催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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◇◇◇


 約束通りの時間に、セスはサーシャベルト家に訪れた。

 丁度、母屋に住む祖父がうちのリビングでお茶を飲んで和んでいた。セスの姿を見てニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべ、顎髭を撫でる。

「やあ、セスではないか。リュリュとの仲違いが解消したそうじゃないか」
 いつもはこの時間はうちには来ないのに、セスが来ることが分かっていたのだろうか。
 俺はまたセスを祖父に取られそうで、さっさとその場を離れようと彼の腕を引っ張ったが動かない。
 それどころか、彼は祖父に近づいて、手に持っていたお菓子を祖父に渡す。


「ルカリオ様、挨拶が遅れまして申し訳ございません」

 そう言って彼は九十度腰を曲げて深く頭を下げた。セスはいつも祖父に対して丁寧な態度を取るが、今来たばかりで“挨拶が遅れて”はおかしい。

「え……君は一体何を……」

「予定より早いですが、お孫さんを俺に」

「どわはぁああああああああああ⁉」

 まだ交際して間もないのに、祖父に何を言うつもりなのだ。
 順を追って、もっと深い関係になってからだろう。いや、男同士なのだから慎重に考えるべきだ。
 セスがこの場にいると何をしでかすか分かったものではなく、「早く行くぞ!」と彼の背を両手で押した。
 俺の慌てる姿に祖父の高笑いが暫く響いていた。
 急いで自室にセスを押し込んだあと、彼にはくつろぐように声をかけて自分はキッチンに向かった。用意しておいた菓子と茶を持って自室戻ると、彼は客用の椅子に腰をかけている。自分も向かいのベッドに腰をかけて、互いの近状を話す。

 茶を啜りあって、のどかな雰囲気がこれまたなんとも違和感を覚える。それもそのはず催眠術の時と
違って今のセスはやはり紳士的なのだ。

 折角のふたりっきりだというのに、強引に俺をその膝上に座らせるわけでもなく、ベッドに押し倒されるわけでもない。

 いつでもどこでもコブラをおっ勃ててゴリゴリと押し付けられた記憶が懐かしくなる。
 てっきり今の彼も部屋にくればドラミングしながら襲って来ると思っていたのに……

 ──少しはそういう空気になれっての。

「今の季節、この部屋は金木犀のいい香りが漂っているな」
「ん──金木犀、あぁ、そうだね」

「リュリュにも金木犀の香りが移っているよ」
「ふーん、……香りね」

 部屋にきて暫く経つというのに甘酸っぱい空気ばかりで。物足りなさを感じているのが自分だけなのが釈然としない。


「帰り際には、庭を整備していこう」
「……え、帰り? ──へぇ、ふーん」
「リュリュ?」

 帰り──その言葉に俺は立ち上がり机の引き出しを開ける。紳士セスにとうとう痺れを切らした俺はコインを彼の前に翳した。


「どうした?」
「セス! 催眠術にかかってくれ!」

 突然のことにセスは苦笑いする。

「ふ。可愛らしいお願いごとだ。リュリュの願いならば催眠術にかかってやりたいが、そんなものかからないと思うぞ。俺は催眠魔法にもかかったことがないからな」

 あれ? 前回催眠術にかかったことを信用していないのだろうか? 

 催眠魔法と催眠術はまた違うものだろう。催眠術は魔力も要らないし。


「でも何故、催眠術をかけたい? 頼みがあるなら聞くし、今なら何でも話そう」

 秘密主義なセスが気持ちを伝えあっただけで、こうも変わるとは。
 何でもか──溢れんばかりの包容力。それほど急いで上等彼氏面されても面白みに欠ける。
 不貞腐れて唇を尖らせる。

「だって……催眠術かけた時のセスってば、滅茶苦茶情熱的に愛を囁いてくれたんだもん」

「……」

「強引なキスも助平な手も、そりゃ困っていたけどさ、今思えば嬉し──ひぎゃッ⁉」

 俺の声から潰れた声が出たのは、久しぶりにセスが怖い顔をしたからだ。唸り出しそうな雰囲気で鋭く釣り上がった瞳が俺を睨む。

「なんだと……」


 座っているセスの前に立っていた俺はタックルするかのように抱きしめられ、そのままうしろのベッドに押し倒されてしまう。

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