催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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22.むか〜しむかし

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 ◆

 意識の中で、目一杯の青空が広がっている。
 屋敷の裏庭にはよく整備された芝生が広がっている。二人の子供がそこに走っていた。

 幼い頃の俺とセスだ。

 あぁ、懐かしい。その光景に夢を見ていることに気が付く。
 あの頃の俺はセスの小さな手を引っ張って、よくそこで寝転がったり遊んだりしたものだ。
 セスは内気で人見知りが激しくて、俺以外の子供とは仲良く出来なかった。いつもベッタリと引っ付いて、二言目には自分の名を呼んでくれていたっけ。
 一人っ子の俺はセスのことを本当の兄弟のように思っていた。取っ組み合いのケンカもするけれど、次の瞬間には仲直りして一緒に昼寝をしている。

『リュリュ、大好き』

 小さなセスの唇が俺の頬に引っ付いていて、昼寝から目が覚めす。俺の両親もよく頬や額にすることなので、セスの行為にも疑問を持たなかった。

『俺、リュリュと結婚したい』
『結婚って何?』
『一緒にいること』
『そうなんだ。じゃ、結婚しよう』

 子供ながら、互いに一番大好きだと確信していた。好きだから一緒にいることも自然なことだと思えて頷くと、セスは花が綻ぶような笑顔を俺に向けた。



『いーち、にい、さーん』

 場面が変わって、俺達はまた裏庭でじゃれ合っていた。セスが大きな木の下で数を数え始める。俺はそろりと彼から離れて辺りを見渡す。そして裏山へとかけていく。

『もういいかい』
『ま~だだよぉ』

 かくれんぼ。
 夢の中でも血の気が下がるような感覚に、これは単に夢ではなく本当にあった出来事のように感じた。
 裏庭は自分の身長ほどの野草が茂っていた。親には絶対に行くなと注意されていたのだ。けれど遊ぶことに夢中になった俺は簡単に禁忌を破ってしまったのだ。

 それから、俺は茂みに身を隠して、わくわくしながらセスが来るのを待っていた。なのに、いつまで経ってもこないものだから、途中で眠ってしまったのだ。


 ──間違いない、自分は遠い昔の過去を見ている。

 リュリュ、リュリュ……。

 俺の名を何度も呼ぶセスの声に目を覚ました。彼だけじゃない大人の声も混じっている。慌て起き上がり「ここだよ!」と跳ねて手を振った。

 茂みのせいで俺の姿はむこうから見えなかったけれど、声は届いた。

「リューリュー!」

 すると近くでセスの声が聞こえるから、俺はセスの方に駆けて行った。水や泥を含んだ変な臭いに顔を顰めたけれど、セスの左右に振る手が茂みから見えてそれに意識が向く。

 俺も手を振り返すと、急に視界は真っ暗になった。
 足元には沼があったのだ。振っている手に夢中だったから気付かなかった。
 あ。という間の出来事で、藻掻くことすら出来ずに自分の身体が沼に沈んでいく。

 息苦しさは一瞬後にやってきて、泥水を思いっきり飲み込んで蒸せ込んだ。
 濁った水の中、助けを求め、上に挙げた自分の手が視界に映る。

 水中で必死に藻掻いていたのに、不思議なことに俺を呼ぶセスの声が聞こえたのだ。
 自分もセスに強く助けを願ったとき、沼に突風が吹き荒れた。

 熱い強風だった。泥も水もヘドロも吹き飛んでしまう。俺の身体はその風に簡単に飛ばされそうにな
る。咄嗟に藻を必死に掴んだけれど、ヌメリで手が滑ってしまった。

 身体が地面から離れて宙に浮いたとき、意識は真っ暗闇に包まれた。



 ──わぁわぁとあまりにうるさくて目を閉じていられなくて、目を開けた。

 その煩い声はセスのものだけど、俺の視界には祖父と母と父しかいない。三人は俺の身体に手を翳して
いた。ひょうきんな祖父の真剣な表情などはじめて見る。思わず吹き出すと、三人は手を翳すのを止めて俺のことを強く抱きしめた。

 身体を起こすと、俺の服は血まみれだった。ぎょっとしていると、少し離れたところで、セスは真っ青になって大泣きしていた。

 俺が近付くと、セスは何度も謝ってきた。もういいよと言っても謝り続けていて、むせ込んでいる。パニックになったセスのことをセスの父親が抱きしめて、俺から引き離したのだ。


 そう、そうだ。──どうして忘れていたんだろう。

 あの日からセスは別人みたい変わってしまったのだ。
 笑わないし、かといって怒りもしない。彼の顔から表情が消えた。
 セスが屋敷に来る理由は俺と遊ぶためではなく、母屋に暮らす祖父に魔法指南を受けることに変わった。

 来る日も来る日も祖父と二人っきりでどこかへ行こうとするから、疎外感を覚えてセスの背中に抱きついたことがあった。


「セス~、遊ぼう」
「遊ばない」

 セスは後ろを向いたまま、俺の手を引き離した。
 ここのところずっと彼が自分のことを見てくれないことが不満だった。
酷く落ち込んでいるときに両親が魔物と格好良く戦う姿を見かけて、自分も魔法を学ぼうと思った。

 祖父に言えば、初歩レッスンを受けさせてもらえた。その頃にはセスは箒で飛べるようになっていたことを知っていた俺は、もっと高度な魔法を教えて欲しいと頼んだ。魔法使いの血筋なのだ、自分は物凄く強い魔法使いになれるだろう。

 すぐにでもセスを超えてやる気持ちで励んだはずなのに、教えてもらった簡単なことが何一つ出来なかった。

 祖父は「怪我の後遺症かもしれないな」と言った。

「沼に落ちたときのこと?」
「そうじゃ、……いや、もう怪我は治ったんじゃ。お前が万が一にもセスを責めたりしないようにあの時の記憶を封じてやろう」

 祖父の手が俺に伸びてくる。


 ──違うよ。
 俺が勝手に沼に落ちたんだ。セスは助けてくれたんだ。
 責めないよ、セスは悪くないんだもの。
 俺はそんなこと言わないよ。

 いつも優しい祖父の手も呪文詠唱する声も、やけに恐怖に感じた。
 かくれんぼと魔法が使えなくなった原因もすっぽり記憶が抜け落ちた俺は──セスが突然俺を嫌って無視するようになったと思い込んだ。

 腹を立てて嫌味を言って張り合って、対抗意識を燃やした。
 封じられた記憶を思い出した夢の中で、俺は瞼を閉じる。

 俺って奴は──真っ先にという思いが浮かび上がったのだ。

 そんな単純な自分に思わず笑った。



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