輪廻魔術 ~君が死なない方程式~

モト

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愛欲編

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「はぁはぁはぁ……」

 呼吸が全く落ち着かない。身体も頭もぼんやりしたままだ。

「休んでいろ」

 カイル君に布団をくるりと包まれてポンポンされた。風呂場とトイレの位置だけ教えてくれて、彼は別の部屋に立ち去り一人にしてくれる。

 ぼぉっとした頭が徐々に覚醒してくると、羞恥心がこみ上げてくる。身体の熱が随分下がるが今度は顔が火照ってくる。

 自分の身に起きたことが信じられない!

 あんな風に触られて何一つ抵抗しないとは……!!

 あれは知ってはいけない快楽だった。

 凄かった……!!

「びっくりした!」

 驚きすぎて快楽の感想が陳腐なものになってしまうが、本当に驚いた。

 世にあんな魔力の人間がいるとは。僕の魔力が彼の魔力の虜になっていた。

 恐ろしい……。二度と彼には魔力をもらわないようにしないと。





 僕は起き上がった。身体が軽い。魔力が完全に復活している。それどころか前以上の魔力を感じる。

 この事には感謝しつつ、風呂場に向かった。クリーン魔術を使えば手軽だけれど、シャワーが使える時はシャワーを浴びたい。

 浴室に入り、シャワーの蛇口を捻る。

 彼の手の感触がまだ全然去らない。性器をすっぽりと覆う大きさのごつごつとした手が器用に上下に擦る。たまに鈴口に親指を嵌められたり陰嚢を揉まれたりした……自分の単純な自慰とは比べ物にならない。

 考えると、またピクリと性器が反応し出す……。

 僕はブンブンと首を振った。

 違う!! これは人工呼吸みたいなもので、決してやましいものではない!! 彼だってそれ以上の事はしなかったじゃないか!!

 それに、その後、すぐに僕を一人にしてくれたし。きっとこういう事が慣れて(?)いるのだ!


 あれは事故、救命処置、事故、事故……と自分に言い聞かせていると自然と反応したモノも治まってきた。人の家の風呂なのに随分長風呂してしまった。



 風呂場から出ると、ふわりといい匂いがする。

「?」


 匂いの方へ向かうと、キッチンでカイル君が料理をしている。僕に気づくと微笑んだ。

「もう平気か?」


 う。まともに顔が見れない。いや、あれは事故、事故……救命処置!!

 いつも通り、素っ気ない態度をとってしまいたいが、流石にこれほどの事をさせてしまった後では心苦しい。

「……その、悪かったね。色々処理させてしまって。た、助かったよ。ありがとう」

 顔が火照るのを感じるが仕方ない。言いたい事は言ったので帰ろう。

「いいよ。役得。おかずになったし」

「おかず?」

 おかずと言うと、そのテーブルに置かれた作りたてのおかずの事だろうか? 彼が作ったのか? 彼はシェフなのだろうか。

「凄いねぇ! この短時間でこれを? 君は料理人なのかい?」

 そう言っている間にまた一皿作りテーブルの上に置かれる。

「いや、一人暮らしなら普通だろう。アンタの分も作ったからどうぞ」

 これが、普通!?

 師匠と僕は二人暮らしだったけれど、協会の横に住んでいたからシスターが料理を作ってくれたのだ。

 感心して立ったままの僕を椅子に座らせる。

 野菜炒め、オムレツ、ベーコン、パン、スープ……美味しそうだけど、量が多い。



「すまない。胃袋が大きくなくて、美味しくても半分も食べられない。気を悪くすると思うから……」

「あ? あぁ、いいよ。客人がきたらいつも多めに作るんだ。ないよりあった方がいいから。残したら俺が食べるから、少しだけでも口にいれておけよ」

 彼がそう言うので、勧められるままにオムレツに手を付ける。美味しい。ふわふわしている。

「凄いねぇ!」

 こちらの野菜炒めも色んな野菜が入っていて食感が面白い。

「凄いねぇ!」

 次は……。

 一口ずつ摘まみながら感想を言っていると、横でブブーっと噴き出して笑われる。

 目に涙を浮かべて腹を抱えている。



「くく……あ、悪い。あまりに素直な反応だったから」

「……」

「あぁ、悪かったって。子供の生徒に接する時の顔をしていたから、アンタの素ってそっちなんだな」

「……む」

 気を付けていたのに、ついやってしまった。子供以外と食事を囲むことはないから油断した。何を無邪気にはしゃいでいるのだ。



 食事を終えて食べ終えた食器を片付けて帰ろうとすると、彼が送っていくと言うので断った。

 彼が親切にしてくれるのは、僕への恋心からだ。そして、僕はそれに応えるつもりはない。

「……色々助けてもらって、こんな事を言うのは酷いと思う。僕は君の気持に応えるつもりはないんだ」

 自分でももっと言い方があると思うけど、こんな言い方しかできない。彼は、しばらく沈黙していたが、腕を組んで首を捻る。


「別に無理に俺の気持ちに答えなくていい。だが、俺がリンを好きなのは変わらないから」

「フッているのだけど」

「あぁ、フラれているな」

 どう言えば彼を諦めさせられるのだろうか。ガクリと頭が落ちる。

「何事も白と黒で考えんな。今日は付け込んだけど襲うつもりはない。最近子供達との邪魔もしていないし無害だろう。それでいいじゃないか」

 それに、と彼が言う。

「何か困った時に相談できる強い奴ってアンタには必要だろう。俺の下心なんて無視して頼れよ。俺はアンタを助けたい」

 下を向いていたけれど、彼の方を見た。ヘーゼルカラーの目が涼し気に僕を見ている。

「僕よりずっと弱いのに、えらそうだね」

「あぁ。未来的にはアンタを越えるから問題なし」

 あぁ言えばこう言う。減らず口とは彼の事をいうのだろう。下心付きの人間に頼れと言うのか…。

 この男には呆れてしまう。だけど、彼の言葉は胸にすんなり入って来る。

 僕は笑ってしまいそうな口を引き締めて移動魔術で彼から離れた。










 穏やかな生活が続いていた。

 国に張り巡らせている結界に変化はもう何十日となかった。結界に変化がなければ、人も動物もモンスターも穏やかであった。

 僕もこの穏やかさにこのままの状態がずっと続けばいいのにと思っていた。



 そんなある日、東の村で大きな結界の揺れを感じた。

「マキタッ!! 今すぐ魔術師を村に配置してくれっ!」

「はっ」



 急いで、魔術師達を連れて東の村に転移した。

 その村は真っ暗に覆われていた。よく見ると影のような物体が大量に空を舞っていた。あまりの異様さに息を飲む。


 アンデッド。幽霊系のモンスターか……。

 そのアンデッドは不気味な言語を話した。聞いた事もない言語……。黒いローブのようなものを身にまとったアンデットだが、そこに透けた足が生えている。

 マキタの指示にて続々と魔術師がやって来る。彼らに村人の救出作業に当たらせる。



 僕はアンデッドと対峙した。

 この場は、僕が治める。光属性の僕は幽霊系にはとても強い。

 魔術を唱えると、手の平から溢れる光が生まれる。それをアンデッドに向けると悲鳴を上げながらスゥっと消えていった。

 真っ黒に覆われた空が元通りに戻っていく。

「……不気味だ」

 僕は顔を歪めた。結界の揺れを大きさに対して、あっけなく終わったので拍子抜けした。

「マキタ……、もしまたアンデッドの出現があればすぐに教えて欲しい。どんな小さい事件でも」

 嫌な予感がして、マキタに伝えた。

 こういう嫌な予感とは、よく当たるものだ。

 この事件から、各地でアンデッドの出没が増えていった。アンデッド自体はそれほど強い者ではないが、その量が問題だ。


 ただ、現場の魔術師が頑張ってくれていて、各地の被害は最小限であった。

 その報告をマキタから受ける。

「リン様、何か感じられておられるので?」

「……いや。まだ僕もこの嫌な感覚の正体が分からない」

 結界から感じる嫌な予感は、確実にアンデッドの出現時に感じていた。なのに、こんなにも簡単に抑えることが出来ている。

「胸騒ぎがする。魔術師を各地に増員して欲しい」

 僕は上部にかけあって、国に魔術師を配置した。アンデッドの出現回数がどんどん増えていく。国に何か異変が起きていることは魔術師も皆感じ始めていた。


 そう思った時に、国の最南端で大きな地震が起きた。

 僕の結界が壊れるのかという衝撃だ。

 マキタも感じる程の異変だ。マキタはすぐに周りへ指令を出した。

 僕たちは頷きあい、王宮から転移した。


 地震の発生場所へ向かえば、地割れがしてそこから真っ黒な靄が噴き出していた。その靄と一緒に多くのアンデッドも出現し始める。



 急いで、地面の地割れ部分に結界を張る。マキタが同行していたから助かった。彼の的確な指示の元、他の魔術師の的確に攻撃を出す事が出来た。


 しかし、今回は被害が出た。

 僕が、もう少し対応ができていれば……。

 救助しながら、怪我人にヒーリングを行う。

「リン師範、そんなに魔力を使えばご自身が危ないですよ」

 マキタが心配して僕を現場から遠ざけた。

 一番上の者ならばマキタのように現場を指示しなければならなかったのに、敵に攻撃することに必死で周りが見えていない。

 こんなのじゃ駄目だ……。

 その日から結界への魔力を増やした。

 国土の地図や地形で守り方が変わるかもしれない。被害を最小限に抑えなければ。寝る間も惜しくて対策を練る。


「リン先生、最近元気ないね。……大丈夫?」

「師範、顔色が悪いですよ。休んでください」

 うん。平気だよ。と心配してくれる優しい人々に笑顔を作る。

「リン師範、無理しすぎですよ。もう休んでください」

 魔術の勉強をしていると、マキタが声をかけてくれる。

「マキタ……、うん。もう少ししたら休むから」

 マキタの心配した顔を見ると、強くならなければと思う。

 師匠は僕に弱いところを見せたことがなかった。だから、人柱になる時も師匠のように強くいようと思った。

 マキタには、僕の弱いところは見せられない。
 彼が出て行った部屋で本を読んでいると、頭がフラフラとする。

「……駄目だ。頭に入っていかない。こんなじゃ駄目だ!」

 僕は本にうつ伏せになった。

『頼れよ』

 何気なく、彼のあの言葉を思い出した。

 そう言えば、あの日以来何十日も会っていない……。



 気が付くと僕は彼の家の前に立っていた。

 今は夜中…。こんな深夜に人の家に尋ねるなどどうかしている。

 ポツポツと雨が降ってきた。

 僕は何をしているのか。

 程なくして、彼の家のドアが開いた。

「……やっぱり、リンの気配がすると思った」


 カイル君の顔を見て僕は下を向いた。帰ろうと踵を返した時、彼が僕の腕を掴んで家の中に入れてくれる。

「何も聞かないから」

「……」

 こんな夜中に来たのに、彼は追い返すどころか温かな牛乳を差し出してくれた。何も話さない僕にカイル君はただ傍で座ってくれていた。

「顔色が悪い。少し横になれ」

「……」

 そして、横になるようにベッドを貸してくれた。

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