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アル様がいるとき、いないとき。
しおりを挟む「リース、ただいま」
「あっ! アル様っ!! おかえりなさいませ!!」
変な夢を見た次の日、久しぶりにアル様が戻って来た。
ジイ様が横で「これ!」と叱咤する声が聞こえたけれど、僕はアル様の元に駆けて行った。堪えきれず尻尾がブンブンと左右に思いっきり揺れる。
間近で見たアル様を見て、本物だぁ~と嬉しくなる。
僕の様子を見てアル様がははっと笑った。そしていつものように頭を撫でてくれる。ピンッと立ち上がる耳を触ってくれる。
あぁ~~~、久しぶりのアル様。
荷物を受け取りながら嬉しくて堪らない。
ソワソワとアル様の周りをうろついて、移動する度ついてくる。アル様はこれじゃ着替えられない苦笑いした。
「私にそんなに会いたかった?」
「はいっ!!」
思いっきり返事をするとアル様は照れたように頬を掻いた。
「君のそういうところは素直だよね。私も会いたかったよ」
「!!」
会いたかったと言ってもらえて嬉しい。
昼食は、少し手の込んだ料理を作った。目の前でアル様と食事をしている。
ニマニマと顔が崩れちゃう。そんな僕を見てアル様も微笑んでくれる。
うん、これだ。アル様がいる空間はとても穏やかで癒されちゃう。
その後、互いに一か月の報告をし合った。と言っても僕の方は特に変りがない。話は主にアル様の報告となった。
「まだ一か月じゃ大して成果は出ていないけどね」
「そ、……そうですか」
まだ一か月、と彼は言った。
僕にとっては物凄く長く感じる一か月。
アル様は、昼食後ゆっくりされることもなくノワールを周り村人たちに声をかけていた。次の日、その次の日も朝から晩まで外に出かけられる。
そして、一週間後にはまたノワールから出て行かれた。
出ていく姿を見るのが悲しくて、見送る時、耳も尻尾も下がってしまう。
アル様が屋敷に戻ったのは三か月後。
戻ってきてくれて嬉しいけれど、またすぐに行ってしまう。別れるのが淋しくて無邪気に喜べなかった。
「リース、誕生日おめでとう」
「!!」
その言葉を聞いて、現金なモノで耳と尻尾がピンと立ち上がった。
そうだった! 今日は僕の誕生日だった。18歳の誕生日!! アル様のことで頭がいっぱいで忘れていた。
「だから帰って来たんだけどね」
「帰って来た目的が僕!?」
「リースの18歳の誕生日を忘れるわけがないだろう」
「!!」
それって、凄く嬉しい!!
アル様は立ち上がって僕の目の前まで来て座った。
僕の指をニギニギと握っている。何をしているのかと首を傾げると彼がニヤリと笑った。
なんだか企んでいるような笑顔にドキドキしてしまう。
「……、アル様?」
「私に狙われたのが悪かったと思って色々諦めておくれ」
意地悪そうな顔がセクシーでエッチに感じる……。はっ、最近離れていたせいで思考がおかしい。
見つめられてしどろもどろになっている僕をアル様はどう思っているのだろう。
「……っ、あの、どういう意味ですか?」
「内緒」
わー、内緒って言い方も意地悪!! ————って違う。僕! さっきからキャッキャしすぎていないか。放置されていた犬が急にご主人に遊んでもらえてはしゃぐみたいになっている。
とは言え、僕は犬獣人なので仕方がないのだけど。
アル様からプレゼントを頂いて、その日は沢山祝ってもらった。久しぶりに一日ゆっくり二人で過ごした気がする。
でも次の日は違った。
アル様は玄関先で帽子を被った。
「……」
浮かれていた頭がズンッと沈む。
「行ってくるよ」
「はい……、行ってらっしゃいませ」
また、見送った。
日めくりしながら、二か月、三か月と会えない日が過ぎていくばかり。
アル様が頑張っているのだから、僕だって頑張って欲しいとは思っている。なのに何も望まない貧乏生活が恋しいと思っている。
村人達は、アル様から何か聞いているのだろう。
アル様がいなくなった屋敷にも時折、食べ物を持ってきてくれる。きっと僕の面倒も見てやってくれとか言ってくれているのだと思う。
今日は持ってきてくれた果物のお返しにサンドウィッチを作ったので、村人達に食べてもらおうと畑に向かった。
畑の土をえっさほっさと耕いていた農夫に声をかけた。
「やぁ、リースくんじゃないかい。どうした?」
「こんにちは、サンドウィッチ作ったので食べてください。他の皆さんはどこにいらっしゃいますか?」
いつもこの畑は数人で作業している。
すると、農夫が「あぁ、この先に生えている豆を収穫しているよ」と声をかけてくれた。
つるの後にいる人が見えなかったのだ。
僕は回り込んでそこにいる人たちに声をかけようと思った。
すると……
「アル様がとうとう身を固めるって」
「あぁ、ついに。パーティは盛大にしなくちゃぁね」
「パーティ何着ていこう。ドレス縫わなくちゃ」
女性達が豆を収穫しながら話している。
「……あの?」
僕が声をかけると、そこにいた女性達がハッとして慌てた様子で僕を見た。
「リース君? あらぁ、それはサンドウィッチ? 持ってきてくれたの? 嬉しいわ!」
「えぇ、皆さんで食べてください。——さっきアル様の話を?」
「頂くわ! ありがとう。今日は熱いわねぇ」
「あっ、リース君、ここに来てお茶どうかしら。そう、もっと飲んでもっと!」
「???」
さっき女性達が話されていた内容を聞き直したかったけれど、女性達から話題をコロコロと変えられて質問出来なかった。
女性達と別れてあの話題がどうしても気になった。質問しようと引き返そうと思ったけれど、彼女達の仕事を邪魔するのも忍びない。
————アル様が身を固める。
今、アル様は新しい事業で忙しくされている。婚活の余裕なんかないはずだ。きっと僕の聞き間違いだろう。でも、仕事先で素敵な女性または男性と出会う事だってある。
「……」
アル様の結婚は僕が望んでいたこと。
それはアル様がこの屋敷で過ごされることが前提で、彼が笑って、僕はそれを見て暮らしたいと思っていた。
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