親切な王子様は僕のおともだち。

モト

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キラキラ王子くん

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「え!? このプリント、いつの間にか集まってる!?」


クラスメイトが驚いている。その後ろで、僕は声をかけた。

「あの、皆、忙しそうだから、まとめておい……」「まぁいっか! ラッキー!!」

あぁ、僕がモジモジ小声で言っている間にクラスメイトは僕がまとめたプリントを持って先生の所にむかった。


……うん。今日も僕は僕として健在だ。


僕は、小間 ケンタ。高校一年生。黒い髪の毛に奥二重な特に特徴もない顔をしている。そういう人のことをモブだとか言うそうだけど、さらに僕には、存在感というものまで薄かった。

クラスメイトも「え? 小間って誰? あぁ、ずっと不登校な奴だろ?」「小間? 違うクラスの奴だろう」そんなことを目の前で言っていたりすることが多々ある。


あぁ、勘違いしないで欲しい。僕は決して悲観してはいないんだ。

この空気のような存在感を出来る限り改善しようとしているんだ。
積極的に授業中に手を挙げているし、皆が嫌がるような委員には率先して手を挙げて立候補するんだ。それに掃除や生き物の世話も頑張っているんだ。
……うん。まぁ、気付かれていないけど。

「なんか、多分さ、座敷わらしがこのクラスにいるんだな」
「あぁ、窓とかさ、このクラスキレイだよなぁ」

座敷わらし……。それが、いつの間にか僕の立ち位置になっている。座敷わらしは皆に幸せを与える妖怪だし、最近僕もそれでいいかな。なんて思うようになっていた。




「ホント、隣のクラスの王子くん、格好いいよね!」
「告白しちゃえば?」

キャッキャっと僕の席に女の子が座っている。

女の子が話題にしている王子くんは僕も知っている学校の有名人だ。

王子くん……、本当の名は、大路 春 君。
王子と大路で響きが似ているよね。ふふ。うまくあだ名を考えているなぁ。ちなみに僕があだ名をつけられたことは一度もない。

その王子くんは、クオーターで、髪の毛が金髪でおとぎ話の王子様みたいな見た目だ。学年主席でスポーツ万能。なにをやっても上手で、彼が通れば皆振り向いて見つめてしまう。凄い存在感なんだ。

彼の存在感の少しくらい、僕にもあればと羨ましく思うけど、こればかりは自分で解決しなくちゃだよね。








その日の昼休み、屋上で本を読んでいると、屋上のドアが勢いよく開けられた。

そこから飛び出してきたのは、噂の王子くんだ。
彼は、屋上をキョロキョロと見渡して、はぁ~っと溜息をついた。


「……なんで、こんな毎日毎日付きまとってくるんだよ。ストーカーかよ……」
「……」
「疲れたぁ」


いつものキリッとした彼とは違った顔だ。
後ろのベンチに座っている僕の存在には気付いていない。

人気者にも色々あるんだなぁ。

でも、僕が悩んだことのない悩みだ。
声をかけたら不躾な気がするけど、黙って聞いておくのもどうだろう。

「王子君、どこ行ったの?」「屋上じゃない!?」

女の子の声が聞こえて、階段をかけてくる音がする。それを聞いて、ガクリと頭を落とした王子君を見て、僕は、彼の腕を引っ張った。


「え…………っ!?!? わっ!?」
「大丈夫。僕に任せて」

そう言って、彼をベンチの隅に座らせて、その前に僕が立った。

屋上のドアが再び凄い勢いで開いて、女の子が二人入ってきた。

「王子君!? 王子君……あれ? 屋上じゃなかったのかぁ」
「残念~。もうどこ行ったんだろう?」

キョロキョロと彼を探した女の子達だけど、王子君が分からず去って行った。

去って行った後、振り向くと、彼がびっくりして目をまん丸く見開いている。


「どういうこと? アンタ、何かしたの?」

流石にこんなに近くにいると、僕の存在にも気づいてもらえたようだ。僕のことをしっかり見ている。

「うん。僕は存在感がほとんどないから、僕の後ろに隠れていたら見えないと思ったんだ。ふふ、大路君、バレなくてよかったねぇ」
「大路……久しぶりに王子じゃなくて大路って呼ばれた。一年生なの? 名前は?」

わぁ。こんな人気者に名前を聞かれてしまった。僕のこの存在感のなさも時には役に立つなぁ。

「うん。同じ一年生の小間ケンタです」

そう言って、ぺこりと頭を下げた。

「小間……小間君、小間ちゃん?」

何やら、王子くんが僕の事を呼ぼうとしてくれている。ふふ。有難いこともあるんだなぁ。

「小間ちゃんは……」
「こ、小間ちゃん……。わぁ、ちゃん付けはあだ名になるのかなぁ。ふふふ。嬉しいな」
「…………」

ニコニコしちゃうなぁ。
すると、王子くんが前のめりになった。

「小間ちゃんは、明日も屋上くるの?」
「え?」

いつもは、花壇に水をやる時もあるし、毎日屋上にいるわけでもないんだ。今日、たまたま屋上にいただけで。

「絶対来て、ね?!」

キラキラとした輝く彼が僕の手を握った。凄い迫力に押されて頷くと、「嬉しい! 俺、小間ちゃんと仲良くなりたい!」そう言ってくれる。

もしかして、大路君、存在感がなくてボッチそうな僕を気遣ってくれているのだろうか。

——わぁ、この人いい人だぁ。





この日、初めて友達ができた。
その友達は、凄いキラキラした王子様でした。
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