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しおりを挟む朝の一件で、セスは教師に呼び出され、午前中は教室には戻ってこなかった。
そして昨日と打って変わって今日は静かだ。
昨日、おめでとうと声をかけてきたクラスメイトも目を逸らす。
無視如きでは俺の心は波立たない。陰キャは疎外感に対する心の平穏の保ち方が上手くなっていくものだ。
すっかり通常通りに戻ってしまったと感じながら、授業を終え、一人静かな休憩時間を味わう。溜息の音も派手に聞こえきそうな静かさだ。
「やっぱり、サーシャベルトくんは平気なんですね」
「うん。心のさざ波を落ち着かさせているところさ。ってジェイソン君は普通に声をかけてくれるんだね」
てっきりジェイソンにも避けられるかと思い、話しかけるのを控えていた。彼は下手に言い訳をせず下を向いた。あまり高くない鼻から眼鏡がズレる。
「僕は登園時間が早いので……、目の前にあんなに強い魔物が現れて怖かったです」
この世界にいれば魔物と遭遇することはよくあって、子供の頃から対魔物用の攻撃魔法を学んでいる。
非魔法使いは、逃げる、助けを呼ぶなどの対処を学ぶのだ。
「でも、ファレル様の方が怖かった」
「ん? セス?」
「多分、皆さんも同じです。すみません。でも助けていただいて感謝しています。それだけは伝えたいと思って。でも、多分皆言えないと思うので、ひっそりとリュリュさんに言いました」
「……」
セスは顔も雰囲気も怖いけど怯える程じゃない。彼は魔物とは違う。本当は戦闘が好きではないし、誰かに手を出していることなんて子供のころから見たことない。
「えーと? 怯えることはないよ。お礼はあとでセスに伝えておくよ」
「はい」
教室内のおかしな空気の原因は分かった。この状況ではセスが教室に戻ってきたら居づらいだろう。ここは自分がセスを教室の外に連れ出すべきだと考えていたが、セスは午後になっても教室に戻らなかった。
放課後、周りの生徒が鞄を持ち帰り支度をする。
俺はぼんやりと席に座ったまま、教室の外を見ていた。朝から雲が厚いけれど雨は降っていない。
教室内にいる生徒の姿がまばらになったころ、セスが教室に入ってきた。途端、慌てて生徒が出て行った。
そんなことは周囲には目もくれず、セスは嬉しそうに俺の元へ駆け寄ってくる。
「リュリュ、もしかして俺のことを待っていてくれたのか?」
待っていたのは事実だけど、そう答えるのはやや癪に感じ眉間のシワが寄る。
「今日は何をしていたか、聞いてやらない事もない」
「あぁ、自習室にいた」
「自習室……」
自習室を単独で使えるのか? セスレベルになるとどんな部屋でも使用可能になるのだろうか。
昔からセスだけは特別待遇だ。幼い頃から、学園長直々に一人だけ特別指導を受けていた。
皮肉を言いかけて止めて、鞄を持って席から立つ。
帰ろうとも言わずに歩き始めると彼が後ろから俺を抱きしめて来た。
「リュリュ、嬉しいぞ」
頭に唇の感触がする。そして俺の頬にも。
「ふたりっきりだ。会えなかった時間を埋めたい」
「おい……朝、会っただろう」
ツッコミどころ満載の台詞だけど、本気であることは背中越しで伝わる胸の音で分かる。
「が、学校でそういうこと言ったりしたり、やめろって……ん」
言い終わる前にキスされる。
「どうしてもしたいのだ」
いけない。
胸が反応し始めた。
実は、胸がおかしくなる現象が、昨日から度々起こっている。
朝は悪魔に驚いていたし、皆の前だったからそれどころじゃなかったけれど、やはり昨日感じた違和感は間違いじゃなかったようだ。
「借りて来た猫みたいに固まってどうした?」
「……」
お前がそんな風に俺を見つめるからだろう。見るな。俺の平穏な心音を保つためにお前はムッツリ顔でもしておけ。
頬を膨らませて睨むと、そんな変顔ですら可愛いと言って口づけてくる。
「ぎゃっ、……ふぅん……はっ。今は、……ちょ、と。んんっ、やめて、くふぇっ」
やめてくふぇの後、舌を吸われ甘噛みされる。
そのあと、あむ・あむとセスの唇で舌を挟まれた。セスの口腔内に強引に迎え入れられ、舌を絡められる。
「っふぁんっ……ら、め。はっ、はっ」
動悸が激しいモノからいつも以上に呼吸が辛くなってキスが終わる頃にはぐったりとセスの胸にもたれ掛かった。やっぱりこの男、手加減をしない。
顎をクイッと上に向かされて、甘い吐息が唇に触れる。
「好きだ。凄い好き、リュリュが大好きだ」
「……」
きゅ~~~~~~~~~~~~ん。む、胸がいてぇ……。
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