獣人王の想い焦がれるツガイ

モト

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再び二人は巡りあう

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 ある暑い気温の一日、モロ国にとても強い嵐が襲った。
 人が飛ばされそうな強風、叩きつけるような豪雨。
 この日は、俺はルイーダとライとで一つの部屋で眠った。

 嵐が過ぎ去ったあくる日、幸いにもルイーダの店も家も何も損害はなかった。けれど、屋根が飛んだり浸水している地域もあった。
 壊れた屋根の修理や破片の欠片の片付けに住人は追われた。

「ほぉ~。コバちゃんは、すげぇなぁ」

 率先して修繕を手伝う俺を住人が褒めてくれる。
 長年の山暮らしとスラム街での経験が人助けに約に立った。
 ひょいひょいと屋根から屋根へと飛び移り、屋根の修繕に当たる。

「コバ、こっちも見てくれよ。屋根が飛ばされちまってさ」
「分かった」

 ないのであれば代用品を作ればいいと、俺は街の住人にアイデアを出した。
 
「へへ。なんとかなるよ」

 台風で被害に合った人に手助けしながらそう言った。
 そのことから、港街で少しばかり俺のことが評判になった。

 元々繫盛店だったルイーダの店に客が増える。俺に声をかけてくれる客も多くなった。花や物をプレゼントしてくれ口説いてくる獣人までいる。

「あらぁ、前から大きな獣人の方にはモテモテだったけど、さらに凄くモテモテになっちゃったわねぇ」

 ルイーダの言葉に、子持ちで独身がそんなにいいのかと首を傾げる。

「うーん。すぐに飽きると思うけどな?」

 親しい街の人達に対して不思議な感覚を覚えた。ルムダン国ではどんなに頑張ってもスラム街の人間だというだけで、ちゃんと見てくれる人は少なかったからだ。

 国が変われば、こんなにも人は変わるんだな……。

 今のモロ国が平和になったのは、スビラ王国と良好な仲になってからだと聞いていた。
 さらにスビラ王国が新しい12代目の王に代わってからは弱い身分への保証制度がもっと手厚くなっていると聞く。
 それを聞いて、どんな国なのか益々興味を持った。

 ルイーダには世話になる時に“二年の間だけ”と期間を決めていた。ルイーダはずっといていいと言ってくれたが、これは俺のけじめだった。
 ルイーダは頑固な俺に溜息をつきながら、いずれ、スビラ王国に渡った時のために色々な事を教えてくれていた。彼女のおかげで簡単な文字なら読めるようになったのだ。



「やぁ、コバ。このスコーンをくれるかい?」

 ルイーダの店で接客していると客がやってきた。噂好きなヤギの獣人だ。一度話し出したら止まらないタイプだ。

「ねぇ、コバ知っている? スビラ王国の王様は番に逃げられたマヌケだって」
「うん。何でもずっと番探しをしているよね」

 スビラ王。
 スビラ王国の王はとても有名な人でいろいろな噂話がある。『一度死んで蘇った』『耳が八つあるから八人の話を同時に聞ける』とか。本当か嘘か分からない話ばかり。

 でも、一番多い噂は“番に逃げられた”って話だ。
 獣人には“番”が存在する。人間にとっては夫婦のようなものかと思っていた。


 【番に逃げられた王様。スビラ王国の王様は、政治は出来るが番に逃げられたマヌケ者。
 “恋しい恋しい”と毎夜泣き、番を何年も探し求めている】

 吟遊詩人が王の恋をそう唄った。


「もう何年も番を探しているせいで、王自身の評判を落としているのにさ、それでもスビラ王は番探しの令を色んな国に出してるんだよなぁ。さっさと諦めて身分のいい王妃を選べばいいのに馬鹿だよなぁ」

 一途に番を探すスビラ王のことを、そういう風には思えなかった。

「へへ……そうかい……」
「コバ、次の男は俺にしないか。ライのことも大事にする……いでっ!! ルイーダさん、何するんだよ」

 客の男の頭にルイーダは空き箱を投げつけた。

「あら。ごめんなさい。ほほ。ちょっと手元が滑っちゃってねぇ。それよりもうちのコバちゃんにナンパするのはよしてちょうだい。ほほ」

 ルイーダはニコニコと笑いながらその客を追い返した。

「コバちゃん大丈夫かい? えっと、その……」
「うん? 大丈夫だよ」

 ルイーダは“逃げられた”“番”の話を聞くと、慌ててその話から俺を遠ざけようとしてくれる。きっと俺を心配してくれているのだ。
 優しい彼女に心配かけないようにその分ニコニコと笑った。

「コバちゃん、後でルイーダ特製焼き菓子を作ってあげようねぇ」
「わーい。俺、ルイーダさんのお菓子大好き! ありがとう!!」



 ◇◇◇



 最近、港町が賑やかだ。
 噂で賑やか。他にもなんだか人の行き来が多い気がする。
 何か祭りかなにかが始まるのか、そんな風に思っていた時だ。クマのおっちゃんに「コバちゃん、大丈夫かい? 何か困っていないかい」と声をかけられた。その他の人達にもだ。

「?」

 周囲の様子がおかしいと思っていると、俺の姿を見てヤギの獣人が駆けてきた。


「は? 俺のことを騎士団が探しているって? えぇ!? 俺そんな人たちに探されるような奴じゃないけどなぁ」
「そうだよなぁ、でも、コバという名前まで一致している。アンタの国ではその名は多いのかい?」
「なんだろう。気のせいだと思うけど一度ルイーダさんの家に戻ってみるよ」
「あぁ」

 そう言ってヤギ獣人から離れた。

 何故か、騎士が自分を探しているようだ。身に覚えあると言えば、ルムダン国から出た時、自分は偽って出てきたことだ。
 それがバレたのだろうか? ルムダン国の連中が別の国にまで俺のような人間を探すだろうか。でも、それ以外に自分が探される理由はない。
 買い物途中だが、ルイーダの家に戻ろうと急いだ。


 街角で目の前の人とぶつかりそうになった時に、俺はササっと身体を捻り避けた。
 その人の事が目に入らず、急がなくてはという気持ちでいっぱいだった。

「──コバッ!!」

 聞き慣れた声に振り向いた瞬間、その者に強く腕を掴まれた。
 黒くて長い髪の毛はポニーテールに括られて、シンプルなシャツとズボンスタイル。

 その者を見た瞬間、目を見開き驚いた。いるはずのない美しい————友人。

「——……スー、リャ?」
「コバ、やっと会えた! ずっと探してたんだぜ! あぁ、でも元気でよかったぁ!!」
「え?」

 そう言って、コバはスーリャに飛びつくように抱きしめられ、尻持ちをついた。

「————え? っ? なん、で、スーリャが……?」

 なぜ、ここにスーリャが? ルムダン国にいるはずじゃぁ?

「お前、俺が化粧してないからって誰か分かんなかっただろう! この薄情もんめ! あぁ、でも元気で本当に良かったぜ!」

 目の前にいるスーリャは化粧をしておらず、美人ではあるけれどちゃんと男らしい。昔に戻ったようだ。再会を喜びたい気持ちがあるが、それ以上に驚きが勝る。

「いや……、急いでいたんだ」
「あ? 何か慌てる用事か?」
「あぁ、俺のこと、騎士団が探しているって……」

 すると、スーリャが呆然とするコバの腕を力強く叩いた。

「おう! 聞けよ! お前の旦那が会いに来たんだ!!」
「──え?」
「喜べ、なんと、お前の旦那は……え!? おい、コバッ!?」

 ……なに、言ってるんだ?

 それを聞いた瞬間、立ち上がった。
 スーリャが止める前に走った。彼が止める声を振り切って全速力でルイーダの家に戻った。


 ルイーダの店に向かうと、店の前には本当に兵士がずらりと店を囲んでいた。その兵の多さにコバは混乱した。

 買い物に出かける前、店の一室にライを寝かせてきた。

 ライ。もしかしてライが危ない?
 ──……ライッ!!

 俺は、壁と家、人一人入れる程の隙間に通って窓からルイーダの店に入った。見つからないように中腰になり頭を低くしながら移動する。

「まぁ、急に家の中を捜査したいですって!? あらあらぁ、そんなこと言われても困りましたね。あ、そうですわ。お茶でもいかがですか?」
「いや、結構」
「そんなこと言わず、何人いらっしゃるんですの!? 50人!? あら、凄い数ですのね」

 ルイーダの声が聞こえる。ルイーダのゆっくりとした口調に相手側はたじろいでいる。
 聞こえた話では、まだ家の中は捜査されていない様子だ。
 急いで、店の中から回って家に入る。
 先ほど寝かしつけたライの元に走る。奥の一室のドアを開けるとシーツに包まってライが寝ていた。
 そのスース―ッと小さな寝息にホッとしながら、そのシーツごとライを身体に巻きつけた。

「クゥ……ン?」
「よしよし。少し出かけるからな」

 ライの背中を撫でるとライはまた眠りについた。ライを包み込むように抱きながら荷物を持ち、部屋を出た。その時に何者かが家の中に入ってくる音がする。

 足音が早い、腰の悪いルイーダさんじゃない。じゃ、兵士か!? 一番身の隠れやすい所はどこだ、屋根裏、風呂場、トイレ……。

 自分に確実に近づいてくる足音。この音は複数人いる。

 焦って、部屋の窓をガラリと開けた。
 そこに数人の兵士がいて、俺を見るや、指をさした。

「見つけました————!! ここにいらっしゃいます!!」
「っ!!」

 その兵士の大きな声を聞いた瞬間、窓を閉めた。

「クゥ……」

 先程の大きな声でライが再び目覚めてしまった。
 俺の様子にライは心配そうに小さく声を出した。ライの背を撫でながら今度は屋根裏へと向かった。屋根裏に向かうと小さな窓が一つ。

 ライを自分の身体にしっかりと巻き付けているのを確認し、窓を開け外に出る。レンガのデコボコに手足をかけ、屋根へと上った。

 静かに速やかに屋根を歩く。屋根からだとルイーダの家周りに兵がどれほど集まっているのかよく分かる。
 隣の家へと移り、その柱からスルスルと地面に降りた。

 どうしてか、胸の中にいるライが取られてしまうのではないかと不安になる。


 その時だ。
 嗅いだことのある匂いが近付いて来て足先まで凍る気がした。

 ——————これは……。

 鼻と口を手で押さえた。

「———っ!! ……っ、はぁ……はぁ」

 その匂いが俺の方に近づいてくる。すぐ路地の角から、それはやってきた。
 俺を真っすぐに見て、目が合うと破顔した。

「よかった。見つけた……」

「……っ、なんで」

 目の前にいる男が信じられなくて恐怖する。全身の筋肉が強張った。

 丸い耳の獣人。コバがルムダン国の山奥で出会った獣人だ。
 あの時は泥と血で汚れていたけれど、今はキレイな黄金の長い髪をなびかせ、兵士の恰好をしていた。

 じり……じり……っと彼から遠ざかるように後ろにさがった。

 そんな俺の様子も分からず、目の前の男は金色の目は目尻を下げ嬉しそうに見つめてくる。以前は上手く聞き取れなかったその声がハッキリと耳に届く。

「コバだね、ようやく会えた。ずっと会いたかった。私のことが分かるだろうか? 君のことを」
「来るなぁ!!」

 コバは近寄って来るなと彼に大声を出した。
 彼はコバの様子に動きを止めた。

「なにしにきた!? 来るなっ、来るな!」
「コバ? 話を」
「何も話す事なんかないっ!」

 俺は首を振って動かない身体を足をパンと叩いた。次の瞬間、獣人に背を向けて走り出した。
 だけど、いくら俊足の俺でもこの細い路地でライを抱いたまま全速力を出すことができない。
 あっという間に腕を掴まれた。力強くて振り払えない。

「待ってくれ、私の話を聞いて欲しい!」
「ひっ!!」

 腕を掴まれた瞬間、彼の強い香りで息を飲んだ。脳髄を犯すような強い香り。

「はぁはぁはぁ——……は、なせ」

 震える手で力なく彼の腕を振り払おうとする。だが、彼の腕が力強くて離れない。

「……その子は?」

 隠していたのに。
 俺の腕の中にいる宝物の存在を……。

「その子は、獅子……あぁ、なんてことだ。もしかして、私の子かい?」

 嬉しそうな声を出す彼。それを聞いて血の気が下がった。
 ブンブンと首を強く振り、彼から離れようと藻掻く。彼の太ももに蹴りを入れ、掴んでいる手を振り払おうとする。


「離せっ!!」
「っ、コバッ、こんなに遅くなってしまったが、私はっ」

 その瞬間、彼の腕を噛んだ。だが、腕を噛んでも彼の手が離されない。血の味に益々混乱し首を振り続け暴れ出す。

「コバ、暴れないでくれ、何もしないから!」

 俺は彼の腕から口を離し、ライをさらに隠すように蹲った。

「…………ひ、ひ、はぁはぁ……」
「コバ……?」

 荒い息を吐く俺の様子に彼は回り込んで見つめようとする。彼のその動きの一つ一つがとても恐怖だった。
 息が苦しい。何度吸って吐いても整はない。
 胸が苦しい。


「い、おね…………この子を、取んないで」
「!! そのようなことする訳がない。私は君に会いたかっただけだ」
「…………嫌」

 その言葉が白々しく感じた。頭が真っ黒な靄が覆われる。

「コバ」
「俺の名を呼ぶなっ!!」

 俺は顔を上げて彼を睨んだ。ルムダンで出会った時とは全く違う。でも間違いなくあの時の獣人だ。
 目からポロポロと勝手に涙が溢れてきた。
 それでも渾身の力で睨んだ。

「……俺を……置いていった」
「……」
「俺を置いて行ったじゃねぇかっ!! は……、はっぁ、俺を独りにし、たぁ──……はぁ、うっ。俺は、何言って、……はははは、は……あぁ~~ぁ~~うぅう……」


 自分でも何を言っているのか分からない。
 泣きながらライを抱きしめてその場に蹲った。
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