獣人王の想い焦がれるツガイ

モト

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大泣き

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◇◇



「はぁ~~~~」

 昨日の行為を思い出すと、顔が火照ってくる。冷静になればなるほど、溜息が出てくる。
 一回獣人に中出しされてからは俺もおかしくなったように気持ちよくなってしまった。

 あれじゃ、俺が欲求不満で、彼の上に乗っちゃったみたいだ。俺が彼で発散したみたいになってんじゃねぇかっ!

 獣人もケガの痛みより気持ちよさそうだったので、それは幸いだった。
 何度も精を出しているのに、獣人の性欲と言うのは人間よりも強いようで、全く萎える気配がなかった。
 先ほど、川で身体を洗った時に獣人の出した精液が流れて来た。

「はぁ~~。なんだろう、胸も身体もざわつく」

 昨日の今日だからか、獣人が俺の身体を触れてくる感覚が残っているようだ。それを思い出して胸も身体もざわついてしまう。

 洗濯はすっかり終わっていたが、洞窟に戻って、獣人が目覚めていたらどうしよう。なんて声をかけたらいいんだろう。と悩んでフラフラと山を寄り道していた。

 昨日はスッキリしたか? 気持ちよかったか? いや、それは恥ずかしいので言えない。結局何を言っても恥ずかしい気がする。

 そういえば、俺は名乗ってすらいないことに気が付いた。
 まずは名乗ろう。
 それから、ケガが完治するまで優しい俺様が看病してやるよ! と言ってやるんだ。

「あ。これなら、アイツも食べられるだろう」

 視線の先に美味しそうな果物が生っている。昼食にこれを食べさせてやろうと荷物を置いて木に手を伸ばした。すると、前方に目の前に二匹のシカが寄り添っていた。どちらともなく顔を寄せ合っている。

「……」

 ケガが完治した後……、彼に行く宛がないのなら俺が面倒みてやってもいい。どうせ、山奥で死にかけて倒れているくらいだ。俺くらいしか面倒をみる奴はいないだろう。

 そう思うと胸が熱くなった。なんて、いい思い付きだろう、洞窟に着いたら早速言おうと子供のようにウキウキした気持ちになってくる。



「狼煙……?」

 洞窟に近づくと、何かが燃えている匂いがした。上を見ると、誰かが狼煙を上げている。

 人間か!? もしかして、山に来た人間に洞窟で寝ている獣人がみつかった!?

 この国では移民は許されていない。獣人を連れて行かれては面倒なことになる。場合によっては彼の命が危ない。
 急いで、しかし足音を立てず洞窟へ向かった。

 やはり、狼煙は獣人がいる洞窟前で上がっていた。

「……待ってろ。助けてやる」

 腰にはいつも使っているナイフが二本。これで、攪乱させて彼を逃がしてやる。
 そろりと、陰に隠れながらタイミングを見計らっていると、洞窟の中から誰かが出てきた。

 警備兵のような恰好をした奴が二人……。

 それを目にした瞬間、恐怖が身体を走った。
 驚いたことにその二人も人間ではなかった。
 獣人だったのだ。二本足で立って歩いているが、それらの獣人はほぼ動物に近い形をしていた。
 一人は、黒豹の顔、身体、尻尾。残りの一人は、虎だった。

 洞窟の中にいるあの獣人は、耳と尻尾だけ。あとは人間の形だ。

 アイツの味方なのだろうか。敵……? 敵だったら助けてやらないと!?

 気配を消して様子を見る。
 あの黒豹と虎は人間を食べる獣人かもしれない。デカい口。牙。
 人の頭を丸飲み出来るだろう。みつかったら俺はきっと殺される。

「……が、無事でよかった」
「あぁ、よくあの怪我で助かった。我が国に連れて帰ろう」

 獣人は言葉を使っていた。この世界の共通語で理解できる。
 黒豹達が“無事でよかった”と話しているのは、あの獣人のことだとすぐに気づいた。

 じり……と後退した時、落ち葉を踏んでしまう。

「……誰だっ!!!」

 虎の獣人が俺を見て吠えた。その瞬間、俺は条件反射のように全速力で洞窟から離れた。
 獣人が追いかけて来た音がする。無我夢中で走ると、「深追いするな」と声が聞こえた。
 俺は、恐怖で振り向けなかった。

 全速力で走って走って、洗濯物も何もかもそこら辺に放り出し、自分の家に帰った。ようやく後ろを振り向き、誰もいないことを確認する。

 はぁはぁはぁ……。
 家の床に座り込んだ。
 はぁ~っと大きく息を吐いて、家を見た。

「どうせ、獣人を家に連れ帰っても彼と住むだけの場所がこの家にはないよな」

 命からがら逃げて来て、彼のことを真っ先に呟いたことに頭を掻いた。
 立ち上がり、水桶の中から水を一杯汲んで飲む。落ち着かなくて水を何杯か飲んだ後、乱暴に水桶の蓋を閉めた。

 ゴロンとそのまま横になり、目を閉じると目頭が熱くなるのを感じた。ごしっと涙を拭いた後、暫く天井の木目を見つめる。

 彼に迎えがきてよかったじゃねぇか。迎えが来る程だから国では待っている者がいるんだろう。
 一人ぼっちの俺とは初めから違ったんだ。

 生きる場所も種族も何もかも違う。それなのに、頭がグルグル混乱して上手く考えがまとまらない。獣人と出会ってからずっと訳が分からなかった。

「……だけど、礼ぐらい言われてもいいよな? そうだよな」

 赤葉を使って看病してお礼の一言くらい言われないと割に合わない。
 それに、あの黒豹や虎の獣人だが、彼の仲間ならコバを食べないかもしれない。意志疎通がとれるのなら、話し合いだって出来るはずだと思った。

 居ても立っても居られず家を出て、再び山を登った。逃げて来た山道を戻る。
 慣れた山道をザッザッと足早に登る。
 降りる時は早いが登る時は、その数倍時間がかかる。それがもどかしい。

 洞窟の前に着くと、狼煙は消えていた。嫌な予感がして、急いで洞窟に入り、そして、もぬけの殻になった洞窟内を見て足が震えた。

「…………っ!」

 そこに獣人はいなかった。彼がいない洞窟を見て、とんでもない後悔が襲ってきた。

 ——逃げるんじゃなかった。なんで俺は彼から離れて逃げたんだ。

「はっ……————はっ、はぁ」

 苦しい……。息が苦しい。苦しくて彼が寝ていた枯草の上にしゃがみ込んだ。
 枯草にはもう体温はなかった。

 行ってしまった。彼が俺を置いて行ってしまったのだ。

「……行っちゃったぁ!」

 行っちゃったと呟くと、目から大量の涙が一気に溢れ、頬を濡らし地面に落ちた。

 こんな風に大泣きしたことはなかった。
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