催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

文字の大きさ
上 下
6 / 29

しおりを挟む
 見つめ合ったまま、目の前の男がそう呟いた。

 脳みそにその言葉が入っていかず、首を傾げると──

「薄桃色の頬、形のよい鼻、宝石のような瞳。短かった髪の毛を肩まで伸ばして、艶やかな色気を帯びている。首を傾げる動作の一つですら蠱惑的だ」

「は?」

「こんなに美しくなられては心配だな」
「……は?」

 頭の中がクエスチョンマークだらけだ。

 可愛い? 美しい? 色気? 蠱惑的? 俺が?

「セス、気分は大丈夫か? 視覚障害か?」

 俺はセスの前に指を三本立てた。彼は三本と間違えず答える。視覚に問題があるわけじゃなく他に問題点があるのかと考えていると、馬鹿力が俺の腰を掴んだのだ。

「──ヒギャァアアッ!」

「変わらず細いが、腰のラインが際立っている。こんなにしなやかな身体つきじゃなかった」
「腰を掴むな! もげるだろう……ひぎ⁉」

 俺の頭をくんかくんか匂いを嗅いでいる。

 何故? 一体どうした? 自分は異臭がするのか……?

「庭の花の匂いがする。甘くていい匂いだ。ずっと嗅いでいたい」

「は? は、は、は……君、やっぱりどこかおかしいぞ……あっ!」

 もしかして、俺のことを“好きになる”と言ったのが効きすぎた⁉
 どうやらその通りのようで、セスの顔が俺に近づいてくる

「おぉ~っとぉ、待て待てまてぃセス! 何をするつもりだ⁉ 唇がくっつきそうになっているぞ⁉」

 俺は腰をのけ反らせて距離とった。
 だが、彼は俺の腰を掴んだままであるし、顔を寄せてくるのを止めない。このままでは唇同士がくっつくのは時間の問題だ。

「セス、君は正気じゃない……て、だからっ! 話を聞けい!」
 セスの頬を両手で思いっきり挟んで、その顔を横に向け、座れと指示をした。

 ……うん? 何故だろう。

「……?」
「分かった。座ろう」

 彼は素直に指示に座った。
 だがしかし、座っているセスの膝の上に俺は座らされていた。さらに俺の頭部にブチュブチュとバードキスが降り注いている。

 十五歳のセスはこうじゃない。十五歳のセスも十八歳のセスも無口で甘い言葉を言う奴じゃないのだ。

「君、自分が何をしているのか理解しているのか?」
「あぁ、三年経ったのだろう? それから俺達は恋人だな? こんなに美しいリュリュを見て俺が耐え
られるわけがない」

「えっ⁉」

 うっとりとしているその瞳の中にたじろぐ俺が映っている。

 一体、俺は何をしでかしてしまったのだ。
 セスの豹変ぶりに、悪寒が止まらない。
 俺を嵌めようとするセスの企みを阻止したのには成功したが、暗示のかけ方の間違いで俺のことを過度に好きになってしまったようだ。
 俺の頬に啄むような口づけを落としながら、「この世で一番キレイ」だの「可愛い」だの、さらにさらに「愛している」だの言ってくるので、全身に鳥肌が立つ。

「セス、誤解だ」
「誤解?」
「俺達は恋人じゃない。ただの同級生だ。俺も十五歳までは色々嫌味も言ったけど、最近では疎遠気味だよ」

 打算的な俺は催眠術以外の当たり障りない事実を話した。セスは頷きこそするが、途中から真面目に
聞く気がなくなったのか、俺の手に掴み手の甲にキスをしてくる。

 あまりの変貌に良心の呵責に苛まれる。

「──正気に戻れ」
「俺は、正気だ」
「いいやっ! 正気ではないぞ。君は俺の手の甲に王子様みたいに微笑んでキスしないんだ! 君がするのは無言、睨み・威圧の三点セットじゃないか!」
「……」

 セスは薄ら笑いを止めて、やや不機嫌そうな顔──そう、それがセス・ファレルだ。
 その顔に頷いていると、彼は俺の顎を持ち上げられて、また唇にキスされそうになる。

「ぎゃぁあああああ! キスしようとするな、やめろ!」

 寸前でセスの唇を手で押さえた。
 不服そうな目は、俺が言ったことを全然納得していない。だが、誤解でファーストキスを奪われることは避けたい。

「ええい、もう堪えられない……このコインを見よ!」

 先程と同じようにセスの目の前に紐付きコインをゆらゆら~とさせた。
 セスは怪訝そうな表情をしたが、俺が何度も呪文を唱えると目を閉じる。
 同じ呪文である。同じ方法。

「君と俺は恋人ではな~い。好きは好きでも友達の好きであ~る」

 ゆらゆら~ぶら~ぶら~。
 とにかく恋人の誤解だけは解かなくては。けれど、術の最中にも関わらずセスは瞼を開けた。
 彼の眉間には深いシワが刻まれていて、一瞬、元に戻ったかと思った。

「なんだと⁉ リュリュと俺は恋人だ⁉」

 おっかない表情で飛び掛かるような勢いで俺の右肩を掴まれる。

「ひっ!」

セスの迫力にビリビリと空気まで揺れるようだ。気圧され身体が震える。
 その震えに気づいたセスは俺の肩から手を離し、俺の身体をゆったりと抱きしめた。

「……すまない。魔力の高い俺は睨むだけで魔力の弱い人間を怯えさせる。でもお前が恋人じゃないなどと言うから驚いたんだ。怯えさせるつもりはない」

「……魔力? 君の顔が怖いからだろう。魔力のせいにするな」

 嫌味を言いながら睨み返すと彼は安心したように、息を吐く。

「どちらにしても恋人を怯えさせるなんて、俺は愚かだ」

 恋人。また言った。

 どうやら二度目の催眠は効かなかったようだ。

「俺はリュリュのことを愛している。もう意地悪を言わないでくれ。俺達は恋人だろう」
「……セス」

 見たこともないような切なげな表情をしたセスがと甘い言葉を吐きながら、俺の身体を抱きしめた。
 それはもう──とびっきりの馬鹿力で。

「ぎゃっふ⁉」

 絆されそうになった意識が消し飛んだ。
「っ、か、っは……⁉」
 肺が圧迫されて反論ができない。
 あらやだ、俺の身体からミシミシと音が鳴っている。軋んでいるこの音は何⁉ 何の音⁉ 死亡フラ
グ⁉

「セ……ぇ、ぐ」

「好きだ。リュリュ、お前だけを愛している」

 彼は愛を吐くのに夢中で、苦しんでいる俺の様子が見えていない。なんとか自力でどうにかしようと藻掻くと尚更腕の力が強まって……

「ぐぇえ!」

 ──ひぃ! 身体がへし折られる。 


「リュリュ……、唇にもキスをしていいだろうか。いや、恋人だからいいんだよな?」
「ぐ⁉」

 その言葉に目を白黒させている間にもセスの顔が近づいてくる。
 キスするために若干抱きしめる腕の力が弱まって、息が楽になった。大きく呼吸をする、今なら反論が可能だ。

「セ……」

 至近距離の爛々と光る瞳──。彼が興奮状態に陥っているのか伝わり、言葉が詰まる。
 もし恋人じゃないと答えたらどうなるのだろう。そのまま勢いよく俺の身体はへし折られるのではないか? イエス以外の選択肢はあるのか⁉

「キスして、いいか?」
「ひ、………はは……は」


 このとき、俺は恐怖に首を縦に頷いてしまったのだ。
 その瞬間、セスに唇を奪われて、その荒々しさに窒息しかけて、軽くあの世にいきかけた。

 ──お母さん……、催眠術なんてかけなかったらよかったです。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...