたのは各国を旅する商売人だった。
兵を調査に向かわせると、街の住人が彼の情報を積極的に話そうとしないそうだ。そのことに興味が湧き、サハンと共に直接港町まで向かった。
サハンの調査中、背後で兵士として忍んでいた。
赤茶色の髪の毛の青年は住んでいるが詳しくは知らない。そう住人は答えた。
兵士からの質問だ。虚偽を伝えるわけにもいかない。聞けば“いる”とは言うがそこから先話す者はいなかった。
サハンが横で笑った。
「この者、好かれておりますね」
「……」
大抵、嫌いな者程、噂話に花が咲く。だが、彼の場合はどうであろう。皆あっちの方を向いて話すのだ。まるで、この話を早く終えろとばかりに。
中でも市場のクマの獣人には「お前らか、赤茶色の髪の毛の子を探しているのは、さっさと帰れ!」と怒鳴り散らされた。
くるりと周りを見ると、サッと皆目を逸らした。
確かに存在しているのに、誰も自分から言おうとしない。
皆から愛される存在……。
「その者がもしコバ様でしたら、王妃の器に相応しい方ですのに」
そうサハンが言う。
何を言っている!? コバは私だけの番だ。私だけが愛して胸の中に抱き生涯大事にする者だ。私が愛するのだ!
一瞬、これは自分の考えかと思った。
会えない焦燥感から歪みきった考え方をしていると反省する。自分の番ならば当然王妃となり国民に愛される存在になる。
その者がコバであるなら願ったり叶ったりではないか……。
深呼吸をし、自分を律する。
だが、捜査が進むにあたり、ここにいる赤茶色の髪の毛の者はコバだと確信する。
胸の中が彼一色になる。彼に会える。会ったらすぐに自分の名を名乗ろう。
あぁ、もうすぐ会える。会ったら話したいことが沢山ある。
何を話そうか、いや、彼の話も聞きたい。あの可愛らしい声を聞きたい。彼との時間なら何でも楽しい気がする。
そう心が逸り、彼が住んでいる“ルイーダの店”に着いた。
そうして、ようやく見つけた大事な番は、私のことを化け物でも見るような目で震えあがり後退った。
その震えは尋常ではなく次第に過呼吸のように大きな呼吸を始める。それでも逃げようとする彼を阻止して訳を聞いてもらおうと必死になった。
そして、涙を流し「置いて行った」と言い、コバはその場に蹲ってそのまま気を失った。
明らかに自分を見てショックを受け、全身で拒否を示していた。
「……コバ」
蹲るコバをすぐに抱き抱えられなかった。先ほど、彼が自分に向けた表情と言葉に衝撃を受けていた。
運命の番は離れがたい存在だというのはケイネスは身を以って分かっていた。だが、それは置いて行った側の気持ちだ。
ルムダン国の山で優しい表情しか見せなかった彼と今の睨んでくる彼とは様子がまるで違う。
置き手紙は読まれなかったか。いや、彼は文字が読めたのだろうか……。
あの時、自分はコバの状況をもっと慎重に考えるべきだった。スラム街出身で身売りしなければいけない者がどう言葉を学ぶと言うのだろうか。
──心を開いて助けてくれた彼を一方的に傷つけた。
もし彼が自分なら……
ケイネスは耳も尻尾も項垂れた。
蹲るコバをこのままにしておけず抱き上げようとしたその時だ。
「ぐぅるぅううう!」
コバの蹲る身体の中から獅子の子が出て来て、毛を逆立て唸り声をあげた。
まるで母親を敵から守るようだ。
私は彼らにとって敵か。だが……。
構わずコバを抱き上げた。母を守ろうとして私の腕に獅子の子が噛みついた。
血が滴り落ちるのを眺める。痛みよりも今の状況がショックであった。噛みつくその子も腕に抱き上げた。
「勇ましい子だ。……コバを休ませよう」
この瞬間をどれほど待ち望んだか、なのにケイネスの内心は締め付けられるように苦しいものとなった。
コバと子を宿屋の一室に横たわらせた。
彼の傍にいたかった。再会したらもう離さないと思っていた。
「うぅ……」
どうやら私の匂いがするとコバには辛いようで意識がないながら額に汗をかき唸っていた。子も相変わらず私を睨み牙を向けている。今は退室するべきかと部屋を出た。
「ケイネス様、コバ様には私が説得致します」
部屋前で待機している虎獣人のサハンが出てきたケイネスに声をかけた。
一部を見ていた彼はケイネスとコバでの話し合いが困難だと思ったのだろう。
「……決して脅すな。サハン、この者達は私の大事な者だ」
サハンにコバが目覚めた後の説明を任すことにした。
宿屋の壁は薄く、その隣の部屋でサハンが目覚めたコバに事情を話している内容が聞こえた。
先ほど、自分に取り乱したコバは冷静に話していた。だけど、自分が知るコバの様子じゃない。明かに警戒している声色だ。決して脅すなとサハンには命じているが、虎顔にコバは怯えていないだろうか。出来るなら自分が優しく誘いたかった。
「是非、我がスビラ王国へ」
サハンの言葉に、コバはそれに暫く答えを出さなかった。
「———わかった。アンタ達に同行するよ」
その言葉に安堵していると、次の言葉に絶望した。
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