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お見合い

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「ついに……応募が!」

婚活コミュニティに申請してから早1か月は経っていた。募集をかけても応募者ゼロという状況だったけれど、ついに応募者が……!!

どんな方だろうと、書類に記載されている情報を見る。すると、封筒の中には二枚の履歴書が入っていた。

二枚ということは、二人。一気に二人の応募があった。貧乏でもアル様の高学歴は、好感度に繋がったかもしれない。



まずは一枚目の履歴書。
ふむふむと読んで、がっくりと頭を落とした。
金持ち貴族なのだが、結婚歴が4度ある。しかも50歳だった。
アル様は初婚なのに5番目の旦那様になることは僕が嫌だ。というわけで却下。


二枚目も読んでいく。
ふむ。
17歳の女性でここより北のこれまた田舎の7番目の娘だった。7番目の娘ということで早く嫁がせたいのだろう。この国の成人は18歳だが、婚姻は女性が16歳になると親の同意があれば出来る。


ただ、今回の応募に辺り、旅に関わる全ての費用をグレイ家が持つこと。それくらいは当然なのだけれど、今回応募にかかった郵便物代の配送代まで請求があった。これは、とんでもない貧乏さを物語っている。いや、貧乏というかケチ。



「しかし、他に応募がくるだろうか」

一か月待って応募が50歳の結婚歴4回の女性か、封筒一枚分の配送代すらケチって請求するような家族を持つ17歳。

アル様は男性希望だけど、女性かぁ……。

うーん、と悩んで僕は17歳の女性に、一度互いにあってみてはいかがだろうと手紙を送った。





「送った——……と、何故事後報告なのですか?」

ジジ様に婚活の応募があったことを伝えた。50歳と17歳。50歳はすぐにお断りして、17歳の方には会う返事をした。

「もしかして50歳の金持ちの方が良かったでしょうか? ですが、アル様は初婚ですし。そのような金持ちの方が田舎のスローライフを楽しめるかどうか分かりませんよね」

「違う違う。両方そうではない。私は止めろといったね。まだ婚活などしていたのかい」

頷くと、ジジ様が持っている杖で肩をパシンと叩いた。

「はぁ、アル様のお怒りになる様子が目に浮かぶようじゃ」
「お怒り……」

怒るアル様、その言葉にビクンと身体が疼くような感じがするけれど、無視した。

「まぁ、私が断っておく。それでそのご令嬢とはいつ約束をしているのかい?」
「それが、今日です」
「……っ」

ジジ様は目を見張った。向こうも急いていたのか、返事を出すと淡々と事が進み、すぐに出発するとの返事があった。

「アル様はそれを知っているのか?」
「いいえ。あの、今から?」

はぁ~~~と大きな溜息をついたジジはぼそりと“どうなっても知らんからの”と愚痴をこぼした。



「アル様、その……」
「おや、リース。どうしたんだい?」

早朝から畑仕事を一終えしたアル様が屋敷に戻って来た。
僕を見るとアル様はトロリと蕩けてしまいそうな笑顔になった。

「最近、リースに避けられているような気がしたから、声をかけてもらえて嬉しいよ」
「……避けてなど」

すると、アル様の手が僕の頬を撫でる。ヒクンッと後退る僕を見て苦笑いした。

「いいんだ。野獣のような私を知れば誰だって怖いだろう。初めての君に二日間朝も昼も夜も関係なしに挿れっぱなしにしていたからね」

「……っ」

こういうことを言う時のアル様は、若干意地悪な言い方をする。情事のことを詳しく説明するような言い方。思い出させるような……。
アル様の目をなるべく見ないように逸らしながら、用件を言わなくちゃと手に力を入れる。


「あのことはお忘れください」
「忘れられないよ」

アル様の手の熱を感じる前に屋敷の前に馬車が止まった。
まだ来客を伝えていなかったので、アル様は首を傾げた。


「アル様は最近おかしいですよ。きっと身近に素敵な女性がいないからですね。性欲も溜まりますよね。……分かってますよ。僕をもうこれ以上揶揄わないでください」

「——……え? まだそんなことを?」

僕は頬を撫でるアル様の手を下げて、ドアへと向かう。

「今日、お見合い相手がお越しくださっております。是非お顔合わせください」

それを伝えるとアル様はピシィッと固まった。








アル様は畑仕事の普段着のまま、その女性とのお見合いが始まった。着替えることを促したけれど、勝手に見合いを決めた僕に対して一切無言。顔も視線も合わせない。僕の言う事など全て無視。
そんな態度初めてだけど、それくらい腹を立てていることが分かり、ジジ様からも「自業自得じゃぞ」と言われる始末。

しかし、アル様の貧乏暮しは向こうの女性もある程度承知の上でこちらまで来られた様子だった。
マリーナ・ロッタ、素朴そうな17歳だけど、落ち着いた雰囲気を持つ女性だった。お見合いするに相応しい恰好ではないアル様を見ても表情一つ変えなかった。

「父が急いで今回の話を進めましたので、驚かせたでしょう。申し訳ありません」
「そうだね」

無言のアル様の代わりに、横で紅茶を入れていた僕が「いえ! とんでもありません」とマリーナ様に伝える。

「素敵なお屋敷ですわね」

マリーナ様は返事をしないアル様に何かと声をかけ続けていた。アル様は頷いたり軽く返事をするだけ。
僕がいては話をやりにくいのではないかと、僕は部屋の外に出た。

それから二人は屋敷から外に出て、だだっ広い庭を歩いていた。二人が横に並ぶことに違和感がなかった。

二人はもっと寄り添えばお似合いの二人になるのではないだろうか。


ズキンズキンと痛む心の中、僕は屋敷の中からその様子を見た。

「リース、アル様の結婚相手を見つけることは楽しいかい?」

ジジ様が後ろから声をかけて来た。

「僕が楽しいか楽しくないか……そんなの関係ありますか?」
「そうかい。とんだ大馬鹿だよ。ジジからも余計なお節介をさせてもらうよ」
「?」

ジジはそれだけ言うと僕から離れた。

マリーナ様の住まいはここから馬車で半日以上かかる。そのため、今日はグレイ家に宿泊される。この日の為に僕は掃除を丁寧にしていたし、シーツも新品を用意していた。
アル様とマリーナ様は、朝よりも穏やかな雰囲気で夕食を囲んだ。
野菜尽くめだけど、新鮮野菜は味がよくそれをマリーナはにこやかに食べていた。「こんな穏やかな暮らしも素敵ですね」って。

彼女はいい子で、笑顔を見せる度、僕は胸が痛んだ。
でも、この子ならいいなって頭では思った。だからこれでいいと思う。
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