安い物件には気を付けろ～一番怖いのは執着幼馴染～

15．その後の二人 ３

　職場に迎えにきた京弥とともにアパートに帰ると、俺は早速京弥の腕を掴んだ。

「な、なぁ？」
「なぁに？　可愛い紺ちゃん？」

「あー……俺、お前の部屋に行きたいなぁ」

　すると、微笑んでいた奴の目がガンッと見開いた。
　その眼力にこっちがびっくりする。

　京弥はすぐに表情を戻し、俺の腰に手を添える。


「勿論だよ。はじめて紺ちゃんの方から言ってくれたね」
「……あぁ」

　京弥は笑顔を深め、そして部屋のドアを開けた。

「お邪魔しま～す……」と部屋の中に入った途端、抱きしめられた。

「紺ちゃん、愛しあおう」
「ちょ！？　ここ玄関……ふぅ！？　んっ」


　言葉が終わる前に奴に唇を塞がれる。
　舌が早急に入ってきて、息も出来ないほど激しいキス。
　唇を食み舐められて、舌も吸われる。
　口の中全部を舐め尽くされる。

「んんん！？」

　密着している奴の下半身は、著しい変化が現れている。容赦なくグリグリと俺の股間に押し付けてくる。

「はっ……は……ぅん、くっ、きょう……」

　せめて部屋内に入りたい。
　奴の腕を掴むと、口付けがゆっくりになる。脳の奥がウットリしてくるようなキスだ。

「紺ちゃん……」

　奴が俺の尻を撫でて来たところで、ハッと覚醒する。
　──いかんいかん、かなり流されていた。

　ぐいっと、奴の胸を押した。

「おい、京弥。話をしよう！　──じゃなくて俺、京弥と話したいな♡　キスされたら話が出来ないだろ？　京弥とすげぇ話したい気分♡」

　この状況の京弥を止められたことは未だない。だが、一応“かわいい俺”になり切っておねだりしてみた。
　京弥はぽかんと口を開けて呆然としている。
　そりゃそうか、美少女じゃないんだから……

「可愛い♡」
　やっぱり可愛いのか。
「可愛いすぎて困るなぁ♡ 今日は僕に甘えたいのかな？　あぁ、ごめんね、話だっけ。部屋の中にどうぞ」


　ごめん？　ごめんって京弥が謝った。さらに俺の話を聞こうとしている。
　京弥にとっては俺は“とんでもない可愛さ”だということが分かった。

　くつろぐようにソファに促さて座ると、京弥はビールを出してくれた。さらに腹を空かせているだろう俺に食事を食べさせようと料理を始める。話はその後ゆっくりしようと言ってくれる。

　ビールをチビチビ飲みながら、料理する奴を見た。フライパンを振る姿は様になっている。

　

　炒めニンニクの香ばしいいい匂いが漂ってくる中、そろっとソファから立ち上がって、京弥の傍に寄る。

「なぁに？　今日の紺ちゃんは凄く可愛らしいや」
「……」

　笑う目が若干ギラギラしている。……これ以上期待させちゃ悪いな。

「……あのよ。やっぱり、ちゃんと話そうと思ってさ。俺、お前のこと好きだけど、恋人にはなれないよ。だって、人の話全然きかないもん」

「……」

　奴は目を見開き、持っていたトングを置いた。それから火を消す。
　今までと反応が違う。奴に何を言っても自分解釈で受け流されていたのに。
　

「もう一回言って」
「恋人にはなれない」
「違う！　その前！」

　両肩をグワシッ！　と掴まれた。その前って何言ったっけ？　


「紺ちゃんっ！　今、僕を好きだと言ったよね？　好きだって！」
「え、そこ！？」

　その後が大事な用件なのに、その前のつい口に出た言葉をチョイスされた。


「え、否定しない……の？」

　京弥の顔がみるみるうちに真っ赤になった。わなわな震えていた唇が、きゅうと下がり、目は見開いて凄くてんぱっているのが分かる。

　視線が物凄く彷徨う。俺の肩を掴んだままの手が、「あ」と引かれる。真っ赤な目元をして下を向く。

「う、嬉しいなぁ」
「……」

　こいつ……

　今まで京弥になかった反応に、俺は付き合えない、と言えなくなった。