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5.幼馴染との出会い 過去

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 ブツブツと低い声を出す。
 ────コイツ、静かにキレてやがる。
 今じゃ、ちゃんと表情筋が使えるし、俺以外の人とも話せるようになったが、本性は陰キャだ。


 中学の……そう出会った頃、京弥は美少女みたいな奴だった。
 時期外れの美しい転校生にざわついた。口元の黒子が童顔の少女顔に艶やかに映る。男も女も京弥に振り向いて欲しいと声をかけていた。
 だが、京弥は無反応だった。無表情・無愛想、まるで動く人形。

 感情が乏しいから、前の学校で先生からイタズラされ転校してきた。そんな噂が立った。本当かどうかは知らない。


 当時、クラス委員だった俺は、色々彼に声をかけた。挨拶やら文化祭やら体育祭やら、毎日の掃除とかでも。そうしたら、声をかけなくとも京弥が俺の横にいるようになったのだ。
 一言二言話すだけだった。でも、ジッと見つめてくることが多くなった。

 二年になり、俺と京弥は生き物係になった。うちの学校にはウサギとインコの小屋がある。
 ウサギを捕まえる度に京弥が「可愛いね」と言う。ウサギ好きなのかと思っていたが、何気ない日常でも「可愛いね」と俺に向かって言い始めたのだ。

「ん?」
「紺ちゃん、可愛いね」

 紺ちゃんと呼ばれていた。周りからも紺ちゃんと呼ばれていたので、京弥がそう呼び始めても驚かなかった。
 だが、……可愛い?
 当時、俺は坊主に近いスポーツ刈りだった。
 自分で言うのもあれだが、オシャレに興味のない母親が買ってきた服を平気で着る芋坊主だ。

「可愛いね」
「……?」
 休日の散歩がてら、コンビニに寄ると京弥がいて、そう言われた。
【うどん】とでっかく書かれたこのTシャツが可愛い? 
 ………不思議だ。



 大きな変化は、中学三年、二学期。
 高校受験で、進路を書いたり、進路相談を受けたり、感情がざわざわ落ち着かない時期だった。

 いつも満点の京弥が同じ高校を受けると知り、言ったのだ。

「なんで同じ高校なん? 別の高校受けろよ」

「────……紺ちゃん」

「お前ならどこでも推薦で行けるだろう? 先生からも理由聞けって言われててさ、ちゃんと進路考えて」

「紺ちゃんっ!!」

 俺の言葉を遮るように彼は声を出した。

 びびった。
 滅多に大声を出さない奴が大声を出したからじゃない。
 綺麗な顔のドアップが振り向いた瞬間にあったからだ。──それで、誰もいない放課後、教室で押し倒されているなんて。

「え……お前、何してんだ?」
「……っ」

 押し倒した京弥も驚いている。目を見開いて。
 それから、呼吸が上手くできないみたいに口をパクパク開け閉めした。

「こ、ん、……ひゅ……っ」
「おい? 大丈夫か?」

 京弥の顔が真っ青になっている。呼吸が苦しそうで、俺は押し倒されているのにも関わらず心配になる。
 彼が俺の胸に顔を埋め蹲った。ヒューヒューと過呼吸気味なのでシャツで彼の口を覆う。

 呼吸が次第に戻って、しばらく彼の背中を擦った。するとか細い声で彼が言う。

「……離れるのが嫌だ」
「え? 俺と?」

 彼はコクリと頷く。

「……」

 そうか。
 ……こいつ極度の人見知りだからなぁ。
 仕方ない、面倒見てやろうかなどと母性みたいなものが芽生え始めた。
 
 だけど、それは京弥の告白だったようだ。

 俺はそんなことも気づかなくて、なんだ可愛い奴。そう思って背中を撫で続けて落ち着くのを待った。
 そろそろいいかと彼から離れようとした。
 すると、口を塞がれた。唇で。

 京弥の唇は柔らかった。

「他の奴らと僕を一緒にしないで」
「え……」
「そういう気持ちじゃないから」

 ビクともしない腕。

「え。……え? え!?」

 少女みたい、ひ弱だと思っていた相手だったから、その力強さに目を見開く。
 どうして、彼も俺も男でキスを?

「紺ちゃん」
「え……え、おい?」
「紺ちゃん、好きなんだ」

 また唇が追いかけてくる。
 逃げると顎を掴まれて口が怠くなるほど何度も繰り返しキスをされた。



◇◇


 次の日、俺は出来るだけケロリとして京弥の告白を断った。
 本当は夜も眠れなかった。キスが欲を帯びて、思春期には相当刺激が強かった。

 でも、同時に思春期あるあるの一過性の感情だと思った。
 それにボッチの奴を突き放すのは心苦しい。出来るだけ傷つけず柔らかく断りたい。
 今まで通り……。

「なんで?」

 京弥は俺の“お断り”に対して首を傾げた。
 一夜明けて、京弥は別人のようだと思った。強気で自信を……持って?


「なんでって……」

「嫌だ。紺ちゃんを僕の恋人にする。意識してよ。誰より紺ちゃんの恋人に相応しくなるから」




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