23 / 29
23
しおりを挟む
瞼を開けると、学園にいたはずなのに自室の天井が見える。
まだ夢の中にいるのかと思い、二、三回瞼を開閉していると意識がしっかりくる。
ベッドから起き上がって、ぶつけたはずの後頭部を手で擦ってみた。たんこぶも痛みも全くない。
怪我の治療も自宅へ送ってくれたのもセスだろうか。
溜息を吐くと、その喉がやけに乾いていた。
それもそのはずあんなに叫んだのは、近年ではじめてだ。魔物の出現でドーパミンが放出して興奮しまくっていたのだろう。大声で告白したことに今更ながら羞恥心で悶えてしまう。
「ん……待て。部屋にセスがいないのはフラれたからか……」
失恋──……ふ、おいおいよせよ。起き上がりにその事実はあまりに酷じゃないか。今はまだ何も考えるな。脳内をシャットダウンしろ。
水でも飲んで心を落ち着かせようと立ち上がった時、先にドアが引かれた。
そこに現れた大きな図体を見上げて、ひゅっと喉が鳴る。
片手に水が入ったグラスを持ったセスがいた。
「大丈夫か」
「──あっ、あぁ、うん」
頷くとセスに肩を掴まれてまた部屋の中に戻された。ベッドに座ると水を手渡される。彼は俺に一声かけてから向かいの椅子に座った。
「……えぇっと……あのさ、俺のこと、家まで運んでくれたのか」
「あぁ。俺の責任でもあるから当然だ」
「あっそう。どうも」
少し緊張を含んでいる空気だけど、重苦しさはない。
こうして彼と二人で話し合えることに気持ちが少し浮上した……
「悪かった」
が、すぐに急降下した。
──こんの凶悪脳筋ゴリラァ、情け容赦なさすぎるだろう。物事には衝撃に備える準備がいるんだよ!
心が勝手に悪態を付いているが、俺自身は放心してセスを見ていると、彼は深々と頭を下げて言った。
「好きだ」
「へ?」
「物心ついたときから」
「……………は?」
自分にとって虫が良すぎる言葉に、上手く飲み込めない。
解釈違いかと考えてみるも彼の言葉が足らなさすぎて分からず、もう一度「はぁ?」と聞き返すと、彼は訥々と話し始めた。
「俺は生涯、リュリュを守る」
「……え」
「完全無欠の魔法使いとなり、二度と同じ過ちを犯さない」
セスは幼き日の出来事を酷く悔やんでいた。
だから彼は、俺を守る力を身につけるべく技術と精神力を鍛え、一心不乱に強さだけを求めた。セスは何でも出来る天才肌だとばかり思っていたが、実のところ、祖父にはコントロールが人より下手だとずっと言われていたらしい。
祖父は同じ事故が起こらないように力を持つセスの記憶は消せなかったのだろう。その分手をかけてありとあらゆる全てを教えたに違いない。
すると、彼は重々しい口調のまま、俺への恋心を募らせていた──と。嫉妬と欲望が渦巻き、気が付けば俺が近づく者を威嚇してしまうのだそう。
だから無言・威嚇・無視をしたって?
セスはトラウマを抱えて相当拗らせている。どう声をかけていいのやら心中複雑だ。
だけど、こうして彼が気持ちを打ち明けているということは、彼に重く圧し掛かっている自責の念や責任とやらが外れかかっているのかもしれない。
俺は前屈姿勢で頬杖をついて、やや下向き加減のセスを見上げる。
“完璧な強さ”とか魔法使いには響くかもしれないが、俺にしてみれば中二病まっしぐらな台詞に聞こえる。
こう言ってはなんだが、催眠術にかかったセスの情熱的な告白の方がずっと胸は熱くなった。
──あれも、セスの本音だろうか。
「なぁ、ここまで君の話を聞いて一つ聞きたいことがある。いいか?」
「あぁ」
「魔法なんか使えなくたって俺はとても魅力的だ。だろう?」
セスが、その言葉に勢いよく頷く。
「勿論! とても魅力的だ。リュリュは根性があり男らしく、笑うと華があり輝いている。あぁ、自分の芯をしっかり持っているところも良い。魔法が使えなくてもと言うことは簡単ではない。なのに言ってのけるその豪胆さにも驚かされてばかりで。お前の魅力を語り出したらキリがない」
「……それはどうも。なら、俺の恋人になる?」
長くなりそうな話を簡略化させるために質問をすると、褐色の肌でも変化が分かるくらい真っ赤になっていく。耳、首元まで……
セスは口を一文字にして、めまぐるしく視線を動かす。
押しのお手本をこの男から学んだ俺は、ベッドから腰を浮かせ彼の膝上に座り、首に腕を巻き付く。
「リュリュ⁉ 何を!」
触れ合っている彼の身体の体温が急上昇して、額に汗をビッシリ掻き始める。上手く呼吸が出来ないかのように呼吸が荒くなっている。いつぞやのセスが俺を好きだから鼓動が強く早く鳴るのだと教えてくれた。
「セス、あの時、俺を助けてくれてありがとう」
「……」
セスの目の表面がつるりと潤う。
少しだけ眉が垂れ下がり、唇の端が震えている。泣き出しそうにも笑い出しそうにも見えるその表情を見つめながら、彼の言葉を望んだ。
「望んではいけないと我慢していた。だが、それは意気地なしの戯言だ」
恐るおそる太い腕が俺の背中に回されて、彼が何か決意したように表情を引き締めた。
「後出しになってすまない。俺はリュリュの恋人になりたい」
「……セス」
ようやく言ったかと文句が出そうだ。
口角を上げると、彼も下手くそな笑みを浮かべる。
嬉しいと言おうとしたのだが──
「ぐっ⁉ はっ⁉」
抱き締めてくるゴリラの腕の力に、俺の肺は押されて潰れた声が出る。
──ひ。完全なデジャヴ。
「俺はどうしようもなくリュリュが好きだ……。誰よりお前の幸せを一番に願っているのに、離れることが出来なかった。傷つけてごめん」
セスは堰を切ったように想いの丈を俺にぶつけてくる。今のセスは催眠術にかかっていた時の彼と酷似していた。
力なく俺はその背を叩くが、彼にとっては、ポンポンと優しく宥めてくれているみたいな手つきに思え
るのだろう。
セスが俺を見つめて、その唇が近付いてくる。
告白に戸惑っていたのにキスまでが早すぎやしないか。
彼は雄としての狩猟本能が強いのか、俺の身体をこれでもかとさらに強く抱きしめる。
「ぐぇ……、ま……ふぇ」
待て、キスをするんじゃない!
苦しいから涙目になっていることに気が付かない彼は、唇を引っ付けてくる。喜ばしいはずのキスに心の中で絶叫した。
まだ夢の中にいるのかと思い、二、三回瞼を開閉していると意識がしっかりくる。
ベッドから起き上がって、ぶつけたはずの後頭部を手で擦ってみた。たんこぶも痛みも全くない。
怪我の治療も自宅へ送ってくれたのもセスだろうか。
溜息を吐くと、その喉がやけに乾いていた。
それもそのはずあんなに叫んだのは、近年ではじめてだ。魔物の出現でドーパミンが放出して興奮しまくっていたのだろう。大声で告白したことに今更ながら羞恥心で悶えてしまう。
「ん……待て。部屋にセスがいないのはフラれたからか……」
失恋──……ふ、おいおいよせよ。起き上がりにその事実はあまりに酷じゃないか。今はまだ何も考えるな。脳内をシャットダウンしろ。
水でも飲んで心を落ち着かせようと立ち上がった時、先にドアが引かれた。
そこに現れた大きな図体を見上げて、ひゅっと喉が鳴る。
片手に水が入ったグラスを持ったセスがいた。
「大丈夫か」
「──あっ、あぁ、うん」
頷くとセスに肩を掴まれてまた部屋の中に戻された。ベッドに座ると水を手渡される。彼は俺に一声かけてから向かいの椅子に座った。
「……えぇっと……あのさ、俺のこと、家まで運んでくれたのか」
「あぁ。俺の責任でもあるから当然だ」
「あっそう。どうも」
少し緊張を含んでいる空気だけど、重苦しさはない。
こうして彼と二人で話し合えることに気持ちが少し浮上した……
「悪かった」
が、すぐに急降下した。
──こんの凶悪脳筋ゴリラァ、情け容赦なさすぎるだろう。物事には衝撃に備える準備がいるんだよ!
心が勝手に悪態を付いているが、俺自身は放心してセスを見ていると、彼は深々と頭を下げて言った。
「好きだ」
「へ?」
「物心ついたときから」
「……………は?」
自分にとって虫が良すぎる言葉に、上手く飲み込めない。
解釈違いかと考えてみるも彼の言葉が足らなさすぎて分からず、もう一度「はぁ?」と聞き返すと、彼は訥々と話し始めた。
「俺は生涯、リュリュを守る」
「……え」
「完全無欠の魔法使いとなり、二度と同じ過ちを犯さない」
セスは幼き日の出来事を酷く悔やんでいた。
だから彼は、俺を守る力を身につけるべく技術と精神力を鍛え、一心不乱に強さだけを求めた。セスは何でも出来る天才肌だとばかり思っていたが、実のところ、祖父にはコントロールが人より下手だとずっと言われていたらしい。
祖父は同じ事故が起こらないように力を持つセスの記憶は消せなかったのだろう。その分手をかけてありとあらゆる全てを教えたに違いない。
すると、彼は重々しい口調のまま、俺への恋心を募らせていた──と。嫉妬と欲望が渦巻き、気が付けば俺が近づく者を威嚇してしまうのだそう。
だから無言・威嚇・無視をしたって?
セスはトラウマを抱えて相当拗らせている。どう声をかけていいのやら心中複雑だ。
だけど、こうして彼が気持ちを打ち明けているということは、彼に重く圧し掛かっている自責の念や責任とやらが外れかかっているのかもしれない。
俺は前屈姿勢で頬杖をついて、やや下向き加減のセスを見上げる。
“完璧な強さ”とか魔法使いには響くかもしれないが、俺にしてみれば中二病まっしぐらな台詞に聞こえる。
こう言ってはなんだが、催眠術にかかったセスの情熱的な告白の方がずっと胸は熱くなった。
──あれも、セスの本音だろうか。
「なぁ、ここまで君の話を聞いて一つ聞きたいことがある。いいか?」
「あぁ」
「魔法なんか使えなくたって俺はとても魅力的だ。だろう?」
セスが、その言葉に勢いよく頷く。
「勿論! とても魅力的だ。リュリュは根性があり男らしく、笑うと華があり輝いている。あぁ、自分の芯をしっかり持っているところも良い。魔法が使えなくてもと言うことは簡単ではない。なのに言ってのけるその豪胆さにも驚かされてばかりで。お前の魅力を語り出したらキリがない」
「……それはどうも。なら、俺の恋人になる?」
長くなりそうな話を簡略化させるために質問をすると、褐色の肌でも変化が分かるくらい真っ赤になっていく。耳、首元まで……
セスは口を一文字にして、めまぐるしく視線を動かす。
押しのお手本をこの男から学んだ俺は、ベッドから腰を浮かせ彼の膝上に座り、首に腕を巻き付く。
「リュリュ⁉ 何を!」
触れ合っている彼の身体の体温が急上昇して、額に汗をビッシリ掻き始める。上手く呼吸が出来ないかのように呼吸が荒くなっている。いつぞやのセスが俺を好きだから鼓動が強く早く鳴るのだと教えてくれた。
「セス、あの時、俺を助けてくれてありがとう」
「……」
セスの目の表面がつるりと潤う。
少しだけ眉が垂れ下がり、唇の端が震えている。泣き出しそうにも笑い出しそうにも見えるその表情を見つめながら、彼の言葉を望んだ。
「望んではいけないと我慢していた。だが、それは意気地なしの戯言だ」
恐るおそる太い腕が俺の背中に回されて、彼が何か決意したように表情を引き締めた。
「後出しになってすまない。俺はリュリュの恋人になりたい」
「……セス」
ようやく言ったかと文句が出そうだ。
口角を上げると、彼も下手くそな笑みを浮かべる。
嬉しいと言おうとしたのだが──
「ぐっ⁉ はっ⁉」
抱き締めてくるゴリラの腕の力に、俺の肺は押されて潰れた声が出る。
──ひ。完全なデジャヴ。
「俺はどうしようもなくリュリュが好きだ……。誰よりお前の幸せを一番に願っているのに、離れることが出来なかった。傷つけてごめん」
セスは堰を切ったように想いの丈を俺にぶつけてくる。今のセスは催眠術にかかっていた時の彼と酷似していた。
力なく俺はその背を叩くが、彼にとっては、ポンポンと優しく宥めてくれているみたいな手つきに思え
るのだろう。
セスが俺を見つめて、その唇が近付いてくる。
告白に戸惑っていたのにキスまでが早すぎやしないか。
彼は雄としての狩猟本能が強いのか、俺の身体をこれでもかとさらに強く抱きしめる。
「ぐぇ……、ま……ふぇ」
待て、キスをするんじゃない!
苦しいから涙目になっていることに気が付かない彼は、唇を引っ付けてくる。喜ばしいはずのキスに心の中で絶叫した。
110
お気に入りに追加
799
あなたにおすすめの小説

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる