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ストーカー編

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「おはよう」

 それはとても優しい声だった。

 目を開けると優しい目が自分の事をみつめてくれる。額にキスを落とされ、次は瞼に頬に、そして唇に。唇には少しだけ長めのキス……。

 彼が体重をかけず、そっと抱きしめてくる。その優しく包まれる感覚に自然と幸福感が湧き上がってくる。

 朝日がキラキラと彼の茶色い髪の毛を照らした。

 ふわふわとした気持ちに瞼がもう一度落ちてしまいそう。

 だけど、彼に朝食を用意したと起こされてリビングへと連れて行かれる。

 パンとサラダとハムエッグとスープ。完璧な朝食がテーブルの上に並んでいた。



「こんなに食べられない」



 すると、スープだけが差し出された。

 ほんわかと温かないい匂いが食欲をそそる。丁寧に玉ねぎを炒めた黄金色のスープだ。



「美味しいよ」















 浅い眠りについた朝。

 目を開けるとカイル君のベッドがもぬけの殻だった為、外へ出た。



 カイル君は毎朝日が昇る前から行動する。もう彼にとって日課となっているのだろう。

 気配のする方へと向かうと、木刀を素振りしていた。



 カイル君はとても真面目だ。努力をすることを惜しまない。

 風を切る音が心地よく響き彼のキレイな素振りを離れた遠くから隠れて見つめていた。



 すると、村人の娘がカイル君に朝食を持ってきた。

 早朝なのに身だしなみをキレイに整えていた。頬を染めてカイル君に話しかけて笑っている。

 あの娘、昨日カイル君に断られていたのに全く諦めていないようだ。カイル君は本当に罪な男だ。まぁ、諦められないのは分からなくもない。モテて当然のカイル君なのだ。





 僕は目を閉じた。

 彼らがいる方向とは逆に向き、地面に魔法陣を書く。昨日の夜話した風の魔法陣だ。



 風か……。爆弾と組み合わせたら面白いのではないだろうか。爆弾と組み合わせると威力が更に倍増して面白いことになるな。



 あぁでもないこうでもないと魔法陣に付け加えていくけれど、あまり上手くはまとまらない。

 もっと効果的でないと。



 魔術構成を考えているとなんだか嫌な気配を感じる。





 この気配は人じゃない。



 地面に手を当てると微かに揺れている。地震じゃない。なんだこれは。

 急いで、カイル君の元へ駆ける。



「カイル君っ!!」



 僕がいるのが既に分かっていたのか、カイル君はあぁっと頷いた。

 地面から、地上へ現れたのは触手だ。いや、触手の真ん中には丸い目玉がぎょろりと付いている。これは異形モンスターだ。



「いやぁあ!」



 娘が叫ぶ。すると、真っ先に目玉の触手が彼女の方へ向かった。僕はすかさず、彼女へ結界を張る。



 カイル君が素振り用に使っていた木刀で触手を切りつけた。だが、触手のぬめりで上手く切り込むことが出来ず、打撃を与えるだけになってしまう。

 僕は魔法陣を素早く空中に描き、カイル君の使っている木刀に強化魔術をかける。



 カイル君自身が持っている魔力と僕の強化魔術によって、触手がスパンと切れる。



「リンッ! 次は木刀を研磨しろっ!」



 カイル君の指示通り、僕はカイル君の使っている木刀を鋭い鋭利な刃へと調合する。

 木に鉄を上塗りしたのだ。



 カイル君に集中的に触手が向かっていく為、僕は魔法弾を打ちこんでいく。カイル君は身体を捻らせ触手の攻撃を避けながら目玉へと向かい突き刺した。





 その間2分にも満たなかった。

 早い。強い。的確だ。見事としか言いようがない。



 カイル君はスーッと魔術が消える木刀を眺めた。

 そして、くるりと僕の方を振り向いたため、僕はビクっと思わず身体が驚いてしまった。



「凄いな。お前何? 援護の達人なのか?」

「あ、あぁ。うん。あぁ。あの……手を……」



 カイル君が僕の手を掴んでいる。この手がこんな凄いのを出すのか。とまじまじと僕の手を見つめる。どうなっているんだ。と手を揉み揉みと握られる。





「試しに指示出してみたけど、即効魔術。初めて一緒にモンスター狩りしたのに息合わせるの抜群にうまいな。……あ? おい。どうした??」

「胸が……、君は距離を間違えているよ」



 あまりに至近距離で手なんか揉むものだから胸が苦しくて下を向いてしまった。

 ブブッと笑い声が聞こえる。



「お前、耳まで真っ赤じゃんか。あはは。何それお前面白いな! 手握ったくらいでそんな反応すんのかよっ!!」

「うぅ」



 ひ、酷い。人の純情をからかうなんて君は極悪人かいっ! 顔から集中的に熱が出てくる。



「わっ笑わないでくれたまえ」



 僕は、パッとカイル君の腕から手を離した。いたたまれなくて姿を透明化する。



「あっ? おい」

「あの……、ありがとうございました。助かりました」



 助けた村の娘がカイル君に声をかけた。



「いや、俺じゃなくてリン……魔術師の彼が君を守った方だと思う。お礼は彼に言うべきだろう。昨日もそうだけど、俺だけじゃなくてもっと周りを見た方がいい」



 きつい物言いをしてすまないとカイル君は言うと彼女はごめんなさいと小さく謝って去っていった。





 僕は、そんな二人を横目に倒した触手を見た。

 触手に目。異形だ。

 モンスターが姿を見せなくなり、異形が現れ始めている。先日ギルドで4件と言っていたが、実際はもっと多いに違いない。それとも、この数日で変化が起きたのだろうか。



 僕は携帯している瓶に触手の破片と粘液を採取した。



「リン。おい。透明化解除しろ」

「……」



 どうして、彼には僕の位置が確実にわかるのだろう。

 僕は透明化を解除して後ろにいるカイル君の方に振り向いた。



「いいのかい? 彼女、君に好意があるようだったけれど……」



 すると、カイル君が首を傾げた。



「リンは、そういうのは平気なのか?」

「そういうのってなんだい?」



 カイル君は眉間にシワを寄せて首をひねる。意味がわからないと呟いて考えている。



「ストーカーの気持ちはそういうモノなのか?」

「僕は邪悪なストーカーではないと常日頃から言っているよ。それこそ、カイル君が勝手に僕の事をストーカーだと呼んでいるだけだよ」



 ストーカーなどと低俗なものと一緒にしないでもらいたい。



「……俺からみたら一緒だけどな。この話、平行線だからいいや。ほら。さっき娘さんに朝食もらったからお前も一緒に食おう。ビスケットなら食えるか」



 娘からもらった籠にはサンドイッチと牛乳とビスケットが添えられていた。それは、君が食べるべきなんじゃないのかい。なんだか僕が食べるとバチが当たりそうだよ。

 カイル君が僕を陰から朝日の当たる場所へと引っ張る。



「食べ物は誰からもらおうと食べ物だ。遠慮せず食え」

「いや、僕……ぐっぐ」

 断ろうと思った時には口の中にビスケットが放りこまれていた。



 へ、平然と何気に僕の口にモノを放りこんでくるけれど、それは世間での“あーん”行為なんだよ!? あーんってしているんだからね!? 



 悶々としながらビスケットをカリカリ頬張る。

 その横で、大口を開けてサンドウィッチを食べ始めるカイル君。一口が大きいなと見つめていたら、目が合う……こういう時やはり隠れていないと心臓がもたないような気がする。





 村人の屋敷方面からカイル君を呼ぶ声がする。僕達も屋敷へと戻ると既に三人は服を着替え出発する準備が出来ていた。



「出発するか」





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