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昼休みになると、僕と王子君は会うようになった。

僕は隠れ蓑に丁度いいようだ。女の子達が、王子君を探して、屋上にきても僕の後ろに隠れれば見つからないからだ。


「小間ちゃん、カッコいい」

僕の後ろで王子君がひょこりとキラキラした顔を出す。

「え? カッコいい? ふふ。そんなの初めて言われたなぁ。ふふふ……ふふふ」

ふふふっと口から笑いが止まらないので、口を押さえた。いけない。親以外に褒めてもらうことなんて、滅多にないから嬉しさが抑えきれない。

「……」
「ふふふ。大路くんの役に立ててよかった。でもいいのかな? 一人になりたいなら、僕も退けようか?」
「なんでっ!? それじゃ、意味ない……じゃなくて、俺は小間ちゃんと話したくて来てるんだよ!?」


王子君、僕に気を使ってくれている。いい人だなぁ。

「そう?」
「うん。それにもっと小間ちゃんのこと知りたい」
「……っ、いい人……」

そんなこと言われたことなんてないから感激してしまう。




僕は、昼休みにやってた花壇の水やりなどは他の休み時間にすることにして、昼休みは王子君と一緒にいるようになった。
雨の日は、図書館で。そのうち、放課後も図書館で一緒に勉強するようになった。
僕も一生懸命に頑張っているんだけど、どんなに頑張っても進学校はレベルが高い。中の中という全く目立たない順位だ。

「ん。……で、こう。小間ちゃん、基礎はちゃんと出来てるから大丈夫だよ」

応用問題に弱い僕に王子君が教えてくれたりする。なんていい人なんだろう。

「それで、これ。小間ちゃんに沢山助けてもらっているから、小間ちゃんが不得意な応用問題解説したのまとめてきたんだ」

そう言って、王子君が一冊のノートを僕の目の前に差し出してくれる。

「……ふぇえ?」
「本当は、もっといいお礼したかったんだけど、小間ちゃんが好きなもの知らなくて」
「——っ!! ありがとう!」

僕は恐る恐る差し出されたノートを受け取った。ぺらりとノートをめくると、丁寧に書かれた彼の文字が並んでいる。

「……」
「ごめん。ちょっと、自分でもこんなの急に渡して、気持ち悪……」
「フワぁ。嬉しいなぁ……。すごい時間かかって書いてくれてるの分かるよ。ふふふ。嬉しい。嬉しいなぁ」

ふふふ。ふふふ……と笑いが止まらなくなって、貰ったノートをキュッと抱きしめる。

「大路くん、ありがとう。凄く大事にするね」
「小間ちゃん……」

助けているって言っても単に僕の存在感がないだけなのに。
こんなに優しく親切にしてもらえるなんて、友達っていいなぁ。


違うクラスだけど、時間が合えば声をかけてくれるし、王子くんとの時間がとても増えた気がする。携帯電話の交換もしてので、王子君の名前を友達欄に登録してある。
さらに王子君は、「元気?」「寒くなってきたよね?」とこまめに電話をくれる。親以外に心配されることはないので驚いた。彼は、細かな気遣いまで出来るんだ。


さらにさらに、放課後、家まで送ってくれたりする。

「遠回りさせちゃったけど、いいの?」
「小間ちゃんが、危ないと心配だもん。それに一緒に帰れて嬉しい」
「大路くん……ふふふ。僕も」


友達と一緒に下校するなんて夢のようだ。僕の話しも、「うん、うん」と聞いてくれる。友達ってこんなにいいもんなんだなぁ。


「小間ちゃん、明日、遊園地いかない? チケットあるんだけど」
「!?」
「あれ? 小間ちゃん? おーい。こーまちゃん」

固まった僕を王子君がゆさゆさ揺さぶってくれる。

はっ。——な、なんていうことだ。友達に遊びに誘われてしまった。

「ふふ、ふふふ……」
「……その笑顔、かわ……明日はOKってっことかな?」
「うん。なんだか、小躍りしそうだよ。ふふふ……ふふ」
「…………………ぐ」

王子君の喉が変な音が鳴った。大丈夫かな? 水筒の水飲む?

「大丈夫。あ、そろそろ小間ちゃん、俺のこと大路じゃなくて、春って呼んでよ」

名前呼び。弟以外、名前呼びなんてしたことがない。

「いいの? ドキドキしちゃう。ふふふ、えっと……春君……?」


すると、王子君……じゃなくて、春君が目を瞑って、ぎゅぬッと顔を中心部に力を込めた顔をする。何かすっぱいものでも食べたような顔だ。

「えっと、春君? 大丈夫?」
「——うん!……俺も小間ちゃんと遊びにいけるの楽しみだよ」



そして、次の日の遊園地も最高に楽しかった。アトラクションも多いし、迫力があった。
春君は、僕が迷子にならないようにずっと手を繋いでくれたんだ。喉が乾いたら、彼が飲んでいる飲み物をマメに差し出してくれる。

————親切だなぁ。
春君は、恰好いいだけじゃなくて性格もいいし、頭もいい。沢山の人に好かれる理由が本当によく分かる。



「ねぇ、小間ちゃん、冬休みになったら、俺の部屋に遊びにこない? うち、親が仕事でほとんど家にいないし、ゆっくり出来るよ」
「え……」

春君のお家……、友達のお家に誘われてしまった。
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