英雄は喫茶店の片隅で恋をする

モト

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シガーの想い人 ※微【シガー視点】

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◇◇◇【シガー視点】


 マシュー・デイル。

 俺の命の恩人で想い人。彼の口から直接名前を教えてもらってからは、マシューと一日に何度も呟いている。

「マシュー」

 命を助けてもらった10年前から、俺の中でマシューは絶対的な存在だ。
 




「もう一度、会いたい人がいる」
 
 地下室で助けてくれた凛とした強さを持つ子供。

 俺にとって“女神”的な存在。どんなに辛い時も、あの子に必ず会うんだと強く思って生きて来た。



 そして、胸を張ってあの子に会いに行くまでに10年かかった。

 街の風景はガラリと変わっていた。地下室の場所には、住宅が建っていた。だが、住人はあの子じゃない。

 どこにいるのか、手かがりが掴めず頭を掻いていた時だ。
 通りかかった赤毛の人に、ドキッとした。細くスラリと伸びた手足……の男だった。

 何故だが、心がざわめきたつ。赤毛の男が喫茶店に入ったのを見て、時間を置いて自分も入った。

 店内は、珈琲の香ばしくていい匂いが漂っていた。

「いらっしゃいませ」

 赤毛の彼はエプロン姿で、コーヒーを淹れていた。
 客から「マスター、注文いい?」と声をかけられている。
 どうやら、彼は、この珈琲店の店長のようだ。


 ……似ている。あの子に、顔も雰囲気も。

「君に似た女の子を探している」

 気付いたら言っていた。目が合うと、益々似ている。
 男だというのに俺の胸は故障したみたいに跳ねる。


 こんなに似た人がいるだろうか? いや、間違いない。目の前にいる彼はあの子だ。実は少女ではなくて少年だった? 

 10年前の出来事への感謝を伝えなければ、頭ではそう思っているのに、なんて言っていいのか分からない。

 緊張と動悸……顔が赤くなる……まっすぐ彼を見ていられなくて下を向く。

 あぁ……、嘘だろ。これは今、惚れている最中か?! 異性ならともかく、……同性でこんなオッサンから好意を寄せられたら気持ち悪すぎるだろう!? 

 狼狽えて冷や汗が出てくる。

「君のような……」

 唸って混乱して同じような事を聞く俺に珈琲を淹れてくれた。

「どうぞ」

 あぁ、この雰囲気、君だ。ずっと会いたかった。


 店を出た後、もう一度店を振り向いて、この街に住むことを決めた。







 珈琲店に行けば会える彼。

「こんにちは」
「こんにちは、マスター」

 マスターは独特の柔らかい空気を持つ人間だ。

 彼が他の客の相槌をうつ姿、紡ぐ言葉に癒される。他の客も居心地良さそうだ。

 彼は、静かに周りをよく見ていて、俺が彼に見惚れていると、目があい声をかけてくれる。

「土地探しは上手く行っていますか?」

 先日に、マスターに土地を探していると伝えたんだ。現状、仮屋に住んでいて、この店から少し遠い。

「あぁ、店の近所に土地を購入したんだ」
「そうですか。ご贔屓にして頂けますと、嬉しいです」
「勿論! こんなにいい店はないよ!」


 あ、ふふって今笑った……。
 少し話すだけで、子供みたいに心がはしゃいでしまう。


 「シガーさん」と、彼が俺の名を呼ぶ。優しい声で、もっと呼んで欲しくなる。


 あぁ、そういえば、彼は俺がシガー・ナイツだということを知っているのに何も言ってこない。
 10年前は傷だらけだったし、今よりも若い。分からないのかもしれない。

 初めのタイミングを逃すとなかなかその話題を言い出せなかった。
 だから、珈琲を受け取る時だとか、ふとした時のお礼を心を込めて言うようにしている。


「お待たせしました」
「ありがとう」
「ごゆっくり」
「……」

 はぁ、好きだ……。

 マイナスイオンを浴びた俺はいい気分で店を出た。

 今から街外れの建物の解体作業を手伝うことになっている。爆破は得意だからな。俺が言うと冗談にならないが。

 この街にはずっと住む予定なので、住人達には愛想よくしていた。頼まれごとは基本的に断らず請け負っている。


「シガーさぁ~ん」

 街の女の子が、むぎゅうと胸を押し付けるように腕にしがみついた。谷間がくっきり見える。

「……」

 昔は、その弾力が好きだったんだがなぁ。

 ポリッと頬をかく。今はどうも萎え気味だ。なんとも思わなくなった。

「家に虫が出て怖いのですぅ~助けくださぁい」

 甘えた声で、何かと家に呼ぼうとする彼女。
 
 あぁ、これがマスターならなぁ。

 腕に巻き付く彼女をあしらいながら、マスターが腕に巻き付いてくるのを想像する。マスターが上目遣いで強請れば「喜んで!」と何でもするのに。



 その日の夜、夢を見た。 
昼間見た女性のように、マスターが俺の腕に抱き付いてきた。長い腕は細いがきちんと筋肉が付いている。

「シガーさん」
「……っ」

 これは、クル。
 女性には反応しなかった身体の一部にメガヒットする。

 マスターは首元がゆったり開いた服を着ていた。ピンク色のツンとした乳首が見え隠れしている。その胸を腕に押し付けられる。

「っ、マスター」

 普段の彼は、シャツのボタンを一番上まできちんと留めている。それに彼はこんな大胆なことをしない。これは……夢だ。

「今日、暑いですね」

 手で顔を扇いだ後、俺をチラリと見た。すると、いきなり彼が服を脱いだのだ。
 胸が見える。細い腰や臍。

「っ」

 俺の目は、彼の身体から離すことが出来なくなった。ゴクリと喉が大きく上下する。

「下も見たいですか? 男のモノがついていますが……」
「見たい!!」

 不安げで、でも、試すような彼の言葉に即答した。

「シガーさんだけですからね」

 あぁ、勿論大事にする! だから早く……



 

「う……ぁ……っ」

 マスターがズボンを膝まで下ろした瞬間、興奮しすぎて目が覚めた。
 恥ずかしい夢を見て、俺は腕で顔を覆った。


 一瞬しか見えなかった。だが、一瞬見えた。
 緩く勃ちあがったペニス……。

 男の性器なら腐るほど見てきた。軍には同性愛者も多く、野外でセックスをおっ始める奴もいた。
 俺は男色ではなく、一度だって性的な目で見たことはなかった。

 なのにだ。マスターに欲情してしまう。



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