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しおりを挟む春君を避けて、一週間経った。
あれから、春君が何度も電話をくれたけど、メールで返答している。
急に素っ気ない態度をとっているのに、毎日のように連絡をくれる。優しい春君は訳が分からなくて傷ついているだろう。
僕がもう少し友達付き合いが上手だったなら、こんな風に春君を傷つけずに済んだのかもしれないけど、どうしていいのか分からない。
春君と一緒にいてもモヤモヤしたけれど、今はもっとモヤモヤしている。
『明日、会えない?』
ピロンと春君からのメールが届いた。
『ごめんね。暫く忙しいから会えない』と返信をした。
学校内で、「バレーボール当たって王子君にお姫様抱っこされた人」として、僕の存在が少し浮上するけど、それ以外は大抵僕の存在は薄々のままだ。
ただ、春君のことが好きな女の子達は目を光らせている。
僕が春君の前に立っても前のように隠れ蓑にしてあげることは出来ないだろう。
時折、春君とばったりすれ違うことがあって、彼が僕に話しかけようしてくれるのが目に入るけど、僕は踵を返して逃げるように避けた。
体育の時、春君が頑張っている姿を横目に見て、皆がカッコいいって見惚れるのが本当によく分かるなって思う。
こんなに格好いい人のお家によく泊まりに行けて、あまつさえ身体を触ってもらったりしていたなんて……。
『小間ちゃん、気持ちよくなって』
その言葉を思い出して、かあぁっと顔が赤くなる。
いけない。授業中に何を考えているんだ、僕は!!
思わずエッチなことを考えてしまった。と、ハッ……春君がこっちを見ている。
しっかり目が合ったのに、動揺して思いっきり目を逸らしてしまった。
授業の後、ボールを体育館倉庫に直す。丁度昼休憩に入ったので、皆が片づけを早めに切り上げた。ボールは片付けたけど、体育館倉庫の物品が散らかっているのが気になる……。
これ、後で取りにきた人、奥の方の物品取りにくいだろうな。
なんとなく、片付けたい気持ちになり、片付けていると、がらりと倉庫のドアが締められ、鍵のかかる音がする。
「————っぁ!?」
まだ、一度も倉庫内に閉じ込められたことはないけど、これは!?
と振り向くと、そこには春君が立っていた。
いつもはにこやかにしている春君だけど、今日は無表情だ。
その顔を見て、もしかして最近の僕の態度に怒っているのかもしれないと思った。
「小間ちゃん」
どうしたらいいのかな。
一歩彼が近付いてきたので、思わず後退ってしまう。
「は、る……大路君……」
「それ何? 俺の事は春って呼んで。ね?」
ね? って言い方がいつもの春君らしくない。
挙動不審に固まっていると、すぐに春君が僕の目の前に立つ。彼を見つめることが出来なくて下を向くと、彼がフワッと僕を抱きしめてきた。
「……っ」
「小間ちゃん、俺、何かしちゃったんだよね? ごめんね。謝るから機嫌直して欲しい」
そう言って、僕の髪の毛に顔を埋めてくる。
「思い当たること沢山で、どれのことだろう。どれに怒ってるの?」
怒ってない……。どうしていいのか分からないだけ。
彼以外の友達も作らなきゃ……、急いで。作り方は分からないけれど、急がなくちゃいけないって今、凄く思う。
だって、胸が苦しい。
春君に軽めに抱きしめられて、ドキドキして、息も苦しい。こんなの……。
髪の毛にかかる彼の吐息に、さっき授業中に思い出した春君の『気持ちよくなって』を思い出してしまう。
「暫く、会いたくないの」
「……どうして? そんなこと言わないで。謝るから」
春君が、ギュウッと僕を抱きしめてくる。益々、苦しい。
「春君が悪いわけじゃないよ。謝らないで。僕が悪いから」
言いながら、僕が悪いのかな? って思う。でも、訳の分からないまま春君を無視しているのは僕が悪い。
離れようとして、彼の胸を押すけれどビクともしない。それどころか、益々力を入れて抱きしめられる。
「小間ちゃん、駄目、理由聞くまで離さない。だって、こんなに好きなんだもん」
「——————ぁ……?」
いつも言ってくる春君の言葉に、胸がキュウウッと痛くなるけど、モヤモヤが少し収まった。
少し収まるけど、彼には好きな人がいるんだ。と思うとまたモヤモヤする。
内心が破茶滅茶になっているから、どの言葉で春君から離れたらいいのか分からない。
頭でちゃんと答えが出るまで……。
「本当に春君が悪いわけじゃ……、でも、もう少し考えてから」
「そう言って離れる気でしょ」
春君が僕の両頬に手を添えて、上を向かせる。
彼の表情は、真剣そのもので凄く悲しそうだった。
……僕が傷つけているんだ、早く答えを出さなくちゃ。
「小間ちゃん、教えて。でなきゃ……」
でなきゃ……、と春君がもう一度言った後、彼の顔がどんどん近付いてくる。
フニっとした感触が唇に伝わる。
その唇の感触は何度も他の部位で感じたことがあったけど……。
「……!」
ん……!? 僕は今、春君にキスをされているの?
驚いて、固まっていると、カプッと唇を噛まれて、ハッとする。
——……あ……あれ?
キス? なんで、友達とキス?
春君と僕は友達以上……親友。あれ、だけど、キスはおかしい。
もしかして……もしかしてだけど、春君の好きな人は僕だろうか。春君は僕の事が好き?
そう思うと、一瞬でモヤモヤが消えた。
「は、る……っ、んはっ」
それを確認したくて口を開いた時、僕の口の中に彼の舌が挿いってきた。
その舌は歯をなぞり、それから舌に絡んでくる。チュウっと吸われると、その舌を甘噛みされた。
ハムハムといつも、僕の耳を噛むみたいに。
「あ……ん」
その瞬間、学校なのに、身体がスイッチ入ったみたいに熱くなる。
キュウッと彼の服の裾を引っ張ると唇を離してくれた。
はぁ、はぁ……と息を互いに荒くしながら、春君を見つめた。何故、モヤモヤしていたのか、それが消えたのか分かった。
「小間ちゃん、ちゃんと嫌がって。最後のあがきに何するか分かんないから」
「……あがき?」
「俺のこと、フリたいから冷たくしてるんだよね。でも、俺、小間ちゃんのこと、本当に好きで、諦めきれない」
好き……。春君はやっぱりそう言った。春君の好きな人は僕なんだ。僕で間違いないんだ。
そう思うと嬉しくて、僕は春君のこと好きだから悩んでいたんだと気がついた。
「なんだ。僕って、春君のこと好きなんだ……ふふふ」
悩みが吹き飛んでしまって、ふふふっと笑いが込み上げてきた。
笑いながら、春君の驚いた顔が目に入る。いけない。自分だけ納得して彼を傷つけたままだった。
「あのね、僕、ヤキモチ焼いていたんだと思うの。だって、春君モテるでしょう。好きな子がいるって聞いて不安だったんだ……ごめんなさい」
自分で説明しながら、ようやく分かってくることもあるんだ。
春君を見ると、エッチな気持ちになっちゃうくらい春君が好きってことなんだよね。
「……じゃ、また沢山会ってくれるの?」
「うん。自分でも分かってなかったの。傷つけてごめんなさい。えっと、……好きです」
すると、春君がぎゅむッとした顔をした。その顔、僕はまたどこかおかしいところがあったのだろうか。
「はっ。ごめん。好きすぎるの我慢して、つい」
「————っ! ふふふ」
好きすぎて我慢してる顔だったんだぁ。
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