28 / 29
28
しおりを挟む
◇◇
太くてしっかりした枕の感触に眉間のシワを寄せた。
「んん……枕が硬い……。柔らかくない」
枕を揉むと硬くて温かい。
薄目を開けるとどう見ても腕だ。筋肉質で自分の腕の二倍はあろう太さ。
反対側に寝返った時、締まりのないにやけた表情のセスがいた。
この太くて硬い枕はセスの腕だと気付き、状況を瞬時に把握する。
情事のあと、どうやら俺は眠ってしまったようだ。
互いに服を纏っているし、肌にべたつきもない。きっとセスが色々整えてくれたのだろう。
何時にセスを部屋に招いたんだっけと、寝惚け頭でみつめていると、額に唇が落ちる。
「リュリュ、回復魔法はかけたが大丈夫か? 痛むところはないか。辛いところがあれば行って欲しい」
「……」
──空気が甘い。
最近のセスは俺に対して甘いけれど、今のセスは激甘だ。砂糖水に蜂蜜ぶっかけたような空気は若干苦手だ。
「あぁ。……けほ」
「水を用意しているから飲んでくれ」
そう言って彼は俺の上体をゆっくりと起こし、コップに入った水を差し出してくれる。思った以上に喉が渇いていたようで一気に水を飲み干した。
「──そういえば」
二杯目の水をコップに注がれながら、視線を彼に向けた。
今までの無表情が嘘みたいににこやかな表情をしている。今の彼ならば質問出来ると思い企みについて聞いてみた。
「セスは俺をどんな罠に嵌めるつもりだったの?」
「罠? なんのことだ……あぁ、もしかして“嵌めたい”と呟いた言葉をそう捉えたのか。そうか、なるほど」
セスは頷いて俺の腰を撫でる。回復魔法で痛みはないけれど、優しくて大きい手で擦られると心地いい。
水を飲み終えると、セスは俺を寝かした。腰を撫でていた手が尻に触れてくる。助平な手を払いのけると彼がくくっと笑う。
「ハメたいと言ったのは、さっきまでの行為のことだ」
「は?」
セスの語彙に呆れて思わず固まってしまった。少し考えて言い方が嫌いだと告げる。
「……もっと紳士的に呟け」
「助平な意味だけじゃない。ぴったりと隙間なく、リュリュの心と身体が自分に馴染めばいいと思っていた。だから、入れたいでも抱きたいでもなく、ハメたいと言う言葉を使った」
「ハメる──形に合わさる? ……いやいや、そんな単語出てくるものなのか⁉」
絶対勘違いをするとぼやけば、セスは「そうは言われても独りごとだからな」と苦笑いする。
「いつかは想いを告げたいと思っていたが、過去に悩んで、踏ん切りがつかなかった。意気地なしでごめん。ありがとう」
「お……おう、まあいいけど」
素直に礼を言われると照れる。
それにしても、上機嫌なセスは頬を染めたり、情けないと恥じてしょげたり、苦笑いしたり、表情がコロコロ変わる。
幼い頃に戻ったみたいだ。
「──よっし! セス、座れ」
上体を起こし、俺たちは向かい合わせに座った。
ベッドフレームに置かれている紐のついたコインを手に取ると、彼はあからさまに不機嫌な表情をつくる。そんな彼に「まぁまぁ」と声をかけて宥めた。
ゴホン、と軽く咳払い。
「セス~セス~」
「……」
ブラ~ブラ~。
あの時のように、俺はコインを左右に大きく揺らしてみた。
室内の電球の光がコインに反射して、キラッと光る。
きっと自分は、こうしてふたりで何かを一緒にしたかったのだ。
それが叶った今──
もう何も唱えなかった。
END
太くてしっかりした枕の感触に眉間のシワを寄せた。
「んん……枕が硬い……。柔らかくない」
枕を揉むと硬くて温かい。
薄目を開けるとどう見ても腕だ。筋肉質で自分の腕の二倍はあろう太さ。
反対側に寝返った時、締まりのないにやけた表情のセスがいた。
この太くて硬い枕はセスの腕だと気付き、状況を瞬時に把握する。
情事のあと、どうやら俺は眠ってしまったようだ。
互いに服を纏っているし、肌にべたつきもない。きっとセスが色々整えてくれたのだろう。
何時にセスを部屋に招いたんだっけと、寝惚け頭でみつめていると、額に唇が落ちる。
「リュリュ、回復魔法はかけたが大丈夫か? 痛むところはないか。辛いところがあれば行って欲しい」
「……」
──空気が甘い。
最近のセスは俺に対して甘いけれど、今のセスは激甘だ。砂糖水に蜂蜜ぶっかけたような空気は若干苦手だ。
「あぁ。……けほ」
「水を用意しているから飲んでくれ」
そう言って彼は俺の上体をゆっくりと起こし、コップに入った水を差し出してくれる。思った以上に喉が渇いていたようで一気に水を飲み干した。
「──そういえば」
二杯目の水をコップに注がれながら、視線を彼に向けた。
今までの無表情が嘘みたいににこやかな表情をしている。今の彼ならば質問出来ると思い企みについて聞いてみた。
「セスは俺をどんな罠に嵌めるつもりだったの?」
「罠? なんのことだ……あぁ、もしかして“嵌めたい”と呟いた言葉をそう捉えたのか。そうか、なるほど」
セスは頷いて俺の腰を撫でる。回復魔法で痛みはないけれど、優しくて大きい手で擦られると心地いい。
水を飲み終えると、セスは俺を寝かした。腰を撫でていた手が尻に触れてくる。助平な手を払いのけると彼がくくっと笑う。
「ハメたいと言ったのは、さっきまでの行為のことだ」
「は?」
セスの語彙に呆れて思わず固まってしまった。少し考えて言い方が嫌いだと告げる。
「……もっと紳士的に呟け」
「助平な意味だけじゃない。ぴったりと隙間なく、リュリュの心と身体が自分に馴染めばいいと思っていた。だから、入れたいでも抱きたいでもなく、ハメたいと言う言葉を使った」
「ハメる──形に合わさる? ……いやいや、そんな単語出てくるものなのか⁉」
絶対勘違いをするとぼやけば、セスは「そうは言われても独りごとだからな」と苦笑いする。
「いつかは想いを告げたいと思っていたが、過去に悩んで、踏ん切りがつかなかった。意気地なしでごめん。ありがとう」
「お……おう、まあいいけど」
素直に礼を言われると照れる。
それにしても、上機嫌なセスは頬を染めたり、情けないと恥じてしょげたり、苦笑いしたり、表情がコロコロ変わる。
幼い頃に戻ったみたいだ。
「──よっし! セス、座れ」
上体を起こし、俺たちは向かい合わせに座った。
ベッドフレームに置かれている紐のついたコインを手に取ると、彼はあからさまに不機嫌な表情をつくる。そんな彼に「まぁまぁ」と声をかけて宥めた。
ゴホン、と軽く咳払い。
「セス~セス~」
「……」
ブラ~ブラ~。
あの時のように、俺はコインを左右に大きく揺らしてみた。
室内の電球の光がコインに反射して、キラッと光る。
きっと自分は、こうしてふたりで何かを一緒にしたかったのだ。
それが叶った今──
もう何も唱えなかった。
END
166
お気に入りに追加
767
あなたにおすすめの小説
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)
サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・!
右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。
そんなある男の異世界での話。
本編完結しました
よろしくお願いします。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる