催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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◇◇

 太くてしっかりした枕の感触に眉間のシワを寄せた。

「んん……枕が硬い……。柔らかくない」

 枕を揉むと硬くて温かい。
 薄目を開けるとどう見ても腕だ。筋肉質で自分の腕の二倍はあろう太さ。
 反対側に寝返った時、締まりのないにやけた表情のセスがいた。

 この太くて硬い枕はセスの腕だと気付き、状況を瞬時に把握する。


 情事のあと、どうやら俺は眠ってしまったようだ。
 互いに服を纏っているし、肌にべたつきもない。きっとセスが色々整えてくれたのだろう。
 何時にセスを部屋に招いたんだっけと、寝惚け頭でみつめていると、額に唇が落ちる。

「リュリュ、回復魔法はかけたが大丈夫か? 痛むところはないか。辛いところがあれば行って欲しい」
「……」

 ──空気が甘い。
 最近のセスは俺に対して甘いけれど、今のセスは激甘だ。砂糖水に蜂蜜ぶっかけたような空気は若干苦手だ。

「あぁ。……けほ」
「水を用意しているから飲んでくれ」

 そう言って彼は俺の上体をゆっくりと起こし、コップに入った水を差し出してくれる。思った以上に喉が渇いていたようで一気に水を飲み干した。 

「──そういえば」
 二杯目の水をコップに注がれながら、視線を彼に向けた。
 今までの無表情が嘘みたいににこやかな表情をしている。今の彼ならば質問出来ると思い企みについて聞いてみた。

「セスは俺をどんな罠に嵌めるつもりだったの?」
「罠? なんのことだ……あぁ、もしかして“嵌めたい”と呟いた言葉をそう捉えたのか。そうか、なるほど」


 セスは頷いて俺の腰を撫でる。回復魔法で痛みはないけれど、優しくて大きい手で擦られると心地いい。

 水を飲み終えると、セスは俺を寝かした。腰を撫でていた手が尻に触れてくる。助平な手を払いのけると彼がくくっと笑う。

「ハメたいと言ったのは、さっきまでの行為のことだ」

「は?」

 セスの語彙に呆れて思わず固まってしまった。少し考えて言い方が嫌いだと告げる。

「……もっと紳士的に呟け」
「助平な意味だけじゃない。ぴったりと隙間なく、リュリュの心と身体が自分に馴染めばいいと思っていた。だから、入れたいでも抱きたいでもなく、ハメたいと言う言葉を使った」

「ハメる──形に合わさる? ……いやいや、そんな単語出てくるものなのか⁉」

 絶対勘違いをするとぼやけば、セスは「そうは言われても独りごとだからな」と苦笑いする。


「いつかは想いを告げたいと思っていたが、過去に悩んで、踏ん切りがつかなかった。意気地なしでごめん。ありがとう」

「お……おう、まあいいけど」

 素直に礼を言われると照れる。
 それにしても、上機嫌なセスは頬を染めたり、情けないと恥じてしょげたり、苦笑いしたり、表情がコロコロ変わる。
 幼い頃に戻ったみたいだ。


「──よっし! セス、座れ」

 上体を起こし、俺たちは向かい合わせに座った。
 ベッドフレームに置かれている紐のついたコインを手に取ると、彼はあからさまに不機嫌な表情をつくる。そんな彼に「まぁまぁ」と声をかけて宥めた。
 ゴホン、と軽く咳払い。

「セス~セス~」
「……」


 ブラ~ブラ~。
 あの時のように、俺はコインを左右に大きく揺らしてみた。
 室内の電球の光がコインに反射して、キラッと光る。

 きっと自分は、こうしてふたりで何かを一緒にしたかったのだ。


 それが叶った今──
 もう何も唱えなかった。



 END









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