催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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「おはよう」

 学園に登校しようと屋敷の門を開けたら、そこにセスが立っていた。微笑むその表情に頬が引きつる。

「おはよう……なぜ、君がここにいるのだろうか?」
「学園まで待ちきれなかったのだ。お前と離れている間、会いたくて会いたくて仕方がなかった。昨夜は
お前のことを考え過ぎて眠れなかったほどだ。顔を見れば落ち着くと思ったが全くだな。胸が高まり息苦しい。リュリュへの気持ちに胸が張り裂けそうだ」

「──ぐっ」


 歯が浮くセリフに思わず唇を噛んだ。

「昨日よりも今日の方が綺麗だ」

 そんなわけがない、昨日今日で綺麗になどならない。

「俺の太陽」
「やめろ……太陽ではない。勝手に人を発光体にするな」


 空に輝く太陽と俺がセスの中で同等になってしまった。おかしな言動に耐えられず彼を無視して大股で歩き始めた。

 俺の大股の二歩は彼の一歩。


 不覚にも彼にとって丁度よい速度になっていることに気づき、歩調を戻す。すると彼も俺に合わせて速度を落とした。

 実のところ、時間が経てば俺などがかけたヘッポコ催眠術は解けてセスは元通りになっているのではないかと期待していた。

 だが、どうにも酷さが増しているような気がする。横で上機嫌で声をかけてくるセスを無視していると、急に手を掴まれた。


「ひぎゃぁああっ!」

 絶叫にセスは掴んでいた手を離す。

「この握力ゴリラァ! 俺の手を潰すつもりかぁ!」

 握り潰される一歩手前の自分の手を片方の手でヨシヨシと撫でた。

「俺の手~、痛かったなぁ」

 自分を労りながら涙目で睨みつけると、セスが動揺している。

「すまない。手を繋ぎたかったのだ」

「はぁ⁉ お前の手は凶器なんだよ!」

 セスは申し訳なさそうに俺の手に手を翳した。すると腕がほんわかと温かくなり柔らかい光がその場を包む。次第に手の痛みが消えていく。

 痛みの消えた腕を見つめていると、彼が深く頭を下げた。

「お前が怒るのも無理はない。昨日と同じことを繰り返してしまった。本当にすまない」

 いつものセスなら、「軟弱」だとか腹が立つことを言うはずだ。

「……いいよ、もう」

 反省している相手に怒っているのも馬鹿らしい。つっけんどんに彼に声をかけて再び歩き始めたとき、セスが呪文詠唱した。早口で小声だったためなんの呪文か聞き取れなかったが、セスの身体が緩い青色の光に包まれる。

 ゆっくりとその光が消えていくと彼は微笑んだ。

「もっと早くこうしておけばよかった。もう大丈夫だ」

 そう言って、再び俺の手を握るから、ひっと小さく悲鳴を上げる。──だけど、先程とは違い痛みはやってこない。

「お前に対して俺が使える力を最弱にしたのだ。これで思いっきり触れても痛がらせることはない」
「え」

 セスは俺の手を強弱をつけてぎゅうぎゅう握るが、普通の人の握力で痛くない。

「これで、我慢せず触れられる」

「君って人に合わすことが出来たのだな……は、は、は……」

 けれど、俺が振り解くことが出来るほど力は弱くはなく、乾いた笑いが俺の喉から出た。


 ◇



 学園に着いた俺たちを見た周囲は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。

 それもそのはず、セス・ファレルは、強面で眉間のシワ以外の表情筋が動かない男だからだ。よく言えば落ち着いていて貫禄がある。

 なのに──。

「リュリュを見ると胸が苦しい。なのにずっと見ていたい」

「本にばかり目を向けずにこちらを向いて欲しいと願ってしまう」

 その表情は穏やかでときに微笑みすら浮かべる。

 さらに胸がときめくだの、嫉妬だの胸焼け必至な甘い言葉がセスの口から紡ぎ出される度に、皆凍り付いている。

 それを昨日今日と間近で聞きまくっている俺の耳は早くも限界だ。

 耳栓をし完全な無視を決め込んでいると、昼休憩に入るやセスに捕まり強引に彼の膝の上に座らされたのだ。


「愛しい人、どこへ行くつもりだ」

 教室の空気が瞬間冷凍で凍り付き、俺もあまりの寒さに身震いする。それなのに空気が読めないセスは全然気にしていないのだ。

「……セスよ、……空き教室に向かおうか」

 羞恥心と居たたまれなさに耐えきれなくなり、そう声をかけた。だが、目を輝かせている男の耳には“ふたりっきりになりたい”とでも聞こえたのだろう。


「お前からの誘い、嬉しいぞ」
「う……俺は、別にひとりでも……君が俺の腰から手を離してくれれば……」

「今すぐ行こう」


 彼は手荷物と俺の身体をひょいと抱き上げて、嬉々として空き教室に向かったのだ。
 廊下ですれ違う人の好奇心旺盛な視線に、俺の内心は、ひぃ、ひぃ……とずっと悲鳴を上げている。
 そうして、空き教室でも俺を横抱き状態で椅子に座るセス。

 おかしい。

「セスよ。実は催眠術なんかかかっていないんじゃないか? 嫌がらせならもう十分だろう」

「催眠術? なんの話か知らないが、可愛いお前に嫌がらせなんかする訳がないだろう。それよりほらサンドウィッチを作ってきたから食べてくれ」

 

 人のことを怖がらせるばかりの無愛想の男が俺の為に?
 朝から俺のためにキッチンに立ち料理を甲斐甲斐しく作る大男を想像する。普段のセスと違い過ぎて、今まさに彼の企みの最中にいるかのよう。

「おい、もういいってば! 俺のことを揶揄っているだけで──うぐっ」

 口の中にサンドウィッチを勢いよく突っ込まれたことで、反論する言葉も内側へ引っ込む。

 そして、鼻腔をくすぐるいい匂いと口の中に広がる旨みに怒りをひとまず置くことにした。
 極端な話、俺は美味しいものが大好きだ。

 持論だが、怒りで美味しさが減ってしまうことなどあってはならないのだ。口の中に入ってしまったものに罪はない。

 ハード系のパン生地を咀嚼すると、パンそのものの風味と食感のよさを感じる。そして、ソースが具のトマトとレタスと生ハムを引き立たせている。それは男の膝上で食べるという状況でも妥協してしまう味だった。


「昨日の夜に酵母菌を発酵させて準備しておいた。朝に焼いたばかりのパンだから香りがいいだろう」

 セスに渡されたランチボックスは美しい断面のサンドウィッチが入っている。

 たまごにカツに色とりどりのサンドウィッチに食欲がそそられ、生唾を飲んだ。

「どうぞ」
「では、遠慮なく……いただきます」

 食欲への好奇心に負け、カツサンドを手に取って頬張る。ソースがパンに沁み込んでいてこれまた美味しい。
 俺の様子を見つめていた彼自身も食べ始めて──バカップルの図の出来上がりだ。


「リュリュの血となり肉となっていると思うと作った甲斐があるな」

「ぐふ……気持ち悪い言い方をするな。鳥肌が立つ」

 流石に喉が詰まって色んな意味でいっぱいになる。

「……ご馳走様」

「そうか。では食っていいか?」

「──は?」
 

 ハテナが頭に伝達するうちにセスが俺の口をパクリと食べた。
 昨日の強引なキスとは違い、俺が言った通り優しいキス。食後の味にはっとしてセスから唇を離そうとするが後頭部を手で押さえられて離すことが出来ない。

 首を振って拒否しようとすると、口腔内に舌が入ってきた。
 ──そこまでは許していないって! 

 舌を噛みちぎってやろうかと思っていると、彼の太い親指が口腔内に突っ込まれた。
 これでは、舌を噛むことも唇を閉じることも出来ない。


「んん~~」


 手足を動かして、奴の胸をドンドンと叩くが、彼は一向に俺を離す気はない。俺の抵抗など虚しく、キスは続行される。


 呼吸のタイミングに合わせて、苦しくないよう唇と舌が動いてる。
 次第に背筋に未知の感覚が湧き上がってくる。
 特に下顎を舐められた時、──ほら、今ゾクって……。

「ぁふ、ぁ……」

 これは快感だ。自分を叱咤しなければ、うっとりしてしまう。

 セスは俺の舌をターゲットに決めたようだ。舌同士を様々な角度から絡め合わせてきて、さらに俺の舌は吸引されて彼の口腔内に少しずつ誘導される。熱さに困惑していると、ようやく唇から解放された。

 強引で。だけど最後の方は気持ちよくてされるがままになっていた。
 自分はなんてたあいないのだろう。

 セスの顔を上手く見ることが出来ずに下を向く。

「リュリュ……、以前の俺が羨ましい。こんな風にお前にたっぷりキスしたんだろうな。自分のことなの
にヤキモチを焼いてしまう」

「していな……」

「快感にうっとりとする表情も愛らしくて、もっと他の表情も知りたい。見たい」

 幼馴染の目元が赤く染まり欲情が浮かんでいく。その様子を至近距離で目の辺りにしている。彼の喉仏が上下する様子に血の気が引き、彼の両肩を掴んだ。


「うぉおおおぉお、しっかりしろ! 昨日はそこまで酷くなかっただろう⁉ おかしいぞ!」

 肩を揺さぶってみたが強靭な肩が全く動かない。

「あぁ、その通りだ。俺はおかしい。リュリュとキスもその先も許された関係だと知って、触れたくなって気がおかしくなりそうだ」

「許してはいないぞ⁉ うっとりしながら変なことを言うな!」

 セスの荒い息が頬に当たる。その唇がまた近づいてくるから俺は必死で厚い胸板を押し返そうと力を込めたが、頑丈過ぎてびくともしない。……ひぃいい。

 俺の腰を撫でている手はシャツに忍び込んで……ひぃいいいい。

「待って、待ってくれ! 俺が悪かった。許して!」

「お前は何も悪くない。悪いのは何も覚えていない俺だ。悔しい」

「それは……ちが、って——んぁっ」


 変な声を上げたのはコイツが俺が止めているのにも関わらず、俺の耳を耳朶を甘噛みするからだ。

「可愛い声だ」
「やめぇろぉ」


 耳に熱い息を吹きかけないでくれ。舐めないでくれ。
 背筋がゾクゾクして、力が抜けてしまう。

 ちゅっちゅっと彼は耳から首筋にキスを落としていく。
 くすぐったさに声を出さまいと必死で、スラックスのファスナーが下ろされていることやシャツのボタンが器用に片手で外されていることに意識が向かない。


 そして、気が付いた頃には下衣はずり下ろされ、自分の性器が彼の目に露わになっている。

「ひぃいいいっ。息荒い、怖い!」
「はあはあはあ」


 さっきから俺の腰にはがっしりと彼の腕が回されていて身動きできない。
 そして、もう片方の手で俺の性器に触れようとするものだから、俺は必死で伸びてくる手を両手で掴んだ。

「人の大事なところを無断で触るんじゃない!」

「俺に強請らせたいのか? 愛らしいな。前も後も。リュリュの全身に触れたい」
「──ぎゃはあああっ! あっ、そうだ。俺と君はプラトニックの関係だった! 以前の君は……そうそう。俺のことをそれは大事にしてくれていてね。してもキスくらい。とても紳士的で」


「嘘だな、自分のことは自分が一番分かる」

「なんでだよぉ⁉」


 話を遮るようにセスが、また俺の耳を舐めて甘噛みする。
 ピチャピチャと濡れた音と生々しい舌の感覚に腰に重い疼きを感じ始めた。彼がことさらに甘く俺の名を呼んで懇願するから、声で耳を愛撫されているみたいだ。

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